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DXが加速するSociety5.0への挑戦── デジタルガバナンス・コードの先にあるもの

はじめに

世界的な「ESG」(環境・社会・ガバナンス)投資のメインストリーム化とあいまって、シェアホルダー資本主義からステークホルダー資本主義への変化がすさまじい勢いで進んでいます。同時に、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック対応の影響もあり、デジタル化の波も世界中で大きくなっています。デジタル化も含めた変化を適切に受け止め、しなやかに対応していくためのキーワードは、「ESG」だけでは足りず、「ESG×D(デジタル)」と表現すべきかもしれません。

Society5.0、すなわち、「サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムが発展し、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会」は、「議論をする段階」から「生活で体感する段階」へシフトしています。ステークホルダー間の協創を通じて「進化していく段階」は、日々、新しいイノベーションを生み出しています。これらのイノベーションが、昨日とは違う今日、そして、今日とは違う明日に彩を与えています。同時に、新たな社会的課題も、日々、生まれ、それを解決する新しい手法が登場しています。Society5.0の主人公として、政府や企業にとどまらず、コミュニティ・個人さらには、AI(人工知能)などが重要な役割を果たしつつあります。

AIの普及・進展を背景として、人間とAIとのダイバーシティ&インクルージョン(D&I)はどのように実現できるのでしょうか。デジタルトランスフォーメーション(DX)によるSociety5.0への挑戦と進化を超えた先に、我々はどのような未来の社会を描くことができるのでしょうか。こうした問題意識を念頭に、本稿では、本特集の他の論考の基盤的な取り組みともいえる、わが国におけるデジタルガバナンス・コードとDX認定制度等の主要な仕組みの概要を紹介していきます。

なお、文中における意見は、すべて筆者の私見であることをあらかじめ申し添えます。

1 デジタルガバナンス・コードの概要

対象

「デジタルガバナンス・コード」は、経済産業省の「Society5.0時代のデジタル・ガバナンス検討会」において検討され、2020年11月に公開されました※1。このコードは、上場・非上場や、大企業・中小企業といった企業規模、法人・個人事業主を問わず広く一般の事業者を対象としています。随所で「ステークホルダー」という言葉が使われており、この言葉は、顧客、投資家、金融機関、エンジニア等の人材、取引先など、システム・データ連携により価値協創するパートナー、地域社会等を含むものと解されます。このため、一企業だけではなく、社会全体の変革をドライブするものであることが示されており、いわゆるコーポレート・ガバナンスコードが主として上場企業を対象としていることに比すれば、より広く、社会全体を対象にしたコードとなっています。別の言い方をすれば、個々の企業・組織のDXはもとよりESGを含めた、社会全体でのサステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)を強く意識しているとも考えられます。

全体構造

デジタルガバナンス・コードの根拠は、2020年5月15日に施行された、改正情報処理促進法に基づく、経営における戦略的なシステムの利用の在り方を提示する指針(経済産業大臣告示)および同指針を踏まえた企業認定の基準(経済産業省令)です(図表1)。

デジタルガバナンス・コードは、「(1)基本的事項」「(2)望ましい方向性」「(3)取組例」から構成されています。このうち、「(1)基本的事項」は、各項目を説明する「①柱となる考え方」と、それらの内容に沿った企業取組を評価するための「②認定基準」に分かれています。「柱となる考え方」(理屈)だけでなく、その取り組みを評価する認定基準(実践のヒント)が整理されており、さらに、「望ましい方向性」や「実際の取組例」などがセットで示されているため、実務上の対応や行動変容を探るきっかけを得ることができます。

図表1 デジタルガバナンス・コードの全体構造

柱となる考え方

デジタルガバナンス・コードの基本的事項における「①柱となる考え方」は、以下の4つの視点から構成されています。

  1. ビジョン・ビジネスモデル
  2. 戦略
  3. 成果と重要な成果指標
  4. ガバナンスシステム

それぞれの「柱となる考え方」とはどのようなものか、経済産業省の「デジタルガバナンス・コード」から引用します。


1. ビジョン・ビジネスモデル

  • 企業は、ビジネスとITシステムを一体的に捉え、デジタル技術による社会及び競争環境の変化が自社にもたらす影響(リスク・機会)を踏まえた、経営ビジョンの策定および経営ビジョンの実現に向けたビジネスモデルの設計を行い、価値創造ストーリーとして、ステークホルダーに示していくべきである。

