事業分離・売却における会計上の論点とパーシャルスピンオフ

  • 2024-12-19

はじめに

近年、日本企業において既存事業もしくはその一部分について分離・売却を行う事例が増加しています。合併・買収(M&A)と同様に、強みのある中核事業への資源の集中をはじめさまざまな目的で、企業の成長戦略の一環として事業分離・売却が行われています。英語では投資(Investment)の反対語であるDivestmentと意味の似ているDivestituresという言葉が近年使われることが多くなっており、実務においても事業分離・売却に関する多様な形態の取引が見られます。財務会計の観点では、合併・買収については詳細なガイダンスをもとに慎重に検討されることが多いですが、事業分離・売却についても検討しなければならない会計上の論点があります。

また、海外で多く見られるスピンオフ取引の日本経済における活用を促進するために、令和5年度税制改正により、完全子会社株式の一部を親会社に残す株式分配であるパーシャルスピンオフ取引のうち一定の要件を満たす場合に課税対象外とする特例措置(いわゆるパーシャルスピンオフ税制)が導入されました。この措置に関する日本会計基準における会計処理を定めるために、関連する企業会計基準適用指針第2号「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準の適用指針」が2024年3月22日に改正されています。

本稿では、事業分離・売却(Divestitures)に関して日本会計基準で検討が必要になる主な会計上の論点を紹介するとともに、パーシャルスピンオフ取引に関する日本会計基準の適用指針の改正内容について解説します。なお、企業が採用する会計基準が国際財務報告基準(IFRS)や米国会計基準である場合、それぞれの規定に基づいた会計処理・表示および開示が必要になることをご了承ください。本文中の意見に関する部分については筆者の私見であり、PwC Japan有限責任監査法人および所属部門の公式な見解ではないことを申し添えます。

1 事業分離・売却の類型と想定される会計論点

(1)事業分離・売却の類型

事業分離・売却にはさまざまな取引形態が見られますが、取引の対象や種類の観点から、大きく分けて以下のいずれかの類型に当てはまる場合が多いと考えられます。

まず、分離・売却取引の対象となる事業の形態に基づく分類は次のとおりです。

  • 事業の切り出し(カーブアウト):親会社またはグループ会社の事業(またはその一部)を切り出して分離・売却します。切り出した事業に独立の法人格を与える場合もあります。
  • 子会社株式の譲渡・処分:独立した法人格である子会社の株式を譲渡・処分する形式の取引です。
  • その他:上の2つ以外に、事業の切り出し(カーブアウト)と子会社株式の譲渡・処分を組み合わせる場合もあります。

次に、取引の種類に基づく分類は次のとおりです。

  • スピンオフ:親会社の既存株主に対してその持分に比例して子会社株式を交付する取引を指します。これにより、現金対価の授受または拠出なしに、従来の子会社は親会社から独立した企業となります。一般的に税務上有利となることが多く、日本でも平成29年度税制改正で所定の要件を満たして子会社株式の全てを分配するスピンオフは税制適格組織再編として譲渡損益や課税を繰り延べるスピンオフ税制が導入されました。
  • パーシャルスピンオフ:スピンオフの一形態で、特に子会社株式の全てではなく、一部を親会社が手元で継続保有し、それ以外の株式を親会社の既存株主に比例的に交付する取引を指します。日本では、令和5年度税制改正で所定の要件を満たすパーシャルスピンオフにも税務上の例外措置を設けるパーシャルスピンオフ税制が導入されています。
  • 新規株式公開(IPO: Initial Public Offering):親会社が子会社の株式を証券取引所に新規上場させて募集・売出しを行う取引で、多数の外部投資家から迅速に資金を調達することが可能です。
  • 事業売却・譲渡:最も一般的な取引形態であり、買い手に事業を売却・譲渡することで、現金の対価を直ちに受け取ることができ、他の取引よりも法規制上の要求事項が少ないと言えます。

