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シリーズ「未来のサプライチェーンが導くビジネスモデルの進化」第1回の後編。前編では、サプライチェーンマネジメントの位置付けの変化からAI活用、業務プロセス改革、そして「サプライチェーンマネジメントの未来像」までを論じました。後編ではこの「サプライチェーンマネジメントの未来像」を手がかりに、現状の課題と打開への道筋を探ります。AIが進化する中で人に残される仕事とは何か。日本のハイテク製造業はどう足元を固め、どのように逆転のシナリオを描くのか。パナソニック コネクトの勝川宏明氏、PwCコンサルティングの田中大海、本鼎談者兼ファシリテーターのPwCアドバイザリー 西田雄太が語り合いました。
(左から)西田 雄太、勝川 宏明氏、田中 大海
出演者
勝川 宏明氏
パナソニック コネクト株式会社 サプライチェーン事業総括部 エグゼクティブコンサルタント
田中 大海
PwCコンサルティング合同会社 パートナー
西田 雄太
PwCアドバイザリー合同会社 パートナー
※参加者の肩書き、所属法人などは掲載当時のものです。
※本文中は敬称略。
西田:
後編ではまず「人だけができる仕事」を議論の口火にして、意見交換していきたいと思います。今後、AIがさらに進化し、よりAIの自律的が増した世界において、サプライチェーンマネジメントに関して人に残される仕事とは、結局のところ何だとお考えになりますか。
勝川:
「判断する」ことが人に残される仕事です。いわゆる「ヒューマン・イン・ザ・ループ(Human-in-the-Loop:HITL)」という考え方があります。AI化や自動化がなされたプロセスのどこに人が介在し、何を判断すべきなのかを問うシステムや設計思想のことです。例えば需要予測でも、AIが示した結論をそのまま受け入れるのではなく、結論を踏まえて最終的にどう判断するかを人が担う。この部分を残しておかなければ、そもそも予測した意味がなくなってしまいます。
もう1つ重要なのが、AIに対して「どう問うか」です。AIから何かを引き出すには、問いの立て方が重要になります。聞き方次第でアウトプットの質が変わるからです。この部分も、人が担う役割として残るはずです。
西田:
確かに同じAIを使っても、どのような問いを立ててどう分解するかという「イシューの設定」次第で、出てくる回答はまったく異なります。その結果を踏まえて次に何を指示するかも、人の判断力に依存する部分が大きいと感じます。サプライチェーンマネジメントにおいても、ルーティン業務や最適化計算から解放される一方で、例外処理や人道的配慮といった論理判断などの「意思決定する力」がますます求められるということですね。
田中:
「人の仕事」として残るものを、私は2つ挙げます。「ストーリーをつくること」と「ストラテジーレベルで判断すること」です。
「ストーリーをつくる」とは、例えばある市場に商材を投入し、価値の提供を通して顧客との関係を変え、最終的に一定のシェアを獲得する――そんな一連の流れを構想することです。新規事業を起こすこともこれに含まれます。
一方、「ストラテジーレベルの判断」とは、トレードオフの中で最後に「えいっ」と下す決断です。例えば明らかに赤字構造の市場があり、他社が撤退しているとします。しかし、逆にそれをチャンスと捉えてその市場にとどまる判断もあり得る。一見、ロジカルな意思決定ではなくとも、その企業のパーパスに基づいて決定される判断です。それを決められるのは、人間だけです。
オペレーション領域は、今後かなりの部分がAIに代替されていくことでしょう。そのとき人に残るのは、より高いレイヤーでどう考えるかという部分です。サプライチェーンに関わる人は、その方向に意識のかじを切る必要があると感じています。
西田:
続いて、日本のハイテク産業をどう強化していくかという視点からサプライチェーンマネジメントを考えてみましょう。私たちがクライアントを支援する中で痛感するのは、理想像だけを語っても現場は動き出しにくいということです。人の仕事として「ストーリーづくり」や「パーパスに基づく判断」が残されることを踏まえ、前編の末尾で論じたサプライチェーンマネジメントの将来像を「足元の一歩」の行動に落とし込むため、日本企業はまず何から始めるべきでしょうか。
勝川:
今の日本企業に私が最も求めたいのは、「変わることを恐れないでほしい」ということです。失敗を恐れ、パーパスの実現に挑むような思いきった行動に二の足を踏んでいる企業が多いように感じます。その背景には、これまで積み重ねてきた成功体験、とりわけモノづくりで「われわれは世界のトップを走っている」という記憶から抜け出せないでいることがあるのではないでしょうか。確かに、モノづくりそのものでは世界に負けていない領域が今もあるでしょう。ただ、それとサプライチェーンマネジメント全体の競争力は別の話です。その自負がときに新たな変革を阻むこともあります。
パナソニック コネクト株式会社 サプライチェーン事業総括部 エグゼクティブコンサルタント 勝川 宏明氏
