
レジリエントな明日を目指したサーキュラーエコノミーの採用 アジア太平洋地域の変革
本レポートでは、サーキュラーエコノミーがアジア太平洋地域の経済、産業、排出量に及ぼし得る影響について調査しました。また、企業の競争力を高める5つのサーキュラービジネスモデルや、移行に向けた課題および実現要素を考察します。
※本稿は、2023年4月10日号(No.1674)に寄稿した記事を転載したものです。
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有価証券報告書においてサステナビリティ情報の開示が義務化されるなど、カーボンニュートラルを目指した脱炭素の取組みが待ったなしの状況となっている。経理部門は、気候関連の情報開示やグリーンボンドによる資金調達など、脱炭素の取組みに関与する機会が増えると予想され、ある程度の知識が必要となる。しかし、伝統的な財務会計に基づく情報の開示とは異なる分野であるため、理解が進みにくい状況にあると推察される。そこで、脱炭素の基礎的な事項および経理部門に関連する事項を、わかりやすいQ&A形式で解説していく。第2回は、GHGについて解説する。
なお、文中の意見に係る記載については、筆者の私見であることをあらかじめ申し添える。
地球温暖化を防ぐために、温室効果ガスを削減する必要があるといわれているが、この温室効果ガスとは、具体的にどのようなものなのか。
第1回において、二酸化炭素(以下、「CO2」という)は、温室効果ガス(Greenhouse Gas、以下、「GHG」という)の一部であると簡単に説明したが、GHGにはCO2以外のガスも含まれている。
GHGは、地球規模における気候の温暖化をもたらす要因となる温室効果ガスを意味する。京都議定書の第二約束期間では、CO2、メタン(以下、「CH4」という)、亜酸化窒素(または一酸化二窒素、以下、「N2O」という)、有機フッ素化合物(ハイドロフルオロカーボン類、以下、「HFCs」という)、代替フロン類(パーフルオロカーボン類、以下、「PFCs」という)、六フッ化硫黄(以下、「SF6」という)、および三フッ化窒素(以下、「NF3」という)の7種類のGHGについて、先進国の排出削減数値目標などが採択された。各ガスの特徴は、図表1に要約するとおりである。
図表1:7つのGHGの概要
種類 | 概要 |
CO2 | CO2は、地球温暖化に及ぼす影響がもっとも大きなGHGである。石炭や石油のエネルギー消費などにより大気中に放出される。エネルギー使用を起源とするCO2の排出量を削減していくためには、「エネルギー低炭素化(再生可能エネルギー化)」と「省エネルギー」が必要である。大気中のCO2の吸収源である森林が減少しているため、森林等の土地利用およびその変化に伴う温室効果ガス排出も問題とされている。 |
CH4 | CH4は、CO2に次いで地球温暖化に及ぼす影響が大きいGHGである。湿地や池、水田で枯れた植物が分解する際に発生し、家畜からも生じる。さらに、天然ガスを採掘する際にも発生する。 |
N2O | N2Oは、肥料の使用や化学物質の製造過程で生じ、オゾン層を破壊する特性がある。二酸化炭素の約300倍の温室効果があるとされ、排出抑制の対象となっている。 |
HFCs | HFCsは、いわゆるフロンの一部である。エアコン、冷蔵庫や冷凍庫の冷媒など、身の回りのさまざまな用途に活用されてきたが、地球温暖化といった地球環境への影響が明らかになったため、日本においてフロン排出抑制法が定められ、排出抑制の対象となった。 |
PFCs | PFCsは、フルオロカーボン類の1つである。撥水性が高く、化学的にも安定しているため、コーティング剤など幅広く使用されてきた。大気寿命(大気に残存する期間)が長く、GHGの1つとして排出抑制の対象となっている。 |
SF6 | SF6は、常温常圧においては化学的に安定度の高い無毒、無臭、無色、不燃性の気体で、電気および電子機器の分野で絶縁材などとして広く使用されている化学物質である。地球温暖化係数が大きくかつ大気寿命が長いため、排出抑制対象となった。 |
NF3 | NF3は、電子デバイス(半導体など)の製造に使われる。使用量が少ないため地球の大気に対する環境に与える影響は小さいといわれてきたが、NF3の地球温暖化係数(GWP)はCO2の17,200倍とされている。2013年の「地球温暖化対策の推進に関する法律(以下、温対法)」改正でGHGに追加された。 |
