「GZERO Summit Japan 2025」パネルディスカッション

サステナビリティの地政学を乗り越える~サーキュラーエコノミーを通じた国際競争力の強化~

  • 2026-03-10

(左から)フランク・バギディ氏、森 雅彦氏、中島 崇文、キャシー 松井氏、矢野 裕子氏

地政学的緊張と資源制約が深刻化する中、サーキュラーエコノミーは環境対応にとどまらず、経済安全保障の要として位置付けられています。本パネルディスカッションでは、PwCコンサルティングの中島 崇文、DMG森精機の森 雅彦氏、国際協力銀行の矢野 裕子氏、MPower Partnersのキャシー 松井氏が登壇。二次資源のグローバル調達や産業間連携といった戦略から、製造現場での循環型モデル、公的金融によるリスクテイク、大企業とスタートアップの協働まで、日本の国際競争力強化に向けた多角的な取り組みを議論しました。

※本原稿は、2025年10月21日に開催された「GZERO Summit Japan 2025」のパネルディスカッション「サステナビリティの地政学を乗り越える ~サーキュラーエコノミーを通じた国際競争力の強化~」の内容を基に再構成したものです。構成上、一部の発言に補足説明を加えています。
※法人名、役職などは登壇当時のものです。

登壇者

パネリスト:

DMG森精機株式会社 代表取締役社長 兼 グループCEO
森 雅彦氏

株式会社国際協力銀行 執行役員 サステナビリティ統括部長
矢野 裕子氏

株式会社MPower Partners ゼネラルパートナー
キャシー 松井氏

PwCコンサルティング合同会社 執行役員/パートナー
中島 崇文

モデレーター:

ユーラシア・グループ
グローバルサステナビリティ・生物多様性・水担当プラクティス ヘッド
フランク・バギディ(Frank Baggidy)氏

サーキュラーエコノミーは経済安全保障の要
日本が直面する構造的制約とその解決策とは

バギディ氏:
最初にサステナビリティを取り巻く現在の環境と、サーキュラーエコノミーが重要視される理由について伺います。中島さん、企業・政府を支援するコンサルタントの立場から、サーキュラーエコノミーの位置付けをどのように捉えていますか。

中島:
近年は米国のパリ協定離脱や欧州でのサステナビリティ政策見直しなど、「不確実性」が高まっています。しかし、企業や政府を支援する中で実感しているのは、「サステナビリティトランスフォーメーション」がもはや「選択肢」ではなく「必須」になっていることです。環境・社会課題への対応にとどまらず、リスク管理や事業機会の創出にも直結するため、企業はこの変革を避けて通れません。

具体的には、温室効果ガス排出に対する規制が国際的に強化され、炭素国境調整措置(CBAM)のように輸入品にも排出コストを課す動きが広がっています。気候変動による水ストレスは食品・飲料業界の原料調達に深刻な影響を与えており、例えば、バッテリー原材料の地域偏在は地政学的緊張と相まって、調達リスクを高めています。

こうした環境下で、サーキュラーエコノミーは単なる環境対策を超え、戦略的な重要性を持つようになっています。気候変動、資源枯渇、汚染、生物多様性の損失といった複合的課題に包括的に対応でき、適切なビジネスモデルを組み合わせれば経済的リターンも期待できます。いまやサーキュラーエコノミーは、経済安全保障の観点からも不可欠な資源政策です。

PwCコンサルティング合同会社 執行役員/パートナー 中島 崇文

バギディ氏:
世界ではサーキュラーエコノミーがどのように進展しているのか、主要地域の動向から教えていただけますか。

中島:
欧州では、エコデザイン規則やデジタル製品パスポート、廃車指令といった制度が導入され、企業には製品設計段階からの資源循環が求められています。資源循環の価値を社会全体で共有する枠組みづくりも進んでいます。

日本企業と関係の深いASEAN地域では、EPR(Extended Producer Responsibility:拡大生産者責任)やNPAP(National Plastic Action Partnership:全国プラスチック行動パートナーシップ)といったプログラムを通じて、官民協力によるリサイクル推進が加速しています。リサイクル材の利用を促す法整備も進み、二次資源をめぐる競争が激しさを増しています。

