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変動する経営環境の下、「リスク」と「カルチャー」の2つのマネジメントを「融合させて新たな価値を生む」取り組みが注目されています。世間が企業に求めるコンプライアンスの規範が厳格化するなか、想定困難な不祥事の発覚など突発した危機により、企業ブランドが毀損したり事業計画を下方修正せざるを得ないなどのケースが目立つようになってきた背景もあります。いかに企業はリスクに備えるか、そして脅威を機会へと転換させていくか。こうした「攻め」の発想は、組織に根付いたカルチャー(企業文化)の力が可能にするものです。イノベーションを生み出すリスクマネジメントの潮流について、PwC Japanグループの専門家3名が議論します。
出演者
PwCコンサルティング合同会社
パートナー/執行役員
山崎 幸一
PwCコンサルティング合同会社 トラストコンサルティング
ディレクター
玉野 真也
PwC Japan有限責任監査法人 ガバナンス・リスク・コンプライアンス・アドバイザリー部
マネージャー
大村 泰元
(左から)大村 泰元、山崎 幸一、玉野 真也
山崎:
企業が向き合う経営リスクが、かつてとは様相を異にしています。まず、気象気候・地政学・テクノロジーの大変動に加え、ランサムウェアを用いたサイバー攻撃などの外部要因があります。さらに、品質不正、投資やM&Aの不調、さらには世間が企業に求めるコンプライアンスが厳格化するなか、これまでの基準からすると想定が困難であろう不祥事の発覚など、社内事情に起因するリスクも多々あります。「これで大丈夫」と考えて策定した対応マニュアルが、社外・社内で突発した危機に際して十分機能せず、中期経営計画や事業計画の下方修正を余儀なくされたり、目標未達につながるケースも増えています。
そのようななか、リスクを見通して経営の意思決定に反映させる「戦略的リスクマネジメント」が、一段と重要性を高めています。これを確立するには、インテリジェンス機能とDXの深化・推進が欠かせません。近年、企業の多くも「リスクマネジメント」のブラッシュアップを喫緊の課題として捉えています。こうした動きに応えるべく私たちPwC Japanグループでも、コンサルティング部門と監査法人部門が「リスク&カルチャー」のテーマで協働する態勢を始動させました。
なぜ、「&カルチャー」なのか。一般的に、経営リスクを減じるマネジメントでは「守り」の備えに重点が置かれます。しかし、企業の「リスクカルチャー」として、実は「攻め」の姿勢こそが重要であると私たちは考えるからです。ここで言う「リスクカルチャー」とは、リスクに伴い組織内部で共有される価値観・姿勢・行動様式など——いわばガバナンスの基盤となる「ピンチと向き合う企業風土」のことです。
玉野さんはロンドンでのリスクコンサルティングの経験がありましたね。英国企業のリスクコンサルティングは日本よりも古く、30年以上の歴史があります。先行する彼の地で培われた知見も踏まえ、リスクマネジメントの潮流をどう見ていますか。
玉野:
リスクを単に「脅威」としてではなく「機会」としても捉える企業が明らかに増えており、しっかりとマネージされていることを経験から感じています。ここ数年を振り返っても、新型コロナウイルス禍、ウクライナ情勢、イスラエル・パレスチナ問題、第2次トランプ政権の発足など、世界情勢の目まぐるしい変化を「いかに好機に転換するか」を、経営の舵取りにおける重要な判断ポイントとして着目・活用している企業が増えています。
山崎:
外部環境の変化が招く「脅威」と、変化をイノベーションにつなげる「機会」の両面をマネジメントしたいというニーズの高まりは、私も日頃の業務を通じて実感しています。「専守」を軸とする従来のアプローチから、危機を転じて「攻勢」に出る戦略の強化へと重心が移りつつあるのだと分析できます。そんな攻勢を支える要素の1つが、組織や人が新しいことに挑戦するための企業風土としての「カルチャー」ですね。
大村さんはかつて大手人材系企業の人事部門で、企業カルチャーの醸成や経営幹部人材の育成に取り組まれていたと聞きました。現在はPwC Japan有限責任監査法人でカルチャー変革サービスを担当しています。カルチャーマネジメントの現況についてどのように考えていますか。
PwCコンサルティング合同会社 パートナー/執行役員 山崎 幸一
大村:
カルチャーマネジメントにおける「カルチャー」とは、いわば「ある集団のなかで“当たり前”とされていること」の意です。経営理念として言語化されていたり、社内の制度に反映されていたり、あるいは従業員の思考に無意識のうちに刷り込まれていたりと、さまざまな層や部署に浸透し、息づいています。企業にとっての「行動様式や価値規範」と換言することもできるでしょう。私が現在携わっているカルチャー変革サービスは、企業組織内のそんな「当たり前」を変えていくご支援です。
いまカルチャーマネジメントでは、「マイナスをゼロにする」と「ゼロをプラスにする」という2つの視点が、改めて重要視されています。
「マイナスをゼロに」は、「倫理に反することはしない」というごく当たり前の戒めですが、人事や組織のコンプライアンス問題で企業が被るダメージが深刻化している昨今、閉鎖的な組織文化を改め、高い倫理性を備えたカルチャーを確立することの重要性が強調されるのは必然の流れです。
