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2025年6月25日、欧州委員会は「欧州宇宙法(EU Space Act)」素案を公表しました。この法案は、欧州連合(EU)域内の宇宙活動に関わる事業者だけでなく、EU域内で宇宙サービスや宇宙由来データを提供する第三国の事業者にも適用されることが示されているため、日本企業にとっても無関係ではありません。本シリーズ記事の第1回目では、EU Space Actの提案の背景、公表された規則案の概要、今後の動向について概説します。
衛星製造や打ち上げコストの低下を背景に、宇宙活動は急速に拡大しています。新規参入事業者も増加している中、EU加盟国の半数以上が活発化する宇宙活動に対応する形で独自の宇宙法を制定、その他の国でも法整備が進められています。しかし、それぞれの国で認可要件や基準が異なり、EU域内市場の断片化が進行し、これが衛星設計の基準や安全管理、サイバーセキュリティ対策、環境影響評価などにばらつきを生み、域内でのサービス提供の障壁や認可手続きの重複を招いていることが指摘されていました。国際的な宇宙条約では国の監督責任を定めてその具体的な技術基準などは各国に任せていることから欧州域内で基準のズレが顕著となっていること、加えて、軌道上の混雑やスペースデブリ、サイバー攻撃、電波干渉や光害、再突入時の地上リスクなど、時代とともに顕在化した新たなリスクへの包括的な対応も求められるようになってきています。
欧州宇宙法(EU Space Act)案は、政策提言(ドラギレポート1など)、加盟国および業界団体からの要請、国際規範の動向等を受け、欧州の競争力と市場統合を高めつつ、宇宙活動の安全性・強靭性・持続可能性を包括的に規律するために提出されました。
1 2024年9月9日に公表された、欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長の要請に基づき作成された欧州の競争力強化に関する提言書。取りまとめ役を務めた、前欧州中央銀行(ECB)総裁で前イタリア首相のマリオ・ドラギ氏にちなみ、「ドラギ・レポート」と呼ばれている。
EU Space Actは、宇宙活動の安全(打ち上げ・再突入・軌道上安全・交通管理)、レジリエンス(サイバーセキュリティ・物理的側面を含む)、環境持続可能性(ライフサイクル全体の環境フットプリント)という3大領域の“共通ベースライン”を設定し、EU域内市場の回復と強化を目指しています。EU域内の事業者だけでなく、域内で宇宙サービスや関連データを提供する第三国事業者や国際機関も規制の対象です(防衛・国家安全保障目的の宇宙物体は除外されている)。
本提案は、EU域内市場の機能確保のための調和立法を可能にするTFEU(欧州連合機能条約)第114条に基づいています。サイバーセキュリティ・物理レジリエンスはNIS2指令やCER規則に対し、特別法として宇宙ミッション固有の詳細な規則の設定を提案しています。また、環境持続可能性は欧州グリーンディールと連携し、宇宙特有のLCA(ライフサイクルアセスメント)手法やデータベース整備を義務付けようとしています。
加盟国には主管当局と技術評価機関(QTB)の設置が義務付けられ、EUレベルではEUSPA(欧州宇宙プログラム庁)が、宇宙物体登録簿(URSO:Union Register of Space Objects)の設置や電子証明書の発行、技術審査、不服申立審などのタスクを担うとされています。監督・立入・是正命令・罰金/科料の徴収など、厳格なガバナンスの整備をEUレベルで実施する内容が盛り込まれています。
罰金/科料について、具体的な算定方法や手続細目については、欧州委員会への委任法令(delegated acts)で定めるとされていますが、EU Space Actに定める義務の違反行為(安全要件、レポーティング義務、調査協力義務など)に対して、利益剝奪方式(「得た利益」または「回避した損失」の2倍を上限)や売上高方式(利益または回避損失を正確に算定できない場合、前会計年度の世界年間売上高の2%を上限)が提案されています。
