米国税制改正案が上院を通過、法案成立へ向けて大きく前進

2022-09-07

米国時間2022年8月7日、米国議会上院は各種の税制改正案を含む予算調整措置法案(インフレ削減法、Inflation Reduction Act)を51対50で可決しました。同法案は8月12日以降、下院での審議に付されることとなります。バイデン大統領および民主党は、8月末までに同法案の成立を目指しています。

バイデン政権は、大統領が選挙公約としていた各種インフラ投資等の大型財政支出とその財源を調達するための各種増税案を含む予算調整措置(Budget Reconciliation)として、「Build Back Better Act」(BBB法)の2021年中の成立を推進していました。BBB法案は2021年11月に下院を通過したものの、財政支出規模およびインフレに対する懸念から上院民主党内の調整が難航したため、上院民主党はBBB法案の年内成立を断念し修正案の合意を目指していました。2022年7月27日、予算調整措置に係る法案成立期限(9月末)が迫る中、上院民主党のキーパーソンであるシューマー上院議員(ニューヨーク州)とマンチン上院議員(ケンタッキー州)との間で、財政支出・増税規模を削減しつつ現下のインフレ対応策を含めた修正案が合意されました。当該修正案に一定の変更を加えたものが、今回上院を通過した法案となります。

同法案の主な税制改正項目(カッコ内は今後10年での歳入増見込額)は以下の通りとなります。

  • 大企業の会計上利益に対する15%代替ミニマム税(Book Minimum Tax, BMT)を創設(2580億米ドル)
    • 調整財務諸表上の利益(adjusted financial statement income、AFSI)に対し税率15%での代替ミニマム税が課税されます。適用開始は2023年1月1日以降開始事業年度からとなります。
    • 具体的には、AFSIの15%の金額(繰越欠損金控除および外国税額控除反映後)が通常の法人税額(税源浸食濫用防止税(BEAT税)額を含む)を超過する場合、超過額が納税義務の対象となります。また、当該納付税額は無期限に繰り越され、将来年度における通常法人税額が当該年度のBMT税額およびBEAT税額を上回る場合に、税額控除の対象となります。
    • 当期を含む過去3課税年度におけるAFSIの年間平均額(グループベースで計算され、繰越欠損金控除を除外したもの)が10億米ドルを超える法人が対象となります(AFSIテスト)。
    • 米国外親会社多国籍グループ(foreign-parented mutinational group)内の法人については、当該グループが上記AFSIテストを充足することに加え、当該グループ内の一定の法人(米国法人、米国法人の米国外子会社、米国外法人のうち米国国内事業(米国支店や米国PE)に係る課税を受けているもの)の過去3課税年度におけるAFSIの年間平均額が1億米ドルを超過する場合には適用対象法人となります。
  • 米国公開会社の自己株買いに対する1%付加税(excise tax)を創設(740億米ドル)
    • 公開会社である米国法人が自己株買いを行った場合、当該課税年度中に買い取られた株式の価値に対する1%の付加税(excise tax)の対象となります。適用開始は2023年1月1日以降開始事業年度からとなります。
    • 米国外親会社グループに係る特則として、公開会社である米国外法人の一定の米国関連者(米国法人、米国パートナーシップ、米国の者が保有する米国外パートナーシップ等)が当該米国外公開会社の株式を買い取った場合には、公開会社である米国法人が自己株買いをした場合と同様に付加税の対象となります。
  • クリーンエネルギー関連の税制優遇措置拡充
    • クリーンエネルギー、エネルギー効率化、二酸化炭素回収に係る各種の投資税額控除および生産税額控除が創設および拡充されます。
    • また、税制優遇策の観点から、各種税額控除について直接の還付(direct pay)や譲渡を可能とする改正が含まれています。
    • 典型的なエネルギー関連企業のみならず、運輸・不動産・製造といった幅広い業種から投資を呼び込むことが意図されています。また、一定の適用要件(賃金、国内調達、国内活動)を充足した場合の税額控除額が増額されており、財政支出項目と併せ3700億米ドルの支出増が見込まれています。
  • IRSによる税務執行を強化するための追加予算割当($800億米ドルの歳出増、2040億米ドルの歳入増見込)
  • 個人事業者の過大事業損失(excess business loss)の控除制限規定(内国歳入法461(I)、2026年失効予定)の適用を2年間延長(550億米ドル)

他方、バイデン政権において従前より提案あるいは検討されていた下記の項目は同法案に含まれておらず、現行税制が維持されます。

  • 連邦法人税率引上げ(現行21%→28%)
  • 国際税制関連(グローバル無形資産低課税所得:GILTI、外国稼得無形資産所得:FDII、BEAT、デジタル課税の第2の柱対応)の各種改正
  • 研究開発費用(内国歳入法174条)に係る即時控除の適用延長
    • 2017年税制改正における「Tax Cuts and Jobs Act」(TCJA)の結果、2022年以降は研究開発費用について即時控除ができず、資産化したのち5年または15年での償却の対象となることが定められています。納税者からは即時控除の適用を延長する意見が多く寄せられていましたが、同法案においては特段の変更は含まれていません。
  • 個人所得税に係る各種増税項目(最高税率引上げ、carried interestに対する増税、キャピタルゲイン課税強化等)

現時点では、同法案に係る議会予算局(Congressional Budget Office、CBO)による歳入・支出見込額は公開されていません。他方、シューマー・マンチン両議員による修正案については、議会予算局は今後10年で900億5千万米ドル(IRS税務執行強化による歳入増を含む場合は2950億米ドル)の財政赤字削減効果を見込んでいます。

同法案詳細については今後のニュースレターでお伝えします。

【参考】

上院で可決されたInflation Reduction Act 条文
https://rules.house.gov/sites/democrats.rules.house.gov/files/BILLS-117SAHR5376.pdf

PwC米国 発行ニュースレター: Senate passes "Inflation Reduction Act"reconciliation bill
https://www.pwc.com/us/en/tax-services/publications/insights/assets/pwc-senate-passes-inflation-reduction-act-reconciliation-bill.pdf

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