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脱炭素化ビジネスに取り組む意義は、いっそう強まっています。 先進企業は、サステナビリティへの取り組みが収益率、成長、レジリエンスの向上につながることを証明しています。
サステナビリティ先進企業にとって、この1年は嵐のように感じられたのではないでしょうか。実際、その受け止め方は間違っていないでしょう。
これまでのクリーン・エネルギー・プロジェクトを後押ししてきた連邦政府の公的支援は打ち切られ、その結果、一部の支援やプロジェクトは完全に廃止されました。段階的に廃止される支援もあり、企業は速やかに事業化を進めるか、機会を失うかの選択を迫られました。
何年もかけて構築されたサステナビリティプログラムは突然リスクとして扱われ、その効果と対外的なイメージの双方が疑問視されるようになりました。画期的な開示規制は、導入直後から逆風にさらされました。その間も、異常気象や地政学的リスクの高まり、サプライチェーンの分断など、本来これらのプログラムが取り組むはずの脅威はますます深刻化してきています。
「サステナビリティはピークを過ぎた。もう次の段階に進むべきだ」という見方が定着しつつありました。
しかし、実際の状況は異なっています。
この報告書では、数千社にのぼる企業の開示資料や関連文書に含まれる数百万件のデータポイントを、AIを用いて分析した結果に基づいて記載しています。そこから見えてきたのは、上記の見方とは異なる実態です。多くの企業はサステナビリティに関する語り口を変えただけで、具体的な取り組み自体は変えていませんでした。経営環境が変化する中でも、掲げたコミットメントは一貫して維持されています。
設定目標の前年比増減率
これは世界が気候目標の達成に向けて順調に進んでいることを意味するものではありません。情報を開示している企業の脱炭素化に向けた取り組みが継続していることを示唆しています。
これが今後も持続するかどうかは、企業のサステナビリティが財務規律と戦略的な緻密さを求められる新たな段階に移行できるかどうかにかかっています。各企業は資本配分の精度を高め、レジリエンス、リスクエクスポージャー、成長、収益性の観点から、あらゆる事業活動を厳格に評価しています。各組織は、サステナビリティを他のあらゆる戦略的手段と同様に位置づけて取り組んでおり、「サステナビリティは、企業の経済性を向上させることができるのか?」という、より厳しい問いが投げかけられています。
この報告書全体に示された調査結果は、明確にこれを肯定しています。
企業が脱炭素化を新たな視点で見直す動きが強まる中、以下の5つの点がより鮮明になってきました。
画面右のナビゲーションバーから、これらの調査結果を確認できます。先進企業が現在のビジネス環境に適応するために実践している、具体的な取り組みについても紹介しています。ビジネスへの影響に関する詳細な考察と分析については、報告書の完全版をご覧ください。
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ここからは、どの領域で脱炭素に向けた進捗が着実に維持されているのか、ビジネスケースが最も強固な領域はどこか、そしてレジリエンスと収益の双方を向上させるために今注力すべき手段は何かを詳しく見ていきましょう。
2025年は多くの組織にとって試練の年となりましたが、脱炭素化に向けた姿勢が揺らぐことはありませんでした。10社中8社(82%)が、気候変動への取り組みを維持するか、目標達成までのスケジュールを前倒ししました1,2。進捗も維持されており、自社の目標達成に向けて順調であると報告した企業の割合は、例年より増加しました。
一方で、コスト上昇、資金調達環境の引き締め、政策の不確実性を背景に、5社に1社(18%)が気候変動に伴う移行に関する目標を引き下げました1,2。一部の企業は、以前のコミットメントから後退したり、削減予定排出量の絶対量を減らしたりしましたが、目標の引き下げが脱炭素化からの撤退を意味するわけではありません。場合によっては、むしろ健全な規律が働いていることを示しています。より信頼性の高いデータ、厳格なガバナンス、現実的な実行計画に基づき、各組織が軌道修正を進めているためです。その結果、注目を集めるような大きな公約は減るかもしれません。しかし、提示されるコミットメントは、より信頼性が高く、資金調達の裏付けがあり、実行可能性が高いものになるでしょう。
2025年に新たな脱炭素目標を公表した企業数の伸びは、2023年の45%増、2024年の29%増を経て、7%増と落ち着きを見せています。長年にわたり目標設定の導入が急速に広がった結果、まだ目標を設定していない大手上場企業の母数は、当然ながら減少傾向にあります。新たに目標を設定する企業数は減っているものの、目標の内容はより厳格になりつつあります。多くの企業が、科学的根拠と整合した目標、または外部機関によって認定された科学的根拠に基づく目標を設定しています。
大企業はサプライチェーン企業とのエンゲージメントを始めています。アジアおよびオセアニア地域では、目標設定への取り組みが拡大傾向にあります。これに伴い、スコープ1および2の目標を設定している企業の収益中央値は、2020年の41億米ドルから2025年には11億米ドルへと低下しました1,2,3。
