前編 日本の少子化を止めるために必要な9つの提言── 結婚したいと考える人を増やすために

はじめに

日本経済の持続的発展や社会の安定を図るうえで「少子化対策」は重要な課題の1つです。これまで日本では継続的に少子化の傾向が続いており、年代別の人口構成もいびつになってきています。この傾向が今後も改善されない場合、日本経済の活力や社会保障制度の維持が困難になることが想定されます。この少子化対策は日本経済にとって重要課題であると考え、PwC Japanグループは現代日本人の結婚観や家族観の変化を捉えるため「結婚観・家族観に関するアンケート」を実施しました(インターネット調査、2020年4月10日~11日)。本稿では、その調査結果の概要について紹介し、9項目の政策を提言します(後編は次号掲載)。

本調査の主要な結果は以下からご覧いただけます※1

1 アンケート調査結果の集計・分析について

今回のアンケート調査では、「実際の子どもの人数」のほか、回答者自身の今の暮らしぶりを踏まえた「希望の子どもの人数」と、経済状況や仕事上の制約などが何もないと想定した場合の「理想の子どもの人数」を把握するとともに、これまで実態を把握しきれていなかった結婚観や家族観などの「価値観」の変化について一歩踏み込んで調査を行っています。これは、結婚をしない・子どもを持たないことの背景や、結婚・出産の後押しとなり得る要素を明らかにすることが必要と考えているためです。

アンケート調査結果をもとに、どうしたら国民一人一人が今より多くの子どもを持ちたいと考えるのかを検討するため、以下の4つの観点から探索的に数多くの集計を実施しました。

  • 分析1:「結婚」に着目した分析
    わが国では婚外子の割合が低いという実態を踏まえると、今より多くの子どもを持ちたいと考える人を増やすには、結婚したいと考える人を増やすことが必要となります。そのため、実際の結婚状況および結婚に対する希望に対して影響を与えている要因・要素は何かという観点からの集計・分析を実施しています。
  • 分析2:「家族形成ステージ」に着目した分析
    結婚状況だけでなく、子どもの人数も加味し、未婚/既婚・子なし/既婚・子ども1人/既婚・子ども2人/既婚・子ども3人以上という「家族形成ステージ」を設定し、その違いをもたらす要因・要素は何かという観点から集計・分析を行っています。
  • 分析3:「理想の子どもの人数」に着目した分析
    より多くの子どもを持ちたいと考える人はどのような要因・要素を持っているのかを知るため、「理想の子どもの人数」に着目した集計・分析を行っています。
  • 分析4:「理想の子どもの人数」と「実際の子どもの人数」 のギャップに着目した分析
    分析3を補足する観点から、「理想の子どもの人数」と「実際の子どもの人数」のギャップをもたらす要因・要素は何かに着目した集計・分析を行っています。

これらの分析の中から今後の政策への示唆となり得る有意な結果が得られた分析結果を抽出し、それらのファクトに基づいて、少子化対策として今後必要と思われる9つの提言を紹介します(図表1)。

図表1 日本の少子化を止めるために必要な9つの提言

2 結婚したいと考える人を増やすために

男女共に、結婚したいと思う年齢が若いほうが、「理想の子どもの人数」が多い傾向が見られます(図表2)。そのため、まずは結婚に対する意欲に関する分析結果から、早期に結婚したいと考える人を増やすための3つの方策を提言します。

図表2 結婚目標年齢別の理想子ども数

提言1 若い年齢での結婚を奨励・支援する施策の充実

男女共に「結婚に喜びや希望を感じる」割合は20代で最も高く、30代になると大きく低下し、40代以降ではさらに低下する傾向が見られます。特に、女性は男性に比べ40代以降でこの割合が低下する傾向が顕著に表れます(図表3)。

図表3 結婚観について── 結婚には喜びや希望を感じる

こうした分析結果を踏まえると、「結婚に喜びや希望を感じる」人多い20代など若い時期の結婚を奨励することが重要と考えられます。そのためには、早く結婚することをためらう要素を取り除くこと、さらには早く結婚することが当人たちにとっても一定のメリットとなるようにすることが重要です。

特に、未婚者が結婚していない理由について、全年齢計と比べて20代で特徴的に回答割合が高い(全年齢計との差が大きい)上位には、「結婚資金が足りない」「結婚後の生活資金が足りないと思う」と、経済的な理由が挙げられています(図表4)。そのため、早く結婚することが経済的にもメリットをもたらすようなインセンティブ型の仕組みを導入することが考えられます。

図表4 現在結婚していない理由

具体的には、結婚に関するイニシャルコスト(結婚式費用、住居を構えるための費用等)を補うための「お祝い金」等を支給する方法、結婚後の世帯の生活費用(ランニングコスト)を継続的に支えていくための若年既婚世帯に対して税制優遇の充実などが考えられます。

