ジェネラル・コーポレート・プラクティスニュースレター(2023年7月)

PwC弁護士法人のジェネラル・コーポレート・プラクティスニュースレターでは、企業において日々生起する法的な課題の解決に有益と思われるトピックを取り上げて、情報を発信して参ります。

今回は、以下の3つのトピックを紹介します。

トピック1: 改正電気通信事業法によるCookie等規制の導入

トピック2: フリーランス新法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(令和5年法律第25号))の概要

トピック3: 利用規約における免責条項について―改正消費者契約法施行を踏まえたチェックポイント―

トピック1: 改正電気通信事業法によるCookie等規制の導入

近時、スマートフォンやタブレット端末等が普及する中、ウェブサイトやアプリを運営している事業者は、インターネットを通じて、利用者に関するデータを大量に収集・取得及び活用しています。もっとも、データの収集・取得及び活用のメカニズムが不透明であるため、利用者側の不安・懸念が高まっています。このような状況の下、事業者が取得する利用者情報の種類やその活用方法等に関する透明性を担保し、利用者がデジタルサービスを安心して利用できる環境を整備するために、改正電気事業法(以下「本法」といいます。)が2022年6月17日に公布され、2023年6月16日付で施行されました。これにより、ウェブサイトやアプリの利用者の端末(PCやスマートフォン等)に対して当該端末に記録された利用者に関する情報(閲覧履歴、行動履歴等)を外部に送信(以下「外部送信」といいます。)するよう指令するタグや情報モジュール等の送信(以下「情報送信指令通信」といいます。)を行おうとする際に、利用者に確認の機会を付与するための規律(以下「外部送信規律」といいます。)が導入されました。本ニューズレターでは、外部送信規律が導入された趣旨、適用対象となる事業者の範囲、自社が対象事業者に含まれている場合に講じるべき対応措置の内容、対応措置を講じなかった場合に事業者に課される可能性のある罰則につき概説します。

1. 外部送信規律導入の趣旨

ウェブサイトやアプリを閲覧・利用する度に外部送信が継続的に行われる結果、利用者に関する情報が利用者の知らない間に多様な事業者により取得・活用されると、利用者の趣味・嗜好に適したコンテンツや広告が表示される等一見すると利用者の利便性が向上していると評価し得る側面がある一方、利用者は自己のコントロールの及ばない範囲で自己自身に関する情報を一方的に収集・利用されてしまうという側面があることも否定できません。このような状況により、利用者が安心して電気通信サービスを利用することができなければ、その結果として電気通信サービスの信頼性が損なわれ、ひいては「電気通信の健全な発達」(改正電気通信事業法1条)に支障が及ぶおそれがあります1。そこで、外部送信が行われる場合には、少なくとも利用者がそれを確認できる機会を与える義務を電気通信事業者に課し、もって情報流通の透明性を確保することを目的として本改正において外部送信規律が導入されました。

2. 適用対象事業者の範囲

外部送信規律につき規定する本法27条の12によれば、外部送信規律の適用対象となる事業者は、①電気通信事業者又は第三号事業を営む者2であり、かつ②内容、利用者の範囲及び利用状況を勘案して利用者の利益に及ぼす影響が少なくないものとして総務省令で定める電気通信役務を提供する者です。本法に基づく登録又は届出を行った電気通信事業者以外にも多くのウェブサイト運営者やアプリ提供者が情報送信指令通信を行っていることから、上述①の通り、第三号事業を営む者も外部送信規律の対象となっている点には留意する必要があります。また、設立後間もない事業者や中小規模の事業者等の負担に配慮し、外部送信規律の対象となる事業者の範囲を限定すべく上述②の要件が定められていいます。

