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2021-11-02
カーボンニュートラルを宣言した日本の温室効果ガスの排出量(2021年4月環境省発表:確報値)は、二酸化炭素(CO2)が91%を占めています。そのうちエネルギー起源の排出量は93%(全体の約85%)となっており、エネルギー起源の二酸化炭素排出量の削減が喫緊の課題となっています。
その課題に対応するためには、まずエネルギーがどのように活用されているかを理解することが重要です。利用エネルギーの中で最も大きな割合を占めるのが電力(エネルギー転換部門)です。電力は他のエネルギーと異なり、日本人全員が利用しているといっても過言ではありません。加えて、産業部門で活用される重油や軽油、運輸部門で使われるガソリンや軽油、業務部門や家庭部門で使われる都市ガスやプロパンガスなどがあります。
こうしたエネルギーは私たちの生活や企業の事業活動や社会経済活動にとって必須であるため、使用をやめるということは非現実的です。現状、日本国内で利用されるエネルギーのほとんどが化石燃料由来であるため、脱炭素化を進めることは容易ではありません。
従って、日本においてカーボンニュートラルを達成するためには、エネルギー活用の変革、およびそれに伴う社会インフラ・地域連携基盤の変革が不可欠となります。そのためには、特定の企業だけでは実行できず、インフラを共有する地域全体としての脱炭素化推進が必要です。最近では、地域のエネルギーの転換および変革を新たな機会と捉え、対外的に発信することで地域の活性化につなげる動きも活発化してきています。
脱炭素に向けて必要な最初のアクションは、現状のエネルギー活用状況を見直し、消費の無駄を無くすことです。電力使用量を削減するだけでなく、工場の稼働状況の効率化を進め、運行効率を高めるなど、燃料消費量を最小化するためには、BEMSなどの統合システムやセンサー、IoT機器の活用、またAIなどの先進技術を導入することが有用です。そうしたテクノロジーにより、エネルギー消費量を見える化し、削減余地がある分野、領域を把握することで、実効性のあるアクションにつなげられると言えます。
加えて、再生可能エネルギーのさらなる導入、普及促進が重要となります。固定価格買取(FIT)制度導入から10年近くたち、以前より普及している水力発電を含めれば、日本国内における再生可能エネルギーによる電力量は全発電電力量の20%程度にまで拡大してきました。しかし、現時点ではその導入量は十分とは言えず、そのさらなる普及が脱炭素化の成否を握っています。とはいえ、必ずしも大規模な開発を推進する必要はありません。工場、ビル、住宅の屋根や、遊休地に太陽光発電パネルを設置するなど、適切な開発を行うことが重要です。同時に、変動する発電量の影響を最小化するため、蓄電池を導入することや、VPPなどのデジタルソリューションとの組み合わせにより再生可能エネルギーのポテンシャルを活かしきることが求められています。
こうしたエネルギー活用の変革には、一過性のアクションではなく、継続的な取り組みが求められます。そのためには個人や企業に負担を強いるのではなく、容易に実施できる仕組みを構築することや、コストの削減と利便性の向上を両立し、実際に大きなメリットがもたらされることが重要となります。
こうした継続的な取り組み、アクションにつなげるにあたって大きな役割を果たす可能性があるのが地域ユーティリティ事業です。地域ユーティリティ事業は、単に電力などのエネルギーを供給するにとどまらず、地域インフラを管理・運営するとともに、モビリティ、医療など他の公益的な事業領域と連携、連動することで、地域に還元していくことが期待されています。
エネルギー活用に関しては、地域ユーティリティ事業が電力をはじめとする地域のエネルギーを効率的、かつ継続的に管理するとともに、地域の分散型電源の普及を促進し、そこから供給される電力を地域内で適切に融通する仕組みを構築することが求められます。
これまでは、エネルギーを調達するにあたっては、他地域の企業から購入することが通常であり、資金が地域外へ流出していました。環境省の「地域経済循環分析※」においても、エネルギー代金の流出額は多く、自治体によっては地域内総生産額の1割に迫る規模となっています。しかし、地域内でクリーンエネルギーの活用サイクルを構築することで、地域内でのさらなる開発につながり、再投資が可能となります。つまり、地域経済循環の強化に寄与するのです。
さらには、地域内でのエネルギー利用効率化がその利益に直接つながるため、IoT、AI、スマートホームなど地域のスマート化にインセンティブが働き、企業や個人の効率化にとどまらず、地域交通・モビリティ、医療などとの連携が促進されることになります。
こうした地域内エネルギー循環を高めることで、地域経済循環を促進することが可能となり、結果として地域活性化につながると考えます。
これらの取り組みは、住民や企業の課題の解決を目指すスマートシティと密接に関係しており、地域の新たな価値創出や持続可能な社会の創出に貢献します。
※ 地域経済循環分析のホームページ(http://www.env.go.jp/policy/circulation/index.html)アクセス日2021年11月1日
内藤 陽
シニアマネージャー, PwCコンサルティング合同会社
総人口と労働力の減少、高齢化の進行が予測される昨今の日本において、「スマートシティ」の取り組みが注目されています。PwCはSociety5.0時代の社会課題の解決に向け、クライアントである行政とその先に暮らす住民の価値創出を、ワンストップで支援します。
PwC Japanグループは、サステナビリティに関連した戦略から新規ビジネス創出、オペレーション、トランスフォーメーション、リスク対応、開示・エンゲージメントといった幅広い経営アジェンダを包括的かつ実践的なアプローチで支援します。
PwC Japanグループでは、再生可能エネルギーや脱炭素経営、会計、税務などの専門知識を有するプロフェッショナルが「カーボンニュートラルソリューショングループ」として組織を横断して活動しています。
PwCコンサルティングの「ソーシャル・インパクト・イニシアチブ」は、社会課題の解決を第一義に捉え、社会課題の構造を解き明かし、価値観を共有するステークホルダーとともにコレクティブインパクトの創出を目指しています。