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新興アジアのエンタテイメント市場をテーマに、DOU Creations Pte. Ltd. 代表の吉地大氏をゲストに迎えた対談の後編です。デジタルデバイスやグローバルプラットフォームの普及により、多様なコンテンツを手軽に視聴できる環境整備が急速に進んできたアジア。消費行動が活発化するとともに、中国や韓国など各国におけるコンテンツビジネスも盛り上がりを見せています。後編では、コンテンツ制作におけるアジア各国と日本との違いにフォーカスし、地方創生や海外進出における日本IPの活用可能性について考えます。前編に続き、吉地大氏とPwC Intelligenceマネージャーの柳川素子が議論を行います。モデレーターはPwC Intelligence シニアマネージャーの岡野陽二が務めました。
(左から)柳川 素子、吉地 大氏、岡野 陽二
参加者
DOU Creations Pte. Ltd. 代表
武蔵野大学アントレプレナーシップ研究所 客員研究員
吉地 大氏
PwCコンサルティング合同会社 PwC Intelligence シニアマネージャー
岡野 陽二
PwCコンサルティング合同会社 PwC Intelligence マネージャー
柳川 素子
※法人名・役職などは対談当時のものです。
岡野:
前編では俯瞰的な目線から、インドや東南アジアでコンテンツがどのように消費されているかに焦点を当ててきました。後編では視点を変え、アジア各国が注力するコンテンツビジネスと、日本IPを起点とした事業展開の可能性について議論を深めていきます。
最近では中国や韓国のコンテンツがグローバルで人気を博していますが、吉地さんは現状をどのように見ていますか。
吉地:
東南アジアにおいてエンタテイメントの中で最も長い歴史を持つのが映画ですが、各国で流通する映画のうち現地で制作されるコンテンツは日本とは大きく異なり1~2割程度で(日本は7~8割)、多くはハリウッド映画や大手アニメスタジオの海外作品です。ここに中国や韓国のコンテンツが入り込み、年々勢いを増しています。
韓国に関しては作品一つ一つに大規模な投資を行い、最新の技術やクリエイターを投入することで、クオリティの高い映像作品を多く生み出しているとされています。韓国国内向けにとどまらず、世界で通用するクオリティを実現できるのは韓国の強力な武器だと考えます。
DOU Creations Pte. Ltd. 代表、武蔵野大学アントレプレナーシップ研究所 客員研究員 吉地 大氏
岡野:
一方、中国のコンテンツの実力はいかがでしょうか。近年では電気自動車をはじめとして、さまざまな製品で中国企業がグローバルに存在感を示しています。
吉地:
中国はアニメ制作大国への道を着実に歩んでいます。年間制作本数は現在約400本程度と言われており、これは日本のピーク時と同水準です。日本のアニメは鬼滅の刃に代表されるように、量より質を重視する制作方針へとシフトし、本数を絞って作品ごとの投資を強化することでクオリティを上げていますが、中国も非常に速いスピードで質と量ともに日本にキャッチアップしつつあります。
ただし、中国国内の市場規模からすれば400本はまだまだ天井ではありません。現在は国内向けの制作に力を入れていますが、国内需要が満たされ生産能力に余力が生まれれば、今後5~10年の間に海外展開が加速する可能性があります。電気自動車や紙おむつといった他の産業と同様に、海外に新たな販売チャネルを求めることは自然なことでしょう。
柳川:
DVDレンタルからストリーミング配信へディストリビューションが拡大するとともに、日本でもグローバルOTTや国内配信事業者のプラットフォームで、中国や韓国のコンテンツを含む世界中の作品を手軽に楽しめる時代になりました。もともと人気があった韓国作品に加え、特に最近は中国作品を目にする機会も増えています。中国発の人気アニメが日本で実写ドラマ化されるなど、新たな流れが生まれ始めています。
吉地:
ゲームの領域でも新たな動きがあります。中国は以前からゲーム開発に力を入れていましたが、未成年がゲーム漬けになってしまうことを政府が懸念し、新規発行本数に制限をかけています。そこで自然と海外市場を目指す動きが強まり、いくつかの人気タイトルが世界を席巻しています。日本はマーケティング戦略の重要エリアの一つに設定されており、日本国内でも中国ゲームのユーザーが増えています。同じことが近い将来、アニメの世界でも起こる可能性があると見ています。
柳川:
長きにわたり家庭用のコンソールゲーム中心だった日本と、オンラインゲームやモバイルゲームに強みを持つ中国や東南アジアの国々では市場の動きが異なります。後者は小規模な開発でも世界でヒットするタイトルを生み出しているという点で、ゲーム業界は一足先に動きが変わってきていますね。
吉地:
中国は大型タイトルの制作に積極的ですが、スマートフォンでプレイするようなカジュアルゲームについてはインドネシアやフィリピンなどで開発されたゲームも出てきています。今後もゲーム産業の裾野はどんどん広がっていくのではないかと考えています。
柳川:
