消費者市場におけるIFRS会計論点およびソリューション:財の販売による収益(2)

2022-10-02

消費財・小売・流通業における会計論点の中で、売上収益は最も重要な財務指標の1つであり、論点の多い会計領域でもあります。

収益認識においては、売上取引の内容を整理し、該当する論点を適切に把握することが重要です。

今回は財の販売による収益認識の中から「製品の販売:代理人なのか本人なのか」「請求済未出荷契約」「分割払い購入(予約販売)」について解説します。

2. 請求済未出荷契約

前提

ビデオゲーム会社のX社は、20x6年中に、小売業者Yに100,000台のビデオゲーム機を供給する契約を締結します。

契約には、ゲーム機の引渡場所に関する小売業者からの具体的な指示が含まれています。X社は、20x7年のこの小売業者が指定した日にゲーム機を引き渡さなければなりません。小売業者Yは、引渡時に十分な棚スペースを有していると見込んでいます。

20x6年12月31日現在、X社は、小売業者Yとの契約に関連する100,000台を含む、ゲーム機120,000台の棚卸資産を有しています。この100,000台は、他のゲーム機20,000台と一緒に保管されており、すべて互換可能な製品です。ただし、企業Xが棚卸資産を100,000台未満に減少させることはありません。

論点

X社が、小売業者Yに引渡予定の100,000台に関する収益を認識すべき時期はいつでしょうか?

ソリューション

請求済未出荷契約とは、顧客が引渡準備ができている財について請求を受けているが、企業が当該財を後日まで顧客に出荷しない場合に生じます。これらのケースにおいて、企業は、顧客が財を物理的に占有していない場合においても、支配が顧客に移転しているかどうかを評価しなければなりません。収益は、当該財の支配が顧客に移転する時点で認識されます。

IFRS第15号B81項において、以下の追加要件が示されており、顧客が請求済未出荷契約において支配を獲得するためには、これらの追加要件をすべて満たしている必要があります。

  • 請求済未出荷契約の理由が実質的なものである(例えば、顧客が当該契約を要求している)。
  • 当該製品が顧客に属するものとして区分して識別されていなければならない。
  • 当該製品は現時点で顧客への物理的な移転の準備ができていなければならない。
  • 企業は当該製品を使用したり別の顧客に振り向けたりする能力を有することができない。

X社は、請求済未出荷契約の要件が満たされるまで、またはX社による物理的占有がなくなり、かつ支配の移転に関する他のすべての要件を満たすまで、収益を認識すべきではありません。請求済未出荷取引を行う理由は実質的(棚スペースの不足など)であっても、小売業者Yのために製造されたゲーム機が他の製品と区分されていないため、その他の要件が満たされていません。

3. 分割払い購入(予約販売)

前提

小売業者Yは、顧客と契約を締結しました。この契約では、小売業者Yは、契約締結日に、価格がCU500の特定の商品を取り置きし、当該顧客からCU50の預け金を受領します。

商品は、購入価格が全額支払われた時点で顧客に引き渡されます。顧客が購入を完了しなければならない期間3カ月です。固定額の支払確約はなく、顧客は3カ月にわたり、数回に分けて支払うことができます。顧客が3カ月の期間終了までに購入価格を全額支払わなかった場合、預け金およびその後のすべての支払に対する権利が失効します。

小売業者Yは、予約期間中、当該商品を他の顧客注文の充足に使用し、類似する製品と交換することができます。小売業者Yは、顧客に商品が移転する前に紛失、破損または損壊した商品について、顧客が支払った預け金を返金しなければなりません。

論点

小売業者Yは、どの時点で収益を認識すべきでしょうか?

ソリューション

予約販売(「取り置き」または「留め置き」と呼ばれることもあります)では、売手が商品の取り置きおよび顧客からの現金の預け金の回収を行います。顧客が購入を完了しなければならない期間を売手が指定することがありますが、多くの場合、固定額の支払確約はありません。商品は、通常、顧客が購入価格を全額支払った時点で引き渡されます。顧客が購入価格の全額を支払わなかった場合、現金の預け金およびその後のすべての支払に対する権利が失効します。売手は、顧客に商品の支配が移転する前に紛失、破損または損壊した商品について、顧客が支払った預け金を返金しなくてはなりません。

小売業者Yは、最初に予約販売の取決めの中に契約が存在しているかどうかを判定する必要があります。一般的な予約販売の開始時においては、顧客がまだ義務(すなわち、購入価格全額の支払)の履行を確約していないために、契約が存在していない可能性が高くなります。小売業者Yは、契約の要件が満たされるまで[IFRS第15号第9項]、または顧客に対して残りの義務を有しておらず、かつ、顧客が約束した対価のすべて(またはほとんどすべて)を受け取るまで、もしくは、契約が解約されるまで[IFRS第15号第15項]、これらの契約に関する収益を認識してはなりません。

顧客が購入を確約しており、かつ契約が存在すると経営者が判断する場合、一部の予約販売は実質的な掛による売上となる可能性があります。そのような状況においては、経営者は、顧客に財の支配が移転した時期を判定する必要が生じることになります。予約期間中、選ばれた製品を他の顧客注文の充足に使用し、類似する財による代用が可能な企業は、それらの財の支配を保持している可能性が高くなります。経営者は、製品の支配がいつ移転したかを判定するため、IFRS第15号B81項に記載されている請求済未出荷契約に関する要件を考慮しなければなりません(請求済未出荷契約に関する詳細なガイダンスについてFAQ1.6を参照)。 

執筆者

長谷川 友美

ディレクター, PwC Japan有限責任監査法人

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坂井 嘉兵衛

シニアマネージャー, PwC Japan有限責任監査法人

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岡村 嘉雄

シニアマネージャー, PwC Japan有限責任監査法人

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