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企業の存亡を脅かす危機に備え、「守り」と「攻め」、2方向の「リスクマネジメント」が重要であり、そのための土壌としてカルチャー(企業文化)の変革・醸成が欠かせないことを前編で議論しました。後編では、具体的なアプローチの在り方を見ていきます。「リスク×カルチャー」のマネジメントにおいて実際にどのようなな手法が採られ、その結果どのような効用が期待できるのでしょうか。日本企業のリスクマネジメント、カルチャー変革をリードするPwC Japanグループの専門家3名が案内します。
出演者
PwCコンサルティング合同会社
パートナー/執行役員
山崎 幸一
PwCコンサルティング合同会社 トラストコンサルティング
ディレクター
玉野 真也
PwC Japan有限責任監査法人 ガバナンス・リスク・コンプライアンス・アドバイザリー部
マネージャー
大村 泰元
(左から)大村 泰元、玉野 真也、山崎 幸一
山崎:
ここからは、具体論にも踏み込みながら議論を進めていきましょう。「リスクマネジメント」と「カルチャー醸成」それぞれについて、PwC Japanグループが現在どのようなサポートを提供しているか、具体的なアプローチを紹介してください。まず玉野さん、リスクマネジメントについてお願いします。
玉野:
私たちが提供するリスクマネジメントの支援は、3領域に大きく分けられます。
第一に、中長期経営計画へのリスク要素の組み込みです。リスクを機会要素と捉えて戦略に取り込み、継続的にモニタリングしていく仕組みづくりを支援します。
第二に、顧客企業の設備投資や投資ビジネスについての「リスクモニタリング」があります。現時点で投資フェーズにあり、2〜3年後の黒字化を目指している企業にとって、「投資がきちんとリターンされるか」は、経営陣だけでなく株主などを含む全ステークホルダーの強い関心事です。そのリスクをモニタリングし、経営陣が安心して見守れる状況をつくるための支援です。
第三に、地政学、マクロ、マーケットなど外部環境の変化が企業に与える影響を可視化することです。外部情報のモニタリングに始まり、さまざまな情報ソースを駆使して、まだ一般の目に触れる前の情報も含めて収集します。次いでAI(人工知能)や専門家の知見を活用しながら分析し、その企業にとっての「機会」と「脅威」を統合的に判定したうえで、各部門への戦略提言を行うサービスです。
カルチャーの醸成・整備推進と合わせて、これらの手段をいかに活用し変革を加速させるかが今後はよりいっそう重要なテーマになると考えています。
山崎:
次にカルチャー醸成について大村さんにお聞きします。
大村:
カルチャーマネジメントの領域では最近、「両利きのカルチャー醸成サービス」をローンチしました。これは、「脅威となり得るリスクをマネジメントする」と同時に「機会となり得るリスクをテイクする」ことでカルチャーの醸成を支援するというコンセプトをサービス化したものです。コンプライアンスなどのルール遵守は元より、変化の時代を先取りするイノベーションを加速していく企業カルチャーづくりをサポートします。
具体的には、企業のフォーマル(公式)な制度や経営理念の設計・策定支援と、その企業で働く方々のインフォーマル(非公式)な行動様式や潜在的価値観のデザイン、この両面を支援します。このアプローチにより、ハラスメントや資金の不正流用など不祥事の発生を未然に防ぐと同時に、前例踏襲主義に陥ることなくイノベーションを生み出すチャレンジ精神、つまりリスクテイクのカルチャーを醸成して、変革に向けた全社的な取り組みを可能にします。
先進的な事例を1つ紹介します。「多様性がイノベーションを促進する」という考え方がありますね。これは感覚論ではなく、科学的に数値化できる理論やアセスメントがすでに確立されています。PwCのサポート/サービスでは、企業経営者・管理職にリスクテイクの疑似体験研修を提供することで、均質的な集団よりも異質性に富む集団での意思決定の方が結論の質が格段に高まることを体感していただきます。経験を通して「腹落ち」してもらった状態を作ってから、全社へ多様性を生かす取り組みの推進を展開していくというアプローチです。意識改革と人事制度・人材配置などの具体的措置を連動させる手法を採用しています。