さらに実務上では、上記のもの以外に多種多様な取引の法形式が見られます。例えば、スピンオフだけをとっても、①分割型分割(新設分割)、②完全子会社の株式分配、③分社型分割(吸収分割)と株式分配の組合せのほか、分社型分割(新設分割)と株式分配の組合せなど、さまざまなパターンが考えられます(図表1)

このように、財務・会計上の検討を行う上では取引の対象や種類だけでなく、法形式や目的・契約条件を含めてストラクチャーを正確に理解することが重要です。

図表1:スピンオフの類型

図表1 スピンオフの類型

出所:PwC作成

(2)一体取引か複数の取引か

上述の通り、事業分離・売却にあたっては多様な取引パターンが考えられます。通常、複数の取引が1事業年度以内に完了する場合など、複数の取引が1つの事業分離を構成していると考えられる場合は、それらを一体として取り扱って会計処理を検討することになります。複数の取引が1つの事業分離を構成しているかどうかは状況によって異なるため、当初取引時における当事者間の意図や取引の目的などを総合的に勘案して、実体に応じて判断することになります(企業会計基準第7号「事業分離等に関する会計基準」第62項)。

複数の取引となった場合のそれぞれの取引の会計処理については、取引の内容や法形式をふまえて、「企業結合に関する会計基準」や「事業分離等に関する会計基準」、「企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針」などを参考にして検討することになります。スピンオフやパーシャルスピンオフについては2で解説します。

(3)事業分離

会社を構成する事業を切り出して別の会社に移転する場合、事業分離の会計処理を検討します。

① 投資の継続・清算

図表2の通り、事業分離の会計処理は、原則として「投資の継続」か「投資の清算」の2つに分けられます。

ただし、事業分離後にも移転した事業に対して継続的に関与があり、それが重要であるために移転した事業に対して従来と同様のリスクやリターンがある場合には、投資が清算されたと見なされずに移転損益は認識されないため、注意が必要です。

受取対価が現金等の財産か相手先企業の株式かその両方か、および相手先企業が子会社か関連会社かそれ以外か等によって、個別財務諸表と連結財務諸表それぞれにおける会計処理が細かく規定されています。このため、事業分離等に関する会計基準を参考にして詳細な会計処理を検討することになります。

図表2:投資の継続・清算

  受取対価の種類 受取対価の評価 移転損益の処理
投資の継続 子会社株式や関連会社株式 移転した事業の株主資本相当額(簿価)※1 移転損益は認識しない
投資の清算 子会社・関連会社以外の株式、現金、その他の資産 受け取った財産の時価 受取対価と移転した事業の株主資本相当額との差額を、移転損益として認識する※2

※1 移転した事業に係る、資産の簿価 - 負債の簿価 - 評価・換算差額 - 新株予約権
※2 相手先企業が子会社や関連会社である場合、連結財務諸表上は未実現損益として消去されます。
出所:PwC作成

② 事業分離に要した支出額

発生時にその事業年度の費用として処理します(「事業分離等に関する会計基準」第11項)。

③ 移転した事業に係る株主資本相当額

事業分離の前日において、会計基準に準拠して適正に計算された帳簿価額のうち、移転した事業に係る金額を合理的に区分して算定します(「事業分離等に関する会計基準」第10項)。このためには、移転する事業に係る資産・負債および収益・費用を区分して、カーブアウト財務諸表の作成が必要になります。また、移転した事業に関連する評価・換算差額等(その他有価証券評価差額金・繰延ヘッジ損益・土地再評価差額金等)がある場合には、この適正な帳簿価額に含まれます。

カーブアウト財務諸表作成に関する会計上のガイダンスは限定的であり、実務上はさまざまな課題があります。詳細は、PwC’s View 第21号『ノンコア事業売却における「カーブアウト財務諸表」の作成』をご覧ください。

④ 分離する事業に含まれる資産・負債の会計処理

上記①において投資が継続しているとみる場合には、以下のように事業分離が行われないものと仮定して、分離する事業に含まれる資産・負債の会計処理を検討します(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針第90項)。

