消費者市場におけるIFRS会計論点およびソリューション:顧客に提供されたインセンティブおよびその他の類似の取引(1)

2022-10-24

消費財・小売・流通業における会計論点の中で、売上収益は最も重要な財務指標の1つであり、論点の多い会計領域でもあります。

収益認識においては、売上取引の内容を整理し、該当する論点を適切に把握することが重要です。

今回は、顧客に提供されたインセンティブおよびその他の類似の取引による収益認識の中から「数量値引き」「共同広告契約」「販売促進費および小売業者に支払われるその他の手数料」「価格保護」について解説します。

2. 共同広告契約

前提

X社は、その顧客2社(小売業者Yおよび小売業者Z)との間で、総額CU100百万の製品の販売に関する契約を締結しました。各契約には、以下に述べるように、製品広告およびプロモーションに関する顧客に対する義務も含まれます。

小売業者Y

小売業者Yとの契約は、小売業者Yに対し、X社の製品の広告を地元の新聞に掲載するよう求めています。X社は、過去に地元の新聞と直接、類似の契約を締結していました。X社がこの契約を小売業者Yと締結していなかった場合、X社が地元の新聞に広告を掲載することになります。

小売業者Yは地元の新聞と直接契約し、そのキャンペーン費用を全額支払います。X社は、広告費用の50%について、小売業者Yに払い戻しを行うことを約束しました。X社が小売業者Yに払い戻しを行うには、小売業者Yが地元の新聞に広告を掲載し、掲載した証拠を提供することが求められます。

X社は、小売業者Yに対して、当該サービスについて合理的に見積もることができる公正価値を支払っています。

小売業者Z

小売業者Zは、X社からCU10百万の広告手当を受け取る権利を有します。この契約は、小売業者Zに対し、年間を通じて定期的に、広告看板およびダイレクトメールでX社の財を宣伝することを求めています。小売業者Zは、自社が販売するブランドのみの広告を掲載します。

論点

X社は、これらの取引をどのように会計処理すべきでしょうか?

ソリューション

小売業者Yとの契約

X社が小売業者Yに支払う金額は、IFRS第15号第27項に記載されているように、別個のサービスに対するものです。X社は以前、類似の広告サービスを同様の価格で購入しており、そのサービスは第三者によって提供されています。また、X社は、小売業者Yが顧客であるかどうかにかかわらず、この契約を締結している可能性があります。X社は、小売業者Yに対して、当該サービスについて合理的に見積もることができる公正価値を支払っています。したがって、X社は、広告費用を損益計算書において費用として認識します。

X社が別個の広告サービスに対して小売業者Yに支払った対価が、受け取ったサービスの公正価値を超過する場合、超過して支払った対価は、超過額が実質的に小売業者Yに対する値引きを意味するため、販売した製品の取引価格の減額として認識されます。

状況によっては、受け取った別個の財またはサービスの公正価値を決定することが困難であることがあります。企業が受け取った財またはサービスの公正価値を判定できない場合、企業は支払のうちの小売業者に提供した値引きに該当する部分を算定できないため、小売業者に対して支払った対価または支払われる対価の全額を、取引価格の減額として会計処理しなければなりません。

小売業者Zとの契約

X社は、小売業者Zへの製品の販売から別個のサービスを識別すること、および/または契約を分離することができません。したがって、X社が小売業者Zに支払うべき金額は、X社の収益の減額として認識されます。

実務では、共同広告を別個のサービスとして識別するのが困難なことは多くあります。このような契約は通常、販売される製品の価格の一部として取り決められます。広告活動は具体的な合意がある場合とない場合があり、製品の販売に関して小売業者にしか実施できない「店内」広告または地元特有の広告が含まれることもよくあります。こうした要因のため、サービスが別個のものであると判断するのが困難になることが多くあります。

3. 販売促進費および小売業者に支払われるその他の手数料

前提

消費者製品を取り扱う企業が製品販売契約に関連して様々な手数料を支払うことは一般的な慣行であり、多くの場合、契約で合意されます。手数料にはさまざまな形態がありますが、一般的には、小売業者がより低価格で販売できるようにすること、小売業者の販売コストを削減すること、または広告を増やすことによって、企業の製品が最終顧客へより多く販売されるように設定されます。

