消費者市場におけるIFRS会計論点およびソリューション:リース(2)

2022-11-27

リースは考慮すべき項目が多い複雑な会計領域ですが、事業計画や資金繰りにおいてリース取引の果たす役割が大きいことから、多くの企業がリース取引を利用しています。

今回は消費財・小売・流通業の観点からリースに関する各種論点のうち、「リース契約の条件変更を除くリース期間の見直し」「リース負債 - 市場賃料での延長オプション」「独立したリースとして会計処理されないリースの条件変更」「リースの範囲を減少させるリースの条件変更」について解説します。

2. リース負債―市場賃料での延長オプション

前提

20X1年1月1日、A社(借手)は小売スペースのリース契約を締結します。リースの解約不能期間は7年です。

最初の年の年間リース料はCU10,000であり、次の年以降は毎年5%ずつ上昇します。また、CU10,000は開始日における市場賃料を反映したものです。A社は、リース契約をさらに5年延長できるオプションを有しています。A社は、開始日において、延長オプションを行使することが合理的に確実であると判断しています。

論点

以下のシナリオにおいて、A社は、リース負債に含まれるリース料をどのように決定するでしょうか?

ソリューション

シナリオA-オプションが行使された日の市場賃料に係る上限
延長期間における改訂後の賃料は、オプションが行使された日に、同日現在の市場賃料に基づき、貸手と借手の間で合意されます。しかし、改訂後の賃料は、その前年の期末の賃料の105%を上回ることはありません。

A社は延長オプションを行使することが合理的に確実であるため、リース期間は12年となります。リース期間中のすべてのリース料がリース負債に含まれます。

貸手および借手の双方が延長期間における改訂後の賃料に合意しなければならないため、賃料はその時点の市場賃料になると仮定できます。市場賃料率を反映して変動する支払額のように、指数またはレートに応じて決まる変動リース料は、開始日現在の指数またはレートを用いて当初測定されます[IFRS第16号第27項]。したがって、リース負債の当初測定に含まれる、延長期間におけるリース料は、更新期間中のそれぞれの年について、CU10,000(開始日現在の市場賃料)です。

  1年目 2年目 3年目 4年目 5年目 6年目 7年目 8~12年目
リース料[CU] 10,000 10,500 11,025 11,577 12,155 12,763 13,401 10,000

この方法はあくまで使用可能なアプローチの一つであり、他の方法が適切な場合もあります。例えば、この方法は、多種多様なリースのポートフォリオには適さない場合があり、そのような場合はより詳細な予測が必要となります。

企業は、延長オプションの最初のリース料の金額(すなわち、8年目の支払)に合意した際に、その時点の市場賃料を反映するようリース負債を再測定します。

シナリオB-オプションが行使された日の市場賃料に係る上限および下限
延長期間における改訂後の賃料は、オプションが行使された日に、同日現在の市場賃料に基づき、貸手とA社の間で合意されます。しかし、改訂後の賃料はその前年の期末の賃料の85%を下回らない、または115%を上回らないとする上限および下限が設けられています。延長期間全体を通じたリース料は、少なくとも (CU10,000 × 1.05^6))× 0.85 = CU11,391となります。

シナリオBにおいて、延長期間を通じた支払は、完全な変動金額ではなく下限が設定されています。下限であるCU11,391が開始日における市場賃料率(CU10,000)よりも高いため、8年目から12年目についてリース負債の当初測定に含まれる金額はCU11,391です。

  1年目 2年目 3年目 4年目 5年目 6年目 7年目 8~12年目
リース料[CU] 10,000 10,500 11,025 11,577 12,155 12,763 13,401 11,391

A社は、延長期間における最初のリース料の金額(すなわち、8年目の支払)に合意した際に、その時点の市場賃料を反映するようリース負債を再測定します。

シナリオC-第7年の賃料とオプションが行使された日の市場賃料のいずれか高い方
延長期間における改訂後の賃料は、(i)第7年に支払われた賃料(CU13,401)と(ii)延長期間の開始日現在の市場賃料(貸手および借手の合意したもの、または独立した鑑定士によって算定されたもの)のいずれか高い方です。