もう一方の「ゼロをプラスに」は、人材を資本(ヒューマン・キャピタル)としてより生かすためのカルチャー醸成を意味します。ここにカルチャーマネジメントの大潮流ができていると言ってよいでしょう。イノベーションや新たな価値の創出源は、そこで働く「人」以外にありません。各人の強みや得意を見極めたうえで、前例踏襲ではない積極的な挑戦が推奨され、それが当たり前とされるカルチャー。そんな企業風土に基づく人事制度の導入や職場での取り組みが増えています。
玉野さんが指摘された「リスクをめぐる2つの側面」——「脅威」と「機会」の両面に焦点を当てる「攻めと守り」の発想は、「ルール遵守とイノベーション加速の両立が当たり前とされる文化」づくりというかたちで、企業のカルチャー変革でも最新のトレンドになっています。
山崎:
PwCが最近実施した意識調査※1で、興味深い結果が示されています。同調査の設問の1つでは、「機会創出を目的とする『攻めのリスク管理』をどの程度実現できていますか」と尋ねています。回答で最多だったのは「実現できていない」(42%)、僅差で「特定の部門や一部の領域で実現できている」(40%)が続きました。一方、「『攻めのリスク管理』が全社的に実現できている」は18%にとどまるという結果でした。
別の設問では、コンプライアンス徹底やリスク回避を主な目的とする「守りのリスク管理」、すなわちERM(Enterprise Risk Management:全社的リスク管理)の整備・管理については、「特定の部門や領域で整備・管理できている」が46%、「ほとんどの部門や領域で整備・管理できていない」が29%、対して「組織のあらゆるリスクを統合的に整備・管理できている」は25%でした。
興味深いのは、これら2問の回答に見られた連関性です。全社的な「攻めのリスク管理」を実現している企業は「守りの管理」も十分にできているのに対し、逆に「攻め」が全社で実現できていない企業は「守り」も不十分という傾向が確認できたのです。
この連関を先ほどの話と併せて考えるとき、「リスク」と「カルチャー」が交わるところに、戦略的なマネジメントの新たな価値が生まれると言えるのではないでしょうか。大村さんはこの結果をどのように分析しますか。
大村:
「リスク情報」が「機会の情報」にもなり得る──という認識の濃淡を映し出しているのではないでしょうか。経営戦略・事業戦略を立案・策定する際、リスク情報を積極的に活用することの効用が最近では注目されており、それを実践している企業も増えています。例えばリスク報告を組み込んだ経営会議の頻度を高めて事業戦略のアップデートに活用する、などです。
この場合に忘れてはならないのが、「カルチャー醸成」を「戦略の推進」と同時にセットし、リスクに対する経営陣をはじめとした全社員の考え方や、当たり前とされる行動の規範を変えていく必要があるということです。そして、リスクカルチャーの醸成には部門横断での取り組みも不可欠です。各部署で従来から取り組まれてきた個別の施策を融合し、全社的に推進することが求められます。その意味で、「リスクとカルチャーの交差点で価値が生まれる」という山崎さんの指摘は、その通りだと私も考えます。
山崎:
リスク管理の観点から玉野さんはどう見ていますか。
玉野:
徐々にではあるものの、「リスクマネジメントとは全社を挙げて取り組むべき課題である」ことへの気付きが 日本企業の間で広がり始めているという現状を、この意識調査の結果は示しているのだと考えます。
これまでリスクマネジメントを担ってきたのは、主にその専門部署や品質管理部門でした。しかし昨今は経営企画部門など、経営の舵を取る部署が主導するかたちに移行しつつあります。カルチャーの醸成はもとより、リスクマネジメントも、本来、明確な指針の下で全社横断かつ一体となって進めることが求められるテーマなのです。
戦略的ERMの観点から言えば、多くの企業がサプライチェーンを含めてグローバル展開している今、地政学リスクやメガトレンドの影響を無視するわけにはいきません。それらのリスクに関する情報収集はこれまでも行われてきましたが、集積されたリスク情報やそれに対応するリスクカルチャーの現状をいかに即時に見える化し、経営の意思決定に反映していくかが、課題の大きなトレンドになっています。
PwCコンサルティング合同会社 トラストコンサルティング ディレクター 玉野 真也
山崎:
玉野さんが「グローバル展開」に言及されましたが、日本企業の持つ「カルチャー」——その特色は各社それぞれですが、これをどんな方向にマネジメントすることが、世界市場での競争に生きてくると言えそうですか。ただし、「カルチャーマネジメント」をそのまま直訳的に「文化の管理」と捉えると、ややイメージしにくいかもしれませんから、分かりやすい先例などがあればそれも踏まえて、説明してください。
大村:
「カルチャーマネジメント」という考え方は、実は日本企業が発祥とされます。米国では工場における「科学的管理法」に代表されるように、従業員を合理性や規律性でもって管理するという発想が伝統的に強くありました。一方日本では、職場の心理的なつながりや暗黙の行動様式を重視する傾向が高度経済成長期からありました。そのなかで、技術力に加えて、経営の背景にある「カルチャーの力」が着目されたのが始まりです。社内で運動会を開催したり、終業後に自発的な品質改善活動に参加したりと、当時の「会社を良くするために皆が協力する」という「無意識の当たり前」が、日本企業の強さの源泉にして、各企業が育んでいる「カルチャー」として注目されたのです。
