IFRSを開示で読み解く(第46回)初度適用②移行日の資本に対する調整に関する注記

2026-03-03

2026年3月3日
PwC Japan有限責任監査法人
財務報告アドバイザリー部

IFRSを開示で読み解く(第45回)」では、日本の国際財務報告基準(IFRS)初度適用企業における免除規定の開示状況について調査しました。本稿では、IFRS初度適用企業における移行日の利益剰余金に対する調整の開示について取り扱います。

IFRS第1号「国際財務報告基準の初度適用」では、従前の会計原則からIFRSへの移行が財務諸表に与える影響を説明するため、初度適用時のIFRS財務諸表において、「(i)IFRS移行日、(ii)従前の会計原則に従った企業の直近の年次財務諸表に表示されている最終期間の末日」の両方の日付について、「IFRSに準拠した資本への調整表」(第24項(a)参照)、および「企業の直近の年次財務諸表における最終期間についてIFRSに準拠した包括利益合計額への調整表」(第24項(b)参照)の開示が求められています。

上記2つの調整表では、調整内容が理解できるように十分な詳細を示す必要があるため、重要な調整内容については定性的・定量的な説明が行われます。その際の調整額に関して、表示組替、認識や測定の差異などに分類して開示、注記を行っている企業が多くあります。そこで今回は、資本に対する調整に関する注記に着目し、中でも利益剰余金に対する調整内容について取り上げます。

調査対象企業は、第45回と同様、2024年12月末時点で日本取引所グループが公開しているIFRS適用済企業のうち、四半期報告書、半期報告書、有価証券報告書または有価証券届出書において初度適用時に選択した免除規定を開示している256社です。

なお、本文中の基礎情報は執筆当時のものであり、意見にわたる部分は筆者の見解であることをあらかじめ申し添えます。

1. 利益剰余金の調整内容の開示状況

IFRS移行日における利益剰余金に対する調整については、資本に対する調整に関する注記の中の、項目ごとの調整額を示す利益剰余金の内訳表により詳細な内容を把握することができます。今回は調査対象企業256社のうち、利益剰余金の内訳表を開示していた228社を対象に調整項目を分析しました(図表1)。調整項目の記載名称は企業によって異なっていますが、分析にあたっては、調整項目の名称および注記の記載内容に基づきIFRS基準書別に分類し、企業数の集計を行いました。

図表1:利益剰余金の内訳表における調整項目(対象:228社)

各調整項目において、開示されていた内容を簡単に紹介します。なお、以下はあくまで例示であり、全てのケースを網羅するものではありません。

未消化の有給休暇に係る債務の認識、確定給付制度の再測定による調整などが見られました。詳しくは「2. 利益剰余金の調整項目別の傾向と分析」で後述します。

各基準差異の調整に伴う税効果の調整、繰延税金資産の回収可能性の再検討による調整などが見られました。

減価償却について見直しを行ったことによる調整などがありました。詳しくは「2. 利益剰余金の調整項目別の傾向と分析」で後述します。

換算差額累計額に対する免除規定(IFRS第1号D12~D13A項)を適用しており、IFRS移行日現在の換算差額累計額の全額を利益剰余金へ振り替える調整が多くありました。また、在外連結子会社の財務諸表の連結財務諸表の表示通貨への換算について、収益および費用の換算レートを日本基準で許容されている決算日レートから、取引日レート(期中平均レートの使用も可)へ変更する調整も見られました。

資本性金融商品の公正価値測定や有利子負債の償却原価測定などによる調整が多くありました。詳しくは「2. 利益剰余金の調整項目別の傾向と分析」で後述します。

のれんや無形資産への振替に関する調整が多くありました。日本基準ではのれんについて償却しますが、IFRSではのれんは非償却であるため、IFRS3号を適用する場合のれんの償却額を戻す調整が生じます。一方、企業結合の免除規定(IFRS第1号C1項)を適用する場合、従前ののれんの帳簿価額を引き継ぐことができますが、IFRS移行日に減損テストを実施する必要があります。このため移行日時点の減損テストによるのれんの減損損失を計上している調整も多くありました。

