【登壇報告】

自動車・モビリティを勝ち抜くために必要な産業アーキテクチャ視点とガバナンス

  • 2026-09-16

PwCコンサルティング合同会社は、2026年6月30日、レスポンス編集部(株式会社イード)が自動車メーカー、半導体メーカー、AI・ソフトウェア企業、官公庁、研究機関などを対象に都内で主催した「レスポンス カンファレンス2026」で講演を行いました。

「レスポンス カンファレンス2026」のテーマは「グローバルに進むクルマの知能化:日米欧中TOPプレーヤーの現在地と今後~」。2030年までに世界の自動運転市場の大幅な成長が予測されるなか、完成車メーカー(OEM)やサプライヤーによる技術競争が激化し、日本でも産業界の連携強化や技術標準化への取り組みが急務となっています。

講演は「自動車産業におけるマクロ変化」「In-CarにおけるAI活用とその要所」「全体アーキテクチャを俯瞰した際の全社AIガバナンス」の3部構成で、PwCコンサルティング合同会社 インダストリアルトランスフォーメーションの細井裕介、前田翔平、落合勇太が登壇しました。

まず細井が、自動車・モビリティの知能化がIn-CarとOut-Car双方から進む中で、PwCコンサルティングのスマートモビリティ総合研究所が提唱する産業アーキテクチャによる全体俯瞰、全体最適化視点の重要性について解説しました。

続いて、落合がグローバル競争力強化に向けた既存プロセスからの脱却とそれに伴い求められる法規対応について解説しました。最後に前田が最新のAIガバナンスについて施策を掲げ、さまざまな提言を行いました。

登壇者

PwCコンサルティング合同会社 ディレクター
細井裕介

PwCコンサルティング合同会社 シニアマネージャー
落合勇太

PwCコンサルティング合同会社 ディレクター
前田翔平

※登壇順・法人名、役職などは掲載当時のものです。

PwCコンサルティング合同会社 ディレクター 細井裕介

第1部:自動車業におけるマクロ変化

登壇者:細井裕介

PwCコンサルティングはコンサルティングにとどまらず、自動車モビリティを強くし、広く業界をつなぎ、変化について発信する目的で2025年2月にスマートモビリティ総合研究所を立ち上げました。研究所では、最新のモビリティアーキテクチャの研究、検証をしながら、他産業とも連携してさまざまな情報発信を行っています。

次世代のモビリティ産業アーキテクチャで業界を展望する

自動車モビリティは大きな変革期にあり、電動化、バッテリーEV化が進んでいます。デジタルトランスフォーメーション(DX)でも車自体のSDV(Software Defined Vehicle)化、自動運転化など大きな変化を迎え、それがロジスティクスの変化や交通の在り方など社会全体に波及して変化している状況です。

そこで、スマートモビリティ総合研究所では、さまざまな産業が関わる複雑な現状の全体感を俯瞰し、ユーザー価値を生み出すミッションと、実現に必要なファンクションを認識するために、産業アーキテクチャという視点を重要視しています。

図表1:モビリティ領域におけるクルマと社会変化

モビリティ領域における クルマと社会変化

スマートモビリティ社会実現には、他産業を巻き込んだモビリティDX・GXの進化が不可欠

これまでの自動車業界は、完成車メーカー(OEM)を中心に全体を設計したものをサプライヤーが構築し、全体のガバナンスが行われていましたが、スマートモビリティ社会の実現には、従来のビジネスモデルを見直し、自動車だけでなく他産業を巻き込んだモビリティDX・GX(グリーントランスフォーメーション)の進化が不可欠です。

車の作り方自体も大きく変わりました。部品ごとにソフトウェア、アクチュエーターが搭載される形態だったのが、今はソフトウェア自体でスケーラビリティを出すことが求められる市場環境に変化しています。ソフトウェア自体の特徴を生かしながら、あるいは垂直統合的にソフトウェアを統合するなど、ソフトウェアをプラットフォームとみなして使うことがPL構造的にも非常に重要になっています。

OEM自体が自社で垂直統合を進めるケースや、中国などのプラットフォームを使うことでサプライヤー構造変革とSDV化に対応するなど、ビジネスモデルには多数のオプションが存在しますが、競争優位を生んでいるのは戦略を効率的・効果的に実行できるオペレーティングモデルであるとも言えます。市場ニーズに合わせ、いかに開発速度を高め、開発コストを下げていくか。自動車・モビリティを勝ち抜くために、新たな産業アーキテクチャを支えるオペレーティングモデルが必要です。

PwCコンサルティング合同会社 ディレクター 細井裕介

第2部:In-CarにおけるAI活用とその要所

登壇者:落合勇太

高まる車載SWの存在感

2030年に向けてSDV化が進むなか、車載ソフトウェアの役割は「制御」から「車両体験そのもの」へとひろがっています。開発の質・量ともに増大し、車両におけるソフトウェアの位置付けがこれまで以上に重要になっています。

図表2:高まる車載SWの存在感

高まる車載SWの 存在感

従来、開発スピードや開発量は、エンジニアの能力によって制約を受けていましたが、近年はAIの登場により、開発が飛躍的に高速・高度化しています。将来的には、高い自律性を持ったAI同士がサイバーセキュリティの攻防を担う時代が来るでしょう。

