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(左から)齋藤 隆太 氏、高橋 智志 氏、佐藤 正隆 氏、津留崎 数馬
近年、金融やビジネスの現場では、社会的インパクトの創出に向けた取り組みへの関心が高まっています。しかし、ラベリングや評価書作成といった手段が目的化し、真の社会課題解決につながるかが不透明なケースも少なくありません。
これまで資本主義のメインストリームが取りこぼしてきた領域に、どうすれば必要な資源を届けられるのか。寄付DX、インパクト可視化、事業承継の最前線に立つスタートアップの代表者3名と、PwCコンサルティングの金融部門のパートナーが「金融の次の役割」について熱く語り合いました。
対談者
コングラント株式会社 代表取締役CEO
佐藤 正隆 氏
インパクトサークル株式会社 代表取締役社長/CEO
高橋 智志 氏
株式会社ライトライト 代表取締役
齋藤 隆太 氏
PwCコンサルティング合同会社 執行役員 パートナー
津留崎 数馬(モデレーター)
津留崎:
本日はお集まりいただきありがとうございます。近年、政策的な後押しもあり、金融市場における「インパクト」への注目が高まっています。しかし、現場からは、既存の取り組みにサステナビリティのラベルを貼ることにとどまっていたり、評価レポートの作成で満足してしまったりと、本質的な課題解決に結びついていないのではないか、というジレンマの声が聞かれます。
私たちが問い直すべきは、狭義の「インパクトファイナンス」のあり方にとどまらず、なぜ本当に困っている領域にヒト・モノ・カネ・情報などの「経営資源」が届きづらいのかという、根源的なテーマではないでしょうか。
本日は、まさにそのようなテーマに最前線で向かい合われている皆さんと、議論を深めたいと考えています。まずは、皆さんがどのような課題意識を持って事業に取り組まれているか、お聞かせいただけますか。
PwCコンサルティング合同会社 執行役員 パートナー 津留崎 数馬
佐藤:
コングラントの佐藤です。私たちはNPOや公益法人などの非営利団体向けに、オンライン決済や寄付者管理を可能にする「寄付DXシステム」を提供しています。
今、私たちが向き合っている大きな課題は、日本の「共感の資金循環」が古いルールや仕組みに縛られていることです。欧米ではテクノロジーを取り入れたクリエイティブな寄付体験が日常に溶け込み、社会課題の解決に大きなお金が動いています。しかし、日本にはまだ寄付を仲介する組織もインフラも圧倒的に足りていません。このボトルネックを解消することこそが、私たちの使命だと考えています。
コングラント株式会社 代表取締役CEO 佐藤 正隆 氏
高橋:
インパクトサークルの高橋です。当社は現在大きく分けて二つの事業を行っています。一つはフィリピンなどの新興国中心に、銀行口座を持てない層に対して就業機会創出や貧困削減を目的としたファイナンスを直接提供しています。その過程で、単に「貧困が削減できてよかった」で終わらせず、財務的リターン以外のインパクトの可視化にも取り組んでいたところ、ノウハウを知りたいとのお声がけをいただくことが増えて事業化したのが二つめで、日本国内での主力事業となっています。
私たちが感じている課題は、インパクト評価自体が目的化しているのではないかということです。可視化したインパクトをさらなる資金獲得や取引先の拡大といった事業成長のきっかけにしていくことが重要だと考えています。
インパクトサークル株式会社 代表取締役社長/CEO 高橋 智志 氏
齋藤:
ライトライトの齋藤です。私たちは、事業の譲り手側の情報をあらかじめオープンにして後継者を募る、日本初の事業承継マッチングプラットフォーム「relay(リレイ)」を運営しています。
私たちが課題と捉えているのは、地域金融機関などが構造的に抱えざるを得ない「収益性と社会的責任のジレンマ」です。多くの地域で小規模事業者の素晴らしい技術やコミュニティが、後継者不足により次々と失われています。しかし、通常の金融機関のビジネスモデルでは、一定規模以上の手数料が見込みづらい小規模の案件は、非効率なものとしてこぼれ落ちてしまいがちです。ここに資源循環の大きな目詰まりがあると考えています。
