これからの時代に求められるサプライチェーンネットワーク変革とは

  • 2023-11-06

近年、パンデミック対策や地政学リスクの増大といった外部環境からの要請に伴い、サプライチェーンのレジリエンス強化の必要性が高まっています。それに伴い、ロケーションの再考などサプライチェーンネットワークを抜本的に見直すことが求められています。これらの変革に求められる、拠点配置や輸配送ネットワークをデザインする「サプライチェーンネットワーク最適化」に係るアプローチと、その勘所について解説します。

VUCA時代に追随するネットワーク変革

サプライチェーン分断リスクの顕在化や新たな価値観の到来など、これまで想像し得なかった外部環境からの要請により、QCD(Quality:品質、Cost:コスト、Delivery:納期)だけではネットワークの最適解が求められなくなってきています。私たちはこのようなネットワーク変革機会をもたらす環境変化を5つの視点から整理しています。

  • サプライチェーン分断リスクの高まり
    COVID-19による供給網の混乱や、ロシアのウクライナ侵攻に端を発した重要物資の供給断絶および囲い込みは記憶に新しいですが、このようなリスクは突如顕在化するため、企業は即座に対応することが迫られます。サプライチェーンネットワーク構造の観点からは、拠点を集中させるのではなく分散して配置することや、代替ルート設定による複線化などにより冗長性を確保し、地産地消型の生産ネットワークへシフトするなど、平時よりネットワークの寸断に備えるような必要があります。
  • SDGsやESG経営への対応
    サプライチェーン全体におけるGHG排出量の可視化、排出量削減を目的としたモーダルシフトや輸配送効率化といったニーズは今後一層高まるでしょう。またESG経営の観点から、ホワイト物流の重要性も増しています。
  • 物流クライシス(人手不足・運賃適正化)への対応
    人手不足を背景とした労働環境の適正化施策は、維持すべきサービスレベルや拠点選定基準にも影響を及ぼし、それはすなわちネットワークを評価するクライテリアがコストだけではなくなることを意味します。また、物流の省人化や自動化の推進に伴う物流ロボット、自動倉庫、連結トラックの導入や、近い将来における自動運転といった新たなモビリティの普及は、ネットワークにおけるコスト構造の前提を劇的に変化させる可能性があります。
  • 需要の多様化(高付加価値化・自動化の2つのトレンド)
    商品・サービスのパーソナライゼーションや、高付加価値製品へのシフトといったビジネス戦略の変化に伴い、サービスレベルの向上や高度な流通加工などが求められ、物流の位置付けが単なるコストセンターから価値提供の源泉へ変化するケースが増えています。このようなケースでは、拠点機能の高度化に加え、サプライヤー・生産拠点・物流経路を迅速に切り替えるといった、拠点ネットワークに対するアジリティの強化が求められます。
    他方、高付加価値品以外のビジネスは標準化が進み、大量生産への回帰へ舵を切る流れもあります。自動運転が社会実装された世界における自動車などがその好例と言えるでしょう。それに伴い、在庫水準の適正化や上流化、これまできめ細やかに配備していたラストワンマイル供給網の整理縮小など、物流も先行してリソースシフトへ備えなければなりません。
  • 成熟事業への対応
    成熟事業に対しては、利益の安定化のためにさらなるコスト削減が求められます。このような事業は、個社レベルの改善は十分に進められているケースが多いですが、さらなるレベルアップに向けては、社外をも巻き込んだ筋肉質化の余地を残している可能性があります。異業種との共同物流や、商流にまで踏み込んだ中間物流の統合といった、過去の慣例や商習慣にとらわれない、より踏み込んだ改革が求められます。

従前のような環境が比較的安定している時代におけるサプライチェーンネットワークの活動は、徹底した効率化やコスト最適化のみを目的に、分析から検討、計画、実行までのプロセスを経ることで十分な効果を得ることができていました。しかし、先行きが不透明で将来の予測が困難なVUCA時代においては、不確実な将来や喫緊のリスクへ対処するために、そのサイクルを迅速に回し続け、刻々と変わりゆく“あるべき姿”を捉え続ける必要があるのです。

図表 サプライチェーンを取り巻く5つの環境変化とネットワーク変革の機会

サプライチェーンネットワーク変革の勘所は、“最初から完璧を求めない”分析および検討、“しみじみ感”のある現場の巻き込み、人による“決断・熱量・ドライブ力”にある

こうしたネットワーク変革の機会に直面している企業に対し、PwCは変革の伴走者として物流ネットワーク最適化サービスを提供しています。

私たちは、さまざまなクライアントに対してネットワーク最適化に係るコンサルティングサービスを提供するにあたり、プロジェクト推進の要諦として3つの山場があると考えています。