日本基準では、支配が一時的であると認められる企業や重要性が乏しい子会社などは連結の範囲から除外することが認められていますが、IFRSでは基本的に全ての子会社が連結対象となります。そのため、従来連結対象外としていた子会社を新たに連結範囲に含める調整が見られました。

一定の要件を満たす開発費を資産計上する調整、耐用年数等の見直しによる調整などがありました。

収益認識基準として、日本基準では代替的取り扱いとして出荷基準が認められていますが、IFRSではそのような代替的な取り扱いが認められないため、収益の認識時点を変更することに伴う調整が見られました。

IFRS16号においては、基本的に借手のすべてのリース取引が資産計上されます。日本基準においてオペレーティング・リースとして費用処理していた取引に関する調整が見られました。

なお、日本基準においても企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」が公表され、原則適用となる2028年3月期(早期適用の場合、2026年3月期)以降は、リースに関する調整は従前に比べ大幅に縮小すると考えられます。

固定資産税等の賦課金について、日本基準には特段の定めがなく、期間按分や納税通知書到来日、納付日における一括計上等さまざまな実務がありますが、IFRSでは義務発生事象が生じた時点で負債として認識する必要があります。そのため、賦課時点で債務を計上していない賦課金に対する調整が見られました。

日本基準で貯蔵品として計上していた販売促進を目的とした物品などについて、IFRSの棚卸資産の定義を満たさないことから、費用処理による利益剰余金への調整が見られました。

持分法の適用範囲を見直した結果、持分法で会計処理される投資の金額に調整が見られました。

日本基準では本源的価値により測定していたストックオプションを、IFRSでは公正価値に基づいて測定したことによる調整が見られました。また、日本基準で引当金計上していた業績連動型株式報酬制度について、IFRSでは持分決済型株式報酬として資本の増加を認識したことによる調整も見られました。

日本基準は割引前将来キャッシュフローの総額が帳簿価額を下回る場合にのみ、回収可能価額と帳簿価額の差額を減損損失として認識する2ステップ方式ですが、IFRSでは回収可能価額が帳簿価額を下回る場合に減損損失を認識する1ステップ方式です。有形固定資産や無形資産について回収可能価額が帳簿価額を下回るため、減損損失を計上することによる調整が見られました。また、IFRSで求められる減損損失の戻入を計上することによる調整も見られました。

IFRSでは補助金を繰延収益として認識または資産の帳簿価額から控除し、規則的に償却する方法が規定されています。日本基準には特段の定めがないことから、補助金について受領時における一括収益計上処理から繰延処理への調整が見られました。

日本基準とIFRSの引当金の認識要件の違いにより、調整が行われていました。例えば、日本基準で将来の大規模定期修繕に備えた費用を定期修繕引当金として計上していましたが、IFRSで引当金の認識要件を満たさず取り崩している調整が見られました。

上記のうち(1)従業員給付、(3)有形固定資産、(5)金融商品については、「2. 利益剰余金の調整項目別の傾向と分析」で要因別に見ていきます。

なお、開示企業数が多い10項目について、調整項目を業種別に集計すると以下のとおりでした(図表2)。

図表2:【業種別】利益剰余金の内訳表における調整項目(対象:228社)

2. 主な調整項目の要因別分析

ここからは「従業員給付」、「有形固定資産」、「金融商品」の3項目について、資本に対する調整に関する注記の項目別の記載内容(以下、注記内容)を元に要因別に分類して分析した内容を紹介します。