株式会社ライトライト 代表取締役 齋藤 隆太 氏
津留崎:
今、「目詰まり」というリアルなキーワードが出ました。既存の資本主義のメインストリームがアプローチしきれない、あるいはあえて避けてきた「資金・資源が届きにくい領域」の構造的課題について、さらに具体的に掘り下げていきたいと思います。齋藤さん、地域における「小規模事業承継」の現場では、どのような問題が生じているのでしょうか。
齋藤:
日本の事業承継における最大のボトルネックは、小規模事業者が規模のジレンマによって放置されている点にあります。
地域金融機関のほとんどは、地域社会の持続に尽力されている一方で、営利企業でもあります。収益性と効率性を考えれば、一定程度の手数料を見込める事業承継・M&Aビジネスに集中せざるを得ません。地域の雇用を支えている小規模な飲食店や町工場、家族経営の小売店などは対応しづらい案件と判断されてしまいます。
その結果、財務状態は健全で、地域の人々に愛されているにもかかわらず、相談先がないまま静かに廃業していく黒字廃業が多く発生しています。これは地域社会にとって、お金に換算できない重大な技術や人間関係といった「無形資産の喪失」にほかなりません。
津留崎:
非常によく分かります。地方の衰退は、単に人口減少やGDPの低下として捉えるのではなく、「価値のバトンが渡らない」という媒介の不全としても捉えるべきですね。
佐藤さん、寄付としての資金還流という観点ではいかがでしょうか。日本は「寄付文化がない」とよく言われますが、これも仕組みの不在によるものでしょうか。
佐藤:
まさにその通りです。日本で寄付文化が根付かないのは、人々の善意や関心が低いからではなく、「寄付を行う仕組みが不便なままで放置されているから」だと考えています。
欧米では、テクノロジーの活用によって寄付の仲介が高度化しています。個人ベースのピアトゥピア・ファンドレイジング(※)で寄付を募る仕組みもあれば、財団が企画したプログラムに数百の病院が参加して寄付を集めるといった仕組みもあります。また、eスポーツのインフルエンサーが難病の子どもたちへの支援を呼び掛けて多額の寄付を集めるなど、エンターテインメントや日常の中に寄付が違和感なく溶け込んでいます。
※ピアトゥピア・ファンドレイジング:ファンや一般の人々を巻き込んで、彼ら自身のSNSやネットワークを通じて寄付の連鎖を生み出す
また、日本では当社のような「寄付DXシステム」を提供している会社は他にほとんどありませんが、欧米には数十社あり、M&Aが繰り広げられるほど業界の規模も大きい。最新のテクノロジーを使って、寄付金や助成金がさまざまな団体へと提供される仕組みが整っており、日本も同じような姿を目指すべきだと考えています。
津留崎:
欧米では、個人の思いや共感を発端とした自由な寄付のやり取りを可能にするための仕組みが整っているわけですね。
高橋さんにお聞きします。先ほど、インパクトを可視化するだけでなく、その先を見据えることが重要だというお話をうかがいました。それには、指標やデータなどの左脳的な要素に加えて、思いや共感といった右脳的な要素も必要なのではないかと想像します。
高橋:
おっしゃるとおりです。定量と定性のどちらかということではなく、双方のバランスが重要です。例えば、個人向けには定性的なストーリーを伝えたほうがアクションにつながりやすいかもしれませんし、機関や組織として合意形成しなければならない際には定量的な指標を示す必要があります。
いずれにせよ、既存のフレームワークで定義された数値にとどまらず、受益者が「どれだけ希望を持てたか」「どう心理的・行動的に変容したか」といった、数値化しにくくとも確かに生まれたアウトカムも考慮されるべきです。私たちはこうした変化を広くインパクトデータと捉え、外部リソースを地域へ循環させる設計図として活用していくことが最も大切だと考えています。
津留崎:
皆さんのお話を聞いていると、「金融イコール資金の融通」という考え方を拡張する必要性を感じます。これからの時代、「共感」「データ」「ストーリー」といった無形の価値こそ、経営資源や人を動かすために重要なのかもしれませんね。
