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2023-02-27
企業経営においてテクノロジーを活用することの重要度は増し、多くの企業では機械学習や人工知能(AI)の導入を経営戦略として位置づけています。しかし、これらのテクノロジーが持つ“強み”を最大限に活かし、ビジネスを加速させている企業はそれほど多くはないのが現状です。本稿では入社3年目でTAS(テクノロジー・アドバイザリー・サービスコンサルタント)に所属する中村豪志が、20年以上にわたりクライアントのIT導入支援やテクノロジーコンサルティング、ベンチャー企業のデリバリーなどの責任者を歴任してきた請井盛一に、日本企業におけるテクノロジー活用の課題や将来像について聞きました。
対談者
PwCコンサルティング合同会社 ディレクター
請井 盛一
PwCコンサルティング合同会社 シニアアソシエイト
中村 豪志
(左から)中村 豪志、請井 盛一
中村:
私は現在、現場レベルでクライアントの業務改善支援を担当する機会が多いのですが、「日本企業はテクノロジーをきちんと活用できているのか」と考えてしまいます。生意気な言い方ではありますが、多くの日本企業はテクノロジーを十分に活用できていないのではないでしょうか。
請井:
「きちんとできている」の定義は難しいですが、中村さんの問題意識は正しいと思います。「できている」を「達成度」に置き換えて考えてみましょう。テクノロジーの活用を経営戦略としている企業は多いものの、中長期的な視点でKPI(重要業績評価指標)を定め、それをブレークダウンして「KPIを達成するために、どのようにテクノロジーを活用する必要があるか」までをきちんと整理できている企業はごくわずかです。
「DXは喫緊の経営課題である」と言われて久しいですよね。しかし、現実は組織の中でITに強い人材がスポット的に取り組んでいるケースが多いです。大規模プロジェクトとして推進しているケースもありますが、現場目線での大きな課題に対応していることはあっても、経営視点で考えた場合、必ずしもベストな対応をとれているとは言えません。端的に言うと、テクノロジー活用が場当たり的でサイロ化し、いつの間にか尻すぼみになってしまうケースが大半なのです。「PoC疲れ」という言葉があるのも象徴的かと思います。
中村:
なかなか悲しい実態ですね。その原因はどこにあるのでしょうか。
請井:
1つの要因は経営層がテクノロジーを十分に理解していないことにあります。AIやIoTなどの活用を一過性のものと認識し、「よく分からないけど、導入すれば業務課題や経営改善に結びつくのでは……」という飛び道具的な発想で捉えてしまっているケースが多いからです。テクノロジーを活用するには経営陣が「このテクノロジーで何をどのように変革するか」というビジョンを持つとともに、その現実味を理解することが不可欠です。
中村:
なるほど。企業全体として定量的な目標を示せていないのですね。
では、ITに強い人材がスポット的にDXに取り組むのはダメなのでしょうか。「ボトムアップ的にDXが浸透する」という意味では、悪くないアプローチだと思うのですが。
請井:
確かに事業部門が自らの課題を発見し、テクノロジーを活用してDXに取り組むのはよいと思います。ただし、現実にそうした例は少ないのではないでしょうか。いちばん多いのは「IT部門が事業部門にテクノロジーの活用を提案しても、興味を持ってもらえない」というケースです。
本来、DXはIT部門と事業部門が組織の枠組みを超えて取り組む企業変革プロジェクトであり、テクノロジーを活用することでトランスフォーメーションを実現するのは、企業全体の業務プロセスや事業そのものです。企業全体のうちIT投資額は数%にしかすぎず、IT部門が自分たちの業務プロセスを改善したとしても、ビジネス全体に与えるインパクトはごくわずかです。企業で最も大きな売上を占める業務側の利益構造を改善し、生産性を向上させないと、DXに取り組む意味は薄れてしまいます。
中村:
なぜそのような問題が発生してしまうのですか。
請井:
IT投資のガバナンスが十分に整備できておらず、投資判断の基準やプロセスが曖昧な状況にあることが大きな根本原因の1つなのだと理解しています。
テクノロジー活用のメリットの1つに、「テコの原理で利益を最大化できる」ことが挙げられます。極端に言えば「今、このテクノロジーに10億円を投資すれば、将来的には100倍や200倍の利益を生み出せる可能性がある」と判断して投資できる社内の環境と、テクノロジーの将来性を見極める知識が不可欠です。
