【電力システムとモビリティとの統合】―電気自動車(EV)の普及に向けて―

2024-06-28

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電力システムとモビリティの統合

再生可能エネルギーの主力電源化に向けた課題の1つは、自然任せで変動する発電量を調整する機能(フレキシビリティ)をいかにして適切に確保するかであり、それに向けた新たなビジネスチャンスとして、本来はモビリティとして用いられるEVの蓄電機能を駐車中にフレキシビリティに活用することが期待されています。

ただし、この点で日本と欧米では置かれている状況が少し異なります。欧米では、これまで送配電網への投資をできる限り抑えた電力システムの整備がなされてきたため、近年の急激なEV普及により需要家に近い配電網の混雑が課題となっています。そのため、配電網の混雑緩和や、それに伴う投資の繰り延べによる投資回避に対して、EVの蓄電機能をフレキシビリティとして提供する場合に大きな経済的なインセンティブを得ることができます。一方の日本では、これまで送配電網に十分な投資が行われてきたため、欧米ほどは配電網への混雑が生じておらず、配電網の混雑緩和対策にEVの蓄電機能を用いる必要が生じるまでにはもう少し時間がかかります。

そのため、日本における電力システムとモビリティの統合は、電力系統の混雑緩和対策という側面よりも、例えばEVの充電により太陽光発電の出力抑制を回避するような、地域の再生可能エネルギーの有効活用という側面における成果が期待されます。

日本では太陽光発電が普及した結果、特に九州などにおいて発電量に対して需要が足りなくなるというケースが発生しており、発電できた再生可能エネルギーを電力系統に流さないといった出力抑制が頻繁に生じています。この課題を解決するためには、夜間のEVの充電と昼間のEV充電をEVユーザーの運行計画に基づいて最適化し、昼間に無駄になっていた再生可能エネルギーを充電に有効活用することが考えられます。特に、通勤用のEVユーザーの車両は、勤務先で昼間は駐車されているケースが多いため、こうしたEVへの充電を適切に管理することが望まれます。そのためにはEVユーザーの運行スケジュールと充電スケジュールを適切に管理するEV管理システムが必要であり、車両側のデータ、EVユーザー側のデータ、電力系統側のデータをうまく調和させて、EVユーザー、自動車会社、電力会社の3者にとって最適なあり方を検証することが望まれます。

こうした電力システムとモビリティの統合を実現するためには、

①電力システムの系統側の基本ルールを踏まえてビジネスユースケース(例︓EVの蓄電機能をフレキシビリティとして用いる)を具体的に整理する
②そのビジネスに必要なファンクショナルユースケースを定義する
③流通データの要件(例︓データモデルや流通頻度)を関係者が議論する

といったように、車両と電力システム間のデータ流通のあり方を整理する必要があります(下図参照)。

図表:電力システムとモビリティのデータ流通の実現に向けた検討の考え方

(注)SOC︓「State Of Charge」の略語。充電率または充電状態を表す指標で、満充電状態を100%、完全放電状態を0%と定義。

PwCは、業界を超えたこのようなルールメイキングについて、経済産業省の「EVグリッドワーキンググループ」への参加などを通じて、その検討に関与してきました。今後も、新たなビジネス機会の創出に必要となるルールメイキングに積極的にかかわり、関係者とともに検討を進めてまいります。

<PwCの電力システムとモビリティの統合に関する実績の例>

  • EVを活用した新たな電力サービスの検討
  • 需要家側リソースを活用したVPPに関する検討
  • EVと電力系統との統合に関する国際標準化活動への参加
  • 資源エネルギー庁EVグリッドワーキングへの参加」

日本における電力システムとモビリティの統合の課題についてご興味のある方は、下記のサイトをぜひご覧ください。

【蓄電池によるGX アジェンダ5︓車載用蓄電池の新たな活用(電力系統との連携)の方向性】
https://www.pwc.com/jp/ja/knowledge/column/storage-battery/vol05.html

執筆者

志村 雄一郎

ディレクター, PwCコンサルティング合同会社

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