消費者市場におけるIFRS会計論点およびソリューション:財の販売による収益(1)

2022-10-01

消費財・小売・流通業における会計論点の中で、売上収益は最も重要な財務指標の1つであり、論点の多い会計領域でもあります。

収益認識においては、売上取引の内容を整理し、該当する論点を適切に把握することが重要です。

今回は財の販売による収益認識の中から「小売業への支配の移転」「運送サービスを伴う財の販売」「オンライン販売から生じる収益」について解説します。

2. 運送サービスを伴う財の販売

前提

電機メーカーのX社は、小売業者Yとの間でテレビの販売契約を締結しています。小売業者Yは、X社に対し、テレビの販売と運送の手配を依頼します。

契約では、X社の搬出場所において運送業者がテレビを引き取った時点で、法的所有権および損失のリスクが小売業者Yに移転すると規定されています。X社は、X社の搬出場所において運送業者がテレビを引き取った時点で(例えば、配送先の変更によって)、別の小売業者にテレビを販売ができなくなります。小売業者Yは、テレビが出荷された時点で当該テレビの支配を獲得すると判断しています。

論点

この契約にはいくつの履行義務が含まれているでしょうか、また、X社はどの時点で収益を認識すべきでしょうか?

ソリューション

この契約には、テレビの販売および輸送サービスを含む、複数の約束が存在しています。X社は、独立した履行義務があるかどうかを判定しなければなりません[IFRS第15号第22項]。

どの時点で製品の支配が小売業者Yに移転するのか、また、運送サービスが独立した履行義務かどうかを判定するために、X社は明示的な出荷条件を評価する必要があります。

X社が製品を顧客に出荷する(または出荷の手配をする)ことを約束した上で、製品の支配が出荷前に顧客に移転する場合、運送および荷役サービスは、独立した履行義務と見なされる可能性があります。これに対し、製品の支配が出荷前に顧客に移転しない場合、運送は顧客に対して約束したサービスではありません。これは、顧客への財の移転の一部としてコストが発生するからで、運送は契約履行のための活動だからです。

履行義務

小売業者Yは、運送サービスを受けなくても、テレビからの便益をそれ単独で得ることができます。テレビの支配は、当該テレビが出荷前にX社の搬出場所において運送業者に引き取られた時点で小売業者Yに移転していること、またX社は当該テレビを出荷する手配を約束済みであることから、運送サービスは別個のサービスであると見なされるため、独立した履行義務になります。

したがって、この契約には(1)テレビの販売および(2)輸送サービスという2つの履行義務があります。

収益の認識

X社は、X社の搬出場所においてテレビが運送業者に引き取られた時点で、テレビの販売による収益を認識すべきです。これは、当該テレビの支配が小売業者Yに移転するのがその時点だからです。

X社は、提供した運送サービスについて、契約の観点から履行義務を充足しているので、収益を認識すべきです。X社は運送を他の当事者(つまり、第三者である運送業者)が行う手配をしていることから、運送サービスに配分される収益を、本人として総額ベースで計上するのか、それとも代理人として純額ベース(つまり、認識する収益は、X社が受け取る手数料収入のみ)で計上するのかどうかについても評価すべきです。 

3. オンライン販売から生じる収益

前提

ある最終顧客は、小売チェーンX社のウェブサイトで直接洋服を購入します。当該ウェブサイトは、追加料金で最終顧客の自宅に配送するか、もしくは、最終顧客は、購入品を当該チェーンのいずれかの小売店舗で受け取ることができます。本ケースにおいて、可能な限り販売は店舗在庫を用いてX社が行い、商品は販売直後に取り置きがされます。最終顧客が配送先を変更することはできません。最終顧客は、商品を受け取るまで、物理的に占有しておらず、当該資産の検収もしていません。

顧客A:店舗での受取を選択し、支払1週間後に選択した店舗に行き、洋服を受け取ります。

顧客B:追加料金での自宅への配送を選択します。

論点

顧客Aおよび顧客Bについて、X社はどの時点で収益を認識すべきでしょうか?

ソリューション

顧客A

請求済未出荷契約とは、顧客が引渡し準備ができている財について請求を受けているが、企業が当該財を後日まで顧客に出荷しない場合に生じます。これらのケースにおいて、企業は、顧客が財を物理的に占有していない場合においても、支配が顧客に移転しているかどうかを評価しなければなりません。収益は、当該財の支配が顧客に移転した時点で認識されます。

IFRS第15号B81項において、以下の追加要件が示されており、顧客が請求済未出荷契約において支配を獲得するためには、これらの追加要件をすべて満たしている必要があります。

1. 請求済未出荷契約の理由が実質的なものでなければならない(例えば、顧客が当該契約を要求している)。

2. 当該製品が顧客に属するものとして区分して識別されていなければならない。

3. 当該製品は現時点で顧客への物理的な移転の準備ができていなければならない。

4. 企業は当該製品を使用したり別の顧客に振り向けたりする能力を有することができない。

本ケースにおいて、X社は、当該製品(つまり、洋服)を顧客A専用に取り置いた時点で収益を認識できると判断しています。これは、当該製品が顧客Aへの移転のために、受取場所で物理的に利用可能であり、かつ、当該製品を別の顧客には使用できないからです。したがって、この請求済未出荷契約において、顧客Aは当該製品に対する支配を獲得しています。

