クラウドへの移行:ガバナンスと計画作成

デジタルにより強くなり、顧客/クライアントを重視し、費用効率を向上させたいと考える組織は、クラウドへの移行を急ピッチで進めています。これは、顧客と接するフロントオフィスのプラットフォームだけでなく、財務や人事、調達といったバックオフィスにも当てはまります。

クラウド技術によって財務と事業のトランスフォーメーションが成功すれば、メリットは大きいです。一方で、そこに至る過程において、いくつかの課題に直面することも確かです。

本稿では、それらの課題や教訓のうち、ガバナンスに関するものについて取り上げます。下記の図表に示していますが、私たちはシステムをクラウドに移行するにあたっての主要な課題を6つ突き止めました。ガバナンスはそのうちの1つです。

プログラムの最初からガバナンスを実施することは重要です。なぜならガバナンスは、成功に向けた土台となるからです。そして、テクノロジーと財務分野のリーダーからは、主に下記の3つ質問をよく尋ねられます:

  1. いつシステムをクラウドに移行させるべきか?
  2. クラウドへの移行とは、どのようなものですか?
  3. はじめに、成功に向けてどのようにプログラムを作成しますか?
クラウド移行 における課題

1. いつシステムをクラウドに移行させるべきか?

組織がシステムをクラウドに移行させる時期は、さまざまな要因によって左右されます。例えば、既存のシステムの種類、組織のプロダクトの成熟度などが挙げられます。そのうち最も重要なのは、組織の戦略的目的になります。これはバックオフィスの財務システムだけでなく、フロントオフィスのアプリケーション(例えばCRMや業務運用システムなど)にも当てはまります。右のグラフはプロダクトの成熟度(価値)と時間の関係を示しています。これは、時が経つにつれてクラウドのプロダクトやアプリケーションの成熟度(そして、それゆえシステムから発生する価値)が高まるのに対し、同様のオンプレミスのアプリケーションシステムは成熟度の観点から見ると伸び悩んでいることを示しています。その主な理由は、クラウドベースのアプリケーションでは継続的なリリースとパッチサイクルが一般的であり、同等のオンプレミスのプロダクトに比べて、クラウドのプロダクトの方がより多くの投資と手間が掛けられているからです。ただし、組織の既存システムと、導入予定のシステムがどのようなものかによって変わってくることに留意する必要があります。

いつシステムを クラウドに移行させるべきか?

移行するのに適切な時期は、必ずしも2つの線が交差する時期と同じである必要はありません。企業の事業計画が既存のプロジェクト方針と適合しているタイミングに移行すれば、クラウドへの移行は成功するでしょう。肝に銘じるべきなのは、競合企業も同じことを自問するだろう、ということです。

加えて、新たなクラウド技術の導入を決めた時期によっては、機能が既存のシステムに比べて後退していると感じるユーザーがいるかもしれません。しかし、新たなクラウドシステムは、現在のオンプレミスのソリューションよりも優れた成果を上げる可能性は非常に高く、また組織の長期的な戦略目標や目的の達成に資する、より持続可能なプラットフォームを提供するはずです(上のグラフを参照)。

最近、英国のある大手小売・消費者関連企業の上級幹部が、「なぜ今移行することを決断したのですか?」という質問を受け、「移行するか否かの問題ではない。いつ移行するかの問題だ」と答えました。オンプレミスとクラウドの間の機能性ギャップが拡大していることから、先送りにすればするほど、長期的に見て導入はますます困難になると考えたのです。さまざまな産業で業務や財務を担当する他の幹部の発言も、この考えと同様です。

2. クラウドへの移行とは、どのようなものですか?

クラウド移行に向けたプログラム計画を作成する際には、まず現在の移行状況を検討すべきです。

一度に全てを移行しようとしてはいけません。移行する際は、小さな変更を頻繁に行うべきです。そうすれば、失敗があっても対応可能です。次に、クラウドシステムの成熟度を評価し、それに応じた計画を立てます。例えば、定評のある人事システムならまだしも、市場でまだ成熟していない業務システムを移行させるべきではありません。

ビジネスの持続可能性を担保するため、事前に計画を立てることも同様に重要です。あなたの組織の長期的な戦略ビジョンを理解したうえで計画を立案することのできる、信頼に足るクラウドプロバイダーと戦略的に提携することを検討してください。

3. はじめに、成功に向けてどのようにプログラムを作成しますか?

クラウド移行に向けた時期と計画を決定したら、次のステップは、プログラムを成功させるための基盤を構築することです。これ自体は独立したテーマですが、適切なガバナンス構造の導入に注力することが重要な要素となります。これにより、効率的かつ効果的な意思決定が可能になるだけでなく、プログラムに関わる全階層の個人の能力が高まり、与えられた役割をしっかりと果たせるようになります。

ガバナンスとは、プログラムの組織図に氏名と肩書を載せれば良いというものではなく、ガバナンスについての討論会を何回か開けば済むというものでもありません。私は友人、そしてアドバイザーとしての立場から、数多くのプログラムで非常に重要な役割を果たしてきました。そこで私がその都度実感しているのは、プログラムの客観性と課題の水準を高めれば、運営グループやガバナンス会議の有効性は高められる、ということです。

今後数年間のうちに、ほぼ全ての組織はバックオフィス機能の大部分をクラウドに移行させるでしょう。問題は、移行するかしないかではなく、いつするかです。各企業はクラウドソリューションのあらゆるメリットを享受するため、クラウド移行プログラムを積極的に進めようとしています。重要なのは、スタート時から適切な計画とガバナンス体制を導入することです。クラウド移行にあたって直面する課題を克服するということは、究極的には、自らがリスクにさらされていることを理解することと、有効なガバナンスを常に実施するため、それに応じた計画を立てることを意味します。3つの重要な要素(いつ移行するか、移行とはどのようなものか、成功するプログラムをいかに作るか)を評価することにより、メリットを享受できる可能性は高まります(同時に、システム導入の失敗により、事業が危機に瀕するというリスクは低くなります)。

クラウドの移行計画は、より広い事業目標や既存プロジェクトのニーズに合致するものでなければなりません。一方でプロセスそのものは、現在注力するビジネスへの混乱ができる限り生じないような方法で実施されるべきです。すなわち、クラウドシステムを組織の短期的なニーズと長期的なニーズの両方に対応できるよう調整する必要があります。

クラウドベースの業務を将来的に持続可能なものとするためには、有効なガバナンスが不可欠です。ガバナンスは、クラウド移行の全ての実施段階において重要な要素となります。従って、プログラム開始時と将来の双方において、新たなシステムが日常業務機能にどのような影響を与えるか、そして十分な管理が全てのプログラム関係者によっていかに実現されるかを、より詳細に検討することが求められます。

こんなことわざがあります。

「計画が間違った方向に進むことはあまりない。始めから間違っているのだ。」

本稿が検討の糧になり、組織が成功する可能性を少しでも高めることに貢献できれば幸いです。

本コンテンツは、「Moving to the Cloud: Governance and Planning」を翻訳したものです。翻訳には正確を期しておりますが、英語版と解釈の相違がある場合は、英語版に依拠してください。

主要メンバー

荒井 慎吾

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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中山 裕之

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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福田 健

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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大竹 秀明

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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町田 彰宏

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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