――GZERO SUMMIT Japan 2024より

生成AIとサーキュラーエコノミーが実現する未来を トラストプラットフォームとして支援

  • 2024-12-23

2024年10月23日、地政学的リスク分析を専門とするユーラシア・グループが主催する「GZERO SUMMIT Japan 2024」が開催されました。第1回の2018年から同サミットに協賛してきたPwC Japanグループは、本年もスポンサーとして開催を支援したほか、PwC Japanグループ データ&AIリーダーでありPwCコンサルティング合同会社パートナーの藤川琢哉とPwCサステナビリティ合同会社 パートナーでサステナビリティ・センター・オブ・エクセレンスのリーダーの中島崇文がパネルディスカッションに登壇。それぞれの知見や見解を述べ、各界のリーダーや有識者とも意見を交わしました。

(左から)中島崇文、 藤川琢哉

(左から)中島崇文、藤川琢哉

多様なプレイヤーが安心して
AI技術開発イノベーションを起こせる世界をサポートするために
――パネルディスカッション「AIの未来 広島AIプロセスを超えて」

国際協定、主要なステークホルダーの出現、目まぐるしく変化するビジネス環境によって再構築され続けるグローバルなAIガバナンス。その状況を鑑み、AIの活用や開発、規制に関する国際的なルール作りを推進するための枠組み「広島AIプロセス」が2023年5月のG7広島サミットで立ち上がりました。

パネルディスカッション「AIの未来 広島AIプロセスを超えて」では、広島AIプロセスを足がかりとしたガバナンスを構築する上で不可欠となる、グローバルなAI政策の複雑性、標準化の進展、AIの未来を形作る地政学の相互作用について各界のリーダーが知見を共有しました。

まず提起されたのは、「AIガバナンスの議論において最もリスクとなることとは何か」という問いでした。それに対し、藤川は「AIの活用が進まないことが一番のリスクである」と述べました。日本ではAIガバナンスが未整備である故に、AIの活用の上でブレーキになっている実態があること、AIガバナンスがなければ日本の強みである現場主導での活用が進まず、漠然とした不安から投資が後ろ向きになることへの懸念を示しました。

また、EU、米国、G7、国連によってAIガバナンスの多層的な取り組みが進められている状況に鑑み、「これらのガバナンスの実施は技術の進歩に追いつくことができるのか」という問いには、「ガバナンスは技術の進展や新たなユースケースの創出に応じて進化すべきである」との見解を示しました。ガバナンスは技術の進歩に追い付くのではなく追いかけるものであること、したがって国によるAI統治だけではなく、組織がそれぞれの事情や戦略に応じたガバナンスを構築することが重要であると強調しました。

さらに、EUのAI規制法、米国の大統領令がグローバルなAIガバナンスとして注目される中、日本においては2024年4月に「AI事業者ガイドライン」が策定されたことに言及しました。このガイドラインや米国大統領令は、拘束性がないソフトローの扱いであるのに対し、EUのAI規制法はハードローとして運用される点に違いがあるとしつつも、想定するリスクやその対応策について大きな乖離はないと説明。ただし、それぞれの思惑には違いがあり、米国の場合は産業政策としての規制という側面が強く、EUの場合はルールメーカーとして世界をリードしようという意図が垣間見えると指摘しました。

そしてAI事業者ガイドラインについては、世界的に見て最も網羅的かつディテールまで組み込んだ優れたガイドラインであると指摘。日本がスタンダードを作っていくという立ち位置を確保できるのではないかとの見解を示す一方で、日本におけるAI活用が世界に比して後れを取っている実態にも懸念を示しました。

その実態を示すものとして、PwCが2024年春に大企業を対象として実施した、生成AIに活用における日米比較調査に言及。「AIを活用中」と回答した企業は日米ともに43%と並んだものの、「推進中」と回答した企業は日本24%に対し米国48%という結果であり、これは近い将来、生成AI活用において米国が日本を追い越すことを示していると説明しました。

