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左から、細井 裕介、河田 陽平氏、松田 源一郎氏、飛鳥 一雄氏、齊藤 三希子
ご登壇者
PwCコンサルティング合同会社
スマートモビリティ総合研究所 GX & Ecosystemプログラムパートナー IX-SBX New business CoE パートナー
細井 裕介
環境省 環境再生・資源循環局 資源循環課 資源循環制度推進室 室長
河田 陽平氏
パナソニック ホールディングス株式会社
MI本部 マニュファクチャリングソリューションセンター CE技術推進部 部長
松田 源一郎氏
三菱ケミカル株式会社
ベーシックマテリアルズビジネスグループ 事業企画本部 CNCE企画部 CNCE事業グループ グループ長
飛鳥 一雄氏
PwCコンサルティング合同会社 パートナー
齊藤 三希子
※法人名、役職などは掲載当時のものです。
欧州のELV(End-of-Life Vehicle)規則による再生プラスチックの使用義務化をはじめ、サーキュラーエコノミーへの要請が世界で具体化する中、日本の自動車産業は構造的な変革を迫られています。その鍵を握るのが、AI・ロボティクスを活用した高度な解体・選別やケミカルリサイクルなど、先端技術の社会実装による「資源循環の産業化」です。2026年6月、名古屋で開かれた「人とくるまのテクノロジー展2026」の特別技術講演では、PwCコンサルティングによる基調講演に続き、政策・解体・材料の各分野を担うキープレイヤーが登壇。資源循環を「環境への取り組み」から「競争力ある産業」へと進化させる視点が、産業の壁を越えて語られました。
「資源循環をテクノロジー産業化で解く―クルマの未来と産業の壁を越える視点―」。そう題された特別技術講演は、基調講演とパネルディスカッションの2部構成で進行しました。
前半では、PwCコンサルティング合同会社(以下、PwCコンサルティング)スマートモビリティ総合研究所の細井裕介が登壇し、モビリティ領域における国内外の資源循環をめぐる潮流と、今後の日本の製造業が目指すべき勝ち筋を提示しました。
かつて自動車メーカーに身を置き、スマートモビリティ総合研究所にて自動車・モビリティのエコシステム分析を担う細井は、現在のモビリティ産業における構造の変化について、次のように指摘しました。
「従来は自動車OEMがピラミッドの頂点となり、車両の企画・開発から製造までを一貫してコントロールしていました。しかし現在、世界のグローバル市場を見渡すと、自動運転やバッテリーのプラットフォームなど、要素技術を持つ強力な領域プラットフォーマーと手を組まなければ戦えない時代になっています。いかに強い産業スタックを構築できるかが、競争優位の源泉になっています」(細井)
さらに将来を見据えた場合、自動運転サービスやAIエージェントの拡大に伴い、産業構造は「フロントエンド」「ミドルレイヤー」「バックエンド」へと明確に3層化していくと細井は見ています。その上で、日本のものづくり企業が主導権を握るべきは「バックエンド(フィジカルビジネス)」だと強調します。
「AIの台頭によってデジタルの世界がフロントで手配を進めてくれるようになるからこそ、逆にエネルギーや有限な資源、環境負荷といったフィジカルなビジネスの重要性が極めて顕著になります。製造業として強固な基盤を持つ日本にとっては、このフィジカルビジネスをいかに強化し、全体をマネージしていくかがこれからの競争優位の要諦となります」(細井)
PwCコンサルティング合同会社 細井 裕介
また、バリューチェーン全体の利益の源泉という観点で見ても、自動車販売単独で利益を出すことは非常に厳しい寡占状態になりつつあります。しかし、車が市場に出た後の保有期における中古車流通やアフターセールス、リサイクルといった広義のサーキュラーエコノミー市場は、2030年にはグローバルで1,178兆円に達するとの試算もあり、フィジカルビジネスが秘めるポテンシャルの大きさがうかがえます。
この巨大な市場を日本の強みとしてアプローチする上で、決定打となるのが欧州の規制動向です。欧州委員会から提案され、議会・理事会で三者暫定合意がなされた「改正ELV規則案」(講演時点では規則案。後の2026年8月施行)では、新車に使用するプラスチックの少なくとも15%(段階的に25%へ引き上げ)をリサイクルプラスチックとすることを規定し、さらにそのうちの20%をELV由来(Car to Car)とすることを義務付ける方向で動き出しています。
「この資源循環の活動は、環境へのアクションや材料調達という側面はもちろんありますが、それ以上に非常に強い経済合理性が求められます。いくらでもお金をかけていいというわけではないからこそ、最新のテクノロジーを駆使して、選別や解体といったあらゆる局面に技術を適用し、技術の『産業化』によってこの問題を解いていくアプローチが今、非常に着目されているのです」(細井)
細井の基調講演を受け、後半のパネルディスカッションでは、PwCコンサルティングの齊藤三希子がモデレーターを務め、政策、解体現場、材料、戦略制度の視点から産業間をまたぐ議論が交わされました。