「旧聞に属する話」と言ってしまえばそれまでですが、こうした歴史があったという事実を知っておくこと、それを現代に当てはめてみることは、今のグローバルな競争を勝ち抜く戦略を考える際、1つの参考になるかもしれません。
ただし、昔と今ではマネージの方向性に大きな違いがあります。高度経済成長の当時は「大手企業の社員」といった集団のアイデンティティが個人よりも優先されましたが、現在は、細分化された「個人」が自らのキャリアにオーナーシップをもって取り組む姿勢が尊重される時代です。従業員それぞれのキャリアプランに寄り添ったうえで、会社全体としてのモチベーションも高めるアプローチが求められる時代になっています。
「企業価値の源泉」として人材を重視する流れへの変化については、2020年および2022年の「人材版伊藤レポート」※2が参考になるでしょう。
山崎:
カルチャーの醸成には、経営層が過去・現在・未来をカバーする長期的な視野で、継続的に方向性を示していくことも求められそうですね。
さて、高度成長期から時代が下って現在、他国にはない、あるいは他社にはない、独自のカルチャーの種を自社に見出したとします。それを育ててカルチャーとして根付かせ、さらにイノベーションの創出につなげるには、企業経営者はどんなことに留意すべきでしょうか。
玉野:
私が特に強調したいのは「内発的動機」の重要性です。大村さんが「日本発祥」の話で指摘なさった自発的な協力にも通じますが、外部要因に強いられてリスクを取る「外発的動機」ではなく、自分たちの会社を「より良くしたい」という内発的動機に基づいてリスクカルチャーを根付かせることが大切なのです。具体的には例えば、部門のKPI(重要業績評価指標)に自社のカルチャーを反映させる、年間の目標設定に組み込む、そしてそれを経営トップのメッセージとして全従業員に継続発信する、などです。こうした本気度が伝わる取り組みのなかから、イノベーションは立ち上がってくるのだと考えます。
実際に、守りの側面での具体的な施策として、中期経営計画にリスクの要素を盛り込む企業や、リスクテイクの基準を明確に定める企業もあり、私たちPwCもサポートしています。「ここまではリスクを取る」「これ以上は危険水域なのでリスクを取らない」という判断基準を設け、戦略的にビジネスを展開している企業も存在します。
大村:
リスクマネジメントを主導する部門が、リスクにつながり得る多様な変化を察知し、経営陣や人事部門と連携対応することは、今後ますます重要になっていくでしょう。組織の硬直化や社内の雰囲気の悪化、重大なコンプライアンス違反はその連携によって未然に防げますし、組織の活性が高まることで従業員に好影響が及び、新たな価値やイノベーションが生まれる素地を整えることにもつながります。そのためのスピーディーかつボトムアップな取り組みが、これからは欠かせない要素になるはずです。
PwC Japan有限責任監査法人 ガバナンス・リスク・コンプライアンス・アドバイザリー部 マネージャー 大村 泰元
山崎:
想定外の不祥事発覚に伴い企業トップが交代し、それを契機に新たなカルチャーづくりに乗り出すケースもあります。「リスク×カルチャー」へのアプローチは、企業の置かれた状況や成長ステージによっても変わるのでしょうか。
大村:
それぞれの企業が直面するフェーズに応じて、取り組みの重点が異なってくる——たしかにそれはあることでしょう。しばしば見られるのは、社長交代のタイミングで新しい事業戦略と一緒にカルチャーも刷新したいというニーズや、不正・不祥事などのクライシス対応として現れるカルチャー変革のニーズです。
いずれの場合も、ターニングポイントに置かれることで企業はカルチャーの見直しを求められます。クライシスからの再生を目指すケースもあれば、危機対応ではなくても会社にもっとドライブをかけたいという積極的な動機に基づくケースもあります。その企業が抱える経営アジェンダによって、アプローチは異なります。
山崎:
ここまで、リスクマネジメントとカルチャーマネジメントの「交差点」で求められる「守りと攻め」について論じてきました。後編ではその実践と事例にも目を向けながら、さらに踏み込んだ考察を加えていきましょう。
※1 「2025年度CRO意識調査」質問テーマ:現状のリスク管理における課題や実施している施策などについて。調査対象:日本のCRO(最高リスク管理責任者)、経営層、リスク管理部門の部門長。回答者数:106名。調査期間:2025年5~6月。https://www.pwc.com/jp/ja/knowledge/thoughtleadership/cro-survey-2025.html
※2 経済産業省「続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会
報告書~ 人材版伊藤レポート ~」https://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/11670276/www.meti.go.jp/shingikai/economy/kigyo_kachi_kojo/pdf/20200930_1.pdf
経済産業省「人材版伊藤レポート2.0」https://www.meti.go.jp/press/2022/05/20220513001/20220513001.html
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