AI分析で社会課題の構造を可視化

炎上の兆候を逃さず捉え、レピュテーションリスクを統合管理する

  • 2025-12-24

はじめに

SNSやオンラインメディアの急速な発展により、人々が得る情報の種類と量は急速に増加しています。社会の価値観や議論の焦点は日々移り変わり、特定領域の話題や問題であったものが、瞬く間に大規模な社会現象へと発展するケースも珍しくありません。

こうした環境下では、企業は社会課題の兆候をいかに早く捉え、自社にどのような影響が及び得るかを把握し、経営やブランド戦略・リスク対へ適切に反映できるかが問われています。一方、情報の流通量が爆発的に増加し、社会の感度は多様化し、価値観の対立や解釈のズレが生じやすくなっている現状があります。そのような中で、経験や勘に頼った従来型のリスク対応には限界が見え始め、社会的な反応の変化を体系的に把握することが難しくなっています。

AIやデータ分析技術を活用し、膨大な情報の中から社会課題の兆候を検知することで、その構造を可視化できます。これにより、企業が社会との関係性を適切に保ち、レピュテーションリスクをコントロールしていけること1が重要であると考え、PwCコンサルティング合同会社ではその具体的な支援を行っています。

社会課題の潜在構造と顕在化に至るメカニズム

社会課題は、単発的な事件や炎上から突然生まれるわけではありません。

社会課題が顕在化する背景には、社会を支える制度や慣習、業界や企業固有のルールの中に存在する構造的な不均衡や不整合があり、これらは社会全体の価値観や文化的背景と結びついた潜在構造として社会に静かに存在しています。

制度やルールが定められたその時点では「当然」とされていたものでも、社会の前提が変わると、そのまま残った制度やルールとの間にギャップや不整合が生じます。こうした構造的なズレは、

  • 国際ギャップ:国際的な基準と日本国内との違い
  • 日本固有:日本固有の文化・制度に起因するもの
  • 世界共通:世界共通で議論されているテーマの推移

など、複数のパターンとして存在します。

これらは顕在化していない「潜在的な社会現象」にすぎず、通常は問題として認識されず潜在的な存在のままにとどまります。しかし、事件・発言・政策変更・調査報道などの「特定の出来事(トリガー)」を契機に、「これは問題ではないか」という論点が付与されることで、はじめて社会課題としての輪郭が明確になってきます。

つまり、「潜在構造 × トリガー × 論点化」という組み合わせが、社会課題の顕在化を引き起こすメカニズムと言えます。そして、企業・ブランド・製品・サービスなど個別のビジネス要素がこの論点と接触した瞬間に、社会課題は「企業固有のリスク」へと転化し、炎上や信頼毀損(きそん)につながる可能性が生まれます(図表)。

図表:社会課題顕在化のメカニズムと企業活動における社会課題との接点

PwCコンサルティング作成

社会課題はどのように顕在化し、拡大していくのか

社会課題は、「潜在期」「顕在化期」「初期拡散期」「拡散(炎上)期」の4つの段階を経て、可視化・拡大していきます。

① 潜在期:潜在構造が静かに存在する段階

  • 制度や慣行において、特定の層コミュニティ、業界、階層などに不利益が偏っていたり、価値観の変化と合わなくなったりする「ズレ」が存在していても、それは多くの人に認識されていません。例えば、国際的にはすでに「問題」と扱われているテーマでも、日本では文化や慣習によって議論が起きず、社会的文脈としては静かに埋もれた状態になっていることです。
  • この段階では、SNSでもほとんど話題にならず、問題が存在していても企業にとってはリスクとして可視化されないフェーズです。

② 顕在化期:事件や発言を契機に「これは問題かもしれない」という論点が生まれる段階

  • 事件・発言・告発・調査報道などの出来事(トリガー)をきっかけに、それまで潜んでいた制度や慣習のズレが「特定の事例」として表に浮上します。
    このとき、
    1. 国際基準との違いが強調される
    2. 日本固有の文化背景が指摘される
    3. 世界共通の価値観(人権・公平性など)と照らして疑問視される
      といった「社会的文脈」のもとに問題が語られ始めます。
  • SNSや報道において初めて明確な「論点」が提示され、社会課題としてのストーリーが立ち上がり始める段階です。

③ 初期拡散期:社会的文脈の中で評価軸が共有され、議論が広がる段階

  • 問題が論点化されると、過去の類似事例が掘り起こされたり、国際動向や他社動向が参照されたりしながら、「構造的な問題」として理解が深まっていきます。
  • SNSでは限られたコミュニティを中心に議論が広がり、専門家やインフルエンサーが発信することで論点が整理されていきます。
  • ここで企業の広告表現・方針・サービスがこの論点と接触すると、初めてレピュテーションリスクが生じるため、早期対応の重要性およびその効果が最も高まるフェーズです。

④ 拡散(炎上)期:社会全体の価値観に接続し、議論が急速に広がる段階

  • 論点が象徴的な事例と結びつくと、SNSでの拡散とマスメディア報道が連動し、社会的関心が一気に高まります。
    社会的文脈の中では、
    1. 「国際的に見て遅れている」
    2. 「日本固有の慣習として許容されない」
    3. 「世界共通の価値観に反している」
      などの強い枠組みで語られるようになり、企業に対する期待や批判が集中します。
  • この段階になると、制度や慣行そのものへの問題提起に発展することもあるため、企業の対応次第でブランドの信頼が長期的に揺らぐ可能性があります。