2020年度における日本のGHG排出量を図表2に示す。「日本国温室効果ガスインベントリ報告書」によれば、全体的な排出量は減少傾向であり、排出量のほぼ90%以上がCO2で構成されるとされている。
第1回でtCO2などのCO2に関する単位について説明した。CO2以外のGHGも、CO2と同様にtCH4やtN2Oとして表示する。ただし、異なる単位による表示がわかりにくいこともあり、CO2に換算して表示することが多い。財務会計でいえば、外貨建取引の本邦通貨への換算というところか。各種のGHGの排出量に地球温暖化係数を乗じてCO2相当量に換算し、CO2eqもしくはCO2e(「CO2イクイヴァレント」または「CO2イーキュー」と呼ぶ)などの単位が使用される。
この換算に使用される地球温暖化係数は、二酸化炭素を基準にして、他のGHGがどれだけ温暖化する能力があるかを表している。詳細に説明すれば、単位質量のGHGが大気中に放出されたときに、一定時間内に地球に与える放射エネルギーの積算値、すなわち温暖化への影響をCO2に対する比率として見積っている。
地球温暖化係数については、まだ世界的に統一された計算方法がなく、気候変動に関する政府間パネル(以下、「IPCC」という)の報告書でも毎回数値が変わっている。日本国温室効果ガスインベントリ報告書および温対法で使用されている地球温暖化係数は、IPCC第4次評価報告書の100年値が使用されている(図表3)。
図表3:主な温室効果ガスの地球温暖化係数一覧
第2次評価報告書 | 第4次評価報告書 (算定報告公表制度において使用) |
第5次評価報告書 | |
CO2 | 1 | 1 | 1 |
CH4 | 21 | 25 | 28 |
N2O | 310 | 298 | 265 |
HFCs | 140-11,700 | 12-14,800 | 4-12,400 |
PFCs | 6,500-9,200 | 7,390-17,340 | 6,630-11,100 |
SF6 | 23,900 | 22,800 | 23,500 |
NH3 | - | 17,200 | 16,100 |
(出所)経済産業省 第3回 産業構造審議会 製造産業分科会 化学物質政策小委員会 フロン類等対策ワーキンググループ参考資料3、および環境省温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度における算定方法・排出係数一覧をもとに筆者作成
GHGの排出量は、地球規模における問題であり、それは、経済発展と関係があるとの考えがある。世界におけるGHG排出の状況について表したのが図表4である。
全体的な傾向は、前回説明した世界におけるCO2の排出量と同じで、継続的に増加している。大幅な増加がみられるのは、いわゆるBRICsを含むOECD非加盟のG20国が、1990年から2019年の間の30年の間に経済発展を遂げたことにより、GHG排出量も大幅に増加し、世界におけるGHG排出割合の大きな割合を占めるようになっている。2019年における世界におけるGHG排出状況は、図表5に表すとおりである。
GHG排出量は、目に見えないものであるが、どのように測定するのか。
GHG排出量は、直接大気を測定するのではなく、統計データなどに基づき算定している。活動の規模に関する量(活動量)に排出係数を乗じて排出量を算出するのが一般的な考え方となる。詳細は後述するが、たとえば、1年間の電気使用に伴うCO2の排出量は、1年間の電気使用量(=活動量)に、電気の単位使用量(1kWh)当たりの使用に伴って排出されるCO2の量(=排出係数)を乗じて得られる。また、CO2以外のGHGは、先に述べた地球温暖化係数を使用しCO2排出量への換算を行い整理することが多い。
一般的なGHG排出量の算定方法は、日本においては、「温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度」(通称SHK制度)のマニュアルで整備されている。諸外国にも類似する制度があり、算定の考え方は、各国で大きな差はないものの、算定の範囲や排出係数などでは各国で異なる部分もある。
活動量とは、GHGを発生させる活動レベルの定量的な測定値である。たとえば、燃料消費量や電気の使用量や貨物の輸送量、廃棄物の処理量などがある。活動量の把握方法としては、たとえば、燃料の場合は、その種類ごとの請求書や購入伝票、電気の場合は、供給する事業者からの請求書等により把握できる。財務会計の世界でいえば、原価計算のための情報収集に類似しているとも考えられる。