まず、リサイクルプロセスの最上流に位置する「解体」フェーズにおける技術革新について、パナソニック ホールディングス株式会社(以下、パナソニック)MI本部の松田源一郎氏が、同社が長年培ってきた家電リサイクルなどの資源循環について語ります。
2001年の家電リサイクル法本格施行以来、25年間にわたり家電リサイクルを推進し、高いリサイクル率を誇ってきたパナソニック。しかし、常にある大きな課題に直面していたと松田氏は吐露します。それは、機械による破砕と選別を中心としたプロセスでは、リサイクルされた材料の多くが自社の製品に戻っていないという事実でした。
「破砕を行ってから選別して純度を上げようとしても、不純物が原因でどうしても純度100%には戻らない『99%の壁』が存在していました。一方で、人が手作業で丁寧に解体すれば純度100%で素材を回収でき、自社製品への循環を実現できています。この高品位なリサイクルをいかに拡大し、将来的に自動車産業の皆様にも使っていただけるレベルにまで品位を高めていけるかが課題でした。」(松田氏)
パナソニック ホールディングス株式会社 松田 源一郎氏
松田氏は、この課題への取り組みとして、サイバーフィジカルシステム(CPS)やデジタルツインを活用した「自動精緻解体」技術を紹介しました。
この技術では、製品の分解に必要な程度の構造情報(簡易CAD情報)を入力することで、サイバー上で最適な分解の手順や手数を自動的に導出します。さらに、そのシミュレーション情報を基に、ロボットの動作プログラムをティーチングレスで自動生成することが可能です。自動化を阻む最大のボトルネックであった多品種対応や機種ごとのティーチングの手間をAIとロボティクスによって解消しました。
なお、AIが分解にかかる時間や手数を評価するだけでなく、リサイクルしやすい設計への改善策を逆算して設計者にフィードバックする機能により、設計の改善サイクルとリサイクル現場の自動化を同時に実現するアプローチが可能になります。
「将来的には、欧州のDPP(デジタル製品パスポート)の動きとも連動し、分解マニュアルや構造情報を業界全体で共有していける世の中を目指しています。たとえデータがない場合でも、フィジカルAIを用いてロボットが作業を自律的に学習して分解するような世界の実現に向けて力を入れています」(松田氏)
続いて、高品位な再生プラスチック製造という「材料」の視点から、総合化学メーカーである三菱ケミカル株式会社(以下、三菱ケミカル)の飛鳥一雄氏が説明しました。
自動車において最も多く使用されるプラスチックであるポリプロピレン(PP)を例に、三菱ケミカルでは現在、パートナー企業やグループ会社とともに「マテリアルリサイクル」「ケミカルリサイクル」「カーボンリサイクル」の3つのルートの最適化を推進しています。
「自動車という文脈においては、まずマテリアルリサイクルに注力しており、自動車工業会(自工会)が掲げる物性目標値に合致する再生PPグレードの開発に成功しています。一方で、再生材特有の臭いやVOC(揮発性有機化合物)の問題があり、品質面での実装は、やはり一筋縄ではいかない感触も持っています」(飛鳥氏)
三菱ケミカル株式会社 飛鳥 一雄氏
加えて、リサイクル材に対して国や自動車業界が求める膨大な供給量を満たすには程遠い現状があります。
「臭気やVOCの課題と向き合う上で、トレーサビリティの確保や高度な選別・洗浄技術の重要性も高まっています。
2026年3月に商業運転を開始した2万トン規模のケミカルリサイクル設備では、マテリアルリサイクルが難しい廃プラスチックなどを原料として受け入れています。さらに、ケミカルリサイクルでも処理しきれないASR(自動車破砕残渣)などの難リサイクルプラスチックに対し、排出したCO2を回収して将来的に原料化できるようなカーボンリサイクルという構想もあります。こうした取り組みは、再生材の活用領域を広げる手段の一つとして位置付けられます。」(飛鳥氏)
産業界が技術開発を加速させる一方で、環境省の河田陽平氏は現状のデータを提示しながら、原料再生産業の制度設計・仕組みづくりについてのグランドデザインを明かします。
環境省が2024年11月に立ち上げた「自動車向け再生プラスチック市場構築のための産官学コンソーシアム」によると、欧州ELV規則案(講演時点では規則案。後の2026年8月施行)をクリアするために日本国内で必要最低限とされる自動車向け再生プラスチックの供給量目標は、2041年以降で年20万トン以上に達します。一方、現在の流通量はPP換算で約5.5万トン程度にとどまっています。
「現状の再生プラスチック市場は、『量・質・コスト』という3つの面で課題を抱えていると言えます。流通量が5.5万トンと極めて限定的な『量』はもちろん、自工会が掲げる物性目標をクリアするサンプルがPCR(使用後廃棄物)にほとんど存在しないという『質』の壁もあります。廃棄物由来であるがゆえに物性値が安定せず、今日と明日で異なるものができてしまうほどの不均一さや、異物、臭気の課題も根深い。さらに、これら品質の底上げや安定化を図ろうとすれば当然プロセスが重なり、バージン材の販売価格を上回ってしまう『コスト』の課題も重くのしかかっています」(河田氏)