前者に関しては、濫用・悪用を招く恐れもあることを考慮した適切な制度設計が重要となります。

後者に関しては、世帯員数が多いほど有利になる「N分N乗方式※2」のような所得税控除の導入は、これまでも人口増を図るための政策アイディアとして提示されてきていますが、導入には至っていません。こうしたアイディアを応用しつつ、特に若い既婚世代が有利となるような観点を加えて、改めて検討してみる意義が高いと考えます。
 

提言2 若い世代の交際機会の創出

結婚したくないと考える人の特徴として、結婚以前に交際経験がある人と比べ、交際経験のない人のほうが多いことが明らかになっています。アンケート調査では、交際経験ありの人のうち、結婚したくないと考える人は、20代・30代で1割未満であるのに対し、交際経験なしの人で結婚したくないと考える人は20代で約2割、30代では約3割となっています(図表5)。

図表5 交際経験・年代別未婚者の結婚意欲

こうした分析結果を踏まえると、結婚意欲を高めるためには、結婚以前の交際経験を持てるような機会の創出が重要と考えられます。

そのためには、恋愛、そして結婚をする個人同士の出会いの機会を増やなければなりません。出会いの機会は、学校・職場、その他趣味などの活動を通じた個人的な出会いと、他者・他機関による紹介・マッチング等による出会いとに区分できます。後者は、お見合いや知人による紹介のような旧来型のマッチング機会が減少する一方で、民間事業者が提供するマッチングサービス(結婚紹介事業、マッチングアプリ、SNS等)や、自治体や業界等による出会いの機会を創出する取り組み等、多様化してきています。

しかし、こうしたマッチングサービスが普及する一方で、個人情報等を提供・登録しても大丈夫な事業者・サイト等なのか、高額を請求されるのではないか、解約できなくならないかなど不安に感じる側面もあります。交際や婚活をサポートするようなマッチング機関等の安全性を保証するような認証機能・評価機能等を創設・導入することによって事業者等を選択しやすい環境づくりを進めることも重要になります。

提言3 安定した雇用の確保

未婚男性の場合、30歳以上の非正規雇用、無職の場合において、結婚意欲が低い傾向が見られる一方で、収入が高くても低くても結婚意欲に統計的に意味のある差は見られないことがわかっており、両者を併せて考えると、未婚男性にお
いて結婚を動機づける因子は経済状況よりも安定した就労状況にあることがうかがわれます(図表6)。

図表6 年代・就労形態別未婚者の結婚意欲(男性)

こうした分析結果を踏まえると、若い世代、特に男性に、安定した雇用を確保・提供するために雇用政策を充実させることは、結婚したいと考える人を増やす観点でも重要な意味を持つと考えられます。ここでのキーワードは「安定性」と考えられます。結婚生活を維持するためには、急に失業する恐れがない、生活レベルが急変しないことがとても重要な意味を持つからです。

これまで、雇用政策では、企業・産業にとって有利なように、非正規雇用の活用が進められてきた側面があります。その結果として「不安定雇用」と呼ばれる形態で働く人の割合が増えていることが、結婚をためらう要素の1つとなっていると考えられます。同一労働同一賃金政策など、非正規雇用の不合理な待遇格差の解消を目指す取り組みが中心となっていたことや、国民の生活を安定させ少子化を解消するという観点からも、雇用の「安定性」をキーワードに、雇用政策のあり方について見直すべきではないかと考えます。

以上、日本の少子化を止めるために必要な9つの提言のうち、結婚したいと考える人を増やすための3つの提言を示しました。後編(次号掲載)では、子どもを(多く)持ちたいと考える人を増やすための6つの方策を提言します。


※1 ジェンダー意識や家族のあり方の多様性を踏まえた設問としていますが、一部については社会的な性役割区別に対する意識を問うためにジェンダーロールに関する固定概念を前提とした設問としています。

※2 稼得者個人ではなく1世帯全体を単位として課税する仕組みの一つで、世帯の合計所得を世帯人数で割って算出した1人当たりの所得額に税率をかけて1人当たりの課税額を算出、さらにその金額に世帯人数をかけて世帯課税額を算出する方式。世帯人数が多いほど1人当たり所得額が小さくなることから、課税額も小さくなるという特徴がある。


執筆者

PwC Japanグループ 少子化政策提言チーム

メールアドレス:jp_pa_shoshikoreika-team@pwc.com

宮城 隆之 PwCコンサルティング合同会社 公共事業部 パートナー 
黒滝 新太郎 PwCコンサルティング合同会社 公共事業部 シニアマネージャー 
東海林 崇 PwCコンサルティング合同会社 公共事業部 シニアマネージャー 
安田 純子 PwCコンサルティング合同会社 公共事業部 シニアマネージャー 
平尾 明子 PwCアドバイザリー合同会社 フォレンジック ディレクター 
有澤 卓 PwCコンサルティング合同会社 TMT事業部 マネージャー 
井口 条蒔 PwCコンサルティング合同会社 製造業・自動車事業部 シニアアソシエイト

※法人名・役職などは掲載当時のものです。