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2023-03-24
高齢化社会の進展に伴う医療費の増加を抑制する手段として、継続的な薬価の引き下げが見込まれ、その中で日系製薬企業にとって生き残る手段を講じていくことが大きな経営課題となっています。医療費は後期高齢者医療制度が施行された2008年には34.1兆円でしたが、2021年には44.2兆円へと拡大し、過去最高を記録しています。財務省の推計*1では、2025年に団塊の世代が75歳以上(後期高齢者)になり、20歳から64歳の現役世代が大幅に減少する2040年に向けて、医療費・介護費は大きく増加するとされています。一方、薬価改定に目を向けると、2008年以降は医療費ベースで毎年平均1.2%*2ダウンしています。(図表1,2)加えて、長期収載品の価格の段階的な引き下げ、市場拡大再算定による引き下げ、毎年の薬価改定と、上市済み製品の薬価が引き下げられるタイミングも増加しています。
日系製薬企業は、日本市場が飽和状態となるため、今まで以上に新薬開発の成功率を向上させ、日本以外の国外市場の販路拡大からも収益を上げることが必要となります。このような背景により、多くの製薬企業が近年、海外販路の拡大やオープンイノベーション、ライセンスビジネス(ライセンスイン・アウト)促進参入などの戦略転換を進めています。これらを実現するために、グローバルビジネスを可能にする意思決定システムの形成や、オペレーティングモデルの変革などにも取り組んでいます。さらには、新たなる収益の柱を構築すべく、戦略的投資の中心としてHaaS(Health as a service)を掲げるなどして、「医療×テクノロジー」の領域において新たな価値創造を目指している企業もあります。
一方、病気・疾患に国境はなく、さまざまな疾患を持つ患者は世界中に存在します。医学界は常に患者を治癒しようと努力し、製薬業界はそれを可能にするために「Unmet medical needs」(いまだ有効な治療方法が見つかっていない疾患に対する医療ニーズ)を解決すべく、日々努力を続けています。
患者に国境がない以上、治療薬を届けるべき場所に国境はないはずです。製薬企業が生まれながらにして持つビジネスの貢献先は、特定の地域に限定されるものではなく、常にグローバルであり、その要求を満たすことは製薬企業の真の存在意義に通じます。
日本国内を主戦場として存在感を示してきた日系製薬企業が生き残るためには、対象とする市場を日本から世界に拡げ、グローバルワンカンパニーになることがその1つの解決策となります。
グローバルワンカンパニーへの変革に必要な要素を具体的に検討する前に、ここでは「グローバルワンカンパニー」の定義を記しておきましょう。グローバルワンカンパニーとは、「国境に関係なく各種の疾患・病気に苦しむ患者に、最適な医薬品を届けるために不可欠な戦略・組織・オペレーション・人材・システムをグローバルレベルで構築している企業」とPwCは定義しています。
例えば、日本に本社を置く日系製薬会社が、マーケットを拡大するために米国支社を立ち上げたとしましょう。米国支社はマーケティング機能、セールス機能、R&D機能を備え、米国市場を攻略するための戦略を実行し、ある一定の成果が見え始めているとします。一方で、個別の施策の推進やオペレーションは世界各地でそれぞれ検討され、企業全体として統一感のある戦略やオペレーションなどが存在しないとします。この場合、私たちが定義している「グローバルワンカンパニー」の状態からは程遠いと言えます。確かに、各国に設立された現地法人がそれぞれ個別に動く方が機動性も機能性も高いように思われます。しかし、歴史を振り返ると、日系製薬企業各社は、国ごとの最適化を優先した統制なきグローバル化を進めた結果、皮肉にも組織全体の機動性・機能性を失ったと考えられます。
では今後、日系製薬会社が真のグローバルワンカンパニーへと変革するためには、どのような要件を満たす必要があるのでしょうか。グローバルワンカンパニーの全体像を整理すると、変革を実現するためには、ポリシー、オペレーティングモデル、カルチャーを構築する必要があることが解ります(図表3)。
図表3の各事項は、実態としては各々が肝要なテーマであり、限られたリソースの中でこの変革に向けた検討を行う必要があるため、全ての項目を同時並行で進めることは困難です。では、どのように優先順位を付けて変革を進めるのが良いでしょうか。まずはじめに、企業戦略としてグローバルワンカンパニーへの変革を決定した場合には、各社が掲げるVisionをベースに自社の生き残りを掛けて変革へのマインドのセットと問題意識を経営層が有していることが前提条件とはなりますが、そのポリシー(方針)を確立し、そのポリシーに合致した具体的なオペレーティングモデルを検討し、変革を下支えするカルチャーを形成することで、変革全体を後押しすることが可能になります。
その最初の具体的な施策としては、組織図を構築することが望まれます。組織図とは企業の戦略と意志を示すものです。しかし、組織図をただの箱の組み合わせで終わらせてはいけません。グローバルで戦うために求められる迅速な意思決定のためのプロセスとの両輪として確立すること。つまりは、グローバルワンカンパニーとして企業全体の機能性・機動性を促進するための最短経路をデザインしたものを構築すべきです。また、重要な意思決定を適切なメンバーで迅速に行えることを意図した組織図を描くことが求められます。
では具体的にどのように組織図を作成し組織づくりを進めることで、「機能性・機動性を促進するための組織モデルおよび、 意思決定を加速化させるためのガバナンスの構築」を実現することができるのでしょうか。その手引きとなる考え方を次回以降で示していきます。
*1:財務省 令和5年度予算政府案 令和5年度予算のポイント
https://www.mof.go.jp/policy/budget/budger_workflow/budget/fy2023/seifuan2023/01.pdf
*2 :「令和4年7月20日 厚生労働省 中央社会保険医療協議会 薬価専門部会(第187回) 議事次第 薬-2 厚生労働省 薬剤費等の年次推移について」を元にPwC作成
https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/000966171.pdf