まず、上述①の要件のうち、「電気通信事業」とは、「電気通信役務を他人の需要に応ずるために提供する事業」(本法2条4号)を指します。そして、この「他人の需要に応ずるため」とは、「自らの業務のために電気通信役務を提供するのではなく、他人の需要に応ずるために電気通信役務を提供すること」をいうとされています3。例えば、隔地者間のメールの送受信等のサービスは、メールの送信者及び受信者という他人の需要に応ずるためのものであり、かかるサービスを提供する事業者は、上述①の電気通信事業者に該当することになります。他方、例えば、企業が自社のECサイトで、自社の商品・サービスを販売・提供するような場合は、自らの本来の業務遂行の手段としてECサイトを使用しており、「自らの業務のために電気通信役務を提供」していると評価できるため、「他人の需要に応ずるため」とはいえず、上述①の要件を充足しないことになります。

次に、上述②については、ブラウザその他のソフトウェア(利用者が使用するパーソナルコンピューター、携帯電話端末又はこれに類する端末機器においてオペレーティングシステムを通じて実行されるものに限る)により、次の4つに分類される役務のいずれかに該当する電気通信役務が指定されています(電気通信事業法施行規則(以下「本法施行規則」といいます。)22条の2の27)。

役務 説明 具体例4

他人の通信を媒介する電気通信役務

「他人の通信を媒介する」とは、依頼を受けて、情報をその内容を変更することなく、伝送・交換し、隔地者間の通信を取次、又は仲介してそれを完成するサービス

メールサービス、参加者を限定した会議が可能なウェブ会議システム

その記録媒体に情報を記録し、又はその送信装置に情報を入力する電気通信を利用者から受信し、これにより当該記録媒体に記録され、又は当該送信装置に入力された情報を不特定の利用者の求めに応じて送信する機能を有する電気通信設備を他人の通信の用に供する電気通信役務

利用者が情報を入力(書き込み、投稿、出品、募集を含む)し、当該情報を不特定の利用者が受信できるサービス

SNS、電気掲示板、動画共有サービス、オンラインショッピングモール、ライブストリーミングサービス、オンラインゲーム
入力された検索情報(検索により求める情報をいう。以下この号において同じ。)に対応して、当該検索情報が記録された全てのウェブページ(通常の方法により閲覧ができるものに限る。次条第三項第一号において同じ。)のドメイン名その他の所在に関する情報を出力する機能を有する電気通信設備を他人の通信の用に供する電気通信役務 検索したい単語等の検索情報を入力すると、インターネット上における、当該検索情報が記録された全てのウェブページの所在に関する情報を検索して表示するサービス

オンライン検索サービス

前号に掲げるもののほか、不特定の利用者の求めに応じて情報を送信する機能を有する電気通信設備を他人の通信の用に供する電気通信役務であつて、不特定の利用者による情報の閲覧に供することを目的とするもの 不特定の利用者の求めに応じて情報を送信し、情報の閲覧に供する、各種情報のオンライン提供サービス ニュース、気象情報等の配信を行うウェブサイト、動画配信サービス、オンライン地図サービス

3. 講じるべき対応措置の内容

外部送信規律の適用対象事業者は、情報指令通信を行おうとするときは、原則として、①送信されることとなる利用者に関する情報の内容、②上述①の情報の送信先の氏名又は名称、及び③上述①の情報の利用目的を通知又は公表(容易に知り得る状態に置く)し、利用者に対して外部送信が行われることにつき確認の機会を付与しなければなりません(本法27条の12柱書、本法施行規則22条の2の29)。また、上述①乃至③の事項を通知又は公表する際は、日本語で記載し、専門用語を用いず、平易な表現を用いること等が求められています(本法施行規則22の2の28)。

もっとも、次に掲げる情報の外部送信については、送信しなければ適正な電気通信役務の利用が妨げられるおそれがあること、利用者の判断を得る必要性が類型的に低いこと、又はその他の方法を通じて実質的に利用者に確認の機会が付与されていること等を踏まえて、通知又は公表の義務が課せられません(本法27条の12各号、本法施行規則22条の2の30及び22条の2の31)。

  • サービス提供にあたって必要な情報(例:OS情報、言語設定情報、ブラウザ情報等)
  • サービス提供者が利用者に送信した識別符号(First Party Cookieに保存されたID)
  • 利用者の同意を取得している情報
  • 以下の事項を利用者に公表した上で、オプトアウト措置を講じているにもかかわらず、利用者がオプトアウト措置の適用を求めていない情報