打ち上げ・再突入では航空・海事当局と調整し、人的被害リスクは標準化手法で計算・閾値以下に抑えることが規定されています。スペースデブリ対策(破片の抑制、受動化)、飛行安全系や中止・無害化装置の設計も必須となり、軌道上では衛星の追跡可能性や、EU-SST(宇宙監視追跡パートナーシップ)による衝突回避サービスへの強制加入などが求められています。
LEO軌道(高度400km超)ではシステムの機動能力確保が義務付けられ、システムの終末処分の成功確率を高める仕様・運用が必要とされています。巨大な衛星コンステレーション2には自動化や追加報告義務などの特則の導入も規定されています。
2 衛星数に応じて、“constellation”、“mega constellation”、“giga constellation”の3つのカテゴリが設定されている。
宇宙資産の全ライフサイクルを通じて、資産台帳管理、アクセス制御、暗号・鍵管理、ネットワーク/情報システムの堅牢化、バックアップ・冗長化、事業継続計画(BCP/DR)、侵入テスト(3年ごと)、重大事故報告(原則12時間以内の通報)などが厳格に規定されます。重大インシデント対応や、EUSRN(Union Space Resilience Network)による当局間連携の枠組みも構築されます。
宇宙事業者に対し、各ミッションのライフサイクル全体(設計・製造・運用・廃棄、墓場軌道を含む)の環境フットプリント(EF)を算定し、必要なサプライヤーデータを取得する義務が課され、認可申請時には、EF算定を証する環境フットプリント宣言(EFD)と、QTB(有資格技術機関)発行のEF証明書等の証憑を提出することが求められています。なお、算定・検証手法や様式は実施法で定められるとされています。
電子証明書の取得やURSO登録が義務付けられ、契約時には電子証明書添付が必須となります。さらに、法定要件を上回る水準を可視化する「Union Space Label」のラベリング・スキームも導入予定とされています。
EU Space Actの提案にあたっては、本法案によるコストや便益のインパクト評価(試算)も行われており(Impact assessment report)、今後、自社事業への影響を考えるうえで参考となります。
インパクト評価の中では、衛星製造コストは最大10%程度上昇、打ち上げコストは大型機で最大150万ユーロ、SME(中小企業)で20万ユーロ、リスク管理費はIT予算の10%程度、認可単位あたり約10万ユーロ、PEFCR実装費用4,000~8,000ユーロなどが見込まれると試算されています。
一方、衛星コンステレーションの包括認可導入による10年累計で6,800万ユーロ削減、LEO衛星寿命延伸による年13億ユーロの経済効果、製造業のサイバーセキュリティリスク低減による年3.2億ユーロの節減など、長期的な便益も大きく、サービス信頼性や環境負荷低減の社会的メリットが期待できると試算されています。
EU域内で宇宙サービスやデータを提供する日本も含めた第3国の企業も規制適合が必須となるため、現行法案が承認されると次のような準備が求められると考えています。
本法案は、2025年7月15日からパブリックコンサルテーションが行われており、その後EU通常立法手続で審議され、2025~2029年にかけて下位法令や標準等の策定が進みます。適用開始は2030年1月1日、CDR(詳細設計審査)を過ぎた案件は2032年から、IN-SPACE OPERATIONS AND SERVICES(ISOS)関連は2034年からと段階的に適用されます。新制度の標準化やインフラ整備、関係者協議も並行して進められます。
EU Space Actは、宇宙活動の設計から製造・打ち上げ・運用・廃棄まで全ライフサイクルを対象に、安全・レジリエンス・環境の共通基準を導入しようとする法制度です。グローバルにサービス提供する日本企業も、早期に要求水準の読み替えや技術・運用計画、LCA/PEF対応、サイバーセキュリティ・物理レジリエンス強化、電子証明書の取得体制の設計など、体制刷新に向けたロードマップ策定が必要となります。
今後の欧州における議論動向を引き続き注視しつつ、日本の宇宙ビジネスの拡大を見据え、規制議論への迅速な対応と準備が求められています。
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