2. 戦略

  • 企業は、社会及び競争環境の変化を踏まえて目指すビジネスモデルを実現するための方策としてデジタル技術を活用する戦略を策定し、ステークホルダーに示していくべきである。
2−1. 組織づくり・人材・企業文化に関する方策
  • 企業は、デジタル技術を活用する戦略の推進に必要な体制を構築するとともに、組織設計・運営の在り方について、ステークホルダーに示していくべきである。その際、人材の確保・育成や外部組織との関係構築・協業も、重要な要素として捉えるべきである。
2−2. ITシステム・デジタル技術活用環境の整備に関する方策
  • 企業は、デジタル技術を活用する戦略の推進に必要なITシステム・デジタル技術活用環境の整備に向けたプロジェクトやマネジメント方策、利用する技術・標準・アーキテクチャ、運用、投資計画等を明確化し、ステークホルダーに示していくべきである。

3. 成果と重要な成果指標

  • 企業は、デジタル技術を活用する戦略の達成度を測る指標を定め、ステークホルダーに対し、指標に基づく成果についての自己評価を示すべきである。

4. ガバナンスシステム

  • 経営者は、デジタル技術を活用する戦略の実施に当たり、ステークホルダーへの情報発信を含め、リーダーシップを発揮するべきである。
  • 経営者は、事業部門(担当)やITシステム部門(担当)等とも協力し、デジタル技術に係る動向や自社のITシステムの現状を踏まえた課題を把握・分析し、戦略の見直しに反映していくべきである。また、経営者は、事業実施の前提となるサイバーセキュリティリスク等に対しても適切に対応を行うべきである。
[取締役会設置会社の場合]
  • 取締役会は、経営ビジョンやデジタル技術を活用する戦略の方向性等を示すにあたり、その役割・責務を適切に果たし、また、これらの実現に向けた経営者の取組を適切に監督するべきである。

2 DXを加速する仕組みと仕掛け

DX認定制度

DX認定制度(情報処理の促進に関する法律第三十一条に基づく認定制度)は、「デジタルガバナンス・コード」の基本的事項に対応する企業を国が認定する制度です。独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が、「DX認定制度事務局」の役割を担い、各種問い合わせ対応や認定審査事務を実施しています。

この制度の対象は、すべての事業者(法人と個人事業者。法人は会社だけではなく、公益法人等も含む)であり、通年で申請することができます。DX認定制度による認定を受けるメリットとしては、DX銘柄への選定の基礎となることや、DX投資促進税制の活用、中小企業者を対象とした金融による支援措置の活用、さらにはロゴマークの使用によるコミュニケーション活性化等があります※2。2021年8月1日時点のDX認定事業者数は161事業者であり、この中には、PwC あらた有限責任監査法人も含まれています※3。また、PwC Japanグループでは、事業者の方々のDX認定を支援しています※4

DX銘柄

東京証券取引所と経済産業省は、共同で「デジタルトランスフォーメーション銘柄(DX銘柄)」を選定しています。2021年6月に、「DX銘柄2021」選定企業28社と「DX注目企業」20社が公表されました。これらの企業は、単に優れた情報システムの導入、データの利活用をするだけでなく、デジタル技術を前提としたビジネスモデルそのものの変革および経営の変革に果敢にチャレンジし続けている企業です。また、COVID-19を踏まえた対応について、デジタル技術を利活用し優れた取組を実施した企業として「デジタル×コロナ対策企業」も11社選定されています※5

デジタルガバナンス・コードとの関連としては、「(1)基本的事項」が、DX認定制度と連動しているとともに、「(2)望ましい方向性」と「(3)取組例」がDX銘柄と連動する仕組みとなっています。こうした取り組みは、各企業の具体的な活動を公表・共有することを通じて、社会全体でデジタルガバナンス・コードの実践を加速していく仕掛けの1つとなっています。

DX投資促進税制

2021年6月16日に公布された「産業競争力強化法等の一部を改正する等の法律」により、DX投資促進税制が新設されました。部門・拠点ごとではない全社レベルのDXに向けた計画を主務大臣が認定したうえで、DXの実現に必要なクラウド技術を活用したデジタル関連投資に対し、税額控除(5%または3%)もしくは特別償却30%が可能です(2年間の時限措置)※6。

特筆すべきは、産業競争力強化法の骨格が、冒頭に述べた「ESG×D」に焦点を当てていることです。具体的には、成長戦略としての2050年カーボンニュートラルの実現、デジタル化・DXの推進、そして「新たな日常」に向けた事業再構築やサプライチェーンを含めたレジリエンスの強化などを念頭においた制度設計となっています。こうした立法趣旨を踏まえ、PwC Japanグループでは、DX投資促進税制をはじめとする企業のDXと関連税制対応へのサポートを開始しています※7。

