
持続可能な化学物質製造への道筋
化学産業の脱化石化は、世界的なネットゼロを実現する上で最も重要な要素の1つといえます。本レポートでは、基礎化学物質の脱化石化に向けた具体的な道筋を示し、予想されるCO2排出削減効果や必要な投資について説明します。
2022-08-24
※2022年7月に配信したニュースレターのバックナンバーです。エネルギートランスフォーメーション ニュースレターの配信をご希望の方は、ニュース配信の登録からご登録ください。
国際エネルギー機関(IEA:International Energy Agency)によると、2040年には世界でエネルギー全体に占める石油・石炭の割合は現在よりも低下し、再生可能エネルギーの割合が47%にまで上昇する見通しです。この数字は2021年の29%よりも18ポイントも高く、特に太陽光発電と風力発電がその伸びを牽引すると見られています。このような変化を化石燃料から生み出される「分子」、再生可能エネルギーから生み出される「電子」、それぞれの消費によって発生する「炭素」に着目し、その流れを描いたものが図表1および2です。図表1が2018年の実績、図表2が2050年の予測を表していますが、今後30年ほどの間で「分子」の比率が明らかに減少し、フローの複雑化と循環化が進むことが読み取れます。
エネルギーの供給については、ロシアによるウクライナ侵攻が世界中に大きな影響を及ぼしています。余波を最も受けているのは距離的に近い欧州です。欧州はドイツを筆頭に原油と石油製品の多くをロシアから輸入しています。特に近年は天然ガスの需要が高まっており、2021年時点でEU・英国はその消費量の32%をロシアに依存していました。こうした中、IEAは天然ガスの脱ロシア依存に向けた「10-Point Plan」をEUに提言しました。その内容は、来冬に向けた天然ガス貯蔵補充や供給源の多様化、バイオマスや原子力発電活用の最大化などです。
日本は欧州ほどロシアに依存していないものの、国内には液化天然ガス(LNG:Liquefied Natural Gas)の約5割をロシアから調達しているガス会社があるなど、エネルギー安全保障への脅威・リスクが高い状態が続いています。また、日本のエネルギー自給率は2018年時点で11.8%と極めて低く、9割近くを輸入に頼っています。国際エネルギー市場の先行きが不透明であることに加えて、6月の想定外の厳しい暑さにより電力の需給がひっ迫するなど、エネルギーを安定供給するという観点で、欧州以上に難しい局面を迎えています。
温室効果ガスについては、日本は2020年度に約11億5,000万トンを排出しました。2050年にカーボンニュートラル実現という政府目標を達成するには、この数字を大きく減らさなくてはなりません。温室効果ガス排出量のうち約4割は、火力発電所や石油精製工場といったエネルギー転換部門から排出されています。そのため、再生可能エネルギーの比率拡大や電源構成比の見直しなどにより、「分子」から「電子」へのエネルギー転換を推進することが排出量削減に大きく貢献することになります。このようなエネルギー転換部門の脱炭素化と同時に、そこからエネルギーの供給を受ける産業や運輸といった各部門においても脱炭素化を進める必要があります。さまざまな部門における脱炭素の主体的な取り組みが、多様な「電子」の循環を実現します。
図表1:エネルギー源および対象別に見た現在のエネルギーフロー(2018年)
図表2:エネルギー源および対象別に見た将来のエネルギーフロー(2050年)
PwCでは2050年の日本の最終エネルギー消費を試算しています。2019年と比較し、劇的に省エネが進むことに加えて、その構成比も大きく変わると予想しています。燃料のうち7割近くを占めていた石油はほぼなくなり、新たな燃料源として「水素」や、水素由来のe-fuelや合成メタンなどの「グリーン燃料」が存在感を増します。電力では石油や石炭は使われなくなり、再生可能エネルギーがその半数以上を占めることになります。
これをエネルギー消費部門別に見てみましょう。産業部門においては、鉄鋼では化石燃料から水素、化学では化石燃料から合成燃料やバイオ燃料への転換が進みます。業務部門においてはネット・ゼロ・エネルギー・ビル(ZEB:net Zero Energy Building)が拡大し、省エネ・創エネが浸透します。運輸部門においてはEVの普及が省エネと脱炭素化を支えます。家庭部門においてはネット・ゼロ・エネルギー・ハウス(ZEH:net Zero Energy House)による省エネ・創エネ、電化やメタネーションを中心とした都市ガスの脱炭素化が進みます。
重要なのは、このような未来の実現に向けて、各部門が主体的に脱炭素化に取り組むことです。政府の決定を待っていては、加速する国際社会の動きに後れを取り、日本は競争力を失いかねません。いつまでも脱炭素ができない国・企業の商品やサービスは国際市場で見向きもされなくなる可能性があります。脱炭素化に向けては、企業や自治体、NGOなど、ノン・ステート・アクターと呼ばれる政府以外の組織の果たす役割は大きいと考えられます。日本でもすでにサプライチェーン全体でのネットゼロを宣言している企業、自治体や地元の企業、金融機関が中心となって取り組みを進める「脱炭素先行地域」などがありますが、今後もこうしたボトムアップでの取り組みが大いに期待されます。その結果、エネルギー自給率が上昇し、エネルギー安全保障を高めていくことにつながると考えられます。
図表3:日本の最終エネルギー消費予測(2050年)
PwCでは将来起こり得る複数のシナリオを検討した上で戦略を策定し、意思決定の質を高めるシナリオプランニングや定量分析を行うことで、クライアントの不確実な将来への対応を支援しています。ぜひお気軽にお問い合わせください。
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