【2023年】PwCの眼(8)変化し続ける「制約条件」と、求められるバリューチェーン変革

2024-03-19

自動車産業では、長期的に環境負荷の低減、安心・安全の提供を目指すという方向性こそ共通だが、特に環境面での「山の登り方」は、各国で実需、助成方針の違い等から多極化・多様化していく兆しがみられる。直近の四半期に着目すると、2023年4-6月の電気自動車販売台数成長率は、前年同期比で欧州では+57%、米国では+60%、中国では+49%の成長であったが、2023年7-9月の同値は、中国では+12%に留まったのに加え、欧州では+50%、米国では+51%と成長が落ち着く兆しも見られている。結果として、国ごとにまだらに電気自動車事業への移管が進行する中、それに呼応したハイブリッド車を含む内燃機関車事業の縮小均衡の舵取りも求められる。本稿では、改めて多極化・多様化時代に自動車産業が取り組むべき変革を概観したい。

自動車産業が備えるべきこととしては、「制約条件」の段階的な変化が挙げられる。従前の自動車産業における長年の制約条件は、一定の需要の見立てに対する生産工程を中心とした効率化であった。今後、電気自動車事業が拡大する初期段階ではバッテリー生産、バッテリー資源確保(および内燃機関車も含め半導体確保)等の川上工程が制約条件となる。次なる段階として、不透明な電気自動車需要を先読み・喚起していくことが制約条件となるだろう。並行して、電動化に関する各国の規制・助成ルールに、製造工程の排出量が織り込まれていく中、それらの見える化・削減も考慮すべき制約条件である。

制約の解消にむけて、完成車メーカーは特に他社とも協調したバリューチェーン変革が不可欠である。初期段階ではバッテリー・資源調達先の確保にむけた協業よる制約軽減に加えて、バックオーダーを所与とした顧客体験・納期短縮、長納期化に備えたソフトウェア更新による最新化等を組み合わせていく必要がある。次なる段階として、工場稼働を平準化すべく、ディーラーとの協業や役割の見直しを含む、販売工程や車両の保有・利用段階のデータに基づく需要予測や、柔軟な価格設定等を含む販売促進、価格の根拠となる車両製造コスト予測が求められる。合わせて、各国ルール動向も踏まえながら、排出量の見える化を調達先と協業しながら推進していくことも期待される。これらの変化は、一度構築されはじめれば内燃機関車にも適用されていくだろう。特に電気自動車の生産工程の変化や、ソフトウェアディファインド化による変化については、具体的方向性を次稿以降で詳述したい。

加えて、目指すべき自社像・応えるべき期待に基づいた、ファン層の維持・拡大の重要性も変革の一翼を担う。合理的な製造工程・顧客体験創出工程を追求は、同質化・コモディティ化していくリスクを内包している。差別化につながりうる非合理・普遍的な要素として、自社ならではの革新性や顧客接点を織り込んだ顧客体験の提供等、自社顧客の既存ファン層に応え、新規ファン層を呼び込むことが対抗策となるだろう。

執筆者

阿部 健太郎

ディレクター, PwCコンサルティング合同会社

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※本稿は、日刊自動車新聞2023年12月25日付掲載のコラムを転載したものです。
※本記事は、日刊自動車新聞の許諾を得て掲載しています。無断複製・転載はお控えください。
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