消費者市場におけるIFRS会計論点およびソリューション:リース(3)

2022-11-28

リースは考慮すべき項目が多い複雑な会計領域ですが、事業計画や資金繰りにおいてリース取引の果たす役割が大きいことから、多くの企業がリース取引を利用しています。

今回は消費財・小売・流通業の観点からリースに関する各種論点のうち、「任意によるリース料の免除」「会社任意整理手続(CVA)後のリースの条件変更」「「権利金(key money)」の会計処理」「リース資産に関連する除去コストおよび原状回復コストの会計処理」について解説します。

2. 会社任意整理手続(CVA)後のリースの条件変更

前提

小売業者Xは、財政難に陥っており、会社任意整理手続(CVA)として事業再生を行うことにより、会社管理手続の適用を回避することができればと考えています。その結果、小売業者Xはリース契約の再交渉を行い、固定リース料から完全な収益ベースの支払モデルへと移行しました。このリース契約は、残存期間が3年から5年のリースに関するものです。

論点

このリース料の変更はどのように会計処理すべきでしょうか?

ソリューション

これは、リースの対価が当初のリース契約から変更されているため、リースの条件変更であると見なされます。使用権の追加はなく、IFRS第16号第44項の条件を満たしていないため、この条件変更は独立したリースとして会計処理されません。その代わり、リース負債は、条件変更の発効日に決定される改訂後の割引率を用いて再測定されます。指数またはレートに基づいていない変動リース料は、リース負債の一部ではありませんが、当該変動リース料が発生する契機となった事象または状況が生じた時に損益計算書に認識されます。この例では、収益に連動するリース料は、収益が発生した時点で認識されることになります。したがって、リース負債は、条件変更日において完全に認識が中止され、使用権資産について対応する修正が行われることになります[IFRS第16号第44-46項]。

3. 「権利金(key money)」の会計処理

前提

小売業者Cが、一等地にある店舗に関する長期リース契約を締結しました。小売業者Cは、その場所を引き継ぐために、現在のテナントに「権利金(key money)」を支払いました。現地の法律では、小売業者Cは、当初のリース期間の終了時に、リース契約の更新を要求する権利を有しています(その賃料は必ずしも市場条件を反映していません)。貸手が更新を拒否する場合、貸手は借手が被る被害を補償しなければなりません。あるいは、小売業者Cは当初のリース期間の終了時に、更新の要求を選択しない場合もあります。この場合、小売業者Cは、新しいテナントがその店舗を引き継ぐことを容認し、新しい借手から権利金を受け取る権利を得ることになります。

小売業者は、店舗から退去する際に、貸手からの補償または新しい借手からの権利金のいずれかを通じて、当初の支払金額を回収できると見込んでいます。

論点

小売業者Cは、支払った権利金をどのように会計処理すべきでしょうか?

ソリューション

新しい借手から前の借手への支払は、当初直接コストに該当し、使用権資産の当初測定に含められます。

使用権資産の事後測定の決定にあたって、許容可能なアプローチの一つは、IFRS第16号第31項が要求しているとおり、IAS第16号の減価償却の要求事項を適用する際に、権利金を使用権資産の独立した構成部分として取り扱うことです。このような取扱いは、IAS第16号第43項および第44項に従って、権利金がIFRS第16号に基づくリース期間よりも長い期間にわたって経済的便益をもたらすことを表しています。IAS第16号第52項は、資産の残存価額が帳簿価額を上回っていない限り、減価償却費は認識されると規定しています。小売業者が残存価額を権利金の構成部分と等しいかそれを上回ると見込んでいる場合、この構成部分の減価償却費はゼロとなります[IAS第16号第54項]。

代替的なアプローチは、権利金を使用権資産そのものと連動しているものと見なし、使用権資産(すなわち、権利金を含む)を単一の資産として取り扱うことです。契約全体(権利金を含む)としてテナントにいくつかの権利が付与されていますが、このアプローチではそれらを区別せず、使用権資産について、借手が店舗から退去する際に回収すると見込まれる金額に基づく残存価額が認識されます。このアプローチでは、権利金の予想回収可能価額の事後的な増加は、使用権資産全体の残存価額を増加させ、減価償却費の合計額を減少させることになります。

権利金に対するIFRS第16号の適用は、重要な会計上の判断となる可能性があり、その場合にはIAS第1号の開示要求を考慮しなければなりません。

4. リース資産に関連する除去コストおよび原状回復コストの会計処理

前提

小売業者Aは小売店舗をリースし、リース契約の一部として、引渡時と同じ状態で店舗を返還することを義務付けられています。

論点

小売業者Aは、リース資産の原状回復および除去に関連する債務をどのように会計処理すべきでしょうか?

ソリューション

中二階
小売業者Aは、中二階を設置し、リースの終了時にそれを除去するための引当金をIAS第37号に基づいて認識しています。この債務は、過去の事象である、小売業者Aが改良を完了した時点で発生します。小売業者Aは、IFRS第16号第24項(d)を適用し、対応する金額を使用権資産の一部として含めています。

IFRS第16号第24項(d)のガイダンスは、当初測定のセクションに含まれていますが、第25項では、原状回復コストは、これらのコストに対する義務が小売業者に生じた時点で、使用権資産の取得原価の一部として認識しなければならないと述べています。例えば、中二階がリース期間の途中で設置された場合でも、小売業者は、原状回復コストを使用権資産に含めて資産計上します。

破損
リース期間中に、小売業者Aの使用する資産に、リース期間の終了時に修繕が必要な破損が発生します。賃貸期間にわたる見積修繕コストについて引当金を計上する必要があります。その理由は以下のとおりです。

  • 借手はリース契約から生じる契約上の現在の債務を有している。
  • 債務発生事象は、賃貸期間にわたって生じる不動産の破損である。
  • 債務は不動産の破損から生じるものであり、将来の営業費用には関連しない。
  • 当該債務によって経済的便益の流出が生じる可能性が高い。
  • 破損によって発生する債務について、信頼性のある見積りが可能である。
  • 義務が存在するかどうかは、リースから明らかである。破損が識別された時点で引当金を認識する必要がある。

小売業者Aは、対応する金額を費用として認識しなければなりません。破損に関する引当金は資産を創出しません。IFRS第16号の「結論の根拠」では、使用権資産の取得原価による測定は、IAS第16号との整合性を意図したものであり、資産の設置、建設または取得に関連する場合にのみ、原状回復コストおよび除去コストを資産計上することを認めています。

執筆者

長谷川 友美

ディレクター, PwC Japan有限責任監査法人

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坂井 嘉兵衛

シニアマネージャー, PwC Japan有限責任監査法人

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岡村 嘉雄

シニアマネージャー, PwC Japan有限責任監査法人

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