【COP28と日本のエネルギー企業への影響】 ~「化石燃料からの脱却」において何が求められるのか~

2024-02-19

※2024年1月に配信したニュースレターのバックナンバーです。エネルギートランスフォーメーション ニュースレターの配信をご希望の方は、ニュース配信の登録からご登録ください。

2023年11月30日から12月13日までUAEのドバイで開催されたCOP28(第28回国連気候変動枠組み条約締約国会議)の成果を振り返り、日本のエネルギー企業への影響について考察します。

COP28の論点

COP28が2023年11月30日から12月13日までUAEのドバイで開催され、化石燃料の廃止に向けた道筋などを中心に協議が行われました。開催当初から、炭素排出を伴う豪奢な生活の象徴として知られる都市ドバイでの開催であることや、議長が国営石油会社の経営者であるということから、気候変動に関する会議の開催地としては不適当であるとの批判もありました。ただ、議長は開会スピーチにおいて「このままでは(パリ協定の)目標を達成するのが難しいことが科学的にも明らかになっている。新しい道へ軌道修正し、2030年に向けてアクションを加速させていくべきだ」と述べるなど、開催当初から現状への危機感を示していました。

PwCは、パリ協定で合意された世界の平均気温上昇を産業革命前の水準と比較して1.5℃以下に抑えるために必要な変化率を追跡するため、毎年「ネットゼロ経済指標」*1を発表しています。2023年発表の脱炭素化進展率目標では年に17.2%の進展が必要と試算していますが、2022年の1年間では世界全体で2.5%の進展しかなく、PwCは1.5℃目標を達成するために2030年までに炭素集約度(CO2/GDP)*2を78%削減するペースで進展させていく必要があると指摘しています。これは、COP28議長が述べた「加速」以上の「急加速」が必要な状況と言えます。

図1 ネットゼロ経済指標2023

世界全体が危機感を抱かねばならないこのような状況において、COP28で合意された内容や、またそれらが日本のエネルギー企業に及ぼす影響について考察します。

COP28の成果

ドバイでの開催や国営石油会社の経営者の議長就任が批判されるという逆風の中、UAEは産油国として難しい舵取りを任され、交渉は予想どおり難航しました。しかし、開催前から注目されていたグローバルストックテイク*3(GST:パリ協定達成進捗の科学的評価)が初めて実施され、その内容を踏まえて合意文書(UAEコンセンサス)が採択されたことは大きな成果でした。

エネルギーに関連した内容では、合意文書内で「化石燃料」を名指しし、「2020年代においてはエネルギーシステムから化石燃料の脱却を加速させる」と言及した点は歴史的転換であったと考えられます。1.5℃目標の実現に向けては、「2030年までに世界全体の再生可能エネルギーの発電容量を3倍とし、エネルギー効率の改善率を世界平均で2倍にする」ことも合意されました。合わせて、温室効果ガスを2030年までに43%、2035年までに60%削減(19年比)する必要性が示されています。

COP27に続いて「石炭火力発電の段階的な削減」が明記された一方、「低排出電源(low emissionsenergy)」の記載が残り、過渡的燃料(transitional fuels)の果たすべき役割が明記されました。また、「原子力発電」と「炭素回収・利用・貯蔵(CCS/CCUS)などの削減・除去技術」の活用が今回初めて合意文書の中に記載されたことは注目に値します。

その他エネルギー以外の部分では、COP27で設置が決まっていた「損失と損害」基金(気候変動による悪影響に特に脆弱な開発途上国に対する支援)の運用制度の大枠*4が固まり、合意に至りました。

また、COP28交渉の外においても、原子力発電設備容量の増加を目指す国際的なパートナーシップの拡大や、冷房関連の排出削減誓約宣言など、さまざまな活動において進展が見られました。

日本のエネルギー企業への影響

COP28における合意内容は、日本のエネルギー企業にどのような影響を与えるでしょうか。

全ての化石燃料からの脱却が言及されたのは大きな転換点だと言える一方、化石燃料の段階的廃止についての言及はなく、今後拡大するエネルギーとして低排出電源の記載が残りました。また、過渡的燃料の果たすべき役割も明記されたことから、足元においてエネルギー企業は、ガス上流開発への投資やM&Aを加速させ、エネルギーの安定供給と脱炭素/低炭素エネルギーへの転換のための原資を創出していくことが考えられます。