佐藤:
そう思います。金融の社会的使命とは「困っている人や、新しい価値を生み出そうとする人にリソースを届けること」です。その意味では、「共感」をテクノロジーで可視化し、流通させる寄付活動は、極めてピュアな金融活動とも言えます。
私たちのプラットフォームでめぐる資金は、日本全体の経済活動から見れば小さいことは否めません。しかし、人の命を救い、人生を支える、あるいは地域の文化遺産を守るといったクリティカルな活動を支えており、1円あたりの「社会課題解決へのインパクト」は極めて高いと自負しています。共感が決済テクノロジーと結びつくことで、従来の金融でアプローチできなかった資金循環の形成が可能になります。
高橋:
インパクトデータもまた、資源を適切に循環させるための信用補完的な役割を果たしています。
従来、新興国でのマイクロファイナンスにおいて最も大きな壁は信用の欠如でした。しかし、彼らが融資を得て、どのように生活を改善し、どのような希望を持てたかといったストーリーや心理的変容を可視化することで、そのような変化を望む方々の意思決定における判断材料を提供できます。
結果として、経済的価値の面でも遜色のないビジネスが実際に成立しています。経済的な価値と、それと同じ尺度では測れない個人の幸福などの価値を両立させるためのバランス感覚が、これからの金融アプローチにおいて極めて重要だと思います。
齋藤:
私たちが取り組む事業承継においても、まさにストーリーが経済合理性を超えて人を動かすトリガーとして機能しています。
「relay」では経営者の顔写真や、その店が地域で愛されてきた歴史、後継者に託したい想いといったストーリーを開示しています。従来の事業承継やM&Aにおいては、そういった情報は原則非公開であり、売上や利益といった目に見える数字を基に交渉が行われます。小規模な案件の場合、それだけでは買い手にとっての経済的メリットが少なく、取引が成立しません。
ところが、その店が地域に愛されている理由や、経営者のストーリーなどの情報を開示すると、「自分のビジネス経験を活かしたい」「その町の明かりを消したくない」といった都市部のビジネスパーソンやUターン希望者が手を挙げてくれます。
津留崎:
社会課題が複雑化・多様化する中で、その解決に向けては、自治体や大企業、金融機関が持つリソースや資金、ネットワークを活かしていく必要があると思います。具体的な協業の可能性や、これからの連携のあり方についてどのようにお考えでしょうか。
佐藤:
あえて具体的に挙げると、企業系財団のトランスフォーメーションは、ぜひ各企業とともに取り組んでいきたいテーマです。
日本には、巨額の金融資産を保有する企業系財団が多くありますが、どの程度積極的に社会還元を行っているかは不透明であり、保守的な資産管理に終始しがちであるとも聞きます。欧米の先進的な財団のように、明確なパーパスを持ち、その実現に必要な分野にダイナミックに資金を投じるような動きが国内でも広がってくると、より大きなインパクト創出につながるはずです。私たちの寄付DXプラットフォームは、自社の価値創造ストーリーと結びついた資金循環の実現をお手伝いする役割を担えるのではないかと考えています。
齋藤:
私たちの事業は、住民の生活を守る、地域をより良くすることを目指す自治体や商工会議所、地域金融機関との相性が非常に良く、すでに多くの連携体制を構築しています。
もっとも、地域金融機関など民間の営利企業には先ほど申し上げたような収益面の制約があります。そのこと自体は仕方ないのですが、ある程度大きな規模の事業承継・M&A市場は、多くの競合がひしめき合うレッドオーシャンと化しています。その中であえて戦っていくのか、地域金融機関の存在意義に立ち返り、収益面で劣る層についてもサポートしていくのかは、今後重要な論点になっていくのではないかと思います。事業承継はその周辺の事業やコミュニティへの影響も大きいため、私たちとしても、まちづくりの観点から自治体や金融機関と協働していけたらと考えています。
高橋:
