Skip to content Skip to footer
Search

Loading Results

ビジネスにおける生物多様性損失のリスクと 自然関連の財務開示に関するタスクフォース

2020-11-25

生物多様性損失の影響とリスク

生物多様性を基盤とした生態系サービスは、私たちの経済・社会の存在基盤となっています。しかし、産業革命以降、化石燃料に依存した経済成長と人口増加の加速が消費規模の増大を引き起こし、農業と畜産などによる土地利用の変化、有害廃棄物やプラスチック廃棄物の影響による環境汚染などの現象が発生しており、その影響で生物多様性が大きく脅かされています。すでに全野生哺乳類の83%および全植物の50%が消失しており(1)、世界中の政府や企業が緊急の対応をとらない限り、さらに100万種の動植物が絶滅に陥ることが予想されています(2)。

生物多様性の損失は、世界経済フォーラムの「2020年グローバルリスク報告(3)」において、今後10年間の発生可能性と影響が高いリスクの上位5つの中の1つとして挙げられており、社会と経済へのインパクトの視点からも重要な課題として認識されています。また、生物多様性の損失に係るリスクは、以下のようにビジネスへもインパクトを及ぼします。


1. 自然災害リスクの拡大

生物多様性損失に係るリスク

  • 水害の深刻化

サンゴ礁、マングローブなどの消失より、洪水の緩和と防止機能が低下し、洪水のリスクが増大します(2)。

  • 気候変動による激甚化

年間の温室効果ガス(GHG)排出量の13%が、農業開発や森林伐採などがもたらす生態系の破壊と土地利用の変化によるものです(1)。そして、GHG排出量の増加による気候変動が洪水、火災、台風、熱波などの自然災害の激甚化を引き起こします。

ビジネスへのインパクト

  • 不動産をはじめさまざまなセクターの企業が保有する資産の価値低下
  • 企業のオペレーション・サプライチェーン途絶による収益の減少
  • 支払保険金の増加による保険会社の保険収支悪化

※日本では、生物多様性の損失、主に洪水による経済的被害は、2050年までBAU(Business as Usual)ベースで毎年推定800億ドルに上ると推定されています(4)。


2. 作物・森林・その他自然資源供給の減少

生物多様性損失に係るリスク

  • 作物の減少

生物多様性の低下によって、作物の遺伝的多様性が喪失し、病気蔓延へのレジリエンスの低下を招き、作物は減少します。また、75%の作物が受粉に依存しており、ハチなどの送粉者の減少に伴い、作物の生産性が低下します(2)。

  • 森林の減少

年間の温室効果ガス(GHG)排出量の13%が、農業開発や森林伐採などがもたらす生態系の破壊と土地利用の変化によるものです(1)。そして、GHG排出量の増加による気候変動が洪水、火災、台風、熱波などの自然災害の激甚化を引き起こします。

ビジネスへのインパクト

  • 自然資源に依存度の高い農業、食品・飲料、林業、製薬などのセクターにおける原材料供給の減少による収益の減少
  • 自然資源、食料などの減少による原材料の価格上昇

3. 感染症発生リスクの拡大

生物多様性損失に係るリスク

人間の居住地・農地の拡大、森林伐採により、さまざまな生物種の間の接触の可能性が上がり、生物種の間の病気の感染に従って、人類への新規ウイルスの感染のリスクが増加します(5)。

ビジネスへのインパクト

  • パンデミックの発生によるサプライチェーン・企業オペレーションの途絶
  • GDPの収縮による企業の収益の減少

上記のような生物多様性損失のビジネスへのインパクトは一部の例ですが、生物多様性の保全はそうしたリスクを軽減し、経済の混乱や数兆ドルに上る財務上の損失を回避するだけでなく、2030年までに年間10兆ドルの事業機会をもたらし、3億9,500万人の雇用を創出する可能性があると言われています(6)。そのため、気候変動とともに政府、金融機関、グローバル企業の課題を解決するためにもますます重要なものとなっています。

企業と自然:TNFDフレームワークの取り組み

G20の要請により、金融安定理事会(FSB)は2015年に気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD:Task Force on Climate-related Financial Disclosures)というイニシアティブを設立しました。TCFDは、金融機関やその他の高リスクセクター企業を対象に、自社オペレーションとサプライチェーン、または投融資活動において直面する気候変動関連リスクと機会を把握・管理し、それを開示することを目指します。TCFDフレームワークの提言に関する最終報告書が2017年に発行されており、2020年9月時点では署名企業が1,440社(そのうち309社は日本企業)へ増加し、重要なフレームワークになりつつあります。TCFDフレームワークの公表は、特に金融セクターにおける気候変動のリスクへの注目やリスク低減策の強化を促進し、業界による行動をもたらしています。