(ア) オプトアウト措置を講じていること

(イ) 情報の送信又は利用のいずれかを停止するものか

(ウ) オプトアウト措置の申込みを受け付ける方法

(エ) オプトアウト措置を適用した場合、サービスが制限される場合は、その内容

(オ) 送信されることとなる利用者に関する情報の内容の情報の利用目的

(カ) (オ)の情報の利用目的

4. 罰則

外部送信規律が適用となる役務を提供しているにもかかわらず、対象事業者が何ら講じるべき対応措置を行わなかった場合又は不十分な対応を行った場合には、①業務の改善命令(本法29条2項4号)、②報告及び検査(本法166条1項)又は③法令等違反行為を行った者の氏名等の公表(本法167条の2)の対象となる可能性があります。さらに、業務の改善命令に従わなかった場合には200万円以下の罰金に処せられる(本法186条3号)おそれや、報告及び検査において報告をしない、又は検査を拒絶する等不適切な対応をした場合は、30万円以下の罰金に処せられる(第188条17号)おそれがあります。このように、外部送信規律への対応に不備や違反があった場合でも、直ちに罰金を科せられることはないものの、利用者情報の適正な取扱いを求める機運が高まる中、違反者の氏名等が公表される結果、行政処分の対象となったこと自体がSNS等で拡散されることで、自社のレピュテーションリスクが高まるおそれがある点には留意する必要があります。

5. おわりに

外部送信規律により、これまで日本においては限定的な規制5しか存在しなかったCookie等による外部送信に関して全般的に規制が及ぶことになりました。また、上述の通り、登録又は届出が必要な電気通信事業者のみならず、SNS、オンラインショッピングモール等を運営するいわゆる第三号事業者の一部も含まれるなど、対象事業者の範囲が拡大されています。このような外部送信規律への対応を適切に行うには、法務部門だけでなく、ウェブサイトの運営やアプリの提供に当たり情報送信指令通信を可能とするタグの設置の状況等を把握するIT部門と連携することが重要となります。そのため、企業としては、同規制内容を踏まえた上で、自社が外部送信規律の適用対象となるか否か、適用対象となる場合にどのような対応措置を講じるかにつき適切に判断し、ワンチームで自社のプライバシーガバナンスを構築していくことが望ましいものと考えます。

トピック2: フリーランス新法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(令和5年法律第25号))の概要

2023年4月28日「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(令和5年法律第25号)(以下「フリーランス新法」又は「法」といいます。)が成立し、5月12日に公布されました。フリーランス新法は、公布から1年6月を超えない範囲内において政令で定める日から施行するとされており(法附則1条)、2024年11月頃までに施行される予定です。

フリーランス新法は、単独で業務を行うフリーランスが企業から業務委託を受ける取引において、企業に比べて弱い立場にあるフリーランスの状況を改善し、フリーランスが事業者として受託した業務に安定的に従事することができる環境を整備するため、フリーランスに係る取引の適正化及び就業環境の整備を図る法律です。

そこで、本稿では、フリーランス新法の概要について解説いたします。

1. 対象となる事業者・取引の定義

フリーランス新法では、対象となる事業者・取引を以下のとおり定義しています。

(1) 特定受託事業者(法2条1項)

「特定受託事業者」とは、業務委託の相手方である事業者であって、次の各号のいずれかに該当するものをいう。

一 個人であって、従業員を使用しないもの
二 法人であって、一の代表者以外に他の役員(理事、取締役、執行役、業務を執行する社員、監事若しくは監査役又はこれらに準ずる者をいう。第六項第二号において同じ。)がなく、かつ、従業員を使用しないもの

特定受託事業者には法人・個人を問わず単独で事業を行っている事業者が該当します。上記の定義のとおり、従業員を使用した場合、特定受託事業者に該当しないことになりますが、短時間・短期間等の一時的に雇用される者は従業員に含まれないと整理されています6

なお、「特定受託事業者」である個人及び法人の代表者については「特定受託業務従事者」と定義され(法2条2項)、14条及び21条において使用されています。

(2) 業務委託(法2条3項)