社会課題インテリジェンス:兆候検知・構造理解・兆候監視の一貫アプローチ

社会課題の多くは初期段階では極めて弱いシグナルしか発せず、膨大な情報の中に埋もれやすい特性をもちます。私たちPwCコンサルティングは、こうした「兆候」を拾い上げ、構造的に意味づけ、継続的にモニタリングするためのアプローチを技術と専門知に基づいて体系化しています。

このアプローチは、以下の一連のプロセスで構成されています。

①兆候を検知する(Weak signal detection)
②構造を理解する(Structural interpretation)
③企業固有の影響を判定する(Impact identification)
④兆候を監視する(Continuous monitoring)

4つのプロセスを具体的に解説します。

① 兆候検知(Weak signal detection):埋もれたシグナルを拾い上げる

国内外のニュース、専門メディア、オンライン上の議論など、多様な情報源から日常的に情報を収集し、AIや自然言語処理を活用して「兆候となり得る話題」を抽出します。

この段階では、単にキーワードを検索するのではなく、前段で解説した「潜在構造」(制度的なズレ、潜在的な不均衡、国際ギャップ、日本固有の文化的背景など)を踏まえて検索語や分析対象を設計することで、通常のレピュテーション監視では拾いにくいシグナルを発見することが重要です。

② 構造理解(Structural interpretation):兆候がどの構造と結びつくかを判断する

検知した兆候を、社会課題の潜在構造(制度・不均衡・社会的文脈のズレ)と照合し、その背後にある意味や背景を理解します。
この段階では、

  • 生成AIによる要点整理
  • 共起ネットワークやクラスタリングによる論点の構造可視化
  • キーワードレベルでの新規性の評価
  • 過去の類似事例や国際動向との比較
    などを行い、「兆候の本質」を浮かび上がらせます。

これら工程によって、単なる話題ではなく、

「社会課題化し得る論点なのか」
「社会課題化し得る新たなトピックなのか」
「どの構造的背景と結びついているのか」

を判断できるようになります。

③ 企業固有の影響判定(Impact identification):自社/業界にどう波及し得るかを可視化する

検知された兆候が、自社や自社を取り巻く業界のどの領域に影響しうるかを、経営環境を考慮した以下のような観点から分析します。

  • 経営戦略・事業戦略
  • ブランド/広告表現
  • サービス仕様・商品設計
  • サプライチェーン
  • コンプライアンス・制度対応
  • 国際基準とのギャップ など

これにより、

「どの社会課題が、企業のどのポイントで炎上リスクに変わる可能性があるか」
を精緻に把握し、事前の是正や説明、コミュニケーション設計へつなげます。

⑤ 兆候監視(Continuous Monitoring):兆候を見逃さず、変化を追跡する

兆候は検知した瞬間に終わりではなく、その後「どの方向に育つか」で意味が大きく変わります。抽出された兆候において、

  • どれだけ議論量が増えているか
  • 文脈がどう変化しているか
  • 論点が国際基準・日本固有・世界共通のどの文脈へ移りつつあるか
  • 拡散のスピードはどうか
  • どのステークホルダーが反応しているか
    などの観点で継続的にトラッキングします。

潜在期~初期拡散期であれば、企業の広告・サービス・方針と交差するポイントでの説明や是正、対話が可能です。

おわりに

社会課題とは、潜在構造や価値観の変化、情報流通の加速が重なり合う中で顕在化するものであるため、その兆候は初期段階では極めて弱く、人の目や経験則だけでは捉えにくいものです。AIと情報分析技術の活用によりこうした「見えにくい兆候」を捉え、その背後にある構造や文脈を読み解くことで、企業や組織が社会との関係性を主体的にマネジメントしていけることが重要であり、私たちPwCコンサルティングはその具体的な解決方法を提供しています。

このアプローチは、単なる「炎上予防」にとどまらず、ビジネスモデルの違いに応じた独自の価値を発揮します。たとえばB to Gの領域では、行政・公共サービスに求められる説明責任や政策判断に対し、社会の論点を先取りすることで対応が可能になります。B to Cでは、生活者の価値観の変化を早期に感知し、商品開発やコミュニケーション設計に反映させることでブランド毀損(きそん)リスクを抑えることができます。B to Bの企業にとっては、取引先やサプライチェーンに関連する社会課題を把握し、事業継続や企業間の信頼維持につなげることができます。

社会との対話の質が企業価値に直結する今、兆候を理解し、構造を掴み、変化を見逃さない姿勢は、あらゆる組織にとって不可欠になりつつあります。PwCコンサルティングは、この領域で培った知見と技術を組み合わせ、社会課題の兆候を単なる情報として捉えるのではなく、企業固有のリスクと機会へ変換することで、経営層・広報部門・リスク管理部門がより確かな判断を行えるよう、多角的な支援を提供してまいります。

執筆者

山崎 幸一

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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橘 了道

マネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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伊藤 敦彦

マネージャー, PwC Japan有限責任監査法人

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セガワ 優衣

シニアアソシエイト, PwCコンサルティング合同会社

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