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観光分野のDXは、「導入するかどうか」の段階から、「どう使いこなすか」の段階へ移行しつつあります。観光DXを代表するような予約・決済・案内といった機能は、汎用ソリューションの普及と旅行者の期待水準の上昇を背景に、多くの観光地で導入が進み、一定水準の機能が普及し始めています。こうした状況において観光地としての差を生むのは、DXを導入したかどうかではなく、導入したDXを通じて地域の価値をどれだけ体験として高められるかです。シリーズ第3回目となる本稿では、DXを効率化の道具にとどめず、地域らしさを体験価値として磨き続けるための基盤として捉え、これからの観光地に必要となる視点を整理します。
まず、観光業界におけるDXとは何でしょうか。
観光DXは、単に業務をデジタル化する取り組みではありません。人口減少や人材不足、需要の変動、国際競争の激化といった環境変化の中で、観光地が持続的に成長するための土台といえます。具体的には、デジタル技術やデータを活用しながら、集客から予約、滞在中の体験、そして再訪につながる関係づくりまでを一連の流れとして捉え、運営のあり方や提供価値を継続的に更新していくことを指します。
では、こうした観光DXは現場でどのように進められているのでしょうか。現場の取り組みを俯瞰すると、論点は「基盤(データ)×実装(3領域)」に整理されます。
先進的な観光地は、「基盤(データ)×実装(3領域)」のうちどれか1つではなく、4つの領域を相互に関連させながら、観光地のDXを推進しています。これらは現時点で地域により進捗差があり、DXを推進している観光地は先進的な事例として紹介されることも多くなっています。一方で、観光DXに関するソリューションの汎用化や技術の発展が進むにつれ、長期的には各領域の取り組みが広がり、一定水準の機能は業界としての標準になっていくことが想定されます。
この時重要なのは、DXを導入すること自体がただちに観光地の差別化につながるわけではないという点です。機能が標準化していくほど、焦点は「導入の有無」から「活用の質」へ移ります。すなわち、導入したDXを通じて観光地の価値を体験としてどう高めるか、その「活用の質」が、これからの観光地の競争力を左右することになります。
では、観光地の価値としての差はどこで生まれるのでしょうか。
基盤機能が整った先で、旅行者が最後に比較するのは便利さだけではありません。旅の記憶に残るのは、体験の意味付け、地域の世界観、そして「また来たい」と思わせる余韻です。では、その「余韻」はどこから生まれるのでしょうか。本コラムの第2回でも触れたとおり、鍵になるのは地域ブランドです。地域ブランドは、単なる名称やキャッチコピーではなく、「地域らしさ」を核に体験価値として編み直され、関係者の共創によって育てられるものです。そしてDXは、そのプロセスを支える基盤になり得ます。DXを地域ブランドの体現に結び付けている事例として、広島県と愛媛県を結ぶしまなみ海道、栃木県 那須塩原市、兵庫県 城崎温泉の取り組みを取り上げます。
まず、しまなみ海道は、サイクルツーリズムを地域ブランドの核に据え、広域にまたがる移動体験をシームレスに成立させるために観光DXを活用しています2。具体的には、レンタサイクル利用者向けのスマートフォンアプリを起点に情報提供を行い、予約・受付やキャッシュレス決済を連動させて手続き負担を減らしています。さらに、走行経路(GPSログ)や訪問地点などのデータを収集できるようシステムを連携し、周遊状況の把握と改善に反映することで、ブランド体験の一貫性を下支えしています。観光庁の優良事例集でも、周遊促進の国内事例として紹介されています。
続く那須塩原市の事例は、しまなみ海道と同様にサイクリングを活用していますが、観光DXの目的は回遊体験の成立ではなく、サイクリングを軸とした「地域リブランディング」にあります3。那須塩原市は地域内でワークショップを開催し、「新観光DX戦略」を策定・検証した上で、「那須サイクリングWebプラットフォーム」を構築しました。プラットフォーム上では、ガイドが同行せず、あらかじめ決められたルートを自分自身で走行する「セルフガイドツアー」の紹介や、予約機能などを通じて、サイクリングを活用した観光施策を体系的に提示しています。サイクリング体験の運営最適化を狙うのではなく、地域として何をどのように発信するかを整理することで、「那須サイクリングブランド」の確立を目指している点に特徴があります。
次に城崎温泉では、前2事例のような移動体験ではなく、温泉街自体の滞在体験を対象に、「まち全体が一つの温泉旅館」という地域ブランドを掲げ、DXを通じた実現を推進しています4。
具体的には、宿泊施設ごとに異なっていたPMS(Property Management System:宿泊施設管理システム)を共通化することで宿泊データを可視化・共有し、観光DX基盤を通じたCRMの仕組みによって、再来訪促進や需要の見える化、収益最適化へとつなげています。施設ごとに最適化を目指すことにとどまらず、温泉街全体として運用の高度化を図っている点に特徴があります。
このように、いずれの事例も、個別最適の便利機能の積み上げではなく、地域ブランドを一貫した体験として成立させるために、データとデジタル接点を「面」で整える発想が共通しています。
これらの事例から得られる示唆は、DXの価値は「機能の充実」ではなく、地域が掲げるブランドを体験として成立させるための「一貫性」を支える点にある、ということです。つまり、標準化時代の差別化は、便利さの積み重ねではなく、「体験の質を崩さない設計・運用」に表れるということができます。
では、他の地域がこうした考え方を取り入れるとき、まず何から始めるべきでしょうか。
まずは、個別最適のデジタル施策を積み上げる前に、観光地全体でデータを束ねる体制と最小基盤を整えることが出発点になります。データ利活用は省人化・収益化・顧客満足といった実装領域を下支えする「基盤」であり、これが整ってはじめて、取り組みが継続的な改善に接続するためです。
実務として取り組むべきことは、次の3点に整理できます。
DXは目的ではなく、地域の価値を育てる手段です。観光地におけるDXの標準化が進むほど、「選ばれる理由」は地域らしさと体験価値の設計に戻ってきます。だからこそ、足元では観光地全体のデータを束ねる体制と、全体像の把握、最小基盤の整備を進める必要があります。そして将来に向けては、観光地全体を「面」でとらえ、DXとブランド戦略を一体で磨いていくことが重要です。足元のデータ基盤整備と、将来を見据えたDX×ブランド戦略の一体化という二段構えが、DXの導入だけに頼らない「選ばれる観光地」への近道になると考えます。
1 実際に観光地を巡り食事やショッピングなどを体験している、旅行をしている期間を指す
2 国土交通省観光庁観光DXサイト,しまなみ海道DXコンソーシアム,「レンタサイクルを基軸としたしまなみ海道活性化事業」(2026年4月8日閲覧)https://kanko-dx.go.jp/case-study/1099/
3 国土交通省観光庁観光DXサイト, 那須地域サイクリングDX推進コンソーシアム,「那須地域新観光DX戦略による地域リブランディング」(2026年4月8日閲覧)https://kanko-dx.go.jp/case-study/1021/
4 国土交通省観光庁観光DXサイト, 豊岡観光DX推進協議会,「“まち全体が一つの温泉旅館”のDX化実現事業」(2026年4月8日閲覧)https://kanko-dx.go.jp/case-study/96/
5 複数のシステムから膨大なデータを集約し、分析しやすい形式に整えて一元管理するシステム
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