消費者市場におけるIFRS会計論点およびソリューション:棚卸資産およびその他の支出(4)

2023-02-02

棚卸資産は事業経営の根幹となる要素であり、特に消費財・小売業においては在庫品目が多いことが特徴です。

今回は物流コスト、リベートなどの棚卸資産に関する論点、および、開発コスト、ブランド(商標権)、広告宣伝などのその他の支出より「企業結合で取得した棚卸資産」「開発コストの資産計上」「ブランドの耐用年数」「広告宣伝費およびカタログ」について解説します。

2. 開発コストの資産計上

前提

C社は、洗剤の製造業者であり、消費者が衣服の洗濯にかける時間を大幅に軽減するための新技術の開発に多大なコストが発生しています。

論点

C社で発生した開発コストは、無形資産として資産計上されるでしょうか?

ソリューション

開発活動は、IAS第38号において、「商業ベースの生産または使用の開始前における、新規のまたは大幅に改良された材料、装置、製品、工程、システムまたはサービスによる生産のための計画または設計への、研究成果または他の知識の応用をいう。」と定義されています。

IAS第38号第57項では、開発コストは、企業が次のすべてを立証できる場合に、かつ、その場合にのみ、無形資産として資産計上しなければならないと規定しています。

(a) 使用または売却に利用できるように無形資産を完成させることの技術上の実行可能性

(b) 無形資産を完成させて、使用するかまたは売却するという意図

(c) 無形資産を使用または売却できる能力

(d) 無形資産が可能性の高い将来の経済的便益をどのように創出するのか。とりわけ、企業が、当該無形資産の産出物または無形資産それ自体についての市場の存在や、無形資産を内部で使用する予定である場合には、当該無形資産の有用性を立証できること。

(e) 開発を完成させて、無形資産を使用するかまたは売却するために必要となる、適切な技術上、財務上およびその他の資源の利用可能性

(f) 開発期間中の無形資産に起因する支出を信頼性をもって測定できる能力

無形資産の認識規準を満たすためには、無形資産は、識別可能、かつ特定の製品またはプロジェクトに起因するものでなければなりません。経営者は、認識する個々の無形資産から流入するであろう将来の経済的便益を識別できなければなりません。経営者が個別の製品またはプロジェクトを識別できない場合、無形資産の認識規準を満たすことはできません。

C社は、規準を満たした後にコストを資産計上しなければなりません。規準を満たす時点を決定することは、時として困難です。企業は、コストの資産計上規準が満たされているかどうか、またいつ満たされたかを決定するために、開発の「ステージ・ゲート」プロセスを上記の規準にマッピングする必要があります。

その過程で、C社は研究コストと開発コストを明確に区別することも必要だと考えられます。IAS第38号は、「研究」を、「新規の科学的または技術的な知識および理解を得る目的で実施される基礎的および計画的調査」と定義しています。研究コストは発生時に費用計上しますが、これは、プロジェクトの研究局面においては、企業は、可能性の高い将来の経済的便益を創出するであろう無形資産が存在することをまだ立証できないためです。

プロジェクトが無形資産としての認識規準を満たす前に発生した費用は、発生時に費用計上しなければなりません。以前に償却されたコストは、プロジェクトが資産を認識しなければならない段階に達した場合でも、無形資産の一部として復活させることはできません。

4. 広告宣伝費およびカタログ

前提

B社は、既存顧客および潜在顧客に郵送する年間カタログを通じて宣伝を行っています。

論点

B社は、作成済だがまだ送付されていないカタログに関して資産を認識できるでしょうか?

ソリューション

通信販売カタログの主要な目的は、流通ネットワークを作り出すことではなく、顧客に商品を宣伝することです。通信販売カタログは広告宣伝活動の一例であり、資本計上することはできません[IAS第38号 BC46G項]。さらに、製品のカタログが他の手段(テレビ、インターネット、企業のウェブサイトなど)を通じてマーケティングされた場合、このマーケティングをプロデュースし策定するためのコストは、直ちに費用計上されなければなりません。ただし、その支出がまだ受け取っていないサービス(例えば、プリペイド広告)に関する場合には、そのサービスを受け取るまで貸借対照表において前払金が認識されることになります。

企業は、制作済だがまだ発表していない広告宣伝に関して資産を認識すべきではありません。広告宣伝を発表した結果として企業にもたらされる可能性のある唯一の経済的便益は、それが強化または創出するブランドまたは顧客との関係の結果として企業にもたらされる可能性のある経済的便益と同じです。企業は将来の広告宣伝または販売促進活動に関して受け取った財またはサービスを、資産として認識してはなりません[IAS第38号 BC46B項からBC46C項]。

広告宣伝および販売促進活動はブランドまたは顧客との関係を強化または創出し、それらが次には収益を生みます。広告宣伝または販売促進活動を行うために取得された財またはサービスには、それらの活動を行う以外の目的はありません。これらの財またはサービスの唯一の便益は、ブランドまたは顧客との関係の開発または創出であり、それらが次には収益を生みます。自己創設したブランドまたは顧客との関係は、無形資産として認識されません。

執筆者

長谷川 友美

ディレクター, PwC Japan有限責任監査法人

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坂井 嘉兵衛

シニアマネージャー, PwC Japan有限責任監査法人

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岡村 嘉雄

シニアマネージャー, PwC Japan有限責任監査法人

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