リスク領域との相互連携について言うと、「SNSでの炎上」のような有事に際しても、リスクマネジメントとカルチャー醸成がうまくかみ合っていれば迅速かつ最適な対処が取れることによって、いわゆる「神対応」と言われるような逆転評価を獲得して、企業イメージの向上につなげることも不可能ではありません。
山崎:
「リスクとカルチャーに基づく成長戦略」という考え方は、なかなか具体像をイメージしにくいかもしれません。いくつか事例を示してもらえますか。
玉野:
ある化学系メーカーの例を紹介しましょう。同社はかつて、市場を寡占するほど圧倒的に強い製品群を持っていました。しかし、市場全体に関わる新規テクノロジーの登場によりマーケットが一新されたことで、国内一強だった優位性は埋没し、新たな針路を探ることになったのです。自社のコア技術や強みを徹底的に見直した結果、現在はそれまでとは異なる分野で多角的に事業を展開するコングロマリット企業へと変貌を遂げ、現在も新規分野を次々と検討する投資フェーズにあります。トップダウンでリスクをテイクし意思決定するカルチャーが醸成されていたことがその根本にありました。他方で、外部監査役を含む取締役からは「予定通り成果が出るのか」と常に厳しく問われてもいます。逆風とも取れるこの状況を、「外部環境の変化を機会に転換する好機」と捉え、今まさに私たちも支援しているところです。今後数年単位で投資リターンを回収する重要な時期となるため、いかに適切にモニタリングしていくかが焦点の一つです。
また、とある国内食品メーカーの取り組みも好例です。少子化と人口減少に伴う国内市場の縮小から、食品メーカーの多くはグローバル展開を加速させています。大きく変動する海外市場の中で、「リスク×カルチャー」の観点から対応をどうマネジメントするかをテーマに、戦略と組織文化の見直しを進めているところです。
山崎:
今、海外市場で一定のシェアを持つメーカーでは特に、「取るべきリスク」と「取らないリスク」を改めて明確にする取り組みが目立つようですね。環境が大きく変化するなかで新しいものを生み出す際には、かつての成功体験や既存のルールが足かせになることもありますから、仕組みの変更と両輪でカルチャーの変革が不可欠なのです。
PwCコンサルティング合同会社 パートナー/執行役員 山崎 幸一
大村:
積極的なカルチャー変革に最近乗り出したある電子製品メーカーでは、「役職・組織間は全て対等」という全社ポリシーをまず掲げました。これは、例えば社長の発言だけを取り上げて「特別に重い」と社員一同がかしこまったり萎縮したりするのではなく、全ての社員の意見を対等とみなし、誰もが積極的に声を上げようという考え方です。同社は他社との統合を機にセクショナリズムを超えてオープンに、遠慮なく議論し、クリエイティビティを高めることを志向しています。この理念を基盤として、人事制度やリスク管理制度などについて、個別分科会的に変革を進めているのです。
企業が統合したり、経営を分散したりする過程では、組織としてのカルチャーをどう見直すか、新たにどうつくり上げるかの意思決定が欠かせません。「ある集団内の当たり前のこと」としての企業カルチャーを「固め直す」ことが、非常に重要だからです。
山崎:
その意思決定に関してですが、デジタル技術をどのように活用するかは、「リスク×カルチャー」の領域でも極めて重要なテーマです。私たちPwC Japanグループも、働く人の心が奮い立つような企業カルチャーの醸成に向けたDXの支援に力を入れています。組織での人材の育成とDXの活用にも詳しい大村さんに、取り組みの一端を紹介してしてもらいましょう。
大村:
例えば、人材の動きに関してデータ化が進んでいる企業では、退職率の急激な変動やコミュニケーション状況の異変をデジタル情報としてリアルタイムでモニタリングし、把握できるようになっています。企業内部で起きている諸問題の兆候を遅滞なくキャッチし、経営陣や人事部門が連携して即座に先手を打ちます。このスピーディーかつデータドリブンなボトムアップアプローチが、コンプライアンス違反の予防とイノベーション創出の両面で効果を発揮します。
山崎:
カルチャーマネジメントをいざ実践しようとする際に、ポイントとなる視点や考え方はどのようなものでしょうか。
大村:
カルチャーマネジメントには「シングルループ学習」と「ダブルループ学習」という2つのアプローチがあります。
シングルループ学習とはいわば「深化」であり、既存の価値観を是認したうえでPDCAを回すアプローチです。「今日は昨日よりも速くこの製品を生産できた」といった改善活動がこれに該当します。「守り」のカルチャーづくりには、シングルループ学習で分業を明確化し専門性を高めた「硬質な組織」が効果を発揮します。
