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社会システムは複雑化の一途をたどり、情報はどんどん更新され、次々と新しいルールができあがっています。私たちはそのような変化についていくだけで必死な状況です。そんな中、社会を変えるための何かを1人で成し遂げることは極めて難しく、1人で社会課題に取り組むには知識やスキル、経験が圧倒的に足りません。
これからは「仲間と組めば、もっと広い範囲で大きなことを実現できるかもしれない」という発想が大切になりますが、この仲間集めが非常に難しいという点については、まだあまり注目されていません。本稿では、新しい協働を促すための仲間集めの方法について考察します。
大きなことでも、小さなことでも、新しい取り組みを立ち上げる際には、まずはオーナーシップを持った人が始めていきます。社会で起きていることを見聞きし、解決が必要な重要課題を知り、「このままの状態ではよくない」「解決のためにできることがあるはずだ」と思い、立ち上がります。
取り組みを立ち上げるに際しては、最初に「ビジョン」や「目指す姿」を描き、「戦略」や「アクションプラン」を作っていきます。これらがうまくできあがり、「このまま実行していけば、きっと上手くいく」と思える状態になり、誰に見せても「いいですね」と評価してもらえるようになったとします。
ですが、「仲間に入れて欲しい」「一緒にやりたい」とまでは言われないという事態が考えられます。戦略やアクションプランが誰かの心を動かしたり、行動を促す動機になったりするところまで至らないのです。なぜなのでしょうか。このままでは、仲間が集まらず、ビジョン達成どころではありません。
これは、イニシアチブの立ち上げ期や拡大期に散見される困りごとの1つです。
筆者は、仲間を集めるためには適切な方法があると考えています。しかし、その方法をまだ誰も見出せていないと推察しています。
その背景には、企業の既存業務において、業務命令系統がはっきりしていることがあると考えられます。つまり、皆は指示に従って動いており、社員が自らの自由意思で「参加したい」と発言する機会が、それほど多くないということに関係していると考えています。
「仲間集め」という言い方は少々ふさわしくないかもしれませんが、企業の既存業務において社員の方向性を合わせる活動はあります。代表例は、中長期経営計画の浸透活動です。
中長期経営計画は、経済的価値の最大化を目指すものであり、売上や収益を多くあげることを重視しています。金額は分かりやすい指標であるため、達成状況が見えやすく、社員の方向性を揃えやすい点が特徴です。社員はその計画の一員であることを暗黙的に理解し、皆で達成するための全社のチェンジマネジメント施策に取り込まれていきます。そして、達成に向けた集団の一員となっていきます。社員が果たすべき責任とも捉えられ、参加するかしないかを自らが選択するようなものではありません。
新規事業の立ち上げも、経営層からのトップダウンの力が働いており、かつ経済性を追求する事業である場合は、これと似ていることがあります。既に、大きなテーマは決まっているところからスタートし、その業務指示を受けたメンバーたちが、論理的思考により戦略とアクションプランを導き出し、関係者に共有します。その後はプランを忠実に実行するというアプローチが採られ、例え社内の有志が集められたとしても、おおよそは実行部隊の一員となるケースが多くあります。
しかし、こういったトップダウンアプローチだけでは目標の達成が難しいケースがあります。その代表例が社会課題解決に資する取り組みです。
社会課題解決に資する取り組みの多くは、大きなことであれ小さなことであれ、そこに強い課題意識を持つ人を中心にボトムアップで立ち上がっていきます。そして社会に対して似たような危機感を持っている人たち、あるいは越境的学習で社会との接点を多く持っている人たちが集まり、「この社会課題は放置しておくのは良くないと思う」などと非連続な議論を行いながら、自分たちや会社を取り巻く課題に対する感覚を研ぎ澄ませ、解決に向けた取り組みを実行に移していきます。
一方で、自分はやりたいと思っていても、1人ではどうすることもできないという現実的な問題があります。それに加えて、昨今の社会課題は非常に広範囲にわたり、また複雑化しているため、そもそも1人で解くことができるようなものではありません。そのため、社会課題を解決するためには、やはり仲間集めが重要になるのです。
話を戻すと、オーナーシップを持った人が温めてきたアイデアに基づいてビジョンやアクションプランを作ったとしても、現実的にはそれを聞いた周りの人々は「ロジカルに理解はできた。だが、いま自分が取り組むべきとは思えない」と距離を置いてしまうかもしれません。それでは、仲間になれません。
もっと聞き手の課題意識との距離を縮め、共感を呼び込まないといけないのです。
結論から言うと、仲間を集めながら大きなパワーにして、社会変革を実現するためにはナラティブが不可欠です。戦略やアクションプラン以上に、ビジョンとそのビジョンを体現するための「道筋」をナラティブに語ることが何より重要であり、既存事業の進め方との大きな違いとなります。
以下、ビジョンを描き、事業戦略を立て、プランを実行していく際に定義すべき要素を図にまとめました(図表1)。既存事業については、ビジョンや目指す姿はあり、事業のあるべき姿などについても数値目標で立てられているケースが多く、検討の重点は図表1の右側の「戦略」と「アクションプラン」に置かれます。ここをいかに論理的合理性に基づいて作成できるかが重要となります。
一方で、全く新しい取り組みで、事業のあるべき姿が経済的価値だけでなく社会的価値の創出も志向している場合は、図表2のとおり、左側の検討も非常に重要となります。「ビジョン・目指す姿」と「事業のあるべき姿」の描写が粗かったり、イメージしづらいものであったりすると、何をしたい取り組みであるのかが分からなくなります。
さらに、アプローチも重要となります。「変革のシナリオ」と言っても良いと思います。現状からどのようにしてあるべき姿にたどり着こうとしているのか、その道筋を示すものとなります。
そして、この全体の要素を物語のように語るものが「ナラティブ」となります。これが、聞き手に刺さり、共感を呼び込めるかどうかが、仲間を集められるか否かにかかってきます。
共感を呼び込むためには「価値観」「経験」「意見」「感情」の4つの要素が重要であり、それをナラティブに織り込み、感情面からも訴えかけ、聞き手に揺さぶりをかけていきます。
例えば、「私はこういう経験をしたことから、この状況を無視してはいけないと思いました。こういう価値観は大事だと思うし、みんなにも気付いてほしい。なので、私たちで一緒にこういう道筋をたどって解決に向けて取り組んでいきませんか」というようなイメージです。それを「ビジョン・目指す姿」「事業のあるべき姿」現状の姿」「アプローチ」に入れ込み、ナラティブとするのです。
ナラティブに必要な4つの要素
ここで重要なポイントは、「私」と「私たち」の使い分けとなります。価値観や経験、意見、感情は個人的なものであるものの、会社や社会という土俵で進めるにあたっては、それでは仲間は集まりません。「私はこう考える」というスタンスをオープンに開示しつつも、「同じようなことを思っていた」という人を呼び込むために、「私たち」を主語にするナラティブを作っていくことが重要です。
できあがったナラティブは、引き出しに閉まっていてはなりません。あちこちで語り歩き、多くのフィードバックをもらいながら更新していきます。また、別の誰かにどこかで語ってもらえるぐらいにシンプルにしていきます。作成当初は「私は」「個人的には」だったナラティブも、多くの人の意見を取り入れることにより「私たちは」と語れるようになっていきます。
聞いている人に「この考え方は理解できる」「私も、そのビジョンを一緒に実現できる一員かもしれない」と思わせること。すると、それに共感した人々が積極的に、あなたの取り組みを語っていってくれるでしょう。似たような言葉で、同じビジョンを語りだしたら、仲間集めは成功していると言えるでしょう。
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