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観光地が人をひきつける力は、単なる名所やグルメだけではありません。その土地ならではの魅力を一言で言い表すもの、つまり「地域ブランド」が、訪れる人の心を射抜き、足を動かすのです。例えばアートの島、癒しの海辺、歴史と食のまちなど、地域の価値を凝縮した言葉があると、旅行者にとって旅の目的や意義が明確になり、訪れたい気持ちが自然と高まります。
この地域ブランドは、観光誘客だけでなく、地域経済の活性化や雇用創出、さらには定住促進にもつながる重要な要素です。そして、そのブランドを築き、育てるのは、観光事業者だけではありません。観光事業者と自治体・観光地域づくり法人(DMO)が連携して、地域の価値を共に創り、育て、発信する、「共創者」としての役割を担っているのです。
瀬戸内地域では、兵庫・岡山・広島・山口・徳島・香川・愛媛の7県が連携し、広域DMOを形成し、瀬戸内ブランドの確立に取り組んできました。多島美(たとうび)と呼ばれる美しい海と島々、豊かな食文化、歴史ある街並みなどを一体のものとして発信することで、国内外からの観光客をひきつけています。こうした広域連携は、地域全体の魅力を底上げし、観光による持続可能な発展を実現する鍵となっています。
観光事業者は、単なるサービス提供者ではなく、地域の未来を協業しながらともに描き、実現していくパートナーでもあります。地域の人々と協力しながら、ブランドの核となる価値を見つけ出し、それを体験として形にしていくことで、地域全体の魅力が高まっていきます。
では、魅力的な地域ブランドはどのように設計すればよいのでしょうか。基本となるのは、「地域らしさ×ターゲットニーズ×体験価値」の掛け合わせです。まずは地域の特色を丁寧に洗い出し、次に誰に届けたいのかを明確にします。そして、その人たちがここでしか味わえないと感じる体験を設計することで、ブランドの核が生まれます。
求める価値はターゲットによって異なります。例えば、若年層にはSNS映えするスポットや推し活に関連した体験、ファミリー層には安心して楽しめる施設や自然体験、シニア層にはゆったりとした文化巡りなどがあげられます。インバウンド層には、文化体験やサステナブルな旅が響く傾向があります。誰に届けたいかを明確に定めることで、情報発信の方法やコンテンツの設計も変わってくるのです。
瀬戸内では、地域資源の再発見と編集力がブランドづくりの要となっています。集落内に点在していた古い民家(空き家)を改修し、建物そのものを地元のアーティストが作品化し島全体を活用したプロジェクトや、築数十年の古民家や蔵など20軒以上をリノベーションし、カフェやギャラリー、ゲストハウスとしてよみがえらせる空き家再生のプロジェクトなど、地元アーティストによる空間活用の取り組みが進んでいます。また、養殖現場の見学と漁師料理を組み合わせたユニークなツアーの企画や魚釣りと料理を組み合わせた参加型ガストロツアーなど、地元食材をいかした食体験も提供されています。このように瀬戸内では、地域にもともと存在する資源を、現代的な視点で再解釈・再構成し、創意工夫によって付加価値を高め、唯一無二の観光体験として発信・提供しています。
こうした資源の編集には、「よそ者」の視点が欠かせません。地元を離れた人や実際に訪れた観光客の声を集めることで、地域の魅力を再発見することができます。観光事業者自身も、他地域の事例を参考にしながら、自分たちの地域資源を新鮮な目で見直し、ターゲットにとって興味深い体験にするため、どのような意味付けや価値付けができるかや、どのような切り口・表現で伝えれば興味を持ち意義を感じてもらえるかといった観点に落とし込んで具体化していくことが大切です。
ブランド設計の段階では、ペルソナ設計(典型的な来訪者像の設定)を行い、その人がこの地域で何に価値を感じるかを想像します。次に、競合する他地域との差別化も意識しながら価値提案をまとめます。ここでしか味わえない何かを明確に言語化します。そして最後に、その価値を象徴するキャッチフレーズやビジュアルを作りあげ、関係者間で共有します。こうしたフレームワークに沿って進めることで、芯の通ったブランドの土台が築けるでしょう。
ブランドの核と資源が整ったら、次はそれを体験として形にしていきます。ここで重要なのが「ストーリーテリング」です。つまり、単なる観光メニューではなく、物語性のある体験を提供することで、訪れた人の記憶に残る旅になるということを意味します。例えば、地域の歴史や人物にちなんだツアーや四季を通じてテーマを設定したイベントなど、旅行者が物語の主人公になれるような設計が効果的です。
瀬戸内では、周遊ルートの形成や地域間の連携によって、滞在時間の延長とリピート訪問を促進しています。また、あえて全てを体験させず、「心残り」を演出することで、もう一度も訪れたいという気持ちを引き出す工夫もされています。こうした仕掛けが、ファンを育てるブランド戦略につながっているのです。
体験価値を最大限に伝えるためには、情報発信の最適化が欠かせません。SNSや動画、Webサイト、OTA(Online Travel Agency:オンライン旅行代理店)との連携など、ターゲットに合わせたチャネルを活用し、統一されたメッセージで発信することが重要です。瀬戸内では開設した自社メディアを通じて、地元ライターやフォトグラファーが地域の魅力を発信しています。住民や事業者が一体となって情報発信に取り組むことで、ブランドの厚みが増していきます。
地域ブランドとは、発信することも大切であると同時に、共に育てるという観点が重要です。観光事業者はその中心に立ち、地域の人々や訪問者とともにブランドを紡いでいく存在です。瀬戸内の事例から学べるのは、広域連携と持続可能性を軸にしたブランド戦略の力強さ、そして「また来たい」と思わせる体験設計の重要性です。これからの地域観光は、共創によってこそ輝きを増していくのではないでしょうか。