消費者製品を取り扱う企業が小売業者に支払う手数料には、以下のものが含まれます。

  • 販売促進費……企業の製品を一定期間、小売業者の敷地内の有利なスペースに陳列するために支払われます。例えば、顧客の目に留まりやすいよう商品をレジの近くに陳列します。
  • パレット手数料……小売業者が財のパレットを購入し、店舗フロアに直接パレットを置いて商品の陳列と販売を行います。消費者製品を取り扱う企業は、販売数量の増加と梱包および取扱コストの削減が期待できることで正当化される値引きを小売業者に提供します。
  • 備品の補償……消費者製品を取り扱う企業が設定した基準を満たすために必要な小売店の改修の費用をその企業が小売業者に支払って補填します。これは、一時金として支払われるか、または将来の販売に対して値引きとして提供されることがあります。

これらの手数料とリベートはすべて会計上の考慮事項が類似しており、次の例で取り上げます。

X社は、小売業者Yに栄養ドリンクをCU10,000で販売します。同時に、X社は、自社製品を店舗の商品棚の目立つ位置に陳列し、売上が増えるようにする手数料(すなわち、販売促進費)として、小売業者YからCU500を請求されます。この手数料は栄養ドリンクの販売契約の一部として取り決められます。

論点

X社と小売業者Yは、この契約をどのように会計処理すべきでしょうか?

ソリューション

X社

X社は、Y社への支払と交換に別個の財またはサービスを受け取っていません。X社は、小売業者Yに支払った販売促進費を、小売業者Yへの財の販売から認識された収益の減額として認識しなければなりません。

販売促進費と同様に、パレット手数料や固定報酬等、製品の販売に連動し、小売業者の販売プロセスに貢献するその他の手数料は別個のサービスではないため、収益の減額として認識されるべきです。IFRS第15号第27項は、財またはサービスが別個であるかを判定するためのガイダンスを示しています。支払が、顧客から受け取る別個の財またはサービスに対するものかどうかを判定するには、判断が必要となります。顧客が通常販売している財やサービスを企業がその顧客から購入する場合、企業は顧客に別個の財またはサービスの代金を支払っているとされる可能性はあります。

小売業者Y

小売業者Yは、受領した金額をこの契約に基づいて取得した棚卸資産の取得原価の減額として認識しなければなりません。

4. 価格保護

前提

製造業者Bは、小売業者Cに財をCU1,000で販売する契約を締結します。また、製造業者Bは、製造業者Bから小売業者Cに財を販売してから6カ月間、この販売価格と、他の顧客に製造業者Bが提供した最低価格との差額を小売業者に返金する、価格保護条項も提供します。この条項は過去に提供した他の価格保護条項と整合するものであり、製造業者Bは自らの経験からこの契約について適切な予測が可能であると考えています。

製造業者Bは、価格保護期間中に5%の価格引き下げを提供すると見込んでおり、見積りが変更されても、収益の累計額に対する重大な戻入れは発生しない可能性が非常に高いと判断しています。

論点

製造業者Bはこの取引価格をどのようにして算定すべきでしょうか?

ソリューション

取引価格には、将来の事象に応じて変動する、または将来の事象を条件とした対価の要素が含まれます。IFRS第15号は、企業が「期待値」または「最も可能性の高い金額」のいずれかのうち、最終的な結果をより適切に予測することができる方法を用いて変動対価の金額を見積もることを要求しています。取引価格には、変動対価に関する不確実性がその後解決される際に、認識した収益の累計額の重大な戻入れが生じない可能性が非常に高い範囲でのみ、変動対価が含まれます。[IFRS第15号第50から58項]

払い戻しの予想額はCU50であるため、取引価格はCU950となります。契約開始時の取引価格は価格保護後にこの製造業者が権利を得ると見込んでいる対価の金額であるため、小売業者Cに対する支払の予想額は、契約開始時に取引価格に反映します。請求金額と取引価格との差異はこの小売業者に見込まれる返金を意味するため、製造業者Bは、これを負債として認識します。製造業者Bは、不確実性が解消されるまで、この見積返金額を報告日ごとに更新します。

企業が価格保護を提供する過去の慣行または期待を有していない場合には、IFRS第15号第72項の要求に従い、販売経路にある棚卸資産の金額に基づき、支払を申し出次第すぐに、すでに販売された財の収益の減額としてリベートを計上します。

また、小売業者が、顧客の購入価格と、直接の競合他社が提示するそれよりも低い価格との差額を顧客に返金するような価格保護方針を設定することも一般的です。多くの場合、そうした顧客との取決めは、販売後の限られた期間に提供されます。小売業者は、変動対価についてIFRS第15号のガイダンスを適用し、上記と同じ会計方針に従って、予想される払い戻しに係る負債を認識しなければなりません。

執筆者

長谷川 友美

ディレクター, PwC Japan有限責任監査法人

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坂井 嘉兵衛

シニアマネージャー, PwC Japan有限責任監査法人

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岡村 嘉雄

シニアマネージャー, PwC Japan有限責任監査法人

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