エネルギー供給の制約や米国の政策変更にもかかわらず、スコープ1および2の削減は着実に進んでいます。
前年と比べた目標への進捗状況(スコープ1および2)
各拠点でスコープ1排出量を削減するには、大規模な資本投入が必要であり、オペレーションも複雑で、実行までに時間を要します。燃料や冷媒の供給源について資産レベルで分析し、電化や代替燃料への明確な移行計画を策定することが求められます。スコープ1の目標達成に向け順調に進んでいる企業は全体のわずか46%にとどまり、前年と同水準でした1,2。先進企業は、脱炭素化を設備更新と連動させることでこの課題に取り組んでおり、自然な再投資のタイミングを捉えて燃料需要ならびに関連するコストと排出量の削減に取り組んでいます。
企業は目標達成に向け、より詳細で実行可能な計画を策定しています。その多くは、スコープ2排出量の削減や再生可能エネルギーの活用を積極的に進める内容です。具体的には、自社敷地内への再生可能エネルギー設備の設置や、外部からの再生可能エネルギーの調達などが含まれます。
今後、スコープ2の脱炭素化は一段と難しくなる可能性があります。これはAIやデータセンターの増設に伴い、ハイパースケーラー(巨大IT企業)の電力需要が急増しているためです。その一方で、米国ではクリーンエネルギーの生産・投資税額控除が廃止され、大規模な洋上風力発電プロジェクトも停滞しています。
前年と比べた目標への進捗状況(スコープ3)
大半の企業で、スコープ3排出量が排出内訳の大部分を占めており、事業活動に伴う排出量をはるかに上回っています1,2。しかしながら、その脱炭素進捗状況には依然としてばらつきが見られます。設定したスコープ3排出量削減経路に対して現在順調に進捗している企業は56%にとどまっており、これは企業の直接的な管理範囲外にある排出量に影響を与えることの難しさを反映しています1。先進企業は、エネルギーと天然資源の消費を減らし、電化を可能にし、ライフサイクルへの影響を減少させる製品を進化させています。
計画停電、電気料金の高騰、サプライチェーンリスクが相次ぐ中、2025年はエネルギーレジリエンスが取締役会レベルの優先課題として定着した年となりました。
政策転換により、クリーンエネルギー税額控除の段階的廃止が加速する一方で、新たな国内調達要件が導入されました。その影響は市場にも明確に現れており、2025年に米国および欧州で締結された電力購入契約(PPA)の総契約容量は前年比19%減少、契約件数も同26%減少しました11。2026年初頭にクリーンエネルギー関連の取引が増加に転じたものの、その回復の要因は、ほぼ全面的にAI利用の急増に伴うデータセンター開発業者の需要によるものでした12。
これまで企業は、設備投資を抑えながら脱炭素化を進められる環境の恩恵を受けてきました。具体的には、送電網のクリーン化、再生可能エネルギーの証書や調達契約、LEDへの切り替えといった、容易に実行できる効率化施策、そして政策的な施策による支援などです。
今後は、その状況が変わってきます。追い風が弱まるか、あるいは消失する一方で、エネルギーレジリエンス、規制対応、顧客需要の変化に伴う圧力は、一段と強まっています。優れた業績を上げる企業は、気候変動に伴う移行に整合した活動に対して、焦点を絞った規律ある投資を行う企業となるでしょう。
2025年、企業が気候変動に伴う移行と整合する活動へ配分したCapEx(設備投資等の資本的支出)は、わずかに減少しました1。一方で、より多くの企業が気候変動に伴う移行目標の達成に向けて前進しており、そうした設定目標を維持、あるいは強化していることも明らかになりました1,2。これらの傾向を総合すると、企業は脱炭素化への投資先や投資方法について、より厳格かつ慎重に判断するようになっていることが示唆されます。つまり、脱炭素効果の低い取り組みを避け、炭素の限界削減費用がより低い、炭素削減効率の高いプロジェクトを優先しているのです。
金属・鉱業、石油・ガス、建設・不動産など、排出削減が困難ないくつかのセクターでは、移行方針と整合するCapExが継続的に高水準で維持されています。さらに、この投資配分比率が高い企業ほど、より高いバリュエーションを得ています。移行リスクや適応力が財務面で重要であり、資金需要が最も高いこれらのセクターにおいて、投資家は脱炭素化の先進企業と後れを取っている企業を明確に見分け始めています。
セクター別の気候移行対応CapEx比率およびそれに伴う企業価値評価(EUタクソノミー準拠)
エネルギーコストの上昇、送電網の信頼性低下、政策支援の変化を受け、企業にはエネルギーを単なるコスト項目ではなく、戦略的に管理すべき経営資源として捉えることが求められるようになってきています。先進企業は、個別プロジェクトごとの対応から一歩進み、リスクを抑え、事業継続性を高め、脱炭素化を着実に進めるための資本配分へと移行しつつあります。