従業員給付

「従業員給付」に関する調整項目を開示していた企業197社について、要因別に分類すると以下のとおりでした(図表3)。

図表3:従業員給付の要因別内訳(対象:197社)と調整影響

図表3左側の棒グラフで示しているとおり、要因別で最も多いのは未消化の有給休暇の債務(158件)でした。日本においては労働基準法によって有給休暇の付与が義務付けられているため、ほとんどの企業で該当する可能性が高い項目です。日本基準では未消化の有給休暇を負債として認識しない会計実務が一般的であるため、IFRS移行時には理論上ほぼ全ての企業で利益剰余金への調整が生じると想定されますが、実際の開示件数は想定と比べて少ない状況でした。この理由としては、調整を内訳表の「その他」に含めて開示し各項目内での定性的な注記にとどめていた企業が複数あったこと、また、米国会計基準からIFRSへの移行企業においては両基準の会計処理の類似性から実質的な調整が生じなかったことが考えられます。

なお、図表3右側の円グラフは未消化の有給休暇の債務と確定給付制度の再測定について利益剰余金の調整影響を集計した結果を示しています。負債が増加する場合の調整は利益剰余金に対してマイナスの影響が生じますが、確定給付制度の再測定についてはマイナス影響額が50億円以上の企業が44%を占める一方、未消化の有給休暇の債務は17%と、金額規模の観点では異なる順位となりました。それぞれの最大値は、確定給付制度の再測定が4,914億円、未消化の有給休暇の債務が358億円であり、相当程度の差が生じています。

確定給付制度の再測定に係る開示企業数は122件でした。これは主として、数理計算上の差異および過去勤務費用の認識に関するもので、移行日時点におけるその他包括利益(以下、OCI)から利益剰余金への調整でした。調整内容を簡単にまとめると図表4のとおりです(連結財務諸表を想定)。

図表4:確定給付制度の再測定に関する調整内容

調整内容

日本基準

IFRS

利益剰余金に対する調整

数理計算上の差異

  • OCIで即時認識
  • 原則、平均残存勤務期間以内の一定の年数で按分した額を毎期費用処理(リサイクル)
  • OCIで即時認識
  • 一度OCIに認識した金額を損益へリサイクルすることは禁止。ただし、資本の中で直接利益剰余金へ振り替えることは認められている。
  • 移行日時点のOCI累計額に認識されている未認識の数理計算上の差異を利益剰余金へ振替
    (OCIで即時認識後直ちに利益剰余金に振り替える会計方針を採用した場合)

過去勤務費用

  • 数理計算上の差異と同様
  • 発生時に費用として認識
  • 未認識の過去勤務費用を移行日の期首の利益剰余金として振替

貸借対照表においては、日本基準(連結財務諸表)でもIFRSでもOCIで即時認識されますが、損益処理が異なることから利益剰余金の調整が行われていました。また、この他、日本基準とIFRSで期間配分方法や割引率など算定要素に差異があるため再計算が必要となる場合があります。再測定の注記内容の中で、再計算についても言及していたのは43件でした(図表5)。

図表5:確定給付制度の再計算内容(対象:122社)

再計算を行った43件のうち、算定要素の変更内容で最も多かったのは割引率等の数理計算上の仮定の変更でした。各社の注記内容は、主として割引率および期待運用収益率に関する記載で、日本基準とIFRSでの割引率の設定方法が異なることや、IFRSでは期待運用収益率の考え方がなく割引率を用いて算定されることによる調整です。また、「死亡率」を算定要素の変更内容として開示している企業もありました。IFRSでは日本基準と異なり、将来の死亡率の変動の見込みを織り込むことが規定されているためです。

次いで多かったのは期間配分方法等の差異によるものです。日本基準では期間定額基準と給付算定式基準の選択適用が認められているため、期間定額基準を選択している場合はIFRS移行に伴い給付算定式基準を適用することになり調整が生じています。

有形固定資産

「有形固定資産」に関する調整項目を開示していた138社について、要因別に分類すると以下のとおりでした(図表6)。

図表6:有形固定資産の要因別内訳(対象:138社)

ⓐ減価償却方法の見直し、ⓒ耐用年数の見直し、ⓔ残存価額の見直し、と減価償却に関する調整が最も多く、ⓐ減価償却方法の見直しにおいては、IFRSでは定額法を採用している旨の開示が多く見られました。