「業務委託」とは、次に掲げる行為をいう。

一 事業者がその事業のために他の事業者に物品の製造(加工を含む。)又は情報成果物の作成を委託すること。
二 事業者がその事業のために他の事業者に役務の提供を委託すること(他の事業者をして自らに役務の提供をさせることを含む。)。

(3) 業務委託事業者(法2条5項)

「業務委託事業者」とは、特定受託事業者に業務委託をする事業者をいう。

(4) 特定業務委託事業者(法2条6項)

「特定業務委託事業者」とは、業務委託事業者であって、次の各号のいずれかに該当するものをいう。

一 個人であって、従業員を使用するもの

二 法人であって、二以上の役員があり、又は従業員を使用するもの

特定業務委託事業者には法人・個人を問わず2人以上で事業を行っている事業者が該当します。フリーランス新法において「業務委託事業者」と「特定業務委託事業者」を区別して義務を課していますが、給付の内容その他の事項の明示等を定める3条を除き「特定業務委託事業者」に対して義務を課す形で規定されています。

2. 特定受託事業者に係る取引の適正化

フリーランス新法は、下請法類似の規制により「特定受託事業者」に対して「業務委託」を行う「業務委託事業者」及び「特定業務委託事業者」に対し一定の義務を課すことにより特定受託事業者に係る取引の適正化を図っています。具体的な内容は以下のとおりです。

(1) 給付の内容その他の事項の明示等(法3条)

業務委託事業者は、特定受託事業者に対し業務委託をした場合、原則として、直ちに、①給付の内容、②報酬の額、③支払期日、④公正取引委員会規則が定めるその他事項を書面又は電磁的方法で明示する必要があります。また、電磁的方法により明示した場合であっても、特定受託事業者から書面の交付を求められたときは、原則として、公正取引委員会規則で定めるところにより、書面を交付する必要があります。

なお、上記のとおり、本条は業務委託事業者に対して義務を課す形で規定されており、委託者側が単独で事業を行う事業者である場合にも課される点に注意が必要です。

(2) 報酬の支払期日等(法4条)

特定業務委託事業者は、特定受託事業者に業務委託した場合、給付受領日・役務提供日から起算して60日以内に報酬を支払う必要があります。また、再委託の場合でかつ再委託である旨等を特定受託事業者に明示した場合、元委託の支払期日から起算して30日以内に報酬を支払う必要があります。さらに、元委託者から前払金の支払を受けたときは、業務委託に係る業務の着手に必要な費用を前払金として支払うよう適切な配慮をする必要があります。

(3) 特定業務委託事業者の遵守事項(法5条)

特定業務委託事業者は、特定受託事業者に対し政令で定める期間以上の期間の業務委託をした場合、以下の行為が禁止されます。

① 特定受託事業者の責めに帰すべき事由がないのに給付の受領を拒むこと
② 特定受託事業者の責めに帰すべき事由がないのに報酬の額を減ずること
③ 特定受託事業者の責めに帰すべき事由がないのに返品すること
④ 通常支払われる対価に比し著しく低い報酬の額を不当に定めること
⑤ 正当な理由なしに自己の指定する物の購入又は役務の利用を強制すること
⑥ 自己のために金銭・役務その他の経済上の利益を提供させ不当に利益を害すこと
⑦ 特定受託事業者の責めに帰すべき事由がないのに給付の内容を変更させ又は給付をやり直させ不当に利益を害すること

3. 特定受託業務従事者の就業環境の整備

フリーランス新法は、労働関係法規類似の規制により「特定受託事業者」に対して「業務委託」を行う「特定業務委託事業者」に対し一定の義務を課すことにより特定受託業務従事者の就業環境の整備を図っています。具体的な内容は以下のとおりです。

(1) 募集情報の的確な表示(法12条)

特定業務委託事業者は、広告等により特定受託事業者の募集に関する情報を提供するとき、虚偽の表示又は誤解を生じさせる表示することは禁止されています。また、広告等により特定受託事業者の募集に関する情報を提供するときは、正確かつ最新の内容に保つ必要があります。