石炭火力発電の段階的廃止について日本政府は言及を避けており、当面は既存の石炭火力発電所への排出対策は企業に委ねられます。2022年5月に策定された第6次エネルギー基本計画では、2030年の電源構成において石炭火力発電が2割を占めるため、仮に石炭火力発電を段階的に廃止する場合には、足元ではベースロード電源としての機能を補完すべく、短期的には原子力やガス火力、中長期的には水素・アンモニア火力への投資を加速させていくことになるでしょう。2024年には第7次エネルギー基本計画の策定が見込まれていますが、COP28での合意内容も踏まえて、再エネおよび原発の電源構成比率の目標が引き上げられる可能性があり、各企業側での上記投資への後押しとなることも考えられます。

加えて、2050年までのネットゼロ達成に向けて、再エネ、原子力、クリーン水素、炭素回収・貯留(CCUS)などの無炭素・低炭素技術の活用が記載されたことで、日本の原子力発電の再開や小型モジュール炉(SMR)など次世代原発の開発が後押しされるとともに、さまざまな分野でのCCS/CCUSの事業展開が日本・アジアにおいて加速していくことも想定されます。

また、2030年までに世界全体の再生可能エネルギーの発電容量を3倍とするという合意について、日本政府は再エネ導入のポテンシャルが少ない日本国内よりも、新興国での支援による貢献を重視しており、エネルギー企業による技術輸出や事業展開が期待されます。2030年までにエネルギー効率の改善率を世界平均で2倍にするという合意については、日本においては短期的にはデマンドレスポンスサービスを提供すること、中長期的にはエネルギー効率の高い都市づくりに貢献する(分散型エネルギーシステムの確立など)ことが期待されています。したがって、日本企業にはエネルギーデータを活用しながら、さまざまなステークホルダーと連携し、一般消費者を含む需要家目線での新規事業開発を加速させていくことが求められると考えられます。

図2 カーボンニュートラルに向けたステークホルダー連携

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PwCではエネルギー企業のカーボンニュートラルとエネルギー安
定供給の両立を目指し、グリーンエネルギー普及や分散化促進を通じて、新たなビジネス機会の獲得を支援します。

【グリーントランスフォーメーション(GX)ビジネス開発支援】
GXコンサルティングサービスにおける重点領域

  • 水素・アンモニアビジネス支援
  • 脱炭素ビジネス開発伴走型支援
  • 定置用蓄電池導入・事業化支援
  • 次世代エネルギー投資支援
  • レギュレーションビジネス支援

https://www.pwc.com/jp/ja/industries/eu/green-transformation.html

【エグゼクティブ・サステナビリティ・フォーラム】

PwC Japanグループが発起人となり、サステナビリティ経営に積極的に取り組む企業の経営者とともに、日本において民間企業主導では数少ない経営者の意見交換の場となる「エグゼクティブ・サステナビリティ・フォーラム」を発足しました。活動成果として、2024年1月に、これまでの議論と今後の展望をまとめた共同声明を発表しましたので、ご覧ください。

サーキュラーエコノミーおよびカーボンニュートラルに関する共同
声明

ASEANのサステナブルな成長を目指して―サーキュラーエコノミーに関する調査レポート2024

さらにご関心のある方は以下をご覧ください。

【サステナビリティ経営支援サービス】
https://www.pwc.com/jp/ja/services/sustainability.html

【カーボンニュートラル・スマートシティ推進支援】
https://www.pwc.com/jp/ja/industries/gps/smart-city/carbon-neutral.html

(注釈)

※1:G20各国がエネルギー関連のCO2排出量をどれだけ削減し、経済の脱炭素化を推進したかを示す指標。

※2:気候変動に関する政府間パネル(IPCC)のカーボンバジェットを用いて、今後どれだけの排出削減が必要かを計算し、その値をGDP増加予測値で除したもの。これにより、GDP予想成長率を維持するために削減しなければならない排出量を知ることが可能になり、経済成長から排出を切り離すために必要な取り組みの規模に関する情報が提供される。

※3:パリ協定の目的および長期的な目標の達成に向けた世界全体の進捗状況を定期的に確認し、各国がそれぞれの取り組みを強化するための情報提供を行う仕組み。2023年に第1回が開催され、それ以降5年ごとに実施されている。

※4:最初の4年間は暫定的に世界銀行が基金を運営し、公的・民間・革新的資金などあらゆる資金源から拠出を受けることなどが決定された。

執筆者

枝元 美紀

ディレクター, PwCコンサルティング合同会社

Email

神島 文平

マネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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