こうした気候変動に対する動きと同時に、近年、生物多様性および生態系に与えるインパクトの理解と低減の必要性に関する認識も高まっています。それを受けて、2020年には、国連開発計画(UNDP)、国連環境計画金融イニシアティブ(UNEP-FI)、世界自然保護基金(WWF)、Global Canopyという国際機関やNGOにより、自然・生物多様性を中心としたTCFDと類似したリスク・機会の開示フレームワークであるTNFD(Task Force on Nature Related Financial Disclosures)の開発に向けたイニシアティブが設立されました。2022年のTNFDの正式な提言のリリースに向けて、具体的なフレームワークの開発と試験運用に関わるワーキンググループに、フランス、英国、メキシコの政府を含めてすでに62の政府機関、グローバル企業、金融機関(そのうち1社が日本企業)などが参加しています(7)。

TNFDの具体的な内容と構造はこれから開発される予定ですが、欧州の非財務開示指令(NFRD)の「ダブルマテリアリティ」の構造の利用が検討されています。「ダブルマテリアリティ」は、1)自然が事業に与える影響と、2)事業活動が自然に与える影響の双方を評価するものです。また、今後グローバルサステナブル金融スタンダードになると考えられるEUタクソノミーの6つの環境目的のうち、生物多様性・エコシステム保護を含めるほか、残りの5つの環境目的に資する際には、EUタクソノミーの環境目的に対して重大な損害をもたらさないことを意味する「Do No Significant Harm(DNSH)」として環境全体の保護を担保する条件が設けられています(8)。

企業が今後取り組むべき課題は、自然・エコシステムインパクトの目標設定と、その達成に向けた進捗状況の評価と報告です。気候変動関連目標の達成状況を計るためのGHG排出量の算出メソドロジーが公表されていますが、自然・エコシステムへの影響を評価するための明確なツールやメソドロジーの開発は今後の課題であると考えられます。

生物多様性関連事業の取り組み

TNFDの開発と並行して、いくつかの企業や金融機関が生物多様性への影響の測定・削減やインパクト評価手法の標準化に取り組んでいます。例えば、ある企業の活動が生物多様性に与える影響をサプライチェーン全体で測定するための共通の手法を開発し、実施するために、4つの金融機関グループが共同イニシアティブを立ち上げています。

製造セクターにおいても、エコシステムインパクト評価への試みがなされています。ある欧州のファッション複合企業は、サプライチェーンにおけるエコシステムへのインパクトの大きさを意識し、2020年にサプライチェーン全体が占有する土地面積の約6倍の面積にあたる土地を再生・保護することにより、2025年までに自然にポジティブな影響を与えることを目標とする生物多様性戦略を発表しました。また、同社はこの目標の数値化に向けて、原材料の生産によって失われた生物多様性を測定する生物多様性インパクト測定手法の開発に取り組み、生物多様性へのインパクトを考慮し、原材料やサプライチェーンの変革を検討しています。

企業による生物多様性の対応に係る展望

生物多様性の損失がビジネスへの大きいリスクとなる中、各社が自然関連のリスクと機会を把握し、取り組みを推進する必要があります。また、今後TNFDが、TCFDのように、自然関連リスクと機会の開示スタンダードとしてますます普及することで、特に金融業界の投融資活動へ大きな影響を及ぼすと考えられます。

出典:

(1)WEF, Nature Risk Rising
(2)IPBES, The Global Assessment Report on Biodiversity & Ecosystem Services
(3)WEF, The Global Risks Report 2020
(4)WWF, Global Futures Report
(5)WWF JP 「次の感染症パンデミックを防ぐための緊急要請」
(6)WEF, The Future of Nature and Business
(7)TNFD Official Website
(8)Environmental Finance「Task Force on Nature-related Financial Disclosures 'to be launched in Q1 2021'」

執筆者

坂野 俊哉

シニア・エグゼクティブ・アドバイザー, PwC Japan合同会社

Email

磯貝 友紀

パートナー, PwCサステナビリティ合同会社

Email

山﨑 英幸

ディレクター, PwCサステナビリティ合同会社

Email

モンジョ ステファニア

アソシエイト, PwCあらた有限責任監査法人

Email

{{filterContent.facetedTitle}}


{{filterContent.facetedTitle}}