  • 固定資産の減損:将来キャッシュ・フローを見積もる場合には、事業分離が行われないと仮定した場合の経済的残存使用年数を用います。
  • 退職給付に係る負債:退職給付制度の終了の例外として、事業分離が行われないと仮定した場合の適正な帳簿価額を用います。
  • 繰延税金資産の回収可能性:収益力に基づいて判断する場合、事業分離が行われないと仮定した場合の将来年度の一時差異等加減算前課税所得の見積額を用います。

(4)連結除外

支配している子会社の株式の全部または一部の株式を売却した場合、売却後にその会社が関連会社に該当するか否かにより、会計処理が異なります。

なお、仮に子会社株式の一部を売却しても、支配を喪失せずに引き続き連結子会社に該当する場合には、売却による親会社の持分の減少額を非支配株主持分に振り替え、受取対価との差額を資本剰余金として計上し、売却に係る支払手数料等は売却時の費用として処理します(連結財務諸表における資本連結手続に関する実務指針第42項~第44項)。

① 支配の喪失

子会社株式の全部または一部を売却して支配を喪失する場合、その会社の資産・負債はもはや連結されないため、残存する投資があれば貸借対照表に計上するとともに、受取対価との差額を子会社株式の売却による損益として計上します(会計制度委員会報告第7号「連結財務諸表における資本連結手続に関する実務指針」第45項~第46項、図表3)。

図表3:子会社株式を売却し、支配を喪失した場合の処理

売却後の投資先 残存する投資の評価 売却後の投資の修正額の処理
関連会社に該当する場合 持分法による投資評価額※1


(持分法による投資評価額に

含まれる)

関連会社にも該当しない場合 親会社個別貸借対照表上の帳簿価額※2 取り崩して、連結株主資本等変動計算書の利益剰余金とその他の包括利益累計額の区分に「連結除外に伴う増減」等で計上

※1 持分法を適用する場合でも、資産・負債の評価やのれんの償却は連結の場合と同様に行います。
※2 付随費用が含まれます。
出所:PwC作成

具体的には、連結財務諸表上で支配獲得から支配喪失までに計上した取得後利益剰余金(時価評価による資産・負債の簿価修正額に係る償却および実現損益累計額を含む)とのれん償却累計額の合計額のうち、売却した持分に相当する分が、親会社の個別財務諸表で計上された子会社株式売却損益の修正として処理されることになります。その他の包括利益累計額については、売却した持分に相当する分が連結損益計算書上の実現損益となり、組替調整額の対象となります。

② 連結対象となる子会社財務諸表の期間

連結財務諸表に関する会計基準では、支配獲得日および子会社株式の取得日や売却日等が子会社の決算日以外の日である場合には、その前後いずれかの決算日に行われたとみなして連結することが認められています。ここで言う「決算日」には、四半期決算日または中間決算日が含まれるとされています(連結財務諸表における資本連結手続に関する実務指針第7項)。

連結対象となる子会社の貸借対照表は、支配を獲得したとみなした時点以後連結し、支配を喪失したとみなした時点以後は連結しません。同様に、子会社の損益計算書は、支配を獲得したとみなした時点を開始日とする期間を連結し、支配を喪失したとみなした時点から後の期間は連結しません。子会社の財務諸表にはキャッシュ・フロー計算書および株主資本等変動計算書が含まれますが、これらは子会社の損益計算書が連結される期間と同一の期間について作成し、連結することとなります。

2 パーシャルスピンオフの会計処理に関する日本会計基準の改正

2024年3月22日、企業会計基準委員会(ASBJ)は、改正企業会計基準適用指針第2号「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準の適用指針」(以下、改正適用指針)を公表しました。令和5年度税制改正において創設された、いわゆるパーシャルスピンオフ税制を受け、改正適用指針では、事業を分離・独立させる手段であるスピンオフのうち、スピンオフを実施した会社に事業の持分の一部を残す場合(以下、パーシャルスピンオフ)の会計処理が取り扱われています。

