
「アフターコロナ/ウィズコロナ時代のSCMのあり方」第9回 これからの時代における調達
グローバルでのサステナビリティ意識の高まりと、ロシアのウクライナ侵攻といった地政学リスクの顕在化は、COVID-19の流行と同等、またはそれ以上のインパクトを企業にもたらしています。今回はサプライチェーン全体の中でも、特に調達領域に焦点を当てます。
2021-05-11
日本企業はこれまで、自動車メーカーや電機メーカーを中心にサプライチェーンのグローバル化を推進してきました。特に1980年代後半以降、テクノロジーの発展によってコミュニケーションコストが低下したことから、製造工程を複数の国に移管し、サプライチェーンの全体的な最適化を図る動きが当たり前となりました。
こうしたサプライチェーンのグローバル化は、海外市場への参入や国内人件費高騰への対応策として、必要に迫られた動きとも言えます。アジア・太平洋地域を中心とした安価な原材料費や労働力は魅力ですが、実はこれと引き換えに、日本企業はリスクを負うことになりました。1つはサプライチェーンの距離が延伸したことです。原材料・部品から一つの製品が完成するまでに複数の国や地域を経由することになり、途中で断絶する危険性が高まることになりました。もう1つは供給元の偏りです。アジア、特に中国に原材料・部品の供給元が集中し、他地域での製品の生産・販売が、製造工程の上流からの供給量に左右されることになりました。
今回の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的な流行が、上記のリスクをより顕在化させました。世界中をまたいだグローバルサプライチェーンは寸断され、日本においても、国内への供給が停止することでビジネスに多大な影響を被った企業は少なくありません。今回は、グローバル規模でのSCM(Supply Chain Management)を行う上で担保するべき「レジリエンス(強靭性)」を切り口に、企業に求められる対応を考えます。
サプライチェーン寸断を引き起こす原因としては、今回のようなCOVID-19をはじめとする感染症、地政学リスクなどが今後も考えられます。これらは自社で短期間に解決できる問題ではないため、リスクを根絶した上でサプライチェーンを維持するという考え方は現実的ではありません。一方で、リスクに対処するためにすでに網の目のように張り巡らされたサプライチェーンを抜本的に変更するというのも、困難を極めることでしょう。
このような状況において、企業が既存の仕組みを生かしながらアフターコロナ/ウィズコロナ時代を生き残るために、意識するべきキーワードが、コロナ時代に求められるサプライチェーンの5つの要件のうちの一つである「レジリエンス」です(図表1)。
ここではレジリエンスを、「有事の際の影響を最小限に留め、ビジネスの継続性を高めるための、各種代替候補の確保、余剰・冗長性の担保」と定義します。
サプライチェーンにおけるレジリエンス向上のための主要な施策としては、図表2のように「1.複線化」、「2.ローカル化」、「3.在庫の積み増し」があります。順に内容を紹介します。
1.複線化
サプライヤーや生産工場、物流倉庫など、原材料購買から生産、輸送、販売に至るまでのサプライチェーンを構成する各プレイヤーを複数持ち、多重化することを指します。具体的には、原材料・部品の取引先を複数社に増やす、部品や製品の生産工場を複数拠点化する(外部委託の場合は委託先の増加)、航空輸送に加えて陸路・海路などの経路も用意するといった対応です。これにより、仮にCOVID-19をはじめとする有事で「本線」が途絶えても、「代替線」に切り替えることでサプライチェーンの完全な断絶を回避することができるようになります。
2.ローカル化
海をまたぐようなグローバルなサプライチェーンを避け、各地域(海をまたがない範囲)で調達から生産、販売までのサプライチェーンを完結させることを指します。一部の地域から原材料や製品を調達できなくても、他の地域で調達が可能な体制を整備しておくことで、サプライチェーンの世界的な寸断を防ぐことが可能になります。いわば「地産地消」型のサプライチェーンを複数保有しておくことで、影響を最小限にするのです。
3.在庫の積み増し
文字どおり、リスクに備えて原材料・製品の在庫を積み増す(多めに持つ)ことで、一時的な欠品を回避するというものです。1と2はサプライチェーンの在り方を見直すことを前提にした施策ですが、これは見直しなしでも実現が可能です。
いずれも一定以上の投資が必要であり、各企業のサプライチェーンの構造により、実施の難易度も変わってくるでしょう。1と3を同時に進めながら、2も長期的なプロジェクトとして進めていくといったように、施策を時系列で組み合わせてサプライチェーンを変革していく企業も少なくないと考えられます。一つ言えるのは、どんな企業にも当てはまるような最適解は存在しないということです。不確実性が高まる中、自社の現状を分析して課題を抽出し、優先すべきものから随時、解決を図っていくことが重要です。
今回はグローバルサプライチェーンにおけるレジリエンス強化の方向性を紹介しました。実際にグローバル規模でのSCMを推進する上では、レジリエンスを追求しながら、問題発生時にサプライヤーや生産拠点、物流経路を迅速に切り替えることを可能にする「アジリティ(敏捷性)」や、発生し得る事象と対応に関して複数の想定シナリオを準備する「シナリオプランニング」など、コロナ時代のサプライチェーンの他の要件をも包含して複数の取り組みを並行して進めていくことになるであろうことから、レジリエンス強化単独で問題を解決するのは難しい点に留意する必要があります。アフターコロナ/ウィズコロナ時代に求められるサプライチェーンの5つの要件は、いずれも密接に絡み合っているのです。
各要件の達成目標をどこに置くかについても、各企業の現状に照らしながら決める必要があります。今後も引き続き、サプライチェーンを構成する業務機能を5つの要件をもとに多角的な視点で眺め、必要な施策を提示していきます。読者の皆様にとって、不確実な時代を生き抜くための一助になれば幸いです。
中川 綾
シニアマネージャー, PwCコンサルティング合同会社
※法人名・役職などは掲載当時のものです。
グローバルでのサステナビリティ意識の高まりと、ロシアのウクライナ侵攻といった地政学リスクの顕在化は、COVID-19の流行と同等、またはそれ以上のインパクトを企業にもたらしています。今回はサプライチェーン全体の中でも、特に調達領域に焦点を当てます。
味の素株式会社の上席理事で物流企画部長を務める堀尾仁氏と、物流業界にとって重要な変革ドライバーや、異業種間や産官学などの壁を超える連携および協力体制のあり方、国や行政当局を巻き込んだルールメイキングのあり方について議論しました。
設計・開発と並び、「スマイルカーブ」の両端を担う収益性の高い領域として認識されてきたアフターの領域についてさらなる高収益化の方向性を考えます。
あらゆる危機や状況の変化に柔軟に対応できるサプライチェーンを構築する上で重要となるグローバル業務標準策定のポイントを紹介します。
中国半導体企業における技術的制約下での既存技術のすり合わせ事例から、逆境からのゲームチェンジの可能性や、半導体市場における日本企業の未来への示唆、新たな競争の可能性を探ります。
半導体事業の課題と両社のコラボレーションが目指す価値創造について、PwCコンサルティング パートナーの内村公彦と、GlobalLogicグループMobiveil Inc.社CEOのRavi Thummarukudy氏に話を聞きました。
テクノロジー業界では、企業の枠組みを超えた価値提供が求められる中、海外でのビジネス拡大に取り組むケースが増えており、最適な仕組み構築が求められています。PwCコンサルティング合同会社のメンバーに改革を推進していくためのポイントを聞きました。
PwCコンサルティングが提唱する給与維持型の週4日勤務制度「Four Day Workweek Approach」ソリューションの概要と成功のカギ、ベネフィットを解説します。