3 デジタルガバナンス・コードの先にあるもの

上述のとおり、デジタルガバナンス・コードには、ビジョン・ビジネスモデルからガバナンスシステムにいたる4つの項目のすべてにおいて、その本文中に「ステークホルダー」という単語が含まれています。DXについての組織内外における開示と対話を前提としていることが特徴的であり、ステークホルダーとの協創による持続的な価値創造を不可欠なエッセンスとして位置づけているものと解されます。

Society5.0における各主体の役割の変化

こうした背景には、Society5.0においては国家観の変化に加えて、その参加者(政府、企業、コミュニティ・個人)の役割が、劇的に変化すると考えられることがあります(図表2)。

図表2 Society5.0における各主体の役割の変化
  • 政府:ルールの設計者からインセンティブの設計者へ
    国家・政府は、自身がすべてのルールを設計するだけではなく、マルチステークホルダーによるルール設計のファシリテーターとなることも期待されます。また、モニタリングとエンフォースメントにあたり、企業やコミュニティ・個人が積極的にガバナンスに参加するようなインセンティブを設計・提供することが大切になります。
  • 企業:被規制者からルールの共同設計・施行者へ
    企業は、定められたルールを遵守する受動的な存在にとどまるのではなく、自主ルールやアーキテクチャの設計を通じて、積極的に新しいルールを提唱していく主体にもなります。また、自らが設計したルールやアーキテクチャを対外的に説明することで、新たな技術やビジネスモデルに対する信頼(トラスト)を形成する、中心的な担い手にもなります。
  • コミュニティ・個人:消極的受益者から積極的評価者へ
    コミュニティ・個人は、情報の乏しい脆弱な存在ではなく、社会に向けて積極的に自らの価値観や評価を発信する主体となることが期待されます。こうした影響力は、情報開示ルールや競争ルールの適切な整備・執行によって強化されるとともに、政府や企業、他のコミュニティ等との対話を通じて、社会全体でイノベーションのバランスの最適化を後押しする存在になります。

Society5.0における人間とAIのダイバーシティ

このような各主体の役割の変化に対応していくための道具として、近年、プライバシー・ガバナンス、AIガバナンス等、さまざまな「〇〇ガバナンス」の重要性が議論・再確認され、実務的なガイダンスが提起・共有されています。Society5.0にしなやかに対応する上では、さまざまなガバナンスの道具をそれぞれの主体が使いこなすことが期待されています。

企業の立場についてみると、例えば、経営者は、人間とAIのダイバーシティを目指しつつ、さまざまなガバナンスを総合的に組み合わせること、すなわち、ガバナンス・オブ・ガバナンスをうまくバランスさせることが期待されています(図表3)。本稿でご紹介したデジタルガバナンス・コードを使いこなすことは、こうした未来デザインにつながっていく、スタートラインになるものと考えられます。

図表3 Society5.0における人間とAIのダイバーシティのイメージ図(経営者の視点によるガバナンス・オブ・ガバナンスの例示)

※1 経済産業省「デジタルガバナンス・コード」、2020年11月9日
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/dgs5/pdf/20201109_01.pdf

※2 経済産業省「DX認定制度の概要及び申請のポイントについて」2021年8月6日
https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/investment/dx-nintei/0806_dx-certifi
cation_point.pdf

※3 PwC Japanグループ「PwCあらた、経済産業省が定めるDX認定制度で認定され、 企業のDX認定対応支援を本格化」2021年8月12日
https://www.pwc.com/jp/ja/press-room/dx-certification210812.html

※4 PwC Japanグループ「「DX認定」対応支援」
https://www.pwc.com/jp/ja/services/assurance/process-system-organization-datamanagement/risk-governance-advisory/dx-governance/dx-recognition-support.html

※5 経済産業省「「DX銘柄2021」「DX注目企業2021」を選定しました!」2021年6月7日
https://www.meti.go.jp/press/2021/06/20210607003/20210607003.html

※6 財務省「令和3年度税制改正 3法人課税」2021年3月https://www.mof.go.jp/tax_policy/publication/brochure/zeisei21/03.htm#a01

※7 PwC Japanグループ「PwC Japan、DX投資促進税制をはじめとする 企業のDXと関
連税制対応への本格的サポートを開始」2021年5月10日
https://www.pwc.com/jp/ja/press-room/dx-investment-promotion-tax-system-sup
port210510.html


執筆者

久禮 由敬

PwCあらた有限責任監査法人
ガバナンス・内部監査サービス部、システム・プロセス・アシュアランス
部、ステークホルダー・エンゲージメント・オフィス、兼 PwCあらた基礎
研究所 担当
パートナー 久禮 由敬