改正適用指針により、パーシャルスピンオフの会計処理において、パーシャルスピンオフ実施会社は現物配当の対象となる子会社株式を時価ではなく帳簿価額で減額処理することとなります。

(1)改正適用指針公表に至る経緯

令和5年度税制改正では、完全子会社株式の現物分配の手法によるスピンオフについて、子会社株式の一部(20%未満)を残す株式分配であって、一定の要件を満たす場合には、現物分配の実施会社における譲渡損益や現物分配を受ける株主における配当を課税対象外とする特例措置(以下、パーシャルスピンオフ税制)が創設されました。なお、令和5年度税制改正では、パーシャルスピンオフ税制に適用期限が定められており、2024年3月31日までに事業再編計画の認定を受ける必要がありましたが、令和6年度税制改正大綱では適用期限を4年延長する改正が挙げられています。

スピンオフの活用は日本の経済環境の活性化の一助となり得るため、税務や会社法等の整備が進む中、全ての完全子会社株式を配当するスピンオフとパーシャルスピンオフとで会計処理が異なっていたことから、企業がスピンオフを検討するうえで障害となる可能性がありました。これに対応するため、2023年3月にスピンオフの会計処理を検討することが企業会計基準諮問会議により提言され、ASBJは、2023年10月に現物配当の会計処理を一部改正する公開草案を公表しました。ASBJは広くコメント募集を行ったのち、公開草案に寄せられたコメントを検討し、2024年に改正適用指針を公表しました。

改正適用指針は、公表日以後適用されます。なお、適用日の前に行われた改正適用指針の対象となる取引については、会計処理の見直しや遡及的な処理を行わないものとされています。

また、改正適用指針に関連する税効果会計の取り扱いについて、改正企業会計基準適用指針第28号「税効果会計に係る会計基準の適用指針」がASBJより同日付であわせて公表されています※1。さらに、改正適用指針に関する連結上の取り扱いについては、日本公認会計士協会より会計制度委員会報告第7号「連結財務諸表における資本連結手続に関する実務指針」の改正(以下、改正資本連結実務指針)が同日付で公表されています※2(図表4)

図表4:改正適用指針の対象となるパーシャルスピンオフ取引のイメージ

図表4 改正適用指針の対象となるパーシャルスピンオフ取引のイメージ

出所:第501回企業会計基準委員会(2023年5月16日)、審議資料「審議(4)-2スピンオフ実施会社の個別財務諸表上の会計処理」P.2の図を一部修正

(2)パーシャルスピンオフ実施会社の個別財務諸表上の会計処理

改正前の「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準の適用指針」第10項では、現物配当を行う場合、原則として、配当の効力発生日における配当財産の時価と適正な帳簿価額との差額を配当の効力発生日の属する期の損益として計上し、当該配当財産の時価をもって、その他資本剰余金またはその他利益剰余金(繰越利益剰余金)を減額することが定められていました。

ただし、保有する子会社株式の全てを株式数に応じて比例的に配当(按分型の配当)する場合(スピンオフ)等については、配当の効力発生日における配当財産の適正な帳簿価額をもって、その他資本剰余金またはその他利益剰余金(繰越利益剰余金)を減額する例外処理が定められていました。

改正適用指針では、従来の例外処理の対象に加えて、次の要件をみたすパーシャルスピンオフ取引についても、例外処理の対象とすることが定められました。

  • 保有する完全子会社株式の一部を株式数に応じて比例的に配当(按分型の配当)し、かつ、
  • 子会社株式に該当しなくなった場合

なお、改正適用指針では税制適格は要件とされていないため、税制非適格であっても要件をみたす取引は例外処理の対象となります(図表5)