(2) 妊娠、出産若しくは育児又は介護に対する配慮(法13条)

特定業務委託事業者は、政令で定める期間以上の期間行う業務委託の相手方である特定受託事業者からの申出に応じて、妊娠・出産・育児・介護と両立しつつ業務委託に係る業務に従事することができるように配慮する必要があります。また、政令で定める期間以上の期間行う業務委託でない場合にも、同様の配慮をするよう努める必要があります。

(3) 業務委託に関して行われる言動に起因する問題に関して講ずべき措置等(法14条)

特定業務委託事業者は、セクハラ・パワハラ・マタハラにより特定受託業務従事者の就業環境を害することのないよう、相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の必要な措置を講じる必要があります。また、特定受託業務従事者が相談を行ったこと又は特定業務委託事業者による相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由として、業務委託に係る契約の解除その他の不利益な取扱いをすることは禁じられています。

(4) 解除等の予告(法16条)

特定業務委託事業者は、政令で定める期間以上の期間行う業務委託の解除・更新拒絶をしようとする場合には、原則として、少なくとも30日前までに、その予告をする必要があります。また、予告がされた日から業務委託が満了する日までの間において、解除・更新拒絶の理由の開示を求められた場合、原則として、遅滞なく開示する必要があります。

4. 違反した場合等の対応・罰則

特定受託事業者は、特定受託事業者に係る取引の適正化に関する規定(上記2)に違反する事実がある場合には公正取引委員会又は中小企業庁長官に対し申し出て、適切な措置を取ることを求めることができます。そして、公正取引委員会又は中小企業庁長官は、違反行為について助言、指導、報告徴収・立入検査、勧告、公表、命令をすることができます(法6条~11条、22条)。

また、特定受託事業者は、特定受託業務従事者の就業環境の整備に関する規定(上記3)に違反する事実がある場合には厚生労働大臣に対し申し出て、適切な措置を取ることを求めることができます。そして、厚生労働大臣は、違反行為について助言、指導、報告徴収・立入検査、勧告、公表、命令をすることができます(法17~20条、22条)。

命令違反及び検査拒否等の場合には50万円以下の罰金に処されるものとされており、両罰規定も定められています(法24条、25条)。

5. おわりに

フリーランス新法が施行されるまでに、法の内容を具体化するため政令・規則・省令・指針・ガイドラインが制定されることが予定されています。フリーランスと取引をする企業等においては、フリーランス新法への対応に必要な準備を進めていくにあたって、これらの動向を注視していく必要があります。

トピック3: 利用規約における免責条項について
―改正消費者契約法施行を踏まえたチェックポイント―

令和5年6月1日、消費者契約法等の一部を改正する法律7(以下、「改正法」といいます。)が施行されました8。改正法による消費者契約法の改正事項の一つとして、事業者の軽過失による行為にのみ適用されることを明らかにしていない一部免責条項は無効とされる旨の規定(消費者契約法第8条第3項)が新設されています。

ウェブサイト等で消費者に提供される各種サービスの利用規約では、事業者側の損害賠償責任の上限を定める等、免責条項を含めておくことが実務上行われていますが、消費者契約法により無効と評価され得る条項も少なからず見受けられます。

そこで、本稿では、上記新設規定を含め、免責条項に関する主な4つのチェックポイントについて概説いたします。

1. チェックポイント①
──軽過失の場合にのみ適用されることが明らかにされていない一部免責条項は無効(改正法による新設規定)

(1) 消費者契約法上の規制

改正法で新設された消費者契約法第8条第3項は、以下のとおりです。

消費者契約法第8条第3項

事業者の債務不履行(当該事業者、その代表者又はその使用する者の故意又は重大な過失によるものを除く。)又は消費者契約における事業者の債務の履行に際してされた当該事業者の不法行為(当該事業者、その代表者又はその使用する者の故意又は重大な過失によるものを除く。)により消費者に生じた損害を賠償する責任の一部を免除する消費者契約の条項であって、当該条項において事業者、その代表者又はその使用する者の重大な過失を除く過失による行為にのみ適用されることを明らかにしていないものは、無効とする。