中国では、特に鉄鋼分野で大規模な資源循環が進んでいます。世界最大の鉄鋼生産国として国内の鉄スクラップを大量にリサイクルすることで、オーストラリアやブラジルからの鉄鉱石輸入依存を引き下げています。また、ASEAN地域への製鉄投資を通じ、地域全体の産業エコシステムの構築も進めています。こうした世界的な動きは、日本の製造業、特にグローバル展開する企業に大きな影響を与えています。

バギディ氏:
PwCの立場から、サーキュラーエコノミーを通じて日本の国際競争力を高めるための政策面でのコメントをお願いします。

中島:
日本では、環境省と経済産業省が中心となり、廃棄物削減や資源回収、リサイクル材の利用を促す制度が整備されています。しかし、日本の国際競争力を見据えた政策を考えるには、産業エコシステムの構造や、国内で利用できる二次資源の量を前提として踏まえることが不可欠です。

少し単純化して申し上げると、日本は多様な消費財の製造に強みがあり、多量の一次資源を投入して製品を生産し、その多くを海外に輸出しています。このため、国内での最終消費・廃棄の規模は相対的に小さく、結果として国内で得られる二次資源は、一次資源に比べて少なくなります。加えて、廃棄物自体が海外へ輸出されるケースも少なくありません。

さらに、海外から二次資源を輸入する場合には物流コストが高額になります。つまり、日本は構造的な「二次資源不足」に直面しているのです。国内だけで循環型経済を完結させるのが難しいのは、このためです。

こうした背景を踏まえると、日本のサーキュラーエコノミーを拡大するためには、日本特有の課題解決が欠かせません。政策としては、アジア諸国との資源循環の促進、国内産業間での資源循環の強化、グリーン素材の活用、そして経済合理性のある循環モデルを支えるイノベーションの推進が重要だと考えています。

DMG森精機の戦略から学ぶ
地政学リスクと向き合う製造業の「次の一手」

バギディ氏:
ここまでは政策を中心にお話を伺いました。次に製造現場の実情についてお聞きします。森さん、DMG森精機では地政学リスクやサーキュラーエコノミーの要請に、どのように対応しているのでしょうか。

森氏:
DMG森精機は、日本とドイツを拠点とする工作機械メーカーとして、地政学リスクの影響を直接受けています。2023年にはロシア国内の自社工場がプーチン政権下で占拠され、今年になってようやくドイツ政府から輸出保険の付与を受けました。

こうした経験から、ユーラシア・グループと緊密に協力しながら、顧客が通知なく機械を移動させた場合はその機械の稼働を自動停止し、正しいコードを入力しなければ再稼働できない特殊装置を2006年から導入しています。ドイツの輸出規制当局の協力のもと、2023年からはドイツ製機にも導入しています。

このトレーサビリティ装置は、新たなビジネス機会にもつながると考えます。現在、世界には約500万台の工作機械が稼働しており―これは当社製に限らず、あらゆるメーカーの機械を含む数字ですが―その相当数が20年以上前の旧式機です。私の試算では、このうち最新の5軸加工機や積層造形(Additive Manufacturing:AM)技術を備えた最新設備に置き換えが可能な潜在需要を抱えています。

しかし、こうしたハイエンド機の世界全体の年間生産能力はわずか約2万台にすぎません。このため、このペースでは、100万台規模の入れ替えに単純計算で50年を要します。言い換えれば、当社にとって非常に持続性が高く長期的に続くビジネス領域が存在しているということです。

さらに、このトレーサビリティでは、顧客のエネルギー消費やScope1からScope3までの温室効果ガス排出量を把握できます。現在、製造業において意思決定を担うのは40代から50代ですが、彼らは「機械をネットワーク接続し、24時間365日監視してほしい」というニーズを強く持っています。

とはいえ、こうしたデータ活用は循環型工場の実現を後押しする一方で、機器の接続性が高まるほど知的財産や設計情報が流出するリスクは増大します。そのため、技術の恩恵を最大化するには、知財保護のための厳格な規律と倫理の徹底が前提となります。

DMG森精機株式会社 代表取締役社長 兼 グループCEO 森 雅彦氏

バギディ氏:
リサイクルの分野での具体的な取り組みについても伺います。DMG森精機ではどのような協力事例が進んでいるのでしょうか。

森氏:
3つの事例を紹介します。1つ目は大手自動車メーカーとの協業です。車体プレス用金型にDirect Energy Deposition(DED:指向性エネルギー堆積法)」技術を適用し、金属粉末を噴霧して高出力レーザーで溶融させて金型の摩耗部分を補修します。これにより金型の寿命を延ばし、廃棄を減らせます。

