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前回記事では、市場の流動性が高まるにつれて、日本の電力卸売市場における取引とリスク管理戦略の進化について説明しましたが、市場取引を行う企業にとって、現在および将来の市場参入を成功に導く重要な要素の1つがITインフラです。
本稿では、最新のトレーディングIT環境に必要な要件を概説し、変化する市場環境の中でトレーディング業務を成功させるために、新しいテクノロジーがどのように寄与するかについて述べます。現在の変動性の高い電力市場では、グローバルなエネルギー取引企業は膨大な量の市場取引を日常的に管理しています。その数は、毎日数万件に上ることも多く、ピーク時には10万件※1を超える日もあります。通常、これらの取引はさまざまな市場や戦略から発生しています。しかし、近年の取引件数の急増は、主に日中のスポット市場での活動に起因しています。国内でも取引件数は増加していますが、近年顕著な成長を遂げているにもかかわらず、時間前取引量は、同等の国際電力市場と比較すると依然として低い水準にあります。2024年には、JEPX( Japan Electric Power Exchange:一般社団法人 日本卸電力取引所)の時間前取引市場は7,390GWhを記録しましたが、ドイツや英国などの市場はこの数倍の取引量を扱っています。これらの海外市場における同規模の前日市場と比較すると、日本の時間前取引量の相対的な低さは、図表1に示されるように際立っています。
図表1:日本、ドイツ、英国の前日市場と時間前取引量比較※2
一方で、日本では、時間前取引量が今後数年間で増加する可能性が高いと考えられます。その背景には、日本が掲げる野心的な計画があります。具体的には、変動性のある再生可能エネルギーの比率を2024年※3の26.7%から2040年※4までに40~50%に引き上げ、さらに蓄電池の容量を2030年※5までに14~24GWhに拡大するというものです。
継続的な時間前の市場では、取引される商品の価格情報が1秒間に何度も変動する可能性があり、市場のボラティリティが大きくなります。そのため、電力トレーダーにとって、さまざまな種類のデータとソースを統合してポジションを効果的に管理することは、ますます複雑になってきています。
旧式のモノリシックなトレーディングシステムに依存し続けたり、複数のスプレッドシートを使ってポジションを管理したりすることは、今日の業務に重大な運用リスクとコンプライアンスリスクをもたらし、企業が今後新たな戦略を実行していく際の妨げとなり得ます。したがって、最新のIT環境は安全な運用に不可欠であり、企業が日本市場で高まる流動性と変動性を活用できるようにします。具体的には、裁定取引機会の獲得、インバランスコストの削減、蓄電池の使用とフレキシブルなアセットの最適化などを実現することが可能になります。
現在および将来の市場の需要に対応するため、トレーディングITは、従来の取引ライフサイクルのサポートや取引記録としての機能に加え、さまざまな先進機能を提供する必要があります。
主な要件は以下の通りです:
歴史的に、ETRM(エネルギー取引リスク管理システム)は、取引開始から決済までの取引を記録・管理する主要なシステムとして機能してきました。ETRMは、ほとんどの組織で重要なシステムであることに変わりはありませんが、その役割は、取引の保管や取引の監査証跡の提供といった特殊な機能をカバーする方向にシフトしてきています。その他のビジネス機能はETRMの外部で処理されることが多くなっており、通常は取引執行、リスク計算、レポーティングなど、特定のタスクのために設計されたビジネスサービスの形を取っています。このようにアプリケーションを切り離すことで、1つのモノリシックなソフトウェアではなく、エネルギー取引のコア・ビジネス・ドメイン(取引、リスク、オペレーションなど)を中心に構成されたソフトウェアによるドメイン駆動型のアーキテクトが容易になります。多くの企業が、疎結合サービス(マイクロサービスアーキテクチャ)は、多少の複雑さは伴うものの、頻繁にアップデートを展開し、カスタム機能を実装し、システムの一部を選択的に拡張したり置き換えたりする能力を劇的に向上させることを確認しています。図表2は、従来のETRMを中核とし、ビジネスプロセスを反映し、インターフェースを提供するサテライトサービスに囲まれたIT取引ランドスケープの概略を示しています。
図表2:取引ITランドスケープの例:ETRMを記録システムとして、対象となる機能とインターフェースを提供するビジネス・サービス・システムに組み込む一例
これら一連のツールやサービスは、システム間で伝送される取引、イベント、価格メッセージなどの情報量を増加させます。伝統的に、企業は、アプリケーションを分離するためにメッセージキューを実装することで、高度化しました。しかし、相互接続がより複雑になり、スケーラビリティや複数のコンシューマーによる同時データアクセスに関する要件が高まるにつれて、多くの企業がアプリケーション間の統合レイヤーとして「データ・ストリーミング・テクノロジー」に移行しています。この技術は、連続的な増分更新のライブフィードを提供することで、情報のリアルタイム処理を可能にします。データ生産者は、これらの更新を指定された「チャンネル」に公開し、データ消費者は、そのチャンネルに加入することができます。データストリームは、設定可能な期間データを保持し、トラブルシューティング、監査、または新しいアプリケーションのオンボーディングをサポートするための再活用を可能にします。エネルギー取引シナリオでは、取引データを継続的に集約してポジションを分単位で更新したり、発電所のセンサーデータを市場価格と統合して出力調整に役立てたりすることができます。データの生成から消費までのさまざまなアプリケーションによるリアルタイムのデータ処理を図表3に概略可視化しました。
図表3:リアルタイムデータ処理の基礎としてのデータストリーミング
さらに、ストリーミング技術は、イベント駆動型アーキテクチャによって複雑なマイクロサービス群をオーケストレーションするためにしばしば使用されます。更新のためにポーリングするプロセスやバッチインターフェースの代わりに、システム内の重要な出来事はすべて、専用のストリーミングチャンネルにイベントとして公開されます。例えば、取引が実行されると「Trade Executed」のイベントが発行され、新しい価格ティックが入ったり、予測が更新されたりすると、それらもイベントとなります。複数のサービスがこれらのイベントをサブスクライブし、必要に応じて対応することができます。このパターンは、異なるシステムが同時に同じデータを必要とする場合に便利です。
データストリーミングが短期間データを保存する一方で、データプラットフォームはデータを統合し、分析、レポーティング、機械学習やAIのユースケースのためのツールを提供する業界標準となっています。これらのプラットフォームは、従来のデータウェアハウス、データレイク、データメッシュシステム(各領域のチームが独自のデータ製品を管理し、共有利用するシステム)、またはこれらのアプローチの組み合わせとして設定することができます。多様なユースケースとツールを考慮すると、包括的なデータガバナンスとデータスキーマレジストリ(ディール、プライス、ポジションデータなどのメッセージが組織内でどのように見えるかを管理する)は、データの再利用性を確保するために不可欠です。
ライブ環境における取引業務の高度化には、長期的な取り組みが必要です。ETRMプロジェクトが遅延したために、企業がコストと競争上の優位性の両方を失うことは、これまでにも度々ありました。あくまで高度化ロードマップの中心に据えるべきは、ターゲットランドスケープの明確なビジョンであり、中心的なテクノロジーの決定、ドメインの境界、構築か購入かの決定を導くものです。将来の取引業務において、ITが中心的な役割を果たすことは間違いないため、ビジネスチームとITチームが緊密に協力することが、変革を成功に導く鍵となります。
本稿ではトレーディングITの展望を概観しました。次回は自動化されたアルゴリズム取引プロセスとツールについて、ITの側面だけでなく、より広範なビジネスへの影響も考慮して考察します。
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