※強調は筆者ら

要点としては、事業者側の損害賠償責任の一部を免除する契約条項について、いわゆる軽過失の場合にのみ適用されることが明らかにされていない場合には無効となるということです。

(2) 契約条項例

具体的な契約文言のイメージとしては、下記契約条項例9をご参照ください。

有効10とされる例

  • 弊社に軽過失がある場合に限り、弊社がユーザーに負う責任は、ユーザーから実際に支払いがあった検定受験料の額を超えるものではないとします。
  • 弊社に故意又は重大な過失がある場合を除き、弊社がユーザーに負う責任は、ユーザーから実際に支払いがあった検定受験料の額を超えるものではないとします。
無効とされる例
  • 法律上許される限り、賠償限度額を〇万円とする。
  • 関連法令により許される限り、賠償限度額を〇万円とする。

無効とされる例のとおり、事業者の損害賠償責任の一部を免除する契約条項において、「法律上許される限り」等の不明確な留保文言を付した場合は無効となります。

このような留保文言は実務上しばしば利用されていましたが、本来事業者に故意・重過失がある場合には全額損害賠償請求し得るはずであるにもかかわらず、これを請求できないと消費者が誤認してしまう可能性があるということで、今回の改正に至りました。

改正法施行により、今後は、有効とされる例のとおり、「弊社に軽過失がある場合に限り」や「弊社に故意又は重大な過失がある場合を除き」等の文言により、軽過失の場合にのみ適用されることを明らかにする必要があります。

2. チェックポイント②
──事業者の損害賠償責任の全部を免除する条項は無効

(1) 消費者契約法上の規制

事業者の債務不履行や不法行為により消費者に生じた損害について、当該事業者の損害賠償責任の全部を免除する条項は無効とされます(消費者契約法第8条第1項第1号及び第3号)11

(2) 契約条項例

全部免責条項に関する具体的な文言のイメージとしては、下記契約条項例12をご参照ください。

有効とされる例

  • 事業者は、天災等事業者の責に帰すべき事由によらない損害については賠償責任を負わない13
無効とされる例
  • いかなる理由があっても一切損害賠償責任を負わない。
  • 事業者に責めに帰すべき事由があっても一切損害賠償責任を負わない。
  • 事業者に故意又は過失があっても一切損害賠償責任を負わない。

3. チェックポイント③
──事業者の故意又は重過失による損害賠償責任の一部を免除する条項は無効

(1) 消費者契約法上の規制

事業者の債務不履行や不法行為により消費者に生じた損害について、当該事業者に故意又は重過失があっても損害賠償責任の一部を免除する契約条項は、無効とされます(消費者契約法第8条第1項第2号及び第4号)14

(2) 契約条項例

一部免責条項に関する具体的な文言のイメージとしては、下記契約条項例15をご参照ください。

有効とされる例

  • 事業者に故意又は重大な過失がある場合を除き、損害賠償責任は○○円を限度とする。
無効とされる例
  • いかなる理由があっても事業者の損害賠償責任は○○円を限度とする
  • 事業者は通常損害については責任を負うが、特別損害については責任を負わない

4. チェックポイント④
──事業者が自己の損害賠償責任の有無や限度を決定する条項は無効

(1) 消費者契約法上の規制

事業者の債務不履行や不法行為により消費者に生じた損害について、当該事業者にその損害賠償責任の有無や限度を決定する権限を付与する条項は無効とされます(消費者契約法第8条第1項第1号から第4号まで)。

(2) 契約条項例

具体的な文言のイメージとしては、下記契約条項例16をご参照ください。

無効とされる例
  • 会社は一切損害賠償の責を負いません。ただし、会社の調査により会社に過失があると認めた場合には、会社は一定の補償をするものとします。
  • 当社が損害賠償責任を負う場合、その額の上限は10万円とします。ただし、当社に故意又は重過失があると当社が認めたときは、全額を賠償します。

改正法の施行を機に、以上の主なチェックポイントを参考として、利用規約における免責条項が消費者契約法に則しているかどうかをあらためて点検されることをお勧めいたします。