海外進出を見据える日本のゲーム会社にとっては、開発やイベント運営などに強みを持つアジアの企業とどのように組んで新たなマーケットに出ていくか、工夫が必要なフェーズに入っていると考えられます。
吉地:
日本の大手でゲーム開発をしていた人が今はインドネシアで開発を統括していたり、中国に常駐して開発していたりとアジアのエンタテイメント業界を支えている日本人は少なくありません。連携や協業のチャンスは至る所にあると言っていいのではないでしょうか。
柳川:
おっしゃるとおりですね。日本が他国に追い越されるといった考え方ではなく、アジア全域でのクリエイティブ人材の流動をうまく事業成長につなげていけるよう、柔軟な発想を持つことが重要だと感じています。
吉地:
各国のコンテンツにはそれぞれの魅力がありますが、どの国の作品かが重視されるのはあくまで今のフェーズで起きている現象に過ぎません。国を越えた展開が当たり前になれば「どの国の作品か」といった区別をすること自体、ユーザーとしては難しくなってくるでしょう。
一例として「俺だけレベルアップな件」という作品は韓国のウェブ小説が原作ですが、韓国発のプラットフォームでマンガ化され、アニメ化には日本の制作会社が携わり、グローバルプラットフォームを通じて世界で配信されています。国の垣根を超えた協業が加速すれば、こうした作品が今後より多く生み出されていくと考えています。
岡野:
中国や韓国のコンテンツビジネスから日本はどんなことを学べるでしょうか。
柳川:
国による旗振りを含め、どこに向けて何を売っていくのか早い段階から市場調査をしつつ戦略を考え、実行するまでのスピードは大いに学ぶべきと考えています。日本は国内で成熟したものを海外に出そうとしますが、その国ならではのビジネスの進め方やスピードに合わせることができなければ難しい部分もあるのが実情です。
2024年に政府が掲げた「新たなクールジャパン戦略」においてもマーケティングインテリジェンス機能を高めることの重要性が示されています。各国の市場や消費動向に関する情報収集に加え、現地のプレーヤーを理解し、どのように協業するかを具体的に組み立てて実践する力が問われているのではないでしょうか。
PwCコンサルティング合同会社 PwC Intelligence マネージャー 柳川 素子
吉地:
まさに日本と海外の制作方針の違いを理解する必要があると感じています。グローバル共通仕様の製品をつくり世界で売ることに長けている日本ですが、コンテンツに関して同じやり方は通用しません。はじめから海外を狙っている中国や韓国は徹底的にマーケット調査をしてニーズを把握した上で、市場に合ったものをつくるのかクリエイターがつくりたいものをつくるのか、細かく方向性を見極めています。
企画や制作に携わる方々がまず意識すべきは、コンテンツ制作において日本は極めてユニークな国だということです。宗教的なタブーが実質ゼロというほど少なく、かつ性的描写に寛容であり、LGBTに関する表現も制約を受けにくいという点で、日本は世界の中でも豊かな表現が可能である稀有な国なのです。
岡野:
日本という特殊な市場に最適化し海外で通用しにくい商品やサービスを指してガラパゴス化などと言われたりしますが、国内向けに制作した作品を海外にそのまま持っていくのは難しいということでしょうか。
吉地:
海外展開でまず立ちはだかるのが年齢制限の壁です。例えば「劇場版 鬼滅の刃」は、日本では保護者の同伴があれば12歳以下でも見られるなど、年齢に関係なく鑑賞できますが、シンガポールの映画館では16歳未満入場禁止となっています。また宗教色や暴力性の強いシーン、日本作品ではよくある居酒屋での飲酒シーンなども国によってはNGでカットが必要となることがあります。地上波放送や映画館で上映される作品に関しては特に厳しい制限があり、細かい対応を行う必要があります。
岡野:
表現の幅に制約がある中で、何か打開策はあるのでしょうか。
吉地:
この壁を一気に突破してきたのがグローバルプラットフォーマーです。地上波や映画館のような厳しい規制が敷かれていない、正確には各国の規制が追いつかないという表現のほうが正しいですが、日本にとっては非常に大きな追い風となっています。これまで各国検閲対応の手間などで海外に出すことが難しかった日本のコンテンツを世界中の家庭で見ることのできる状況は、大いに活用すべきでしょう。
柳川:
表現の壁という点では、例えば日本語のダジャレや独特の言い回しをどう翻訳するか、といったさまざまな課題がありますね。
吉地:
鋭い視点です。最近ではアニメなどを通して日本語を学び始めた世代、日本文化を深く理解している海外の方が増えていて、日本語アニメならではのニュアンスを生かして現地語に翻訳できるプロが増えていると実感しています。
柳川:
以前はコンテンツを受容する側だった人たちが、時を経てクリエイターとなり活躍しているのかもしれませんね。日本文化への造詣が深い海外の人材が、その強みを生かして活躍できる場が広がっていることは非常に興味深いことです。
吉地:
私の会社はシンガポールが拠点なのですが、「アニメを見て日本語を覚えました」というスタッフが結構いるんですよ。子どもの頃から日本のアニメを見て育ち、日本語独特のニュアンスをうまく汲み取って自分たちの言語に変換できる20~30代がコンテンツ産業を支える時代になったんだなとしみじみ思います。