次いで多かったのはⓑみなし原価で、IFRS移行日現在の公正価値をみなし原価として使用する免除規定が適用されていました。

その他要素別に見ていくと、取得原価の構成要素の調整として、当初コストに含まれるⓓ固定資産取得税の取得原価計上およびⓕ資産除去債務、取得後のコストであるⓘ大規模修繕費用がありました。

不動産取得税などの固定資産の付随費用は、法人税法上取得原価に含めずに費用処理することを選択できるため、日本基準において発生時に費用処理している場合がありますが、IFRSでは輸入関税および還付されない取得税は取得原価に計上する必要があることからIFRS調整が必要となります。

資産除去債務の調整には、日本基準での敷金から控除する簡便法処理をIFRSでの負債計上および固定資産の取得原価に加算する調整(6件)と、報告期間末日における割引率の見直しによる再測定(3件)が含まれています。

大規模修繕費用は、化学産業などの製造業において大規模な製造設備を有している場合、定期的な点検や修繕が必要であるため、有形固定資産の認識要件を満たした場合には有形固定資産の取得原価に加算されることになります。

また、日本基準特有の処理に関する調整として、ⓖ圧縮記帳の直接減額の取消、ⓗ土地評価差額金の取崩、ⓙ少額資産の追加計上がありました。

圧縮記帳の直接減額方式の処理は、IFRSにおいて政府補助金以外では認められないことから、日本基準での直接減額方式の処理を取り消すことになります。

土地評価差額金はIFRSでは認められていないため取り崩しが行われます。

日本基準において少額資産として費用処理している場合に、IFRSで有形固定資産として認識する調整がありました。

金融商品

「金融商品」に関する調整項目を開示していた121社について、要因別に分類すると以下のとおりでした(図表7)。

図表7:金融商品の要因別内訳(対象:121社)

要因別内訳で最も多いのは資本性金融商品(77件)でした。資本性金融商品とは、企業の全ての負債を控除した後の資産に対しての残余持分を証する契約であり、主に株式が該当します。

調整要因として開示されていた内容には、主として市場価格のない非上場株式などの公正価値測定がありました。市場価格のない非上場株式は、日本基準では取得原価で計上し、発行会社の財政状態の悪化に応じて減損処理が行われますが、IFRSでは原則として全ての資本性金融商品を公正価値で測定し、その変動をその他包括利益または純損益に計上するため、調整が生じます。

次いで多かったのは、有利子負債の償却原価測定(27件)です。借入金や社債などの発行手数料は、日本基準では基本的に支出時に費用処理されますが、IFRSでは一部を除き償却原価測定に含めて、満期までの期間にわたって費用処理します。また、利息を期間配分する方法についても差異があり、日本基準では利息法と定額法が認められていますが、IFRSでは実効金利法を用いる必要があります。

資本取引コストとは株式交付費用などを指し、日本基準では費用処理もしくは繰延資産計上されますが、IFRSでは資本取引に付随する費用として資本から直接控除する必要があります。

その他、企業が保有または発行するデリバティブや優先株式、転換社債型新株予約権付社債などの金融商品に関する調整について開示されていました。

最後に

利益剰余金の内訳表における調整項目の開示状況を分析した結果、IFRS移行に伴う会計方針の差異に対して、企業がどのように対応しているかが明らかになりました。従業員給付や法人所得税、金融商品、有形固定資産など、財務に与える影響が大きい項目については、多くの企業が調整を行い、その内容を開示しています。

調整項目の名称や開示の方法は企業ごとに異なりますが、IFRSの任意適用にあたっては、各社の状況に応じた個別具体的な検討が求められる点は、前回の免除規定に関する分析と同様です。

本稿が、IFRS移行の理解を深める一助となれば幸いです。

執筆者

飛田 朋子

マネージャー, PwC Japan有限責任監査法人

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川手 朝美

シニアアソシエイト, PwC Japan有限責任監査法人

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笹川 裕登

シニアアソシエイト, PwC Japan有限責任監査法人

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王 怡然

シニアアソシエイト, PwC Japan有限責任監査法人

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