高齢者ウェルビーイング向上エコシステム

 高齢者ウェルビーイング向上エコシステム

医療・介護の手前を、産業として設計し直す

高齢化は、すでに本邦社会・経済の前提条件となっています。65歳以上人口は約3,600万人、高齢化率は約3割に達しており、今後も75歳以上人口の増加や生産年齢人口の減少を伴いながら、人口構造の変化は続く見通しです。

こうした高齢化は従来、「医療費・介護費の増大」「労働力人口の減少」「社会保障制度の持続性」といった課題として認識されてきました。もちろん、これらは引き続き重要な政策・経営課題です。一方で、高齢化がもたらす影響は、医療や介護、社会保障制度の範囲にとどまりません。

高齢者自身の日常生活、外出、趣味・余暇、就労・社会参加のあり方が変化することで、家族の不安や負担、企業における顧客対応・雇用管理上の課題、地域社会の支え合いにも影響が及び始めています。しかし、こうした変化の多くは、まだ明確な市場や制度として整理されておらず、個人・家族・企業・行政の間で課題の所在や責任分担が曖昧なまま残されています。

また、これらの課題は一つの主体だけで解決できるものではありません。高齢者自身の生活上の選択を支えるには、家族の関与、企業やサービス提供者の配慮、自治体・保険者などの制度的な支援、そして医療・介護・地域サービスとの接続が必要になります。言い換えれば、個別サービスの開発だけではなく、複数の主体がそれぞれの接点・データ・サービス・費用負担を持ち寄り、全体として持続可能に機能する仕組みとして設計する必要があります。

本連載では、この医療・介護の手前にある不安や兆し、生活上の判断の難しさを、高齢者自身のQuality of Life(QOL)向上や介護予防に加え、家族の負担軽減、企業・サービス提供者のリスク低減、地域社会の持続性まで含めて捉える視点を「高齢者ウェルビーイング」と呼びます。そして、複数の主体でこの領域に価値を創出する取り組み・仕組みの総体を「高齢者ウェルビーイング向上エコシステム」と定義します。まだ確立された市場ではないからこそ、その課題構造を明らかにし、持続可能なサービスや事業として設計する余地があると考えます。

本連載では、この「高齢者ウェルビーイング向上エコシステム」について、経営戦略・新規事業の観点からその可能性と論点を探ります。


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