1 外部送信規律FAQ問1-3参照

2 本法164条1項3号により登録及び届出のいずれも不要とされる電気通信事業を営む者を指します。第三号事業を営む者については、法3条に規定する「検閲の禁止」及び本法4条に規定する「通信の秘密の保護」を除き、電気通信事業法の適用除外とされていますが、今回の改正により、第三号事業を営む者の一部には本法27条の12に規定する「情報送信指令通信に係る通知等」(外部送信規律)も適用されることになります。

3 総務省「電気通信事業参入マニュアル[追補版]」(以下「参入マニュアル追補版」といいます。」)3頁

4 個人情報保護委員会・総務省の「電気通信事業における個人情報保護に関するガイドライン」(最終改正令和5年5月18日。以下「本ガイドライン」といいます。)の51条1項各号及びその解説(令和5年3月(令和5年5月更新。以下「本ガイドライン解説」といいます。)の7-1-2(対象役務)参照

5 Cookie等の端末識別子を通じて収集された個人の閲覧履歴等の情報は、それ単体では個人を特定することはできないため、個人情報の保護に関する法律(平成15年法律第57号)における「個人情報」(同法2条1項)には該当しないものの、「生存する個人に関する情報であって、個人情報、仮名加工情報及び匿名加工情報のいずれにも該当しないもの」(同法2条7項)に該当するといわれています。そのため、当該情報を第三者に提供しようとする際に、提供先の第三者において特定の個人と紐づける個人データとして当該情報を取得することが想定されているときは、原則として事前に本人の同意が取得されていることを確認しなければなりません(同法31条1項)。この点につき電気通信事業者が留意すべき事項の詳細については、本ガイドラインの21条及び本ガイドライン解説の3-8(個人関連情報の第三者提供の制限等)を参照してください。

6 内閣官房「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律案(フリーランス・事業者間取引適正化等法案)の概要」

7 消費者契約法及び消費者の財産的被害の集団的な回復のための民事の裁判手続の特例に関する法律の一部を改正する法律(令和4年法律第59号)

8 但し、適格消費者団体の事務に関する改正規定及び消費者裁判手続特例法に関する改正規定については、令和5年10月1日に施行されます。

9 「逐条解説(令和5年2月)」「第8条(事業者の損害賠償の責任を免除する条項の無効)」(消費者庁)(以下、「消費者庁逐条解説」といいます。)146頁・147頁参照。https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_system/consumer_contract_act/annotations/assets/consumer_system_cms203_230210_12.pdf(2023年7月12日に最終訪問)

10 消費者庁逐条解説において言及されている例では「無効とはならない」と表現されていますが、本稿では、無効とされる例と対比するため便宜上「有効とされる例」と記載しております。あくまで消費者契約法第8条の観点からは有効であると考えられるという趣旨にすぎないこと、他の規制内容等も含めた総合的な判断によっては無効となり得る余地があることにご留意ください。

11 但し、契約不適合による損害賠償責任については一定の例外があります(消費者契約法第8条第2項参照)。

12 消費者庁逐条解説136頁参照。

13 事業者の責めに帰すべき事由がない場合には、事業者はそもそも債務不履行や不法行為に基づく損害賠償責任を負うことはないため、このような条項はそれを確認的に定めた条項にすぎないものと考えられます(ただし、事業者が金銭債務を負っている場合には不可抗力による抗弁はできません。)(消費者庁逐条解説136頁参照)。

14 但し、契約不適合による損害賠償責任については一定の例外があります(消費者契約法第8条第2項参照)。

15 消費者庁逐条解説138頁~139頁参照。

16 消費者庁逐条解説138頁~139頁参照。

※記事の詳細については、以下よりPDFをダウンロードしてご覧ください。

PDF版ダウンロードはこちら

執筆者

茂木 諭

パートナー, PwC弁護士法人

茂木 諭茂木 諭

岩崎 康幸

パートナー, PwC弁護士法人

山田 裕貴

山田 裕貴

パートナー, PwC弁護士法人

田上 薫

PwC弁護士法人

本ページに関するお問い合わせ