【スマートシティの持続可能要件とエネルギー産業の役割】

2022-08-02

※2022年6月に配信したニュースレターのバックナンバーです。エネルギートランスフォーメーション ニュースレターの配信をご希望の方は、ニュース配信の登録からご登録ください。

実証実験のステージから実装のステージへと移りつつあるスマートシティの取り組みにおいて、地域の社会インフラとしてのスマートシティの持続可能要件とエネルギー産業に期待される役割について考察します。

実証から実装へ、本格化する日本のスマートシティの取り組み

日本におけるスマートシティの取り組みは、実証実験のステージから実装のステージへと移りつつあります。国は2022年3月、日本のスマートシティの先端を走る「スーパーシティ型国家戦略特区」に2つの自治体、「デジタル田園健康特区」に3つの自治体を指定し、特区における規制・制度の緩和を含むスマートシティ開発の推進と、デジタル化のすそ野を広げる取り組みとして、誰一人取り残されないデジタル社会の実現を目指し、データ連携基盤を含むデジタル活用により地域の課題解決を図る「デジタル田園都市国家構想」の推進に着手しました。また、スマートシティと関連性が深い脱炭素の取り組みとしても、100箇所を選定することを目指す「脱炭素先行地域」についても第1回公募で26箇所が指定され、いよいよ本格的な取り組みが加速していくものと思われます。

実証実験のステージでは、斬新なアイデアや最新テクノロジーの可能性にチャレンジしていくことが重要でした。しかし実装のステージでは、スマートシティ推進の取り組みが真に地域の課題解決に貢献することはもちろんのこと、地域社会の仕組みや地域の社会インフラとして持続可能であること(サステナブルスマートシティの実現)の重要性が増していきます。

サステナブルスマートシティの3要素

サステナブルスマートシティを実現するためには、以下の3つの要素(図表1)を踏まえる必要があると考えています。

第1に、住民や来訪者などの地域に関わる全ての人の「ウェルビーイング」の向上に貢献するものであることが求められます。「ウェルビーイング」は、年齢、言語、文化、性別、価値観、障がいの有無などの観点で多様性を尊重しながら社会課題を解決することにより、精神的、身体的、社会的な健全性を確保して、全ての人に多面的な幸福をもたらすことを意味します。

第2に、「経済性」の担保が求められます。ここでの「経済性」とは、利用者と提供者の双方にとって経済的な合理性を追求することを意味します。実証のステージにおいて国の補助金を活用してスマートシティの仕組み、テクノロジー、サービスを導入したものの、補助の終了とともに頓挫してしまったというケースも見受けられます。実装のステージにおいては、スマートシティが提供するサービスの価値とコスト負担のバランスが取れるよう、地域のエコシステムを形成し、持続させることが重要です。

第3に、「環境に配慮したインフラストラクチャー」の採用が求められます。日本においても「温室効果ガス排出量を2030年までに2013年度比46%減、2050年までに実質ゼロ」を実現するための脱炭素の取り組みが本格化しており、地域においても脱炭素の取り組みが急務となってきています。このような背景のもと、スマートシティは省エネや再エネ利用を促進するなど、地域のCO2排出量削減を後押しし、脱炭素のみならず水資源の管理、より良い都市設計、緑地管理や生物多様性対応など環境全般の取り組みに貢献するものであることが望まれます。

持続可能な スマートシティの 3 要素

出典:「未来のモビリティが推進するサステナブルなスマートシティ」(PwCコンサルティング・ Google)

サステナブルスマートシティ実現のために

「2050年日本の都市の未来を再創造するスマートシティ」において、PwCは「スマートシティは住民中心の思考で検討すべきであり、かつ社会課題の解決を目的として推進すべきである」と定義し、スマートシティが提供する11の機能(図表2)を示しました。サステナブルスマートシティを実現するためには、提供するサービスがテクノロジーの押し付けとならないよう、住民や来訪者など全ての人のニーズを起点に機能・サービスを設計し(ヒューマンセントリックアプローチ)、提供するそれぞれの機能において「ウェルビーイング」「経済性」「環境に配慮したインフラストラクチャー」の3要素全てをバランスよく満たしながら、サービスを導入することが重要です。

例えば、地域のエネルギーマネジメントサービスを導入する際には、デマンドコントロールが地域でエネルギーを必要とする生活者の快適な日常生活を阻害する要因となっていないか(ウェルビーイングの視点)、エネルギー供給者が持続可能な適正水準の利益を確保でき、利用者は適正な価格で利用できているか(経済性の視点)、脱炭素エネルギーを最大限活用して地域のCO2排出量の削減に貢献しているか(環境に配慮したインフラストラクチャーの視点)、などをバランスよく考慮し、継続的に改善していくような仕組みや、地域エネルギーのエコシステムを構築する必要があります。

図表2:スマートシティの11 の機能

出典:「2050年日本の都市の未来を再創造するスマートシティ」(PwC Japan グループ)
https://www.pwc.com/jp/ja/knowledge/thoughtleadership/smart-city2050.html

エネルギー分野のプレイヤーの役割と提供価値

脱炭素社会の実現に向けた取り組みが加速する中、特に脱炭素先行地域などへの公募提案を見据えてプロアクティブに取り組んでいる地方自治体などでは、脱炭素を推進するとともに地域の課題解決や活性化を図ろうとする構想が検討されています。自治体首長の課題認識としては、再生可能エネルギーを最大限導入することなどにより、エネルギーの地産地消を実現するという考えがあります。現状はエネルギー利用に際して支出として資金が域外に流失しているため、その資金を地域にとどめ、地域経済の活性化のために還流させたいということです。

電力やガスなどの事業者は地域におけるこのような課題認識に対し、脱炭素とともに検討される自治体による地域エネルギー事業について、自社の競合プレイヤーが芽を出すという認識を持つべきではありません。脱炭素はすでに世界の潮流であり、日本の脱炭素推進には、産業界の排出量削減の取り組みとともに、自治体を中心とした地域の脱炭素推進の取り組みの積み重ねが重要であるため、地域を支えてきたユーティリティ事業者として積極的に地域に関わりながら、地域における新しいエネルギー供給の在り方を模索することが重要です。その取り組みを通じて、地域を支えるプレイヤーとして受け入れてもらい、エネルギー供給から総合ユーティリティ産業や総合生活産業へとビジネスを変革していくような姿勢が求められているのではないでしょうか。

このたび、サステナブルスマートシティ×モビリティをテーマとしたソートリーダシップ「未来のモビリティが推進するサステナブルなスマートシティ」をGoogleと共同発行しました。ぜひご一読ください。

執筆者

安田 景

ディレクター, PwCコンサルティング合同会社

Email

内藤 陽

シニアマネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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