地政学的な混乱、関税の変動、エネルギー市場の不安定化、気候変動に起因する原材料不足などにより、不確実性は高まっています。こうした環境下では、サプライヤーをマッピングし、サプライチェーン全体のモノの流れを把握する能力がこれまで以上に重要になってきます。サプライチェーンの実態を把握することで、企業は混乱への対応力を高めるだけでなく、排出量に大きな影響を与える要因を特定し、効果的な対策を講じることができるようになります。
リスクがより深刻化し、地政学的危機が相次ぐ中でも、多くの企業はサプライチェーンの全体像を十分に把握しないまま、その状況を乗り切ろうとしています。
Fortune 500企業158社を対象とした調査によると、25%の企業は二次以降のサプライヤーを把握しておらず、58%は二次サプライヤーまでの把握にとどまっており、二次以降のサプライヤーの活動と排出量を一貫して追跡している企業は18%にすぎない、と報告されています5。このギャップは、とりわけ複雑なサプライチェーンを持つ製造業にとって大きな課題となります。企業は通常、可視化できる情報や測定可能なデータに基づいて意思決定を行います。しかし実際には、排出量への影響が大きい要因ほど、サプライチェーンの上流に存在していることが少なくありません。
サプライヤーの可視性*(2023~2025年)
サプライヤーの可視化と把握が進むことで、排出量データはより実用的なものとなります。ステークホルダーとの関わり方が成熟するにつれ、企業はスコープ3排出量の削減を実現するための基盤となる機能を構築していくことになります。こうした機能は、排出量削減だけでなく、サプライチェーンのレジリエンス向上やコスト効率の改善にもつながります。
原材料の選定から製品機能の設計に至るまでの判断で、製品ライフサイクル全体における環境負荷の最大80%を左右する可能性があります13。つまり、製品開発は、排出量削減、資源効率の向上、そして環境性能を通じた競争力強化を実現するための有力な手段の一つとなります。
事業面でもその効果は大きく、調査によれば、独自のサステナビリティ特性を備えた製品は、業種や製品カテゴリーによって差はあるものの、6~25%の増収効果をもたらしていることが示されています6,7,8,9,10。つまり、サステナビリティを製品に組み込むことで、企業は排出量、コスト、リスクを低減できるだけでなく、製品の差別化を図り、価格プレミアムを獲得し、新たな収益機会を創出しています。
実際に、製品戦略が脱炭素化の成果に与える影響はすでに顕在化しています。スコープ3削減目標の達成に向けて順調に進んでいる企業ほど、製品ライフサイクル全体にサステナビリティを組み込む傾向が強く見られます。調査対象となったFortune 500企業では、目標達成が順調な企業の約31%が製品サステナビリティを本格的に導入しているのに対し、目標達成が遅れている企業では19%、スコープ3目標を設定していない企業では14%にとどまっています1,2,5。製品のサステナビリティは、単なる目標や方針を、測定可能な成果へと結び付ける重要な仕組みとして注目されています。
製品サステナビリティの先進的な取り組みを導入している企業の割合
(スコープ3の目標達成状況別、2025年)
消費財および小売分野では、サステナビリティに基づく価値提案と財務パフォーマンスとの結び付きが強まっています。この業界において、製品設計にサステナビリティを効果的に組み込んでいる企業は、成熟度の低い同業他社と比べて8~13%高い収益性を実現しており、企業価値評価においても高いマルチプルが付与されています3,4。
多くの企業が低炭素製品への転換を試みる一方、先進企業はサステナビリティを製品の強みに変えるために基盤整備を進めています。
AIの導入は加速しており、60%の企業が事業運営の脱炭素化にAIを使用しています5。しかし、脱炭素化のために次世代AIを戦略的に使用している企業は5社に1社にすぎず、AIによる排出量削減効果を定量化している企業は1%未満です5。
脱炭素化にAIを活用している企業の現状
高度なAIの活用事例に注目が集まっていますが、短期的に見て最大の機会は、より基本的な課題であるサステナビリティデータ課題へ対処することです。
いまだに多くの企業は、断片的な排出量データ、手作業による報告プロセス、そして自社の事業範囲外に対する可視化の不足といった課題を抱えています。これらは、意思決定と情報開示の双方の質を制約する要因となっています。しかし、2025年8月現在、データの質が進捗の最大の制約要因となっているにもかかわらず、サステナビリティや排出量報告の改善にAIを活用していると公表している企業は約14%にすぎません5。
こうした状況を正当化することは、今後ますます難しくなりつつあります。気候変動に関する情報開示への要求は高まり続けており、排出量データはもはや年次報告書だけのものではありません。企業間で、より把握・検証・比較しやすくなりつつあります。投資家は、企業が報告した数値を独立した高頻度データと照合して検証できるようになっており、データの不整合を見過ごすことは難しくなっています。これにより、サステナビリティデータの役割はコンプライアンス対応から経営指標へと変わりつつあります。投資家、規制当局、そして企業自身が検証可能な排出量データを重視するようになるにつれ、その傾向はさらに強まるでしょう。
では、AIは今、どのような形で価値を生み出しているのでしょうか?