2つ目は防衛関連で、古い航空機の部品再製造に取り組んでいます。約50年前の機体のため、当時の設計図は手書きの2D図面しか残っていませんが、それらを元に3D図面を作成し、部品を短時間で再製造できる仕組みを構築しました。建設機械や産業機器でも、金属3Dプリンティング技術を活用して同様の再製造を行っています。

3つ目は金属リサイクルの取り組みです。当社は日本とドイツで年間約2万トンの鋳物を使用していますが、日本の後継者不足に悩む鋳物メーカーをグループ化し、電炉による持続可能な鋳造プロセスへと転換しました。現在、鋳物原料の約10%は、25年間使用した工作機械そのものを破砕・溶解したリサイクル材です。オランダでも同様の取り組みを始めています。さらに、切削工具に使われるタングステンなどの希少金属についても、中国依存を下げるためリサイクルが不可欠です。

私たち自身が、循環型の取り組みは収益を生むということを証明することで、業界全体の変革を後押ししたいと考えています。収益性のあるGX(グリーントランスフォーメーション)を実現することが、今後数年間の当社の目標です。

公的金融が支えるサーキュラーエコノミー
JBICの3つの役割とは

バギディ氏:
次に公的金融の立場からお話を聞かせてください。矢野さんの所属する国際協力銀行(以下、JBIC)は日本と世界の健全な経済発展に貢献する政策金融機関ですよね。JBICではサーキュラーエコノミーの課題をどのように捉えていますか。また、そうした課題に対し、金融セクターの果たす役割についても教えてください。

矢野氏:
では、サーキュラーエコノミーをめぐる主な課題と、その課題解決に金融セクターが果たし得る役割についてお話しします。

第1の課題は、商業的採算性の確保です。サーキュラーエコノミー関連のプロジェクトは初期段階では収益性が低く、スケールアップには障壁が大きいのが実情です。したがって民間企業だけで取り組むことは難しく、規制・税制・補助金・公的金融など、公的セクターによる支援が、外部不経済を内部化する上で有用です。公的金融に関して言えば、JBICは自らの資金を供与するのみならず、国内外の官民金融機関との広範なネットワークを活用し、適切なリスク分担策としてのブレンデッドファイナンス*1の組成をリードすることも可能です。なお、クレジットを活用した資源循環の取り組みの経済価値化も商業的採算性確保のための手段の1つとして考えられますが、クレジットでは、収益化における時間軸や売却価格の不確実性などの課題に対処する必要があります。

第2の課題は、資金の確保です。サーキュラーエコノミーの実現には、従来のビジネスモデルを大きく転換する必要があり、その転換には多額の資金を要しますので、資金確保は極めて重要な課題の1つです。課題に対処する上では公的資金のみならず民間資金の動員が不可欠ですが、JBICは保証を含むリスクテイク機能を通じてこれに貢献することが可能です。

ここで、民間資金動員に当たってボトルネックとなっているのは、循環性向上に向けた取り組みを適切に評価する国際的な指標や情報開示ルールが確立されていないことです。具体的に例を上げると、EUではサーキュラーエコノミーに関してルールメイキングが先行していますが、再生材利用に偏った指標で循環性が評価されがちです。こうした状況を踏まえると、日本企業の強みである耐久性や省資源性なども適正に評価され、日本企業の国際競争力が適切に確保されるような指標や情報開示が国際標準となるように、日本は国際的なルールメイキングの議論に積極的に関与すべきだと考えてます。

第3の課題は、産業連携とイノベーションの促進です。これらについては後ほど詳説します。

なお、課題解決の切り口とは異なりますが、金融セクターは、サステナビリティ・リンク・ローンなどの金融商品を通じ、企業がサーキュラーエコノミーを推進するインセンティブを提供することも可能です。つまり、金融セクターは、企業のニーズに受動的に対応するのみならず、能動的にサーキュラーエコノミーを推進することも可能だと言えます。

