日系製薬企業が世界で戦うために必要な変革とは

グローバルワンカンパニーとして、機能性・機動性を促進するための組織モデルおよび、 意思決定を加速化させるガバナンスを構築するための手引きVol.2

1. グローバルワンカンパニーの目指す姿

前回、グローバルワンカンパニーへの変革を実現するためには、ポリシー、オペレーティングモデル、カルチャーを構築する必要があることを論じ、その第一歩として「機能性・機動性を促進するための組織モデルおよび意思決定を加速化させるためのガバナンス」を含めたポリシーを構築すべきと指摘しました。本稿では具体的な理想とする組織のあり方と、組織づくりの進め方について解説致します。グローバルワンカンパニーを目指す企業の理想的な組織の一つは、テリトリーとファンクションの縦横のガバナンスにおいてバランスの取れた「マトリックス型組織」です。

上記のマトリックス型組織においては、ファンクションをより細かく疾患領域毎に組織を構築する場合もある(例:オンコロジー事業部など)。

マトリックス型組織のバリエーションは、その企業が目指すべきビジネス展開の形によって異なります。例えば、世界のトップ20に入るグローバルメガファーマを目指すのであれば、機能によっては国別の組織構造(縦の組織)よりも、各ファンクションの機能に応じた組織構造(横の組織)に重点を置くべきです。一方で、日本国内の事業に焦点を置く場合は、日本における縦の組織を過渡的に残すことも一つの方法ですが、その場合でも人事やファイナンスなどのコーポレート系機能は、国を跨ぐ横の組織として組み込むべきでしょう。組織づくりの際には、国内の抵抗がある場合にも対処がありますが、企業として目指すべきビジネス展開の形を決めるのはリーダー(CEOおよび経営陣)であり、覚悟をもって方向性を定める必要があります。

2. まずは、現状のアセスメントすべきである

各企業がどのようなマトリックスを目指すのであれ、まずは現状のオペレーションのグローバル化の状態を確認する必要があります。現状把握を行った上で、目指すべきマトリックス組織に向けて実施すべき施策を検討することで、効果的に検討を進めることができます。具体例として、現在の状態に至る背景にある文化・社員の考え方を把握することで、残すべき文化と変えるべき、あるいはなくす必要のある文化が明確になります。こうした過程を経ることで、今後必要な仕掛けが明らかになります。

3. アセスメントの具体的な方法

では、どのようにして現状のオペレーションを評価(アセスメント)していくべきか、評価対象と評価軸を考えていきましょう。評価対象は、「事業効率化およびダイナミクスを生み出すDXとの共存」などが挙げられます。例えば、DX戦略策定、DX実装、DXによる新たな価値創出がグローバルレベルで実施できているか否かなどが評価されるポイントとなります。この際、第1章で記載したオペレーションモデルごとに現状評価を行うことが望まれます。

評価軸は、自社の環境に合ったもので設定し、表面的ではなく本質的な評価を実施し、次のステージ(成熟度:Maturity Level)に到達するための課題を内部で議論する必要があります。

評価軸は、国内の部門間および戦略国間で(国内と海外という切り分けではなく、グローバルベースで)どれだけ連携が取れているかを考慮すべきです。例えば、DX戦略策定を例に取ると、グローバルで1つのDX戦略が策定され、各国がその戦略にもとづいてDX計画を策定できていれば、それはグローバル化のステージが高いと言えるでしょう。一方で、コーポレートとしてのDX戦略を持たず、本社の部門間でもDXに向う方向性がバラバラであった場合、ステージが低いと言えるでしょう。

アセスメントを実施する際には外部有識者を評価チームに含めて、客観的な視点を入れるべきです。アセスメントは経営戦略部門が主導すべきであるが、各Functionは自分達に関連する評価結果をよく理解し、グローバル化に向けた施策立案を経営陣の指示を待たずに進めるべきである。

そのうえで、アセスメントの結果を基に、図Xに示されるマイルストーンを設定し、それに向けて着実に進んでいくことが重要です。

社内での アクションイメージ

4. 目指すべきオペレーティングモデルの特定と組織作り

近年、グローバルな競争環境においてその存在感を高めるため、積極的なグローバル化を目指している日本の製薬企業が増えています。しかしながら、単に海外進出を進めるだけでは、真の競争力を獲得し、国際的な市場での成功を確かなものとすることは困難です。日本の製薬企業がグローバルでの競争力を高め、国際市場において成功を収めるために必要な要素には、適切なオペレーティングモデルの特定と組織づくりがあります。この2つの要素が競争力の向上にいかに貢献するかを明らかにするとともに、真のグローバル化を達成するための戦略的なアプローチについて考察していきます。

