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2025-05-21
2025年5月21日
PwC Japan有限責任監査法人
財務報告アドバイザリー部
国際財務報告基準(IFRS)第1号「国際財務報告基準の初度適用」の基本原則は、企業の最初のIFRS報告期間の末日現在で有効な規定を、IFRS開始財政状態計算書および最初のIFRS財務諸表で表示される全期間を通じて遡及適用することを要求しています。
IFRS第1号の目的は、企業の最初のIFRS財務諸表および当該財務諸表の対象年度の一部分に係る期中財務報告が、次のような高品質の情報を含むようにすることです。
(a)利用者にとって透明で、表示する全期間にわたって比較可能である
(b)IFRS基準を適用するための適切な出発点を提供する
(c)便益を超えないコストで作成することができる
よって、遡及適用のコストが財務諸表利用者への便益を上回る可能性が高い場合、一部の規定に限定してそれらを遡及適用しないことを可能とする免除規定が設けられています。
本稿では、初度適用企業における免除規定の開示状況を調査しました(2014年の第1回の記事でも同じテーマを取り上げています)。
調査対象企業は、日本取引所グループが公開しているIFRS適用済企業(本稿の対象は2024年12月末時点データ)です。
上記のうち、四半期報告書、半期報告書、有価証券報告書または有価証券届出書において初度適用時に選択した免除規定を開示している256社について分析しました。
なお、本文中の基礎情報は掲載当時のものであり、意見にわたる部分は筆者の見解であることをあらかじめ申し添えます。
IFRS第1号において、初度適用時に選択が認められている主な免除規定は以下のとおりです。
なお、調査対象企業の全てにおいて開示されていない免除規定の項目は記載を省略しています。
(1)企業結合(IFRS第1号C1項) |
IFRS移行日前に生じた過去の企業結合について、IFRS第3号「企業結合」を遡及適用しないことを選択できる。一方で、移行日前の特定の企業結合についてIFRS第3号を適用する場合は、その後の全ての企業結合についてIFRS第3号を遡及適用しなければならない。 |
(2)株式報酬取引(IFRS第1号D2、D3項) |
2002年11月7日以前に付与した資本性金融商品および2002年11月7日より後に付与した資本性金融商品のうち、IFRS移行日(または2005年1月1日のいずれか遅い日)時点で権利が確定しているものについて、IFRS第2号「株式に基づく報酬」を遡及適用しないことを選択できる。 |
(3)みなし原価(IFRS第1号D5~D8B項) |
有形固定資産、使用権資産、原価モデルを選択している場合の投資不動産、一定の要件を満たす無形資産について、IFRS移行日現在の公正価値(または従前の会計基準に従った再評価額のうち、一定の要件を満たすもの)をみなし原価として使用することができる。 |
(4)リース(IFRS第1号D9、D9B~D9E項) |
契約がリースまたはリースを含んだものであるかどうかについて、IFRS移行日時点で存在する事実と状況に基づき判断することができる。また、借手の使用権資産およびリース負債を測定する際に、実務上の便法を使用することができる。 |
(5)換算差額累計額(IFRS第1号D12~D13A項) |
IFRS移行日現在の在外営業活動体にかかる換算差額累計額をゼロと見なすことができる。 また(6)の規定により、子会社(または関連会社もしくは共同支配企業)が親会社より後に初度適用企業となる場合に当該子会社が親会社の連結財務諸表に含まれる帳簿価額を基礎として自社の資産および負債を測定する方法を選択している場合は、当該子会社のすべての在外営業活動体に係る換算差額累計額を、親会社のIFRS移行日に基づいて親会社の連結財務諸表に含まれる帳簿価額を基礎として測定することを選択できる。 |
(6)子会社、関連会社および共同支配企業の資産および負債(IFRS第1号D16、D17項) |
子会社(または関連会社もしくは共同支配企業)が親会社より後に初度適用企業となる場合、当該子会社は、親会社の連結財務諸表に含まれる帳簿価額を基礎として自社の資産および負債を測定する方法と、子会社のIFRS移行日に自ら資産および負債を測定する方法のいずれかを選択できる。 なお、親会社が子会社よりも後で初度適用企業となる場合には、連結財務諸表上、当該子会社の資産および負債を、当該子会社の財務諸表と同じ帳簿価額で測定することが要求される。 |
(7)複合金融商品(IFRS第1号D18項) |
IFRS移行日時点で複合金融商品にかかる負債部分の残高がない場合、遡及して資本部分を利益剰余金(負債部分について発生した金利の累計額)と当初の資本部分に区分する必要はない。 |
(8)過去に認識した金融商品の指定(IFRS第1号D19~D19C項) |
過去に認識済みの金融商品について、金融資産および金融負債を純損益を通じて公正価値で測定する、または資本性金融商品をその他の包括利益を通じて公正価値で測定するといった指定を、IFRS移行日現在の事実および状況に基づき行うことができる。 |
(9)金融資産または金融負債の当初認識時の公正価値測定(IFRS第1号D20項) |