排出係数は、GHG排出係数、CO2排出係数、炭素排出係数などの総称で、何の排出係数を示すかはその単位に注目する必要がある。GHG排出係数とは、活動量をGHG排出量に換算するための係数で、単位使用量当たりのGHG排出量である。燃料の使用に係るGHG排出係数は、燃料種類ごとの単位発熱量、炭素排出係数、炭素量からCO2量へ換算する44/12が乗じられた値となっている。たとえば、燃料消費量1キロリットル当たりのCO2排出量やガス1千ノルマル立方メートル当たりのCO2排出量がある。エネルギー起源CO2以外にも、家畜の飼養1頭当たりのCH4排出量、農業廃棄物の焼却1トン当たりのN2O排出量などがある。
炭素排出係数とは、燃料の単位発熱量当たりの炭素排出量である。低炭素エネルギーは何かという意味においては、単位熱量当たりの炭素排出量が少ない、つまり燃料の炭素排出係数が小さい燃料ほど、地球温暖化をもたらす程度が小さくなり、より低炭素な燃料であるといえる。
具体的には、次のステップにより計算される。
なお、単位発熱量と炭素排出係数、44/12をあらかじめ乗じたCO2排出係数が把握できている場合は、活動量にこの係数を乗じてCO2排出量の算定が可能である。次頁図表6は各種燃料の単位発熱量と炭素排出係数、CO2排出係数((参考)部分)の関係を示したものである。
図表6によれば、たとえばガソリンを1キロリットル使用すると、およそ2.32tCO2(算式1参照)が発生する。
図表6:各種燃料の単位発熱量と炭素排出係数の例
燃料の種類 | 単位発熱量 (GJ/t、GJ/kl) (a) |
炭素排出係数 (tC/GJ) (b) |
(参考) 単位発熱量×炭素排出係数×44/12 (tCO2/t、tCO2/kl) (c)=(a)×(b)×44/12 |
一般炭 | 25.7 | 0.0247 | 2.33 |
ガソリン | 34.6 | 0.0183 | 2.32 |
ジェット燃料油 | 36.7 | 0.0183 | 2.46 |
灯油 | 36.7 | 0.0185 | 2.49 |
軽油 | 37.7 | 0.0187 | 2.58 |
(出所)環境省・経済産業省「温室効果ガス排出量算定・報告マニュアル Ver.4.8」をもとに筆者作成
算式1:排出量の計算例
2.32tCO2=1kl×34.GJ/kl×0.0183tC/GJ×44/12 |
単位の説明を含め、CO2やGHG排出量の算定方法について説明した。もう1つ、GHGの排出に関して理解が望まれる考え方として、原単位がある。原単位とは、一定量の生産物をつくるために使用または排出する気体や液体などの量を意味する。たとえば、一定量の生産物をつくるのに必要とするエネルギーをエネルギー原単位という。GHG排出量については、一定量の生産物をつくる過程で排出するCO2排出量を排出原単位といい、たとえば、排出原単位は算式2のように算出される。
算式2:排出原単位
排出原単位=排出量 / 経済活動量 |
経済活動量(数式の分母)には、製品個数、売上金額、付加価値金額、重量(t)、体積(㎥)、面積(㎡)などが使用され、排出量(数式の分子)には、その経済活動量に伴って排出されるGHGの量(tCO2)などが使用される。
気候変動対策や省エネ、省資源、環境汚染物質の削減などにおいて、目標設定や実績評価をする場合、原単位の使用と、総量の使用という2つの考え方がある。
原単位を使用する利点は、エネルギー効率や排出効率に着目できる点にある。製品1個当たりや売上金額当たり等の経済活動量(たとえば、製品1個当たりや売上金額当たり等)に応じたエネルギー使用量やGHG排出量を削減する活動は、わかりやすく、活用しやすい。しかし、原単位の考え方で効率を改善するという目標を達成したとしても、生産量や販売量などの経済活動量そのものが増えると、全体のGHG排出量の増加につながる可能性がある。つまり、原単位の考え方では、効率さえ改善できれば、GHG排出量は増えても、それで目標達成という結果に陥る可能性がある点、留意しなければならない。
事業活動全体のGHG排出量(総量)の削減を行うためには、原単位での効率改善に取り組むと同時に、経済活動量の増加に伴う総量増加の可能性にも配慮する必要があるだろう。
本レポートでは、サーキュラーエコノミーがアジア太平洋地域の経済、産業、排出量に及ぼし得る影響について調査しました。また、企業の競争力を高める5つのサーキュラービジネスモデルや、移行に向けた課題および実現要素を考察します。
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