電力会社や電気機器メーカーでは、AIを活用して電力系統の運用を高度化し、再生可能エネルギーの発電量予測やエネルギー需要の管理を行っています。製造業界では、スマートファクトリーにAIを導入し、エネルギー消費量の削減、製造工程の効率化、および廃棄物の最小化を図っています。輸送・物流企業は、配送ルートの最適化や車両利用率の向上にAIを活用し、燃料消費量と運用コストの双方を削減しています。テクノロジー企業では、データセンターのエネルギー管理にAIを導入することで、冷却効率やハードウェア利用率の改善を実現しています。これらの業界で共通しているのは、企業が直接的な業務管理権限を持ち、豊富なリアルタイムデータを活用できる領域において、AIが大きな脱炭素効果をもたらしている点です。
事業の脱炭素化のためのAIの導入(業種別)
企業がAIの導入を進める中、先進企業はその活用において、より厳格な姿勢と戦略的な視点を持っている点で他と一線を画しています。
先進企業の間では、AIが業務効率を改善し、気候関連のデータシステムを強化し、測定可能な脱炭素化の進捗を加速させるための実用的なツールとなりつつあります。
急速に変化する世界において、過去のトレンドをそのまま将来の予測に用いることは難しくなっています。前提条件は変化し、これまで想定していなかった領域でも変動が生じています。異常気象は資産や事業運営に大きな影響を及ぼし得るようになりました。エネルギー需要は予想外の場所で急増することもあります。今後10年間の脱炭素化も、決して直線的には進まず、多くの分岐点に直面することでしょう。こうした環境において重要なのは、「昨年何が起こったか」ではなく、「今後5~10年にわたって持続する変化は何か」「不確実性が高まる中で、企業はどのようにレジリエンスを高めるべきか」を問い続けることです。
だからこそ、サステナビリティは財務的な観点から再定義されつつあるのです。本報告書を通じて明らかになったのは、適切な資本配分が成果につながること、エネルギーが取締役会レベルの戦略課題となっていること、サプライチェーンが競争力の源泉となり得ること、製品のサステナビリティが成長の原動力となっていること、そしてAIが脱炭素化を加速させる大きな可能性を持っていることです。しかし、価値の源泉を理解するだけでは十分ではありません。先進企業とその他の企業を分けるのは、その価値をどのように実行へと結び付けるかです。
これが実際に意味するところは単純明快です。すなわち、変革への圧力、物理的資産リスク、サプライチェーンの制約、政策動向の足並みが必ずしも揃わない複数のシナリオにおいても、成果を上げられる戦略を策定し、実行することです。先進企業は、資本をより効率的に配分し、製品とサプライチェーンをより効果的に管理し、どのようなシナリオでも、収益の拡大、利益率の向上、リスクの低減につながる多様な取り組みを進めています。こうした行動が、投資対象としての企業の魅力を高めているのです。
具体的な取り組みとしては、以下が挙げられます。
この1年は、脱炭素化がプレッシャーに屈するかどうかが試される年でした。しかし、実際には揺るぎませんでした。目標が維持されたのは、その背景に明確な価値があったからです。そして、この現実を踏まえて行動し続ける企業は、脱炭素化をレジリエンス、利益率の向上、そして成長を支える持続的な競争力へと変えつつあります。
※本コンテンツは、PwC米国が2026年4月に公開した「PwC's Third Annual State of Decarbonization Report」を翻訳したものです。翻訳には正確を期しておりますが、英語版と解釈の相違がある場合は、英語版に依拠してください。
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