西田:
今のご指摘を「現場データの重要性」と結び付けると、「成功体験」に基づく優れたノウハウが現場にあるなら、それをしっかりと活用可能なデータセットとして自社のアセットにすることも、足元で始められる重要な取り組みの第一歩になると感じました。アナログな「記憶」を皆がシェアして横展開することは難しいが、「データ」という形式知に置き換えれば他拠点への展開や後進育成にも活用できる。ハイテク製造業などを題材とした際には、大規模なデータプラットフォームの構築をいきなり目指すよりも、まずは世界水準のノウハウが存在する現場に残る財産を形にするほうが着実、かつ実効的ではないかと考えます。
勝川:
確かにそれも1つの方法ですね。「現場の知見」の価値に、改めて光が当たります。もう1つ、日本企業の大きな課題が「局所最適」です。個々の現場で、本当に優れたことが行われているケースは多い。しかしそんな「局所の最適」を足し合わせれば「全体最適」になるかというと、必ずしもそうではありません。部門や機能の壁を越えなければ、サプライチェーン全体を最適化することはできないのです。
難しいのは、個々の現場に「自分たちは最善を尽くしている」という自負があることです。実際その範囲だけを見れば正しいことも多い。なので、「そのやり方は改善できる。変えてほしい」とただ伝えても、変わることはありません。だからこそ、もう一段高い視座から全体を俯瞰できる責任者の視点が必要なのです。その役割を担うのが、例えばCSCO(Chief Supply Chain Officer)なのかもしれません。
西田:
「組織・人材」の論点にもつながりますね。CSCOを設けている企業は、欧米と比べて日本ではまだ限られています。田中さんは組織・人材の観点からどうみていますか。
田中:
勝川さんとほぼ同じ感覚を抱いており、それを「タテ・ヨコの意識」と呼んでいます。「タテ」とは、何らかの判断を下すときの視座を、オペレーションのレベルからサプライチェーン戦略のレベルにまでリフトアップすること。「ヨコ」とは、ファイブフォースのフレームワークのように、自社・サプライヤー・顧客・競合他社などのパワーバランスを業界全体の構造で捉えることです。
支援先企業の中にも、このタテ・ヨコの意識の重要性を認識する企業はあり、人材の育成や採用もよく練られている印象を受けます。また、特に先行している企業には「ヘッドクオーター(本社機能)が日本にあるからといって、CSCOも日本に置く必要は必ずしもない」という発想があります。組織のあり方はグローバルなネットワークの枠組みで設計すればよく、全てを日本の中だけで完結させようとするとかえって難しくなりやすい、と私たちはみています。
西田:
いま田中さんから示されたキーワード「ネットワーク」について、企業間の連携という視点で考えてみたいと思います。これまでも、業界再編といった局面では、それまで競合だった企業間での共同配送や共同開発など、自前主義からのシフトとして企業間連携が生まれた例はいくつかあるかと思います。ただ、その多くは外部環境の変化に伴い「そうせざるを得ないから」協力した側面が強かったようにも感じます。一方、未来のサプライチェーンを見据えると、自発的に戦略的パートナーシップを組む事例が今後出てきてもおかしくありません。実際、企業・業界・国境を越えてサプライチェーン上のデータを共有し連携する仕組みづくりや、業界内のデータ共有基盤づくりを目指す取り組みはすでに始まっている認識です。
ただ、非競争領域での協調を進め、競争領域に経営資源を集中することにフォーカスしたくとも、多くの一般企業が参加するには、まだハードルもあることでしょう。ネットワーク化の進展に向け、各社はどのような点を考えるべきでしょうか。
勝川:
コンソーシアムを組むとまではいかなくても、企業が連携する共同配送のような取り組みはさまざまな業界で見られます。特に半導体では、必要とする企業同士が情報連携する動きが活発です。そのような動きはどんどん進めればよいと考えています。ただ、ネットワーク化を実際に進めるには、やはり誰かが旗を振る必要があるでしょう。
田中:
日本で企業間連携を進めようとした例は過去にもありましたし、実際に物流の領域では、荷主ではなく物流会社の側から「一緒にやりませんか」と声をかける動きも出てきています。ただ、個人や1つの企業が旗を振っても、しばらくすると動きが止まり、続かない、という現象は起こりがちです。その意味で、国が複数の企業に跨って支援をすることも必要ですし、同時にルールメイクをきちんと行うことが重要だと考えています。
PwCコンサルティング合同会社 パートナー 田中 大海
西田:
参加企業がWin-Winになれる関係を、中立的な立場で設計する存在が求められているわけですね。日本のハイテク製造業が次に強化すべきポイントは、「モノを作る力」ではなく、「モノを動かす力」とも言えるかもしれません。志を同じくする複数の企業が共同出資し、新たな事業体をつくる方法も考えられそうです。
西田:
「未来のサプライチェーンマネジメント」を考える上では、「教育と人材」の視点も欠かせません。日ごろの業務を通じ勝川さんはどんなことをお感じになっていますか。