対して、ダブルループ学習は「探索」と言い換えることができます。既存の価値観を疑い、新しい価値を探求するアプローチです。「攻め」のカルチャーを醸成するには、組織間の垣根を取り払い、専門人材の集団に若者やよそ者などの「異端者」を招き入れて異なる意見を取り込んでみることも重要です。「そういう考えもあるのか」と発見が生まれそれが組織を柔軟に変えていく——そんな探索ができる「可変性の高い組織」を目指すのです。
企業経営者は、この両方をバランスよく実行する必要があるでしょう。特定の環境に最適化した守りだけでは変化に対応できず、逆に攻めだけでは標準化ができません。
山崎:
実際のプロジェクトではどのような点を重視しますか。
玉野:
私が携わっているプロジェクトで重視しているのは、自分たちの取り組みの価値に気づかせること、会社が良くなれば自分たちにも返ってくるという実感を持たせることです。
実は、「リスク」と「カルチャー」は、とても相性がよいのです。両者の共通項は「エンゲージメント」。つまり自分たちの会社をより良くしようという気持ちです。忠誠心とはやや異なりますが、自分たちの会社をよく知ったうえで、どう良くしていこうかという意識を高めることがポイントです。
山崎:
ただ、リスクにせよカルチャーにせよ、数値化することは簡単ではありません。現状、どのように定量化して、評価指標に落とし込んでいますか。
玉野:
リスクマネジメントに関しては、単体での評価指標としては離職率などを設定している企業もあります。ただし、私たちが目指しているのはもっと広範に、外部情報の収集・分析と内部のカルチャーマネジメントを連動させることです。
PwCコンサルティング合同会社 トラストコンサルティング ディレクター 玉野 真也
山崎:
「リスクマネジメントとカルチャーの融合」というチャレンジは、率直に言って、日本企業ではまだスタート地点に着いたばかりです。とりわけ米国企業と比較すると遅れています。その遅れが要因の1つとなって、直近の時価総額の差分や、スタートアップから成長した企業数の違いにも現れていると私はみています。
ただしこれは同時に、機会が多々残されていることも示唆しており、悲観的になる必要はありません。本稿の前編でご紹介したように日本企業のカルチャーはかつて世界から注目された歴史があります。その潜在的な強みを現代的にアップデートし、顕在化させることができれば、再び世界をリードできる可能性があります。
重要なのは、グローバル企業と競争するために必要なリスクテイク能力と、それを支える組織カルチャーを、日本企業らしいかたちで再構築することでしょう。欧米の模倣ではなく、日本企業独自の強みを生かしたアプローチが求められているのです。カルチャーの再構築と、その継続的な進化に必要なアプローチとは、何だと考えますか。
大村:
先ほどに紹介した、既存の価値観を深化させるシングルループ学習と、新しい価値観を探索するダブルループ学習を、バランスよく実行し続けることに尽きると考えます。この両立もまた1つの両利きの経営と言えるかもしれませんね。
組織が硬直化しそうになったら分社化や権限委譲を行い、逆に拡散しすぎたら統合・標準化を図る。そんな動的なバランス調整を継続的に行うことが、長期的な競争力の確保につながるのです。
PwC Japan有限責任監査法人 ガバナンス・リスク・コンプライアンス・アドバイザリー部 マネージャー 大村 泰元
玉野:
やはり「仕組み」の確立でしょう。地政学リスク・技術・消費者行動といった外部環境の変化を継続的にモニタリングし、そこに機会を見いだして、組織内部のカルチャー変革に生かす仕組みです。それを整備できるか否かは、まさに組織としての能力が問われる重要なポイントだと言えるのではないでしょうか。
山崎:
今や、リスクマネジメントとカルチャーマネジメントを別々に考えて済む時代ではありません。企業の持続的成長を実現するには、この2つを融合させた統合的なアプローチが不可欠だからです。
一見すると企業変革の実現からは遠回りのように映るカルチャーの変革ですが、これこそが、真のイノベーションを生み出し、長期的な競争優位を築く基盤になります。ぜひ、短期的な効率性だけでなく、長期的な組織能力の構築にも目を向けていただきたいと思います。
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