図表5:現物配当の会計処理のまとめ

  対象となる取引 現物配当の会計処理 差額
原則 現物配当(以下の例外処理の対象となる取引を除く) 配当財産の時価でその他資本剰余金またはその他利益剰余金を減額する 配当財産の時価と帳簿価額との差額を配当効力発生日の属する期の損益として処理する
例外※1
  • 分割型の会社分割(按分型)
  • 保有する子会社株式の全てを株式数に応じて比例的に行う(按分型の)配当(スピンオフ)
  • 保有する完全子会社株式の一部を株式数に応じて比例的に(按分型に)配当し子会社株式に該当しなくなった場合(パーシャルスピンオフ)
  • 企業集団内の企業への配当
  • 市場価額がないこと等により公正な評価額の合理的な算定が困難と認められる場合
配当効力発生日における配当財産の帳簿価額で、その他資本剰余金またはその他利益剰余金を減額する  

※1 例外処理は選択適用できる定めではなく、対象となる取引には必ず適用する必要があります。
出所:改正企業会計基準適用指針第2号「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準の適用指針」第10項

この改正の対象となるパーシャルスピンオフ取引に例外的な処理が適用される理由については、従前の例外的な処理の対象を前提として、主に次の2点を合わせた検討が行われたことによります。

① 完全子会社の支配を喪失するスピンオフは、子会社の事業を分離・独立させる目的で行われたものと考えられる。

② ①の目的に基づく既存株主への按分型の配当によるスピンオフでは、既存株主以外の第三者が取引に含まれないことから、総体としての株主の観点から取引全体を俯瞰すると、総体としての株主にとって当該完全子会社に対する投資が継続していると考えられる。

このように例外的な処理が適用される結果、スピンオフ実施会社の個別財務諸表上、改正の対象となるパーシャルスピンオフ取引にかかる損益は計上されません。

(3)パーシャルスピンオフ実施会社の連結財務諸表上の会計処理

改正資本連結実務指針により、パーシャルスピンオフ実施会社の連結損益計算書上では、改正適用指針の対象となるパーシャルスピンオフ取引に対する損益を計上しないことが定められました。具体的には、配当前の投資の修正額と当該修正額のうち配当後の残存株式に対応する部分との差額(後述の図表7参照)について、連結株主資本等変動計算書上で「子会社株式の配当に伴う持分変動額」等の適切な表示科目により利益剰余金およびその他の包括利益累計額の区分に計上することになります。

図表6の数値イメージを前提に、この完全子会社株式のうち90%を親会社の株主に株式数に応じて比例的に配当するパーシャルスピンオフ取引(10%は残存株式として残る)の数値例を示したものが図表7になります。ここで配当の原資は親会社のその他利益剰余金(繰越利益剰余金)であることを前提にしています。

図表6:子会社株式の帳簿価額と連結上の子会社投資の帳簿価額との差額にかかる数値イメージ

図表6 子会社株式の帳簿価額と連結上の子会社投資の帳簿価額との差額にかかる数値イメージ

※1 取得関連費用:個別財務諸表上で子会社株式を取得する際の付随費用(購入手数料等の株式購入のために直接要した費用)として子会社株式の取得原価に含まれる一方、連結財務諸表上では取得関連費用に該当するものとして発生時に費用処理された金額を指します。子会社を取得した時点で、取得関連費用の分だけ個別上の子会社株式の帳簿価額と連結上の子会社への投資の帳簿価額との間に差額が生じるため、配当前の投資の修正額を構成するものとして、取得後利益剰余金の減額に対する修正として表示されることになります。
※2 取得後利益剰余金:支配獲得日後に生じた親会社の持分に帰属する子会社の損益であり、親会社株主に帰属する当期純利益を通じて連結財務諸表上で計上された金額を指します。のれんの償却累計額、その他未実現損益など連結会社間の調整を含みます。なお、資本連結の手続において、支配獲得日までに生じた子会社の利益剰余金は親会社の投資(子会社株式)と相殺消去されており、ここには含まれません。
※3 取得後のその他の包括利益累計額:子会社に係るその他の包括利益累計額(その他有価証券評価差額金など)のうち支配獲得日後に生じた金額であり、連結財務諸表上でその他有価証券評価差額金等で計上された金額を指します。なお、資本連結の手続において、支配獲得日までに生じた子会社のその他の包括利益累計額は親会社の投資(子会社株式)と相殺消去されており、ここには含まれません。
出所:PwC作成