  • 分析は意思決定に必要十分なものであること
    ネットワーク改革のあり方を方向付けるにあたり、シミュレーションを用いた定量分析は、複雑な制約下で迅速に解を導き出すには非常に有効な手法です。しかし実際のプロジェクトでは、分析に必要なデータが十分に揃わなかったり、分析モデルに精緻さを求めるがあまり停滞を招いたりするなど、完璧な分析や検討を求めるがゆえの落とし穴に陥りがちです。こうした「完璧主義の落とし穴」を回避し、スムーズに分析を進めるためには、以下のような工夫が求められます。
    • 常に解くべき問いに立ち返り、答えを出すために必要最低限の粒度の分析であること
    • 初めから多くを求めず、複数回のシミュレーションで論点を絞るアプローチをとること
    • データの完全性に固執せず、適切な仮定を置くこと
  • “しみじみ感”のある検討で改革案に信頼感や納得感を醸成すること
    改革案の実現性に対する現場の心理的不安や抵抗が、のちの実行フェーズにおける綻びとなるケースも少なくありません。そこで有効なのは、要所を押さえた“しみじみ感”のある検討を織り込むことです。例えば、輸配送および保管のキャパシティや業務タイムテーブルを、適切なサンプルを取り出して実物レベルで検証します。ここで重要なのは、分析担当者に加え、実務担当者も参画し、相互にフィードバックし合うことです。このプロセスを経ることで、より信頼感や納得感のある改革案への昇華が期待できます。
  • 熱量とともに意義を説き続けながら、ステークホルダーを巻き込むこと
    改革の推進にあたり、その意義の啓発はコストメリットに終始されがちです。一方、その真の意義は、定量的に示しづらい社内外の環境変化からの要請による部分にあることも多いです。改革に痛みを伴う場合、その定量効果だけでなく、改革の意義をシンプルかつ熱量を帯びた言葉で訴え続けることが重要です。
    また、シミュレーションだけではカバーできない検討要素もあります。定量的な制約や変数に落とし込めない、リスクやサステナビリティへの対応など社内外の環境変化からの要請に対しては、可能な限り論点を洗い出したうえで、最後には人間の決断が必要になることを心得ておく必要があります。

次世代SCM構築に向けて

ネットワークの最適化を検討するにあたっては、これまでは必要な社内の実績データを都度かき集めて分析し、そこに自社の経験による判断を組み合わせて意思決定を行うケースが大半でした。しかし、サプライチェーンを取り巻く課題は多様化・複雑化が進んでおり、意思決定サイクルを迅速かつ継続的に回す必要があるのは前述のとおりです。

この必要性に対処していくため、企業にはデータ基盤を整備し、その民主化を進めることが求められます。特に自社や関連会社・協力会社の実績データが常に蓄積され続ける状態をつくり、適切な権限設定のもと、誰でも必要なデータを抽出・加工できる基盤を作ることが重要であると考えます。これによって、分析・検討の山場の1つであるデータ収集について、その課題が常にクリアされている状態を作ることができます。このような基盤には、スモールスタートからの拡張が容易なスケーラビリティの高さや、大規模データの取り扱いに長けた計算能力の高いサービスを選択する必要があります。

さらなるレベルアップにあたっては、気象データやGHG排出量、各種規制や業界基準といった社外データを自社データと同一の基盤に取り込み、リスク検知や意思決定に活用していくことが一層求められるでしょう。

PwCコンサルティングのオペレーションズ部門は、こうした次世代SCMの構築に向け、そのあるべき姿の検討、スモールスタートからの段階的なQuick Winの刈り取り、実運用への定着、運用後の新たな課題の解決支援を一貫して支援しています。また、これまで積み上げてきた自社の実績情報を活用することに加え、有効なインサイト情報を有したプラットフォームサービスを展開しているGoogle Cloud社と協業し、PwCコンサルティングがこれまで積み重ねてきた企業への支援実績を結びつけることで次世代SCM構築ソリューションによる支援を提供しています。

本稿がサプライチェーンネットワークの変革や次世代SCMの構築を検討されている読者のみなさまにとって、その一助になれば幸いです。

執筆者

増田 潤一郎

シニアマネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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川崎 友暉

シニアアソシエイト, PwCコンサルティング合同会社

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