グローバルデジタル貿易規定-WTOでの交渉案(WTO)

2025-01-09

2024年7月26日、世界貿易機関(WTO)は、電子商取引に関する共同声明イニシアティブ(JSI)(2017年立上げ)に基づく電子商取引協定のテキスト案を公表した。税務の観点からは、JSIは主に2つの理由(電子的な送信に関する関税の賦課を禁止することを約束している点と、電子インボイスの普及を促進する措置を支持している点)で重要である。より広範には、JSIはデジタル貿易を促進するためのペーパーレス取引やデータ交換、消費者保護(電子商取引に対する消費者の信頼と安心感を高めるため)、個人データ保護、サイバーセキュリティー、電子決済などの事項を網羅する包括的な枠組みを示している。今回の協定は、グローバルなデジタル貿易の効率化に焦点を当てており、多くの国が電子的な送信に関する関税を課さないことを約束している。90超のWTO加盟国・地域(WTO加盟国・地域の半数超)が積極的に参加しており、欧州連合(EU)も含まれている。この協定は、デジタル貿易を規制する初のグローバルなルールを確立し、発展途上国および最貧国であるWTO参加国・地域のデジタル包摂(digital inclusiveness)と経済成長を支援することを目指している。参加国・地域は現在、合意されたテキストをWTOの法的枠組みに統合することに注力しているが、これはすべてのWTO加盟国・地域のコンセンサスを必要とするプロセスである。本協定の最終形はまだ確定しておらず、今後の議論の後に変更される可能性がある。なお、修正されたとしても、すべてのWTO加盟国・地域が本協定案を採用する保証はないということに留意が必要である(注1)。デジタル貿易に関するさまざまな複数国間措置がすでに存在している(注2)なかで、本件は、デジタル貿易に関する初のグローバルなルールを確立するための新たな一歩となる。なお、本協定案は、1998年に始まったWTO電子商取引モラトリアム(2026年3月に更新見込み)を存続させることを目的としている。このモラトリアムは、電子的な送信に対して関税を課さないことを約束したものである。しかしながら、特定の発展途上国からの懸念により、モラトリアムのさらなる延長は困難となる可能性も出てきている(注3)。現在のグルーバル税制は、納税義務およびデータ共有と報告に関して非常に複雑化している。第2の柱は事業とそのプロセスに大きな影響を与えており、付加価値税(VAT)規定は特にサービスに関して、クロスボーダーのデジタル取引に関連して急速に拡大している。今後、デジタルサービス税(DST)やクロスボーダーのサービスに関する規制の変更についてもさらなる動きが予想される。

(注1)米国、ブラジル、コロンビア、エルサルバドル、グアテマラ、インドネシア、パラグアイ、台湾、トルコなどは、今回の参加国・地域リストに加わっていない。
(注2)例えば、2021年発効のDEPA(ニュージーランド、チリ、シンガポール間の合意で、2024年には韓国も参加。中国、カナダ、コスタリカ、ペルー、UAE、エルサルバドルが申請中)や、2022年発効のRCEP(ASEAN10カ国と日本、中国、韓国、オーストラリア、ニュージーランドが参加)、がある。
(注3)OECDの分析によれば、本モラトリアムによる税収への影響は軽微で、平均して総関税収入の0.68%、総税収の0.1%とされる。OECDによると、適切に設計されたVAT/GST(付加価値税/一般消費税)により、多くの国で税収への影響を補えるとされる。

出典:PwC, Tax Policy Alert
「月刊 国際税務」2024年11月号収録 Worldwide Tax Summary
PwC税理士法人編
PwC税理士法人顧問 岡田 至康 監修

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