藤川は、その原因はリスク対策であると考察。日本では、さまざまなAIリスク対策の平均実施率が26%なのに対し、米国では46%と進んでおり、2023年から着実にリスク対策を講じてきた米国が一気にAI活用に転じていると述べました。

また、米国ではAI活用の推進において現場部門がオーナーになっていることが多いのに対し、日本ではCoE部門が担当しているケースが多いことにも言及しました。日本企業はルールが明確に規定されていない故にCoE部門を介すことが一般的となっており、ユースケースが全社共通の中庸的なものとなることから、思うように効果が出ない状況があり、それがAI活用のブレーキになっていると説明しました。

日本企業が本来持っている強み、すなわち現場主導で改善をしていくスキルを発揮するためにも、国のルールに準拠しつつ組織として明確なAIガバナンスを構築し、活用を進めていくことが重要になると指摘しました。

藤川 琢哉

藤川琢哉

ディスカッションの最後に提起されたのは、「AIの地政学に対する影響について」という問いでした。ユーラシア・グループのイアン・ブレマー氏が指摘している「テック企業が国家に比肩する、あるいはそれ以上の主権と影響力を持ちうるテクノポーラー・ワールドが出現する」という考え方をどう捉えるかについて、指名された藤川は個人的な見解と前置きしつつも、「AIの領域では、テクノポーラー・ワールドにはならないと考えている」と述べました。

その理由として、生成AI開発は現在、規模の勝負になっているが、一方で小規模なAIの研究開発も進んできており、今後はより民主化され、特化型の小規模AIが大量に生まれる世界になるとの展望を語りました。また生成AIにおいて最も重要なデータ、本当に価値のあるドメインスペシフィックなデータは組織の内部にあることも、テクノポーラー・ワールドにはならないという予測を裏付けていると説明しました。

一方で、小さなAIが大量に生まれる世界ではリスクがあることにも言及。小さなAIは小さな企業、スタートアップ企業も含めいろいろな会社でつくることができる故に、AIリスクに対応しきれない組織が出現する可能性がある、そのためにもPwCのようなプレイヤーが産業共通のリスク対策プラットフォームを提供し、さまざまな組織で培ったナレッジをインテリジェンスとして提供し、能力を底上げしていくことが重要だと強調しました。

その一環として、PwCがホワイトハッカーとなり、AIの脆弱性攻撃を行ってリスクを突き止め、改善案を提案するAIレッドチームの役割を担うサービスについても紹介しました。

藤川は、PwCが小さなAIの世界におけるトラストプラットフォームとして機能し、多様なプレイヤーが安心して技術開発イノベーションを起こせる世界を目指したい、より良い世界のために新しいAIが生まれることをサポートする存在でありたいと想いを語り、ディカッションを締めくくりました。

サーキュラーエコノミーが
アジアの新しい未来を切り開く
――パネルディスカッション「アジアにおける循環経済」

日本およびアジア全域において、各企業は循環経済(サーキュラーエコノミー)に注目し、新たなサステナビリティモデルを推進しています。
パネルディスカッション「アジアにおける循環経済」では、アジアにおける画期的な政策やビジネス慣行が廃棄物の削減、資源の保全、経済の強靭化にどのように貢献しているかを検証し、日本の先駆的な取り組みとアジア全域への波及効果、成功事例、業界横断の協力、今後の課題について各界の有識者が意見を交わしました。

まず提起された日本におけるサーキュラーエコノミーの現状については、工作機械を例にとって紹介があり、1990年代から2010年代に行われた中古機械のアジア諸国への輸出が効率性を損なっている現状から、大きな経済的な機会があることが語られました。

それを受けてサーキュラーエコノミーは、①ネットゼロの実現、②経済成長、③人々のウェルビーイング、④そして資源、特に希少なミネラルなどの観点で、国家の安全保障、経済保障の側面でも重要になっているという指摘がありました。