従来の経営手法にとらわれず、地球規模の広い視点で組織を構築し事業を推進することの重要性を理解することが、製薬企業にとって成長と持続的な成功をもたらす鍵となると思われます。各国の独自性を尊重し、地域ごとのニーズに合わせた戦略を展開することで、製薬企業は国際市場においてより一層の競争力を獲得し、未来に向けて確かな一歩を踏み出すことができると考えられます。特に新薬開発に注力する製薬企業にとって、グローバル展開を如何に進めるかは、新たな医薬品の開発に直結する問題です。なぜなら、創薬の複雑性や市場の多様性を考慮すると、単一拠点での研究開発では十分といえず、世界各地に研究拠点を戦略的に配置する必要があるからです。そのため、様々な地域に開発拠点を設立し、多様な人材を確保することが重要です。このようなグローバル展開により、地域ごとのニーズに合わせた製品開発を柔軟に進めることが可能となります。

さらに、オープンイノベーションは、グローバルな競争力を強化する重要な手段となります。製薬企業は海外の企業や研究機関、大学などと連携し、共同でイノベーションを創出する手法を取ることで、新たなアイデアや技術を取り入れることが可能となります。異なる地域あるいは専門分野において知識やアイデアを組み合わせることで、革新的な製品や治療法の開発が実現します。そして、地域ごとのニーズや規制に合わせた製品の開発が進められるため、グローバル展開における競争力を高めることができます。

加えて、デジタル技術の活用も不可欠です。データ解析や人工知能(AI)、機械学習などの先端技術を活用することで、研究開発プロセスの効率化や革新的なアプローチを実現できます。またデジタル技術を医療に統合することで、個別化医療やデジタルヘルスケアの実現が可能となります。さらに患者のデータをリアルタイムに収集し、治療効果のモニタリングや副作用の早期発見などにより、治療の精度や効果を向上させることができます。

これらオープンイノベーションとデジタル技術の活用によって、日本の製薬企業はグローバルな競争力を強化し、革新的な製品やサービスを提供することにより、国際的な市場で成功を収めることが可能となります。多様な地域のニーズに適応し、持続的な成長を実現するためには、積極的な取り組みと柔軟な戦略が求められます。

また、自社のグローバルな競争力を高めるためには、CSO(Chief Scientific Officer)職を設けることが重要です。CSOはグローバルなマネジメント経験と研究・開発の専門知識を持つ人材を選任し、異なる地域へ派遣し、育成することができます。これにより、研究部門のリーダーシップや戦略的な方向性を確立することが可能となります。

CSOはグローバルな視点を持ちながら、研究活動を統括し、イノベーションの推進や新たな治療法の発見に向けた戦略を策定します。また、グローバルなネットワークを活用し、オープンイノベーションなどの外部連携やパートナーシップの構築を行うことで、企業の研究力と競争力を強化する役割も果たします。あわせて、研究部門の組織力と能力を向上させることが期待されます。グローバルなマネジメント経験を持つCSOは、組織内の多様な人材をリードし、各国の研究拠点との連携を促進します。

さらに、CSOは研究の品質管理や効率的なプロジェクト管理を行うことで、研究開発プロセスの改善とスピードアップを実現します。また、グローバルマーケットのニーズを把握し、要望や分析をまとめるためにグローバルマーケティング部門の存在も重要となります。CSO組織と連携し、市場のニーズや声を製品に反映させることができるようになります。

以上の取り組みにより、日本の製薬企業はイノベーションを牽引する企業としての地位をグローバルレベルで確立し、グローバルな競争力を高め、国際的な市場での成功を目指すことが可能となります。その結果、革新的な製品やサービスの開発が加速し、多様な地域のニーズに適応して持続的な成長を実現できるようになると思われます。

5. オペレーティングモデル構築に向けた変革のポイント

オペレーティングモデルを特定し、変革を推進する際のポイントを以下の表にまとめる。経営レベルでのポイント、部門レベルでのポイントをそれぞれ列挙するので、変革を進める際の検討要素として参考にしていただきたい。

