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機能性表示食品制度の規制緩和以降、多くの食品メーカーが独自素材を開発し、エビデンスを武器に高付加価値な商品として消費者に対して訴求を続けています(図表1)。国内大手食品メーカー(以下、メーカー)は従来からバリューチェーンの垂直統合を志向してきたことから、自社でR&D(研究開発)機能を保有し、機能性素材の研究を重ねてきました。
図表1:機能性表示食品の申請数
しかし、メーカーの努力や期待の一方で、消費者の機能性素材の効能についての理解は十分ではありません(図表2)。さらに、市場に多くの機能性素材が出回ることで、それぞれの違いを区別することが困難になっています。このような状況において、メーカーは従来の商品と同様に、広告投資や販促活動によって消費者の機能性素材の効能へのリテラシーを向上させようとしています。これにより、中長期的な投資を継続していることも事実です。しかし、画期的な機能性素材であっても、消費者や市場においてその価値がすぐに認識されるとは限りません。その結果、長期的かつ着実な取り組みが必要となり、経営として期待した成果が得られず、商品ポートフォリオにおいて機能性表示食品を一部適用するにとどまるケースも少なくありません。
図表2:消費者の機能性素材に対するリテラシー
出所:消費者庁(2023年)『令和4年度食品表示に関する消費者意向調査 報告書』
一方で、こうした独自機能性素材は、商品の差別化を実現するための手札として重要であることには変わりありません。このような状況下で、メーカーはどこに、どのようにして成功への道筋を見出すべきでしょうか。私たちは、以下の4つを重要なポイントとして考えています。
自社製素材を活用した健康戦略を推進するにあたり、まずは自社素材の本質的価値を明確に見極めることが非常に重要です。どのような作用機序で素材の機能が発揮され、臨床研究によりどのような効果や効能が期待できるか、さらにその結果としてどの程度の市場規模をターゲットにできるかを見極めます。この価値の理解は、独自機能性素材の展開において戦略の幅を広げる基盤となり、既存・上市済みにとらわれず全体像を把握する必要があります。
次に、自社素材がターゲットとする健康ニーズや競合関係にあるブランド・製品について分析し、自社素材の独自性や差別化要素を明確化します。この情報を基に、自社素材の展開戦略を策定し、提供価値と市場でのポジショニングを明確化することで、過度な投資の分散や市場での「没個性化」を防ぐことを目指します。
このプロセスにおいては、事業企画・マーケティング・商品開発・R&Dといった各部門の緊密な連携が不可欠です。適切なステークホルダーの関与を通じて網羅的かつ具体的な検討を行い、社内で戦略的な合意を形成します。これにより、啓発活動、バリューチェーンの構築、デジタル投資や提携などの活動をスムーズかつ一貫性を持って実施することができます。
多くのメーカーが素材のエビデンスの有無にかかわらず、消費者への訴求では広告や販促活動に依存しがちです。ただ、消費者のリテラシーが高くない状況では素材や製品の正しい理解が進まず、一時的な需要喚起にとどまりかねません。広告・販売促進のみならず、さまざまな消費者コミュニケーション手法を組み合わせた啓発活動を中長期的に継続することが重要です。
図表3:啓発活動の例
独自機能性素材ビジネスには認知度の獲得や市場浸透に時間がかかるという特性があり、バリューチェーンの構築に必要な初期投資も大規模になる傾向があります。さらに、消費者ニーズは急速に変化し、市場の不確実性も存在します。そのため、リスクを分散するためにスモールスタートを採用し、市場状況を注視しながら段階的に事業を拡大するアプローチが望ましいでしょう。
リスク分散としては、バリューチェーン上のリソース配分における選択と集中が重要となります。ここでは、自社が志向する素材ビジネスのコアとなるケイパビリティが何か、すでに有しているアセットの活用余地があるかなどを踏まえ、自社で具備すべき機能・ケイパビリティの特定、バリューチェーンの各段階の取り組み事項の絞り込み、外部リソースの活用余地の検討などを行います。
消費者の啓発には地道なコミュニケーションの継続が肝要です。その点、近年のデジタル技術の進歩は、消費者教育や啓発活動のあり方を飛躍的に向上させる可能性を秘めています。例えば、生成AIはすで に実用化が進んでおり、科学的データや研究成果を消費者の目線で解説し、個々の関心や健康課題に合わせた情報提供につながっています。これにより、消費者は複雑なエビデンスを直感的に理解しやすくなり、商品の価値を実感しやすくなりました。
急速に進化するテクノロジーを他社に先んじて活用し、消費者の購買体験をいかに豊かにできるか、そして消費者のリテラシーを向上させられるかがメーカーは問われます。自社単独での取り組みによっても一定の成果が期待できますが、企業が持つ顧客基盤やデータ、技術には限界があります。加えて、消費者は特定の素材やブランドに固執するのではなく、健康課題に基づいて商品やサービスを選択する傾向があります。そのため、有力なプレイヤーと協力し、複数の企業が連携してエコシステムを構築することが、より大きな価値提供と消費者啓発につながり、持続的に選ばれる鍵となるでしょう。
メーカーとして注目すべきは、AIやデータを活用した、流通小売業や独自の素材を持つ他のメーカー、さらには消費者とも連携したエコシステムの構築です。これらの各プレーヤーが持つ強みを生かし、デジタル技術の効果を最大限に引き出すことで、特定保健用食品や機能性表示食品を含む保健機能食品市場が、真に消費者の健康を支える存在となれると考えます。また、将来的に流通小売業各社がバリューチェーンの垂直統合を通じて自前で機能性素材開発や商品企画を進める可能性も考えられるでしょう。メーカーとして早い段階からエコシステム構築を主体的にリードしておくことは、将来的な交渉力の確保という観点からも有効です。
以下に、このエコシステムにおける主なプレーヤーと役割を示します。
図表4:各プレーヤー間の関係性
以上のように、各プレーヤーが連携し互いを補完することで、単独企業では実現が困難な大きな価値を消費者に提供できます。また、業界全体として持続的な成長と健康支援に寄与するエコシステムが構築されます。メーカーにとって、このエコシステムの形成は消費者の健康を支える上で不可欠であり、積極的に取り組むことで消費者の信頼を深めると同時に、業界の未来を切り拓くリーダーシップを発揮することにもつながるでしょう。
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