図表7:完全子会社株式のうち90%を比例的に配当するパーシャルスピンオフ取引の数値例

図表7 完全子会社株式のうち90%を比例的に配当するパーシャルスピンオフ取引の数値例

※1 親会社の個別株主資本等変動計算書において、その他利益剰余金(繰越利益剰余金)の減額として表示されます。
※2 上記※1を減額する修正として、連結株主資本等変動計算書において利益剰余金の減額として表示されます。
※3 連結株主資本等変動計算書において利益剰余金の減額として表示されます。
※4 連結株主資本等変動計算書においてその他の包括利益累計額の減額として表示されます。
出所:PwC作成

なお、子会社株式の配当に伴って変動するその他の包括利益累計額は、連結財務諸表上の当期純利益を構成しないため組替調整額の対象とはならず、連結株主資本等変動計算書における変動額として表示されます。

パーシャルスピンオフ取引により、完全子会社が子会社ではなくなるため、現物配当の会計処理に加えて連結除外の会計処理も行うことになります。

  • 完全子会社が関連会社になった場合、子会社株式の一部売却と同様に、連結貸借対照表上における当該関連会社株式の帳簿価額は、投資の修正額のうち残存株式10%相当分(図表7では20+5−2=23)を加減することで、持分法による投資評価額となります。
  • 子会社にも関連会社にも該当しなくなった場合、子会社株式の一部売却の場合と同様に、連結貸借対照表上における残存株式を、個別貸借対照表上の帳簿価額をもって評価することになります。このため、投資の修正額のうち残存株式10%相当分(図表7では230×0.1=23)は取り崩し、その取崩額を連結株主資本等変動計算書上の利益剰余金とその他の包括利益累計額の区分に「連結除外に伴う増減」等その内容を示す適当な名称をもって計上されます。

(4)税務上非適格となるパーシャルスピンオフを実施した場合の税効果

上述の通り、改正適用指針では完全子会社株式の一部配当が税務上適格であることが例外処理の適用要件となっていないため、パーシャルスピンオフ税制の対象外(非適格)となるパーシャルスピンオフ取引についても改正適用指針の対象となります。実務上はそのような取引が頻繁に生じることはないと思われるものの、実際に生じた場合の税効果会計の適用が明らかではありませんでした。なぜなら、改正適用指針の対象となるパーシャルスピンオフ取引については、個別財務諸表および連結財務諸表において現物配当に係る損益を計上しないことから、当該取引に関連する連結決算手続の結果として生じる一時差異については、改正前の「税効果会計に係る会計基準の適用指針」における連結財務諸表固有の将来減算一時差異または連結財務諸表固有の将来加算一時差異の定義に直接該当しなかったためです。

特に、改正の対象となるパーシャルスピンオフ取引が税務上非適格である場合には税額に影響を与えることから、改正適用指針の対象となるパーシャルスピンオフ取引に関連する連結決算手続の結果として生じる一時差異は、連結財務諸表固有の将来減算一時差異または連結財務諸表固有の将来加算一時差異に準ずるものとして定義に追加し、連結財務諸表に関する税効果会計が適用されるように改正されました。

3 おわりに

事業の分離・売却取引を成長戦略の一つとして位置付けている企業にとって、上記のように関連する日本会計基準上の会計処理についてもさまざまな論点があります。また、令和5年度税制改正を機に、今後は日本企業でもパーシャルスピンオフ取引の事例が増える可能性があります。ぜひ本稿を通じて改正実務対応報告への理解を深めていただければ幸いです。

本稿で紹介した内容はほんの一部であり、事業の分離・売却において実務上ではほかにもいろいろな会計・財務報告上の論点に直面することが考えられます。なるべく十分な準備期間を確保して慎重に検討を進めることが望ましいと言えます。



執筆者

PwC Japan有限責任監査法人
財務報告アドバイザリー部
パートナー 稲田 丈朗