経営レベルでの変革のポイント
 
  • 意思決定プロセスの明確化
    • ビジネスがグローバル化し、ダイナミックになる過程において、迅速な決断および実行を可能にする、明確な意思決定プロセスを構築する
    • 組織モデルの検討と併せて、取締役会・エグゼクティブコミティー・海外を含む各部門の決裁事項、報告事項、権限を明確にする
  • アドバイザリーボードの設置
    • グローバル化への知見や情報を習得するために、大手グローバル製薬企業の元経営幹部などで構成するグローバルアドバイザリーボードを設置する
    • 意思決定プロセスは現役メンバーを中心に簡素化する
    • 客観的な意見を取り入れ、現実に即した経営判断を行う
  • グローバルで戦うための経営計画
    • 技術が著しく進歩している製薬業界においてグローバルで戦うためには、迅速かつ継続的な意思決定を行う必要がある。中期経営計画を固定化してしまうと、経営陣の柔軟な判断を遅らせる可能性がある
    • 3~5年経過すると、現実とのズレが生じやすくなります。3年程度の中期計画を策定し毎年ローリングを行うことが望まれます。あるいは3年間の計画に2年間程度の簡単な予測を追加する方法も一策です
部門レベルでの変革のポイント
バリューチェーン部門
  • CSMO(Chief Scientific & Medical Officer)の設置
    • CSMOポジションを設置し、傘下には研究・開発・知財・メディカルアフェアーズと新技術獲得のための事業開発(ビジネスディベロップメント:BD)をビジネスパートナーとして置き、一貫した推進体制を構築する
    • CSMO傘下にTA(Therapeutic Area)ごとに責任者を設置し、領域別の一貫した戦略の下、研究・開発・BD活動を推進する
  • CSMO組織とミラーになるグローバルマーケティング部門の設置
    • CSMO組織とミラーになるグローバルマーケティング部門を設置し、領域・製品戦略にPOC(&C)時点から関与させ、製品の承認・発売に向けて徐々にその度合いを深めながら承認を目指す
    • 傘下にグローバルマーケットアクセス部門を置き、全世界の価格設定や上市の順序などのプロセスを適切に実施する
  • その他
    • BD部門はグローバルで有機的に活動を行う。関係部門には、ビジネスパートナーとしてBD部門のメンバーを配置する
    • 生産部門は全世界の工場を一元管理し、BCPを意識した生産体制を構築するとともに、グローバルサプライチェーンにも責任を持つ
    • 有害事象(特に死亡例)を各国の当局に遅滞なく報告するため、PV部門を強化し、全世界統一のシステムを導入する
コーポレート部門
  • 人事部門
    • グローバル全体で部門別最適人員を、日本および各国・地域に適切に配置する
    • 人事部門はグローバルに統一された明確な業績評価システムと報酬を紐つけ、共通のHRツールの導入、グローバルでの幹部社員の採用および人材育成コースの設定などを実施する
    • 各部門にビジネスパートナーとして人事部門のメンバーを配置する
  • ファイナンス部門
    • CFO(Chief Finance Officer)職を設置し、その傘下に財務・決算(会計機能)・予算策定と進捗管理(コントローラー機能)・グローバル税務・IRを置く
    • グローバル統一システムの導入を行う
    • 各部門にビジネスパートナーとしてファイナンス部門のメンバーを配置する
    • グローバルワンカンパニーに移行する初期の段階では、コントローラー機能、いわゆる日本的な経営企画・事業戦略・国際本部的機能を持たせてもよいが、将来的にはその機能はCFO傘下に取り込まれていくことを想定する
  • 税務部門
    • グローバル税務における地域単位の責任者(縦串)と、税務戦略や移転価格などの重要機能を統括する責任者(横串)を設定し、マトリックス管理により、グローバル共通の課題の解決と、各地域の親和・連携を推進する
    • 研究・開発・製造・販売のグローバルマップの展開に際し、戦略立案に関与する。特に無形資産の形成地やPMIにおける統合・商流再編プランニングにおいては、税務効率最大化の観点から、リードするグローバル全体のプラットフォームの統一・最適化し、戦略国への重複投資を解消する
  • 法務・コンプライアンス部門
    • 米国を中心に、グローバルベースで訴訟、契約、コンプライアンス事案の把握・対応を行う
    • 内部監査や社内コンプライアンス案件の調査を行う社長直轄の専門チームを、可能であれば米国に置く。中国や新興国にも対応する。また必要に応じて、監査役委員会との連携を密にする
  • コーポレートコミュニケーション部門
    • プレスリリースを世界同時配信できる体制を構築する
    • 人事部門と協働し、ビジョン・ミッション・バリューを浸透させる
  • IT部門
    • グローバル全体のプラットフォームの統一および最適化を追求し、戦略国への重複投資を解消する

6. 変革に向けた日系製薬企業特有の障壁

オペレーティングモデルを特定し、変革に向けて舵を切る際には、日系製薬企業特有の2つの大きな障壁が存在します。

1つ目の障壁は、ビジネスにおける文化や言語の違いから生じます。この障壁は、経営者のリーダーシップとコミットメントの下で、日本の各従業員がグローバル化への強い意志を持ち、組織的にも計画的に十分な投資を行い、積極的にサポートすることで解決策となるでしょう。

2つ目の障壁は、「日本市場」および「国内本部、あるいは日本事業部」の扱いに関するものです。さまざまな課題や軋轢が発生することが予想されますが、かつての収益の中心であり独自性の高い組織を、段階的にグローバルな組織の一部として組み込み、デファクトスタンダード化する努力が必要とされます。

まとめ

全2回にわたり、日系製薬企業が世界で競い合うために必要な変革について解説して参りました。日本の製薬企業が国際舞台で競争力を向上させ、持続的な成功を収めるためには、グローバルな視点で取り組む大胆な変革が不可欠です。直面している多様な課題を乗り越え、各社が目指す成功を達成するには、段階的な組織変革を進めながら、グローバル化への道すじを切り拓く必要があります。

主要メンバー

ヴィリヤブパ プルック(エディ)

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

Email

髙橋 啓

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

Email

平川 伸之

ディレクター, PwCコンサルティング合同会社

Email

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