SDV時代の法規対応と現場の課題

AIに関する法規、規制も世界各国で続々と制定され、これからは、販売時だけでなく、販売後を含むライフサイクル全体での法規対応が求められるようになります。

実際の開発現場では、技術戦略、開発、法規・認証など、さまざまな領域で既存の仕組みが十分に機能していない事例が多く確認されています。例えば、ビジネスや製品企画がなかなか定まらず、技術戦略を策定しにくい、開発スピードや品質のバランスを考慮してアジャイル開発に対応したくても、基準や品質ゲートを適用するタイミングが従来のままであることなどが挙げられます。

法規・認証面でも従来の部署内では判断しきれないものが増えています。また、グローバルサプライヤーとの取引において、各国の法規制対応に伴うビジネスリスクやコストが適切に意思決定に盛り込まれているのかも課題となっています。

生成系AIによるソフトウェア開発が増える一方で、レビュー業務の負荷も高まっています。高い安全性が求められる自動車分野ですべてを自動化することは難しく、レビューが新たなボトルネックになることが予測されます。

さらに、現場の課題としてまず挙げられるのは人材不足です。その対応として過剰に厳格な社内規制が導入され、人材不足が解消されないまま業務の属人化が進むことがあります。こうした組織的な課題が外部環境の変化と相まって負の連鎖となり、課題解決をさらに難しくしています。

求められるプロセスの見直し、AI活用に向けた知見の可視化

課題解決に向け、品質の定義や既存のプロセスの見直し、ものの作り方自体を変えていくことが重要です。車載のE/Eアーキテクチャ(Electrical/Electronic:電気/電子)を見直すことから支援することも多いですが、ビジネス戦略を考慮するだけではなく、法規制やサプライチェーン全体の要件明確化など、制約条件もアーキテクトに組み込むことが不可欠です。将来的には、品質プロセスの設計書類のレビューを可能な限りAIで代替することも検討すべきです。そのためには、組織内の知見の集約と蓄積が急務です。少人数でも対応できるよう、今ある仕組みを見直し、構造全体の最適化を図ることが必要です。

PwCコンサルティング合同会社 シニアマネージャー 落合勇太

第3部:全体アーキテクチャを俯瞰した際の全社AIガバナンス

登壇者:前田翔平

進化するAI技術の現状把握と経営資源の最適配置

あるべきガバナンスモデルの構築には、まず、進化するAI技術と増大するユースケースを把握し、産業への影響、政府や業界団体の動向を俯瞰した上で経営資源を最適配置することが不可欠です。

自動運転、車両の制御、車載AIエージェントなど、AI技術の進化は目覚ましく、検知できる情報の幅と深度、質が広がり、それに伴ってマーケティング領域でのAI活用も進んでいます。あわせて求められるガバナンスの範囲も変わってきており、業界団体主導で業界特化のプラットフォームを作る流れや、共同利用のような形態も多様化しています。

既存のガバナンスにシームレスに連携させることで現場の疲弊を防ぐ

こうした現状を踏まえ、自社で蓄積したノウハウや知見、顧客車両などの独自データを活用するためには、「自社で内製化する領域」「業界のプラットフォームを利用する領域」「外部から購入する領域」を明確に線引きしたAIガバナンスを設計することが重要です。また、ルールや環境を整備し、攻めのガバナンスとAIのリスク管理を両輪として推進していくことも必要です。

なお、AIガバナンスは、現場の疲弊、形骸化を避けるために、新たに作るのではなく、品質基準、情報セキュリティ、個人情報保護といった既存のガバナンスにシームレスに連携、融合させることが鍵となります。

そのためには、まず、社内のどこで、誰が、どんなAIを利用し、それに対してどんなガバナンスが取られているかを精緻に整理します。その上で、国際基準や国内のAI事業者ガイドラインに沿って自社のオペレーションに必要なガバナンスを定義します。これと並行してモニタリングルールを作成し、最終的にはシステム化を目指します。

組織内の連携で、AIリスクを最小化する仕組みづくりを

ガバナンス体制の構築には、①実際にAIを使い、そこで発生するリスクの責任を負う業務執行部門、②ルールを作り、リスクを管理するコンプライアンス部門、③リスク管理を統制する内部監査部門――の3つの独立した「ディフェンスライン」という考え方を用います。部門間の横の連携、経営層から現場レベルの縦の連携を可能にするガバナンス体制を構築することで、AIリスクを最小限にすることが期待できます。

また、ルール、ガイドラインは、ある程度の全体方針に基づき、地域、事業の特性に応じて個別に調整していくべきです。リスク評価を効率的に行うには、リスク・評価観点を定義し、具体的なチェック項目に落とし込み、①の業務執行部門による事前チェックと、リスクレベルに応じた②コンプライアンス部門によるレビュープロセスを通じ、リスクコントロールを目指します。

AIガバナンスを「安全にアクセルを踏むためのシートベルト」として活用することが、日本のモビリティ業界のさらなる進化を支えると考えられます。

PwCコンサルティング合同会社 ディレクター 前田翔平

主要メンバー

細井 裕介

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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前田 翔平

ディレクター, PwCコンサルティング合同会社

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落合 勇太

シニアマネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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