勝川:
日本では、サプライチェーンマネジメントに関する教育にも、さらに力を入れる必要があると私は感じています。大学など高等教育の科目にIE(Industrial Engineering)や生産工学といった領域はあっても、サプライチェーンマネジメントそのものを専門的に学ぶ環境はまだ十分に発達していないからです。海外では、サプライチェーンを専攻した人材が企業に入り、サプライチェーンマネジメントをはじめ、データ分析やデータサイエンスを担っています。対して日本では、工場のオペレーションや生産管理、倉庫など、それぞれの現場で経験を積んだ人がサプライチェーンマネジメントを担うケースが多い。大学などで専門教育を受けた若い人たちが企業のサプライチェーンマネジメント領域でもっと活躍できるように変わってほしいですね。
西田:
教育と人材育成の基盤を国内で確立することは、中長期的な視野で間違いなく重要です。一方、短期的には、海外ですでに蓄積された専門的な知見・人材、あるいは組織そのものを取り込むという戦略もあり得ると考えます。自前で育てることに加え、それでも不足している機能をM&Aなどのインオーガニックな手段を通して獲得し、内部機能を強化する。それによって自社のサプライチェーンマネジメントを一段高い水準へ引き上げる――という選択肢です。
PwCアドバイザリー合同会社 パートナー 西田 雄太
勝川:
もちろん、その考え方は当社も戦略の1つとして持っており、実際に生かされています。製造業が生み出す付加価値の分布構造を見る「スマイルカーブ」の概念で分析すると、ソフトウェアでは米国の競争力が高く、ハードウェアでは中国が力をつけている。ならば、その両者の間――ハードとソフトをつなぐ領域、つまりサプライチェーンマネジメントで業務やオペレーションを変えていくことにこそ、日本にとっての成長機会があるのではないでしょうか。インオーガニック戦略でそこを強化することは、今後の日本の「勝ち方」を考える上で、1つの鍵となる発想だと言えます。
田中:
これからのM&Aでは、一見して関係がなさそうな「こちらのアセット」と「あちらのアセット」を、「コトづくり」の発想でくくって結び付ける視点が重要性を増すでしょう。
私も教育と人材育成に関しては、期待感を持ってみています。ご縁があって足を運んでいる大学の研究室でサプライチェーンマネジメントの魅力を学生に話すと、興味を示してくれる若者が確実に増えているからです。裾野が広がりつつあることを実感しています。
西田:
今回の鼎談のまとめとして、読者の皆さんに伝えておきたい点をお願いします。
勝川:
サプライチェーンマネジメントとは経営アジェンダであり、経営管理の手法そのものである――このことを、日本の経営者や管理職、エグゼクティブの方々に向けて改めて強調したいと思います。例えばS&OP(Sales and Operations Planning)は、まさに経営の中枢機能です。需要と供給をきちんと管理することが、会社をうまく経営することにつながります。これを踏まえた上で、「モノづくり」から「コトづくり」へと発想を広げること。そして何より、「変わること」を恐れず、変化に挑戦してほしいと思います。
田中:
私からは、2つあります。1つ目は、2020年以降、サプライチェーンに対する認識について国の内外で差が広がってきたことです。海外の主要国では、企業のマネジメント層でサプライチェーンマネジメントへの問題意識が高まり、CSCOのような役職の設置も進んでいます。国内だけを見ていると気づきにくいかもしれませんが、海外に出ればその違いを強く感じるはずです。まずはその差を直視することが出発点だと考えています。
もう1つは、それでも「今はチャンスだ」ということです。生成AIやデータ関連の技術がどんどん進化し、これまで難しかったことのハードルがずいぶんと下がりました。企業が、マインドや業務、見るべき軸を変えようとしたとき、それを支える技術や仕組みは、実は身近にあるのです。「やろう」と思えばできる環境が整いつつあります。だからこそ、今は大きなチャンスだということを意識していきたい。
加えて、提言を1つ。すでに流通している言葉や概念に対して、“換えて考える”ことも大切だと私は感じています。例えば、「サプライチェーン」という言葉は、供給側に顔が向いているイメージを伴います。しかし実際には、サーキュラーエコノミーのように逆方向の流れもある。ですから、「デマンド・アンド・サプライ」あるいは「バリュー」など、言葉そのものを置き換えてみながら考えることも大切なのではないでしょうか。「チェーン」も同様です。チェーンは鎖のように連なった「線」を連想させますが、実際に起きているのは「ネットワーク化」です。つまり、「デマンド・アンド・サプライ・ネットワーク」としてサプライチェーンを捉える必要があると考えています。
西田:
示唆に富む充実した議論となりました。本日はありがとうございました。
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