消費者市場におけるIFRS会計論点およびソリューション:リース(1)

2022-11-26

リースは考慮すべき項目が多い複雑な会計領域ですが、事業計画や資金繰りにおいてリース取引の果たす役割が大きいことから、多くの企業がリース取引を利用しています。

今回は消費財・小売・流通業の観点からリースに関する各種論点のうち、「リースの定義 - 小売区画」「小売区画 - 契約における構成部分の識別」「リース期間 - 僅少とはいえないペナルティを伴う解約オプションの発生状況」「双方向の解約オプションを伴う恒久的なリース契約」について解説します。

2. 小売区画―契約における構成部分の識別

前提

小売業者Bは、ショッピングモール内の小売区画を、店舗什器および倉庫と合わせて賃借しています。貸手は、月極めの定額払いを課しています。契約には、定額払いは以下を含むことが示されています。(a)小売区画、什器および荷台/倉庫の賃料、(b)固定資産税および保険料、(c)セキュリティおよび清掃、ならびに(d)小売区画の維持管理費。

論点

この契約の構成要素は何でしょうか?

ソリューション

この契約のリース構成部分は、小売区画と荷台/倉庫および什器です。非リース構成部分は、セキュリティおよび清掃、ならびに維持管理サービスです。[IFRS第16号第12項]

固定資産税および保険料
IFRS第16号B33項を適用し、借手は、その特定の状況において、固定資産税および保険料の支払が個別の財またはサービスの移転ではないため、個別の非リース構成部分として会計処理しないことを決定しました。その代わり、これらの支払は、契約の中の個々に識別された構成部分に配分される合計対価の一部と見なされます。

什器
什器は、小売区画または荷台/倉庫への依存性や相互関係性が高くないため、独立したリース構成部分と見なされます。

什器は、他の業者から調達することができ、他の小売区画で使用することができるためです。したがって、什器を使用する権利は、独立したリース構成部分です。

セキュリティおよび清掃サービス
セキュリティおよび清掃サービスは、小売業者Bに対して個別のサービス提供を伴うものであるため、これらは独立した非リース構成部分と見なされます。小売業者Bは、下記のいずれかを行うことができます。

  • リース構成部分と非リース構成部分を区分し、それぞれの構成部分に対価を配分する。
  • 実務上の便法を適用し、リースと関連する非リース構成部分をまとめて単一のリース構成部分として会計処理する。

維持管理サービスの重要性から、小売業者Bは、非リース構成部分と関連するリース構成部分をまとめる実務上の便法を適用しないことを選択しています。

リース構成部分と非リース構成部分を識別した後に、契約対価を各構成部分に配分します。借手は、リース構成部分と非リース構成部分の相対的な単体価格に基づいて、契約対価を各構成部分に配分する必要があります。

貸手は、IFRS第15号の取引価格配分ガイダンスに基づいて、契約対価を個々のリース構成部分と非リース構成部分に配分する必要があります。リース構成部分と非リース構成部分について借手に適用可能な実務上の便法は、貸手には適用できません。IFRS第15号は、借手に財またはサービスを移転しない活動およびコスト(例えば、固定資産税および保険料)について借手が支払う金額は、契約の独立した構成要素ではなく、個別に識別された構成部分に配分される契約の全体的な対価の一部として考慮されることを定めています。

3. リース期間―僅少とはいえないペナルティを伴う解約オプションの発生状況

前提

B社は、20X1年1月1日に建物を賃借するためのリース契約を貸手と締結します。この契約は、特定の契約期間を定めず、当事者のいずれかが解約の通知を行うまで無期限に継続するものです。B社と貸手はそれぞれ、20X2年6月30日より開始する各暦年の6月末に、相手方の許可なく6カ月の解約通知をもって契約を解約する権利を有しています(つまり、最も早い解約の権利は20X2年6月30日に生じ、6カ月の通知期間によって20X2年12月31日に発効します)。

B社が満10年より前に契約を解約する場合、2年分の支払リース料と等しい金額のペナルティ(僅少とはいえないペナルティ)を貸手に支払わなければなりません。B社がその期間より後にリースを解約する場合には、いかなるペナルティも発生しません。貸手については、いつ契約を解約するかにかかわらず、いかなる解約ペナルティも発生しません。

論点

開始日におけるこの契約のリース期間は?