ただし、残念ながらそうした判断ができる経営層はごく少数です。
そもそも、このような問題を正しく認識しておらず、何から手を付けるべきかを判断できていない企業は少なくありません。
「今年の予算が余ったから何かに投資して使い切ろう」というようなマインドが蔓延しているのが現状です。
PwCコンサルティング合同会社 ディレクター 請井 盛一
中村:
お話を伺って、課題が山積していることを痛感しました。では、テクノロジー活用のインパクトを最大化するためには何が必要なのでしょうか。
請井:
中長期的な視点での「ゴール設定」、経営・事業目線でのテクノロジー活用の「ロードマップ」、そして大きな変革を遂行する強い「意志」が必要です。
実は経営者からIT部門、現場の業務担当者まで、多くの従業員はテクノロジーの活用やDXの必要性を理解しています。むしろ「やらないとマズい」という強迫観念を持っていると言ってもよいでしょう。
例えば、ERP(企業資源計画)ソリューションの導入で業務プロセスが改善されるのであれば、導入に反対する人はいません。しかし、ERPの導入で具体的に何を目指すのかといった「最終ゴール」が曖昧で、そこに至るまでのロードマップが明確に示されていないため、プロジェクトが空中分解を起こしてしまうのです。テクノロジーの導入に至るまでの詳細な議論を積み重ねるうちに、「なぜ導入するのか」「何のためにこの作業をしているのか」が不明瞭になってしまうのですね。
中村:
「ゴール設定が曖昧であり、共通認識を持てていない」という話は伺ったことがあります。以前、あるCIO(最高情報責任者)は、「IT部門と事業部門とのコネクションがDX成功のカギを握ることは理解しているが、実現には多くのハードルがある」と仰っていました。この課題を解決するにはどのようなアプローチが必要でしょうか。
請井:
解決策は2つあると考えています。1つは組織改革です。共有組織やバーチャル組織を構成し、既存組織の壁を取り払うのです。ただし、こうした取り組みが人事制度上難しいのであれば、部門別に設定されているKPIを、IT部門と事業部門が連動するKPIへと変えるべきです。これが2つ目の解決策です。
中村:
「KPIを変える」とはどういうことでしょうか。
請井:
例えば、現在のIT部門のKPIとしては「インシデント発生率の低減」や「保守・運用の効率化によるコスト削減」が挙げられます。一方、事業部門では「売上増加」や「業務効率化によるコスト削減」などが掲げられており、両者のKPIは異なっていますよね。これを一体化させて「テクノロジー活用による売上増加」「業務効率化への貢献」「新規事業創出支援」といった項目をIT部門と事業部門共通のKPIにするのです。そうすれば、両者は協力せざるを得なくなり、お互いの業務内容や課題を理解しようとします。こうした改革を貫徹する意思がなければ、DXの実現は難しいでしょう。
中村:
とはいえ、IT部門と事業部門で共通のKPIを設定するには、それを支える基幹システムや導入しているテクノロジーを見直す必要がありますよね。
請井:
そのとおりです。アーキテクチャのグランドデザインを見直すとしても、SoI(System of Insight)やSoR(System of Records)、SoE(System of Engagement)の思想をベースとしつつ、投資すべき領域とコスト低減を狙う領域を明確化していくことが重要です。先に説明したとおり、ゴールもロードマップも曖昧なまま最新テクノロジーを“つまみ食い”しても、その効果は限定的ですからね。ERPなどを活用し、基幹システムの在り方そのものを見直すことが肝要です。
PwCコンサルティング合同会社 シニアアソシエイト 中村 豪志
中村:
最新テクノロジーの“つまみ食い”は避けるべきということはよく分かりました。逆に「これだけは絶対に外せない」というテクノロジーはありますか。
請井:
クラウドの活用は大前提です。理由はさまざまなコストを抑えつつ、優れた拡張性と柔軟性を持ち、高品質なセキュリティなどのメリットを享受できるからです。特に、大規模クラウド事業者は相当なコストを技術開発に投下することで新たなサービスの展開を進めており、自社内の力だけでなく、うまく外部クラウドを活用することで、テクノロジー活用が進められるという視点もあります。アーキテクチャのグランドデザインも、クラウドの活用を前提に検討するべきでしょう。機械学習やAIなどの技術を活用すれば、データから得られた知見を活かして意思決定のサイクルを高速化し、ビジネスを高度化できます。データドリブンな経営管理やデジタルマーケティングを実現するためにも、こうしたテクノロジーは外せません。