柳川:
今後を担っていく優秀な人材といかに信頼関係を築き、ともにグローバルビジネスを展開していけるかが日本企業にとっての成長の鍵となりそうですね。
岡野:
海外の方が日本に興味を持つのはマンガやアニメが入り口になることが多いと聞きますが、そこから日本を訪れて聖地巡礼を楽しんだり、現地の日本企業に勤めたりする方もいます。コンテンツは日本経済の活性化においても重要なファクターと言えますが、その可能性について吉地さんはどのように感じていますか。
PwCコンサルティング合同会社 PwC Intelligence シニアマネージャー 岡野 陽二
吉地:
世界情勢がめまぐるしく変化する今、エンタテイメントは世界平和に寄与するものだと強く思います。コンテンツは互いの文化を知ることのできるツールであり、今や世界中の若者が学校やストリートでK-POPのダンスを楽しんでいます。コンテンツから感じたことや学んだことをさまざまな国の人々が共有し、共感し合える平和な世界が広がっていくことは重要なことだと感じています。
岡野:
柳川さんはコンテンツの可能性についてどのようにお考えでしょうか。
柳川:
海外のアニメファンをはじめ、日本コンテンツに向けられる熱量が高まっていることが実感できます。例えばアニメの聖地巡礼マップが外国語で提供されたりしていますが、アニメから派生して日本の食文化や伝統工芸に興味を持ち、日本での体験を自国に持ち帰ってまた新たな広がりが生まれるというように、日本IPを中心に、周辺領域を含めて経済活動が活発化する良い流れをつくっていけるのではと考えています。
吉地:
私は大手企業の海外進出だけでなく、地方企業のインバウンド活用を含む海外展開支援も手掛けているのですが、多くの地域が人材やインフラの不足という課題を抱えています。日本には観光資源や独自の文化を持つ地域がたくさんありますから、今ある資源を生かしつつ、海外からの集客を狙える聖地巡礼は効果的な施策の一つと言えます。
「地方×グローバル×IP」を意識した施策としてご紹介したいのが、私たちがご支援した鹿児島の企業の事例です。鹿児島の建設関連企業がBLACKPINKの東京ドーム公演に協賛するというプロジェクトになります。その目的は、次世代人材に対して地元企業に強い興味を持ってもらうことでした。大企業ではない、地元鹿児島の中規模企業でも世界的なアーティストとコラボレーションして世の中にインパクトを与えることができるのだと。それによる社内のエンゲージメント向上や地元での若手人材獲得につなげることを目指しました。
「地方×グローバル×IP」はインバウンドにも応用できます。東京や大阪などの大都市では観光需要を吸収しきれず、オーバツーリズム状態になる中、さらなるインバウンド需要の拡大においては、地方がいかに魅力を高めて大都市に続く新たなポジションを獲得できるかというフェーズに入っています。そのためにも一番の要は人材であり、「地方で働きたい」という若年層を増やしていく上でもアニメやキャラクターなどのIPの活用は有効だと考えています。
柳川:
「自分の業種には関係ない」「地方だから難しい」と先入観を持つのではなく、IPの力を取り込みながらいかに価値を高めるか、特に地方の企業の皆さんにはぜひ前向きに考えていただけるといいですね。IPはいわば触媒のようなもの。自分たちと消費者をつなぐツールとして活用が進んでほしいと思います。
吉地:
地方においても、今ある資源とIPの組み合わせによって、企業や地域が本来持つ価値がさらに高まる可能性は十分にあります。テクノロジーの進化やコミュニケーションの多様化により、大企業にしかできなかったようなIPの活用は今や中小企業にも開かれており、チャンスが広がっています。海外での事業展開においても自社サービスと日本IPのコラボレーションにより訴求を図る事例も生まれています。視点を変え、視野を広げてみることでIP活用の可能性は拡大していくはずです。
柳川:
IPはメディア・コンテンツ産業の中だけで輝くものにとどまらず、日本でも世界でも、全ての業種において活用のチャンスがあります。吉地さんのコメントにあるように、中小企業の成長と地方創生、そして海外展開の原動力としても、IP活用が進むことを期待しています。
吉地:
日本のコンテンツに触れ、魅力を感じた海外の人々には「日本に行ってみたい」「あの景色が見てみたい」と新たなニーズが生まれます。このことを企業がどれだけ意識して受け入れる準備をできるかが重要です。大手、中小、地方を問わず、日本の企業の皆さんにはぜひコンテンツやIPを取り入れた新たなビジネスアプローチのあり方について考えてみていただきたい。そこに新たなチャンスが生まれることを願っています。
岡野:
今回の統合知対談では、新興アジアのエンタテイメント市場と日本コンテンツの展開可能性、地方創生におけるIP活用のあり方など、多岐にわたるテーマでディスカッションを行うことができました。ありがとうございました。
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