ソリューション

リース期間、ならびに関連する解約不能期間および強制可能期間は以下の図のとおりです。

リース期間、ならびに関連する解約不能期間および 強制可能期間

リース期間は以下を考慮して決定されます。

  • IFRS第16号B34項は、借手と貸手のそれぞれがリースを他方の承諾なしに多額ではないペナルティで解約する権利を有している場合には、リースにはもはや強制力がないと説明しています。10年が経過するまでは、借手が解約するために僅少とはいえないペナルティが生じることになります。10年が経過した後は、両当事者が僅少とはいえないペナルティなしで解約できます。したがって、強制可能期間は10年です。
  • 借手は(通知期間を考慮し)20X2年12月31日より前の日付で解約できないため、解約不能期間は24カ月です。
  • 借手の解約オプションに関するガイダンスを適用し、解約不能期間の最小値である2年(18カ月+6カ月の通知期間)から強制可能期間の最大値(10年)までの間でリース期間を決定する必要があります。
  • 契約の最初の10年間における借手の解約権は、借手が最初の10年間に建物のリースを継続することが合理的に確実でない場合(すなわち、借手が解約オプションを行使しないことが合理的に確実でない場合)にはリース期間に影響を与えます[IFRS第16号付録B B37項]。強制可能期間全体において、借手がリースを継続することが合理的に確実である場合(解約オプションを行使しないことへの経済的なインセンティブを創出するすべての関連性のある事実および状況を考慮します)、リース期間は10年です。したがって、解約のペナルティがあっても、借手が特定の時点においてリースを継続することが合理的に確実でないには、リース期間はその時点で終了します(通知期間を考慮します)。
  • 借手が解約しないことが合理的に確実であるかどうかを評価する場合、解約のペナルティが一つの重要な要因となります[IFRS第16号付録B B37(c)項]。この場合、ペナルティの大きさによって、借手が10年未満でリースを解約しないことが合理的に確実であると考えられますが、企業は、すべての関連性のある事実および状況(市場のレートと比較したオプション期間に係る契約条件、実施された(または実施予定の)大幅な賃借設備改良、および借手の業務に対しての当該原資産の重要度など)を考慮する必要があります。

IFRS解釈指針委員会(IC)は、解約可能リースまたは更新可能リースのリース期間をどのように決定するか、また、B34項の「ペナルティ」には契約上の解約に係るペナルティの支払のみが含まれるのか、あるいは契約のより幅広い経済性も考慮すべきかについて質問を受けました。[IFRIC Update 2019年11月]

ICは、契約上のペナルティの支払のみでなく、契約のより幅広い経済性を考慮すべきとの見解を示しました。そのような考慮事項には、例えば、賃借設備改良の解体または廃棄のコスト、契約の終了に関連するコスト(代替リースの調査、再交渉または移転のコストなど)、ならびに借手の業務に対しての当該資産の重要度が含まれます。したがって、いずれかの当事者に特定の時点で僅少とはいえない解約のペナルティが発生する場合、強制可能期間にはこれらの期間が含まれることになります。

4. 双方向の解約オプションを伴う恒久的なリース契約

前提

A社は、小売スペースのリース契約を締結します。このリース契約は恒久的に存続しますが、貸手および借手の双方が解約オプションを有しています。この解約オプションはいつでも行使可能であり、解約オプションを行使する企業は多額ではないペナルティを負担することになります。双方のオプションについて、通知期間があります。

  • 借手がオプションを行使する場合、解約は行使から6カ月後に発効します。
  • 貸手がオプションを行使する場合、解約は行使から18カ月後に発効します。

論点

開始日におけるこの契約のリース期間とリース期間を見直す時期は?

ソリューション

IFRS第16号第18項に従って、企業は、リースの解約不能期間にリースを延長するオプションの対象期間(借手がオプションを行使することが合理的に確実である場合)およびリースを解約するオプションの対象期間(借手がオプションを行使しないことが合理的に確実である場合)の両方を加えたものとして、リース期間を決定する必要があります。

まず、A社は解約不能期間(この場合は6カ月)を決定する必要があります。次に、A社は強制可能期間を決定する必要があります。借手と貸手のそれぞれがリースを他方の承諾なしに多額ではないペナルティで解約する権利を有している場合には、リースにはもはや強制力がありません[IFRS第16号付録B B34項]。

この設例において、開始日におけるリースの強制可能期間は18カ月です。これは、リース開始日から、双方の当事者が僅少とはいえないペナルティで契約を解約することができる最も早い時点までの期間です。

借手の解約オプションに関するガイダンスを適用し、解約不能期間の最小値(借手の通知期間である6カ月)から強制可能期間の最大値(18カ月)までの間でリース期間を決定する必要があります。借手が18カ月間リースを継続する(つまり、解約しない)ことが合理的に確実である場合、リース期間は18カ月となります。

開始日において、契約の解約不能期間は6カ月(借手の解約通知)であり、強制可能期間は18カ月です。強制可能期間は、リース開始日から双方の当事者が僅少とはいえないペナルティを負担することなく、かつ他方の承諾なしに契約および契約上の義務から解放される最も早い時点までの期間です。したがって、リース期間は、借手に固有の事実および状況に基づき、6カ月から18カ月までの間で決定されることになります。

IFRS第16号第21項に従って、リースの解約不能期間に変化があった場合にはリース期間が改訂されます。この設例では、当事者が契約を解約しない場合、リースの残りの解約不能期間は常に6カ月となり(解約不能期間の終了日は1日ごとに延長されます)、残りの強制可能期間は常に18カ月(強制可能期間の終了日も1日ごとに延長されます)となります。

したがって、残存リース期間は常に最低6カ月となります。

代替シナリオ-借手が60カ月「更新」することが合理的に確実であることを除き、上記と同じ事実の場合

60カ月間リースを継続することが合理的に確実な借手には、その期間中、当該建物に留まる経済的インセンティブがあります[IFRS第16号付録B B37項]。したがって、60カ月の期間満了前に契約を解約した場合、A社は僅少ではないペナルティを負担することになり、IFRS第16号B34項に基づき、契約は60カ月強制可能です。したがって、リース期間は60カ月(すなわち、借手が建物に留まることが合理的に確実な期間)です。

執筆者

長谷川 友美

ディレクター, PwC Japan有限責任監査法人

Email

坂井 嘉兵衛

シニアマネージャー, PwC Japan有限責任監査法人

Email

岡村 嘉雄

シニアマネージャー, PwC Japan有限責任監査法人

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