例えば、製造業などでは機器にIoTセンサーを取り付けて稼動データを収集・分析し、故障予知や予防保全に活かす取り組みが進んでいます。さらに言えば、実用化が迫っている量子コンピューティングの動向も注視すべきです。
中村:
量子コンピュータの実用化は2035年だと言われています。なぜ今から注視すべきなのでしょうか。
請井:
ある化学メーカーではすでにAIとスーパーコンピュータを駆使して分子構造と組み合わせてパターンを計算し、新素材の開発を進めています。米国や中国では量子コンピュータの活用を見据え、新たなビジネスの開発が加速しています。従来の常識を超えた膨大な情報を処理できるようになれば、ビジネスのあり方も変わっていくことが予想されるため、技術動向のキャッチアップはもちろん、十分な投資準備も必要です。
中村:
ちょっと的外れな質問かもしれませんが、最新テクノロジーの導入は「後追い」では駄目なのでしょうか。海外の先行成功事例を注視しながら“安全な”タイミングで参入すれば、コストやリスクが削減できて効率的ですよね。
請井:
先行者利益と後発者利益には、それぞれメリットとデメリットがあります。ただし、「競合がいない状態で利益を独占し、市場優位性を確立できる」という先行者利益は非常に大きいです。
中村:
流行になる前から継続的に動画配信を行ってきた人がより多くのフォロワー数やアクセス数を獲得し、多くの広告収入を得ていることと同じようなイメージでしょうか。
請井:
そうですね。世界に先駆けて最新テクノロジーを導入する必要はありませんが、少なくとも経営陣が経営戦略と紐づけた上で「導入すべきだ」と考えているテクノロジーは、1秒でも早く導入し、成果を出さなければなりません。そのためにも適切に投資ができるガバナンスプロセスを整備することが重要なのです。
中村:
最後に、PwCはどのようにクライアントのテクノロジー活用を支援していくべきだとお考えですか。
請井:
正直に言って、「経営戦略立案支援」といった普通のコンサルティング業務であれば、他のグローバルコンサルティング会社のサービス内容にさほど差違はありません。そのうえで、「PwCだけがクライアントに提供できる価値とは何か」を考えると、私は「ソリューション&デベロップメント(以下、SolDev)」だと考えています。
PwCではクライアントに対する一般的なコンサルティングサービスの枠を超えて、最新テクノロジーで新たな市場を開拓する支援や、課題解決に役立つコンテンツの開発に注力していますよね。特にコンテンツ開発はクライアントから具体的な要望に応える支援というよりも、クライアントが気付かない課題を想定し、率先してクライアントに“刺さる”コンテンツ開発に取り組んでいます。
中村:
私もこれまでにSolDevで「Anything as a Service」や「Growth by Design」の活動に携わってきました。そこでは、クライアントのビジネスを加速させるため、通常の業務とは別に自分が取り組んでみたい分野のサービス開発やプロジェクトに参加しています。普段のジョブのメンバーとは異なるメンバーとともに、「こんなサービスがあれば良いよね」という視点で、手と頭と口を動かしながら、部活動みたいな感覚で取り組んでいます。
請井:
実は私がPwCへの転職を決めた理由も、SolDevの活動が盛んだったからです。さまざまな立場やバックグラウンドを持ったメンバーが現在のポジションに関係なくチームを作り、闊達に議論しながら課題解決に取り組んでいます。私は15年以上コンサルティングの経験がありますが、こうした風通しのよい企業文化とフラットに議論できる土壌のある会社はなかなかありません。
中村:
テクノロジー活用を成功させるためには、全社的な変革が求められます。その際にはクライアントの構想策定に耳を傾けて具体的なゴールを設定し、伴走しながらその“想い”の実現を支援することが重要ですね。本日はありがとうございました。
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請井 盛一
ディレクター, PwCコンサルティング合同会社