環境省 河田 陽平氏
この「量・質・コスト」の課題を解決するために、環境省の打ち出している施策の一つが、サプライチェーン強靭化のための「再生プラスチック集約拠点(以下、再プラ集約拠点)」の必要性です。
日本のリサイクル業界は、小規模なリサイクラーが全国に点在する「地域分散型」の構造を持っています。これをそのまま自動車産業のサプライチェーンに組み込もうとしても、必要とされる膨大なボリュームや品質の均質化、安定供給に応えることは難しい状況です。
「個々のサプライチェーンが細いため、そのまま自動車産業の要求に応えることは困難です。そこで、これらを束ねて供給能力と高品位を担保する仕組みとして、環境省が打ち出しているのが『再プラ集約拠点』の構想です。各リサイクラーで生産される再生プラスチックを集約し、品質の向上と均質化を図ることで、大規模化によるコスト抑制も実現していく狙いがあります」(河田氏)
河田氏はさらに、この取り組みが単なる規制対応の域を超えた「真の動静脈連携による新産業創出につながる」と話します。
「これまで『動静脈連携』は言葉として語られながらも、真の意味でものづくりを支える循環産業としては確立されていませんでした。しかし、これからは再生材の安定供給なくして車を作れない時代が到来します。これに対応することは、事実上の『新産業創出』にほかなりません。
その中で日本が誇るべき強みは、連綿と培ってきた装置産業や化学産業の圧倒的な技術とノウハウです。日本独自の『静脈産業』の回収ネットワークと、世界水準の『動脈ものづくり産業』を三位一体でつなぎ合わせる。それによって強固な市場を構築できれば、国際舞台における日本のプレゼンスを再び高められるはずです。そこを最終的なゴールに見据え、国家戦略として循環経済への移行を力強く推進してまいります」(河田氏)
パネルディスカッションの終盤では、産業界が一体となって構築すべきエコシステムについて話し合われました。
三菱ケミカルの飛鳥氏は、環境省の「再プラ集約拠点」の構想に対して、今後の展望を次のように話します。
「環境省が進めている集約拠点の構想は、私たち材料メーカーにとっても非常にありがたく、重要なプラットフォームです。当社では、この集約拠点を、単にプラスチックという物理的なモノを集める場所だけではなく、『静脈と動脈をつなぐ次世代の循環型マテリアル&データのハブ』であると考えています。
材料化学の技術だけでなく、これからはトレーサビリティを担保するためのデータ産業的な側面が極めて重要になります。物理的にすべての拠点がつながらなくても、データでつながるようなエコシステムを構築することが重要です。『動静脈』が連携することで、エンドユーザーである自動車OEMの需要を起点にサプライチェーンや品質の設計を見直せますし、マテリアルとケミカルという2つのルートを最適に組み合わせることも可能になります。これによって、欧州のDPPに対応できるだけのトレーサビリティシステムを構築し、再生材の価値をしっかりと引き上げていきたいです」(飛鳥氏)
また、パナソニックの松田氏も、これまでの電機・家電業界を越えた広がりに、確かな手応えを感じているといいます。
「今まで私たちは、どうしても電気業界の中に閉じていた部分がありましたが、環境省のプログラムを起点に、自動車業界をはじめ、さまざまな産業の方と直接お話できる機会が増えています。議論を重ねる中で、家電リサイクルで培ってきたアセットや自動精緻解体の技術を、自動車業界の資源循環にも応用できる可能性があると感じています。今後は業界を横断して連携しながら、技術を社会実装していきたいです」(松田氏)
河田氏はこうした動きを支援する国としての姿勢を示します。
「国の戦略としては、今すぐ物量を稼ぐ設備投資支援と並行し、技術を体系化するようなR&Dを支える支援という二枚体制で進めていきます。また、その先を見据えたAIやDX、フィジカルAIの活用など、多岐にわたる分野の支援も行います。日本が持つ底力を総結集して、この難局を乗り切っていきたいです」(河田氏)
最後にモデレーターの齊藤が、産官連携による資源循環産業の実現に向けて、次のように締めくくりました。
「新しい産業を創出していくには、業界横断型の連携はもちろん、グローバルで勝てる技術だけでなく、欧州などの国際規制に対応する仕組みを国として整えていくことが非常に重要になると改めて感じました。既存の産業の強みを活かしつつ、いかに新しい産業を育てていくか。その実現には、産官連携により、継続的に議論と実装を重ねていくことが求められます」(齊藤)
PwCコンサルティング合同会社 齊藤 三希子
「大量生産・大量消費・大量廃棄」から、テクノロジーの力で経済的にも持続可能な循環型モデルへ――。資源循環の産業化によって、日本のものづくりが再び世界の最前線で輝く日もそう遠くないはずです。
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