*1 公的資金と民間資金を組み合わせて資金規模を拡大し、社会的課題解決を目指す投融資手法

株式会社国際協力銀行 執行役員 サステナビリティ統括部長 矢野 裕子氏

バギディ氏:
産業連携とイノベーションの促進について詳しく説明していただけますか。

矢野氏:
サーキュラーエコノミーに係るイノベーションを促進し、幅広い産業連携を支援する上で、JBICが果たし得る役割は大きく3つあると考えています。

第1は、リスクテイク機能を活かしたイノベーション支援です。革新的技術はサーキュラーエコノミーの実現に不可欠であり、この技術革新の推進力となり得るスタートアップの育成は重要です。しかし、その育成には、研究・開発段階から商業化へのスケールアップ段階に至るまで一貫した資金支援が重要であるにもかかわらず、不足していることが現状の日本のスタートアップエコシステムにとって大きな課題となっています。こうした状況を踏まえ、JBICは近年、出資による日本のスタートアップ支援を強化しています。また、日本のスタートアップは、短期的国内成功の追求に偏りがちな面がありますが、真に成長力のあるスタートアップを育成するには、初期段階からグローバルなエコシステムとの接続を視野に入れた戦略を設計することが重要です。このような認識から、JBICでは近年、日本のスタートアップの海外展開支援にも注力しています。

第2は、ビジネスマッチングの提供です。JBICは海外企業とのマッチング機会を日本企業に提供することにより、グローバルな産業連携を促進しています。例えば、JBICは北欧・バルト地域のサステナビリティ関連スタートアップに投資するファンドに参画し、日本企業がこれらの革新的企業とつながる機会を創出しています。すでに具体的なマッチング事例も生まれており、海外の先進的な技術との協業が、日本企業のサステナビリティトランスフォーメーションならびに国際競争力の強化につながっています。

第3は、リスク分担メカニズムの構築です。日本企業が革新的技術を海外展開する際には、現地のポリティカル・リスクを含むさまざまなリスクが伴います。JBICは国際金融の専門性と国内外のネットワークを活かし、現地政府、企業、金融機関、国際機関などさまざまなステークホルダーと連携してリスク分担の仕組みを設計、提供しています。例えば現地政府との連携に関して言えば、日本企業がサーキュラーエコノミーのプロジェクトを新興国や途上国で実施する際にしばしば大きなリスクとなる、現地の廃棄物管理政策や関連法制度等が未整備であるという問題について、現地政府に改善を求めて働きかけることも可能です。

JBICは、こうした取り組みを通じて、世界の環境・社会課題の解決を日本企業のビジネス機会と国際競争力の強化につなげ、世界全体にとってWin-Winで持続可能な未来を創造していきたいと考えています。そしてその取り組みの一環として、多様な金融・非金融のソリューションの提供によって、日本と世界のサーキュラーエコノミーへの移行も引き続き支援していきたいと考えています。

スタートアップ成長の鍵は「需要創出」
技術革新と資本が生む次の競争力とは

バギディ氏:
次に松井さんに伺います。日本のスタートアップがこれらの課題を克服し、成長機会をつかむためには、どのような道筋が考えられるでしょうか。

松井氏:
サステナビリティやサーキュラーエコノミーの領域では、課題解決につながる革新的技術が次々に生まれています。日本発の技術も世界で非常に競争力があります。例えば、私たちが支援する株式会社JEPLANは、PETボトルを再びPETボトルへと循環させる技術で世界をリードし、国内だけでなく欧州のプラスチック問題にも貢献しています。

またマサチューセッツ工科大学の研究者が設立した米国のPhoenix Tailings社は、鉱山残さ(テーリング)からレアアースを環境負荷の低い方法で抽出する技術を擁しています。レアアースは電子機器や自動車に不可欠で、米中緊張が続く中、こうした持続可能な供給源の確保は戦略的に極めて重要です。

ただし、多くの持続可能なソリューションはそのコストに従来製品の1.5倍から2倍を要します。補助金だけでは十分ではありません。ですから、「Demand-Pull(需要主導)」のような、政府が新しい技術への需要を後押しする政策が必要です。顧客側のインセンティブが整えば、スタートアップの成長スピードは大きく変わります。

私は日系アメリカ人として40年近く日本で暮らしてきましたが、今の日本にはサステナビリティの分野でリーダーシップを発揮できる絶好のタイミングだと感じています。国際会議で日本は必ずしも十分に発言しているとは言えませんが、技術力・品質・人材という強みを活かせば、世界に対してもっと大きな影響力を発揮できるはずです。