通常、当初認識時の金融商品における公正価値と取引価格に差額が生じた場合は、一定の要件を満たさない限り、当該差額を取引日損益として当期純利益へ直ちに計上することは認められないが、これをIFRS移行日前に認識した取引について遡及適用しないことを選択できる。 |
(10)有形固定資産の原価に算入される廃棄負債(IFRS第1号D21、D21A項) |
通常、資産除去債務の変動について、関係する有形固定資産の取得原価に加減し、調整後の償却可能金額を残存耐用年数にわたって減価償却することが要求されるが、IFRS移行日前に発生した資産除去債務の変動については遡及適用しないことを選択できる。 |
(11)借入コスト(IFRS第1号D23項) |
通常、適格資産が一定の要件を満たす場合は、国際会計基準(IAS)第23号「借入コスト」に基づき、関連する借入コストを資産計上することが要求されるが、これをIFRS移行日(またはより早い任意の日)前に遡及適用しないことを選択できる。 |
(12)収益(IFRS第1号D34、D35項) |
IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」を遡及適用する際、実務上の便法を使用することができる。また、IFRS移行日よりも前に完了した契約(従前の会計原則に従って識別した財またはサービスの全てを移転している契約)について、修正再表示する必要はない。 |
(13)外貨建取引と前払・前受対価(IFRS第1号D36項) |
解釈指針(IFRIC)第22号「外貨建取引と前払・前受対価」を、当該解釈指針の範囲に含まれる資産、費用および収益のうちIFRS移行日より前に当初認識したものについて、遡及適用しないことを選択できる。 |
調査対象企業256社の初度適用の注記より免除規定の選択状況を調査した結果、免除規定の項目別*1の企業数は以下のとおりでした(図表1)。
なお、棒グラフは調査対象企業全体および業種別*2の企業数に占める内数を示しています。
免除規定の項目別の選択状況について、業種による大きな違いは見られませんでした。
一方で、業種を問わず多くの企業が⑴企業結合、⑸換算差額累計額および⑻認識済金融商品の指定にかかる免除規定を選択していました。
初度適用企業がこれらの免除規定を選択する背景はさまざまですが、一般的に過去に遡っての情報収集や再計算に多大なコストや労力を伴うことから、IFRS移行プロセスを効率的かつ効果的に進めることが主な目的と考えられます。
多くの企業が選択していた免除規定項目のうち、企業結合について見ていきます。
企業結合にかかる免除規定を選択した場合には、IFRS移行日前に生じた過去の企業結合について、IFRS第3号を遡及適用しないことが認められます。従前の会計基準下での会計処理を修正する必要はありません。しかし、移行日前の特定の企業結合についてIFRS第3号を適用する場合は、その後の全ての企業結合についてIFRS第3号を遡及適用しなければなりません。
IFRS第3号の適用開始日を図説したものが図表2になります。
企業結合にかかる免除規定を選択した初度適用企業のIFRS第3号の適用開始日を「IFRS移行日」もしくは「IFRS移行日より前の特定の日」と区分して、IFRS第3号の適用開始日の選択状況を調査しました(図表3)。
企業結合にかかる免除規定を選択している企業の大多数が、「IFRS移行日」からIFRS第3号を適用しており、IFRS移行日前に生じた企業結合に対してIFRS第3号を遡及適用しないことを選択していました。
一方、15社についてはIFRS第3号の適用開始日を「IFRS移行日より前の特定の日」としており、1~2年と比較的短期間について遡って適用している企業もあれば、10年を超えて遡って適用している企業もありました。
なお、10年を超えて遡及適用している1社については、米国会計基準への移行日をIFRS第3号の適用開始日としていました(詳細は、図表1の参考資料:免除規定の選択状況(企業別)をご参照ください)。
IFRS初度適用企業において、業種を問わず多くの企業が企業結合、換算差額累計額および認識済金融商品の指定にかかる免除規定を選択していました。
企業結合の免除規定については、IFRS第3号「企業結合」の適用開始日をIFRS移行日としている企業が大多数を占めていましたが、一方でIFRS移行日より10年を超えて遡及して適用している企業もありました。免除規定の選択状況は各社さまざまであり、IFRSの任意適用にあたっては個社の状況に応じた個別具体的な検討が必要である点にご留意ください。
次回は、IFRS適用初年度に求められる調整表開示についてご紹介します。
*1 従業員給付にかかる免除規定は、IAS第19号改訂に伴いIFRS第1号から削除されたため集計対象外としています。また、IFRS第9号のための比較情報を修正再表示する要求の免除(IFRS第1号E1、E2項)については、最初のIFRS報告期間が2019年1月1日前に開始する企業が対象であり今後IFRSを適用する企業の対象とならないため、選択した企業はありましたが上表から除いています。
*2 業種分類については日本取引所グループの業種別分類表の大分類を利用しています。
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