企業のためのメタバースビジネスインサイト:メタバースのビジネスモデルを考える【前編】既存のメタバース空間でビジネスを行う場合と、インフラやツールを提供する場合

2022-05-10

メタバース空間では、すでにさまざまなビジネスが行われています。ビジネスの種類や市場規模が今後、さらに広がっていくことは間違いありません。今回からの2回は、メタバース参入を検討する上で押さえておきたいメタバース空間におけるビジネスの種類と、参入するにあたって留意すべきリスク、ビジネスの成否を分ける要因などを前後編で紹介します。

メタバースビジネスは主に2種類に分けられる

メタバース空間におけるビジネスの種類は、大きく2つに分けることができます。

  1. メタバースの中で行うビジネス(以下、「メタバースビジネス」)
  2. メタバースを利用するためのインフラやツールを提供するビジネス(以下、「メタバースプラットフォームビジネス」)

内容を順に紹介します。

1.メタバースビジネス

すでに存在しているメタバース空間上でビジネスを行うものです。サービスや情報、デジタルアセットの提供、広告を含む仲介業などが挙げられます。具体例を以下に展開します。

メタバース空間でのイベント開催

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)がもたらしたパンデミックによって、会議やカンファレンスの多くはオンライン上で行われることになりました。それにより、バーチャルイベントは社会的な潮流となりつつあります。ある調査によると、パンデミック以前にバーチャルイベントに参加したことのある人の割合は45%でしたが、今では87%に上っています。また、このトレンドに刺激されたイベント主催者の90%以上が、2022年にはさらに多くのバーチャルイベントを計画するとしています*1。メタバース空間では、観客数の上限はありませんし、環境デザインも限りなく無制限です。こうした仮想空間ならではの利点は、主催者や協賛者にとって大きな魅力と言えるでしょう。

イベントやカンファレンスは、空間を提供する不動産業者や広告代理店など、さまざまな事業者が関わる大きなビジネスとなりつつあります。2022年3月24日にメタバース空間であるDecentralandでMetaverse Fashion Weekが開催されました。多数のブランドが参加し盛況となりましたが*2、今後もこうしたイベントが続々と開催されることが予想されます。

デジタルアセットの提供

本連載の「企業はなぜメタバースに取り組む必要があるのか」でご紹介したように、メタバース空間では不動産の売買が行われています。デジタルアセットの販売に関しては、スポーツやアパレルの有名ブランドが次々と参入して販売業を開始しています。また、メタバース空間に施設を作る時間や手間を惜しむ人から建築を請け負うビジネスも登場しています。

教育やトレーニングの提供

企業や学術研究機関が従業員や学生を対象に、メタバース空間を活用して研修や授業、式典などを行うケースが増えてきています。ウォルマートが従業員のトレーニングに仮想現実(VR)を活用しているのが最たる例ですが*3、今後はさらに広い分野で教育やトレーニングが行われるようになることが予想されるため、プログラムの開発・提供のビジネスチャンスも拡大していくと考えられます。

PwC Japanグループがメタバース空間で行った入社式(2022年4月4日)の様子

会議サービスやマッチングなどのコミュニケーションプラットフォームのツール提供

オンライン会議ツールのメタバース版や、メタバース空間上の条件によって人をマッチングするサービス、さらにはメタバース内で必要となる人材のリクルーティング活動支援関連サービスなど、現実世界と同様に人と人を結び付けるサービスが今後、盛んになる可能性があります。ゲームの実況プレイもこのカテゴリーに含まれます。