そうした 議論を受けて、「サーキュラーエコノミーを次のレベルに押し上げていくために何が必要か」という問題提起に対し、中島は「業界をまたいだビジネスモデルの構築が求められる」と指摘しました。循環型ビジネスの環境・社会的インパクトを最大化するには、さらなるスケールで経済合理性を実現することが必要であり、バリューチェーン全体、社会全体で広域的なサーキュラーエコノミーを構築していくことが求められている、それを実現するためには4つの要素がカギになると説明しました。

すなわち、イノベーションによる課題解決・コスト削減、ステークホルダーの巻き込みとサプライチェーンの組み直し、ビジネスモデルの工夫によるマネタイズ、そして法制度・消費者意識・追従企業を動かすことによるスケール化の4つです。これを実現するには企業を超え、産業を超えて協調的な取り組みが求められる。このようなアプローチを「システミックアプローチ」と呼び、広域的なサーキュラーエコノミーの構築に不可欠であると述べました。

この中島の発言を受けて、循環型経済を拡大させていくためには、 従来の機能重視型のビジネスから価値を最大限化するビジネスへの移行が重要であり、マインドセットの切り替えが必要となることや、政府、企業、消費者といった全てのステークホルダーが共通の目標に向けて協力していく必要があるという提言がありました。

また、法令を遵守しつつサプライヤーとの連携によりリサイクル効率・収益性を上げていくソーラーパネル製造システムのモデルチェンジなどの取り組みについて紹介がありました。グリーントランスフォーメーション(GX)は費用がかかると多くの人が捉えている中で、収益性を維持したまま実現する可能性について示されました。

次にモデレーターから提起された「サーキュラーエコノミーの定義がどう変わるか」という問いに対し、中島は、現時点では世界共通の定義が存在していないことを指摘、「明確に循環型経済とは何かを定義する必要がある」と述べました。サーキュラーエコノミーはリサイクルおよびリユースを示すと理解されがちですが、これらは一部に過ぎず、目的をベースとした定義を設定すべきであると提言。例えば資源の収集や配分にしても、環境問題や気候変動の観点だけでなく生物多様性、あるいは水の問題も含めて考える必要があると述べました。

すなわち、プラスチックの燃焼が気候変動に影響を及ぼし、廃棄プラスチックが海の生態系破壊につながることからも分かるように、資源あるいは材料の消費を減らしていくことが、サーキュラーエコノミーの主要な目的になるとも指摘。この定義にフォーカスすれば、サーキュラーエコノミーの方法論は拡大できると説明しました。

中島 崇文

中島崇文

その一例として 中島が挙げたのが、EV(電気自動車)バッテリーのリサイクル、リユースの事例です。EVがカーボンニュートラルを実現するにはバッテリーがカギとなります。これをリサイクルの対象とすることで資源の抑制が可能となり、さらにEV製造販売、充電サービス、運輸サービス、再エネ事業が連携して使用済みのEV電池を電力インフラ用途で再利用する取り組みを事例として紹介。業界を超えて連携することが、サーキュラーエコノミーの拡大に極めて重要であると強調しました。

業界のみならず、地域を横断した連携の必要性についても議論があり、「ローカル、グローバルなレベルでどのような政策が必要か」という問いに対して、中島は、「循環型経済を加速させていく上で、政策は間違いなく必要」と述べつつも、先述したようにグローバルにおいては定義が明確ではなく、共通のルールがないことに言及。 近い将来、サーキュラーエコノミーは全ての業界に関連することになるので、共通の用語、共通ルールの必要性について述べるとともに、WBCSD(持続可能な開発のための世界経済人会議)がグローバル循環プロトコルとしてルールの構築に着手していることに触れました。これにより、金融業界が先を見通して動きやすくなり、サーキュラーという観点で投資プロジェクトが活発化、企業もルールに基づいて活動するなど、世界的に同調が取られる形になるだろうと予測しました。 また、そのためには金融、産業リーダー、ポリシーメーカーをまたいだ協調が必要であるとも提言しました。民間主導のビジネス開発状況をこの三者が共有することでポリシーメイクが加速し、よりよい社会が実現すると期待を述べました。

主要メンバー

藤川 琢哉

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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中島 崇文

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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