株式会社MPower Partners ゼネラルパートナー キャシー 松井氏

バギディ氏:
スタートアップエコシステムは、日本の抱える構造的な課題を乗り越え、新しい産業や価値を生み出していくうえで、どのような役割を果たせるとお考えですか。

松井氏:
歴史的に見ても、革新的な技術や産業変革は既存の大企業よりも新しいスタートアップから生まれるケースが多く、日本でも最終的には同じ流れになると思います。

現在の日本のスタートアップエコシステムの規模は、米国の約30分から35分の1で、出口の多くはIPO(Initial Public Offering:新規公開株)です。しかし近年、日本の取引所は上場維持の基準を厳格化し、時価総額要件も導入しました。そのため、今後はM&Aが一般的な出口になり、大規模企業とスタートアップの協業はますます重要になります。

私たちが直面している危機は一時的な現象ではなく、世界全体が構造的な変化に突入しています。日本は豊富な人的資本を持つ一方、資源は限られています。だからこそ「ジャストインタイム」から「ジャストインケース」へ、より自律的でレジリエントな体制への移行が急務です。エネルギー安全保障、サイバーセキュリティ、食料安全保障など、多くの分野が今後の投資機会になります。

こうした構造的な課題に向き合うには、先ほど触れたように、スタートアップと大規模企業の協力が不可欠です。大規模企業の資源とスタートアップのスピードが組み合わさることで、日本は持続可能性の観点において、世界をリードするポジションに立てると考えています。

システミックチェンジで切り拓く未来
日本の強みを生かしたエコシステム構築へ

バギディ氏:
最後に、日本企業の将来に関わる視点から中島さんに伺います。サーキュラーエコノミーの実現には、産業の枠を超えて仕組み全体を変えていく「システミックチェンジ」が重要だと指摘されています。具体的には、どのようなアプローチが求められるのでしょうか。

中島:
サーキュラーエコノミーの実現は、決して容易ではありません。循環型エコシステムを成立させるには、生産者だけでなく、リサイクラー、消費者、行政、サプライヤーなど、多様なステークホルダーが一体となって動く必要があるからです。いわば、単独の産業の取り組みだけでは完結しない「構造的な協働領域」です。

このエコシステムを前に進めるには、金融、技術、スタートアップ、ビジネスモデルといった要素が、同じ方向を向きながら同時並行で発展していくことが不可欠です。そのためには、従来の延長ではない新しい発想や方法論を取り入れ、エコシステム全体の変革を加速させる必要があります。私たちはこれを「システミックチェンジ」、あるいは「システミックアプローチ」と呼んでいます。

このシステミックアプローチには、大きく2つのポイントがあります。

1つ目は、循環型エコシステムの全体像を捉え、拡大を阻むボトルネックを明確にし、そこに集中的にアプローチすることです。個々の施策を独立して進めるのではなく、「どこに働きかければ全体が動くのか」を見極めるシステム思考が不可欠です。

2つ目は、業界や地域を越えてステークホルダーが集まり、協働できる環境を整えることです。サーキュラーエコノミーのような新しいエコシステムを立ち上げるには、利害の異なるプレーヤーが同じ目的を共有し、同じ場で議論を始めることが欠かせません。こうした「協働の基盤」がなければ、循環モデルが社会全体へと広がることはありません。

こうしたシステミックアプローチの観点から見ると、日本には大きな強みがあります。

日本には、製造業や工作機械、サービス、IT、金融といった多様な産業が高密度に集積しています。この「産業の多様性と近接性」は世界的にも希少なアセットであり、異なるプレーヤーが連携するための土壌がすでに整っていると言えます。

だからこそ日本では、この強みを活かし、産業・地域ごとにモデルケースをつくり、それを段階的に横展開していくアプローチが有効です。こうしたシステミックチェンジこそが、企業、行政、地域社会を巻き込みながら、日本が循環型社会をリードしていく力になるはずです。

バギディ氏:
サステナビリティは決して容易なテーマではありませんが、今日の議論はその複雑さに正面から向き合い、次の一歩を考えるうえで多くの示唆をいただけたと思います。本日はありがとうございました。

主要メンバー

中島 崇文

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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