ゲームの提供

メタバースビジネスで最も先行しているものと言えば、ゲーム関連でしょう。ゲームの運営者や、ゲーム内で稼いだ仮想通貨や獲得したアイテムの取引所などが挙げられます。ユーザーの中で人気のあるゲームの1つがアクシー・インフィニティ(Axie Infinity)ですが、ユーザーはゲームを始める際に、ゲーム内で使用するキャラクターを複数購入する必要があり、数万円から数十万円の投資費用がかかります。遊びながらゲーム内の仮想通貨を獲得し、取引所を介して現実の通貨に換金することも可能なため、「遊んで稼げる」ゲームとして活況を呈することが予想されます。今後は個人プレイヤーのみならず、組織化したチームやプロダクションが参入することで、市場規模はさらに大きくなるでしょう。例えば日本のカバー株式会社は、同社の抱えるVTuberたちが活躍する世界を、メタバース空間にも展開しようとしています*4

広告を含む仲介業

広告や仲介業もメタバースビジネスの中核を担うのではないでしょうか。各種イベントのプロモーション活動のニーズも今後増していくでしょう。日本では、株式会社博報堂と株式会社博報堂DYメディアパートナーズがメタバース空間での広告体験の設計を進めています*5。メタバースにおける展示会やカンファレンスは今後増加していくと見られ、仲介業を検討する企業においては、メタバース空間においてクライアントの潜在顧客にスムーズに働きかけられる手法の確立が、ビジネスの成否を左右すると言っても過言ではありません。

マーケティングデータの取得、提供

メタバース空間では、従来のインターネット以上に利用者のデータを多く獲得することができるようになると言われます。

トビー・テクノロジーが、メタバースを活用した消費者行動調査サービスを開始しました*6。例えば商品の陳列棚をメタバース空間上に再現し、モニターの視線をトラッキングすることで、目に付きやすいパッケージや陳列位置を特定するといったものです。モニターを物理的に1カ所に集める必要がないため、利便性の高い調査実施方法として重宝される可能性があります。メタバース空間を通じてデータを蓄積すれば、自社のビジネスのアップデートに役立てられるだけでなく、データの提供という新たなビジネスモデルの構築にもつながる可能性があるでしょう。

自社サービス向上のためのメタバース活用(既存事業のメタバース化、新規メタバースビジネス考案)

クライアントや消費者にサービスを提供するだけがメタバースビジネスではありません。自社のサービスの向上のためにメタバース空間を活用するのも一手です。そうした例はすでに多く存在しており、中でも多くの企業から注目を集めているのが、現実の世界の製品をそのままメタバース空間に移行してシミュレーションを行うデジタルツインの活用です。現代自動車はデジタルツインを「メタファクトリー」と呼び、製造工程や工場稼働率の最適化に役立てています*7。メタバース空間であらかじめ工場をテスト稼働して最適な稼働率を算定し、実際の工場に数値を適用するといった具合です。
デジタルツインは試作品やサービスモデルの評価にも応用することができるため、ニーズの拡大が見込まれます。また、自社のみならず関連企業や類似業種・業態でメタバース空間を共有する動きも出てくるかもしれません。

図1 メタバースに関する主なビジネス

上記はあくまで一例ですが、メタバース空間の中ではさまざまなビジネスが可能となることがお分かりいただけたのではないでしょうか。現在は、現実の世界とほぼ同じ、ひいてはプラスアルファのビジネスをもたらし得る概念としてメタバースが利用されていますが、今後は全く新しいメタバースでの新規ビジネスの台頭なども予想されます。幅広いポテンシャルを持ったメタバースから、今後ますます目が離せません。

後編では、メタバースを利用するためのインフラやツールを提供する「メタバースプラットフォームビジネス」の概要を紹介するとともに、メタバースビジネスとメタバースプラットフォームビジネスへの参入に当たって留意したいリスク、ビジネスの成否を分ける要因を考えます。

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企業のためのメタバースビジネスインサイト

メタバースのビジネス動向や活用事例、活用する上での課題・アプローチなど、さまざまなトピックを連載で発信します。

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執筆者

奥野 和弘

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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岩花 修平

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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小林 公樹

ディレクター, PwCコンサルティング合同会社

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長嶋 孝之

ディレクター, PwCコンサルティング合同会社

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