製品を倉庫から取り寄せる必要がある場合には、最終顧客が注文した製品を当該店舗が受け取るまで、請求済未出荷契約の要件を満たしていないことになります。「返品」に関する見積りについても考慮する必要があり、当該見積りには、請求されない製品も含めるべきです。

顧客B

X社は、当該製品が引き渡された時点で収益を認識すべきです。顧客Bは購入時に当該資産に対して支払を済ませていますが、受け取るまでは当該資産の使用を指図する能力を有していません。製品が引き渡された時点で支配が移転する指標には、顧客が配送先を変更する能力を有していないこと、また、顧客が商品を受け取るまで物理的占有を有しておらず、当該資産の検収もしていないことが含まれます。 

4. 返品権

前提

X社

X社は、最終顧客に製品を供給するために、小売ネットワークを使用しています。X社は、小売業者Yに製品100個を、単価CU50で販売します。各製品の原価はCU10です。小売業者Yへの引渡時に小売業者Yが当該製品の支配を獲得する時点で、X社は収益を認識します。

X社は、期待値法に基づき、販売した製品の6%が返品されること、および、返品予想の見積りに変更があっても、収益の累計額の重大な戻入れは生じない可能性が非常に高いと見積もっています。

小売業者Yは、製品に対する支配を獲得してから最長120日間、当該製品を返品して全額現金で返金を受けられる契約上の権利を有しています。X社は販売した製品に関してそれ以上の義務は負っておらず、小売業者Yは120日の経過後はそれ以上の返品の権利を有していません。

小売業者Y

小売業者Yは、自社の小売店舗を通じて最終顧客に製品を販売しています。小売業者Yが収益を認識するのは、製品が店舗で販売された時点(つまり、最終顧客が製品を物理的に占有し、全額支払った時点)です。小売業者Yには、顧客に購入後最長90日間、製品を返品する権利を与える返品方針があります。

小売業者Yは、期待値法に基づき、販売した製品の10%が返品されること、および、返品予想の見積りに変動があっても、収益の累計額の重大な戻入れは生じない可能性が非常に高いと見積もっています。

論点

この契約において、X社と小売業者Yはどのように収益を認識すべきでしょうか?

ソリューション

X社

返品権は、X社の独立した履行義務ではありませんが、販売した製品の見積取引価格には影響を与えます。IFRS第15号B21項により、X社は、小売業者Yから返品される見込みのない製品に対してのみ収益を認識することが要求されています。

X社は、売上高の94%(つまり、返品が予想される6%を除いたもの)を取引価格に含めた場合、収益の累計額の重大な戻入れは生じないと見積もっています。したがって、X社は、小売業者Yへの売上高の94%について収益を認識します。X社は、顧客へ返金されるため、権利を得ると見込んでいない対価の金額(すなわち、6%)について返金負債を認識しなければなりません。返金負債は、返品の見積りの変動を反映させるために各報告日に再測定され、対応する収益の修正が行われます。返金負債とは、現金を移転する義務です。したがって、返金負債は契約負債の定義を満たしていません。

X社はまた、資産の返品権を認識することも求められており、当該権利は、小売業者Yから製品(棚卸資産)の返還を受ける権利を表します。資産の返品権は、当該財の販売時の帳簿価額から当該財の回収のための予想コストおよび予想される価値の減少を控除した額で当初測定されます。そのため、資産の返品権は、売上原価を減少させることになります。返品時に返品された製品の価値が減少しているか、ゼロになると当該企業が予想する場合、資産が直ちに減損処理する可能性もあります。

資産の返品権は、返金負債とは区分して表示されます。資産として認識される金額は、返金負債に変動が生じた場合、および資産の減損を示す可能性のあるその他の状況の変化が生じた場合に見直す必要があります。 

収益:1ユニットあたりの販売価格 × ユニット数(返品が予想される数を除く):

(1 - 0.6ユニット)

売上原価:1ユニットあたりの原価 × ユニット数(返品が予想される数を除く):

CU10 × 94ユニット= CU940

資産の返品権:1ユニットあたりの旧帳簿価額 × 返品が予想されるユニット数:

CU10 × 6ユニット= CU60

返金負債:返品率 × 販売ユニット数 × 1ユニットあたりの販売価格:

6% x 100ユニット× CU50 = CU300(返金負債)

小売業者Yが購入した製品を返品する契約上の権利を有していなかったとしても、X社に返品を認める取引慣行がある場合には、上記と同じ方法で返品権の会計処理を行います。これは、IFRS第15号第10項において、契約は文書による場合もあれば、口頭による場合や報告企業の取引慣行により含意される場合もあると規定されているためです。

小売業者Y

X社と同様に、小売業者Yは、売上高の90%(つまり、返品が予想される10%を除いたもの)を取引価格に含めて収益を認識し、顧客へ返金されるため小売業者Yが権利を得ると見込んでいない対価の金額(すなわち、10%)について返金負債を認識して、対応する資産の返品権を認識すべきです。 

交換でしか返品を認めていない場合もあります。IFRS第15号第B26項において、顧客がある製品を同じ種類、品質、状態および価格の別の製品と交換することは、収益認識の観点から返品とは見なされないことが示されています。 

執筆者

長谷川 友美

ディレクター, PwC Japan有限責任監査法人

Email

坂井 嘉兵衛

シニアマネージャー, PwC Japan有限責任監査法人

Email

岡村 嘉雄

シニアマネージャー, PwC Japan有限責任監査法人

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