シナリオBと同様に、延長期間全体を通じた支払は、完全な変動金額ではなく下限が設定されています。シナリオCにおいては、下限は7年目のリース料(CU13,401)です。下限であるCU13,401が開始日における市場賃料率(CU10,000)よりも高いため、8年目から12年目についてリース負債の当初測定に含まれる金額はCU13,401です。

  1年目 2年目 3年目 4年目 5年目 6年目 7年目 8~12年目
リース料[CU] 10,000 10,500 11,025 11,577 12,155 12,763 13,401 13,401

A社は、延長期間における最初のリース料の金額(すなわち、8年目の支払)に合意した際に、その時点の市場賃料がCU13,401以上であれば、市場賃料を反映するようリース負債を再測定します。

3. 独立したリースとして会計処理されないリースの条件変更

背景

小売業者Cは、借手に追加的な小売スペースの使用権を付与するため、既存のリース契約の条件変更を行います。賃料の増加は、追加的な小売スペースの独立価格に適切な修正を加算した金額を下回っています。

論点

条件変更の発効日が新しいリース構成部分の開始日より前である場合、小売業者Cはこの条件変更をどのように会計処理すべきでしょうか?

ソリューション

増加したスペースの独立価格と対価の増加が見合っていないため、このリースの条件変更は独立したリースとして会計処理されません。この場合、それぞれの値引きは、新しいリース構成部分(追加的な小売スペース)および既存のリース構成部分の両方に関連しています。したがって、この条件変更は既存の使用権および追加的な使用権の両方に影響を与え、それぞれの構成部分に配分される必要があります。

既存のリースに関連するリース負債は、条件変更の発効日に再測定されます。[IFRS第16号第45項]。小売業者Cは、条件変更の発効日に、改訂後の割引率を用いてリース負債を再測定し、使用権資産に対して対応する修正を加える必要があります。改訂後の割引率は、リース期間の残り期間についてのリースの計算利子率です。小売業者Cは、リースの計算利子率が容易に算定できない場合、追加借入利子率を使用します。

新しいリース構成部分に関しては、開始日がリースの条件変更の発効日と異なるため、リース負債の測定は条件変更の発効日に行われる[IFRS第16号第45項]のに対し、追加的なリース構成部分の認識は開始日に行われます[IFRS第16号第22項]。

4. リースの範囲を減少させるリースの条件変更

前提

B社が、5,000平方メートルの小売スペースに係る10年のリースを締結します。リース料は年間CU50,000で固定されています。5年経過後に、両当事者は小売スペースを2,500平方メートル削減するよう、契約を修正します。第6年度以降の年間リース料はCU30,000となります。第6年度の期首現在の借手の追加借入利子率は5%(同日現在のリースの計算利子率は容易に算定できないと仮定します)です。

条件変更前のリース負債および使用権資産の帳簿価額は以下のとおりです。

使用権資産 CU184,002

リース負債 CU210,618

論点

条件変更はどのように会計処理すべきでしょうか?

ソリューション

条件変更後のリース負債の価額はCU129,884です。

まず、当初の小売スペースが50%削減されるため、使用権資産およびリース負債が50%減額されます。この二つの金額の差額は、利得として純損益に認識されます。

次に、改訂後の割引率と対価の変動を反映するため、使用権資産を修正する必要があります。したがって、残りのリース負債(CU105,309)と条件変更後のリース負債(CU129,884)の差額が、使用権資産の修正として認識されます。

使用権資産 CU24,575

リース負債 CU24,575 

執筆者

長谷川 友美

ディレクター, PwC Japan有限責任監査法人

Email

坂井 嘉兵衛

シニアマネージャー, PwC Japan有限責任監査法人

Email

岡村 嘉雄

シニアマネージャー, PwC Japan有限責任監査法人

Email

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