当社が取り組んでいるインパクトファイナンスの本質は「マーケットクリエーション」だと考えています。大企業や金融機関は通常、株主に対する説明責任や厳格なリスク管理規程があるため、不確実性の高い領域に対して投資することは困難であり、「社会課題を解決する」といった綺麗ごとだけでは、なかなかお金が動かないのが現実です。
そこで、私たちのようなスタートアップが先陣を切ってリスクを取る価値が出てきます。私たちがインパクトを可視化して事業の意義を実証する。その輪郭が見えてきた段階で、大企業や金融機関に潤沢な経営資源を投じていただき、スケールアップを目指す。このように、新しいマーケットを一緒に創り上げるという観点に立てば、現実的かつ効果的なコラボレーションが可能になるのではないでしょうか。
津留崎:
すべてを自社だけで解決しようという自前主義には限界があります。社会を一つのシステムとして捉えたうえで、それぞれの強みを活かせる連携体制を構築することが重要ですね。一方で、創出されたインパクトが単発のフローで終わってしまってはあまり意味がありません。それらを地域や社会の財産、つまりストックとして根付かせていくためには、どのような仕組みやカルチャーが必要でしょうか。
佐藤:
寄付を単発のフローで終わらせないためには、インフラとしてのプラットフォームの拡大と機能強化が重要です。
寄付されたお金がどこに届き、どのようなアウトカムを生んだのかを追跡できるようにすることで、継続的な寄付を呼び込んでいく。それを実現するためのプラットフォームは、不慮の病気や突発的な災害などのリスクに対応するための社会的なストックになり得ます。
当社のプラットフォームの流通額は足元で年間100億円ほどですが、日本経済の規模を考えると、ここから数倍に拡大するポテンシャルがあると見ています。大企業や金融機関との共創により、こうしたインフラの拡大と機能強化をさらに加速していきたいと考えています。
齋藤:
事業承継の現場におけるストック化とは、一軒の店、一つの会社を存続させるための取引にとどまらず、それを起点に持続可能な地域社会を創り上げていくことだと思います。
私たちは自身の事業を通じて、事業を承継した経営者が新たな地域のハブとなり、さらなる雇用やコミュニティ維持といった価値を地域に生み出していく姿を目の当たりにしています。オープンネームのプラットフォームは、人々のつながりや、店や会社の情緒的価値を事前にお伝えできるという点で、地域におけるリレーションの蓄積と多層化の流れをサポートできているのではないかと考えています。
高橋:
まさにそのような取り組みの真の価値を、中長期的なタイムラインで評価していくことが重要です。インパクトを可視化することで資金が集まる、あるいは優秀な人材が集まる――つまり、財務的な資本や人的資本との関連性を示すことができれば、インパクトのストック化という整理ができるのではないでしょうか。
もっとも、そのような因果関係を示す事例やデータが世の中にあるかというと、まだまだ十分ではないというのが実情です。だからこそ、自治体や企業、金融機関等のステークホルダーが意図を持って人や資金の循環を設計し、効果を検証し続けることが大事だと考えています。
津留崎:
極めて示唆に富む、熱量の高い議論となりましたね。最後に、これからの金融業界への提言や希望されることを一言ずついただけますでしょうか。
佐藤:
繰り返しになりますが、金融の使命とは「困っている人、必要としている人にリソースを届けること」だと考えています。私たちが手掛ける寄付は、金融市場全体の巨大なマネーフローから見ればほんの小さなお金かもしれません。しかし、人を助け、地域社会を支えるという本質的な価値に直結しており、金融の使命に最も近い位置にあります。
金融機関の皆様には、私たちのようなスタートアップを支援対象や「別の世界の住人」ではなく、同じ使命を追うビジネスパートナーとして迎え入れていただきたい。そして、共感がめぐる大きな資金循環のプラットフォームを、共に創り上げていきましょう。
高橋:
私からは、規制対応や義務感でお金を動かすのではなく「新しいマーケットを一緒に創り上げる」という観点に立っていただきたいとお伝えしたいです。
これまで「サステナビリティ」や「インパクト」は、外部への説明責任やリスク管理といった、どちらかと言えば守りの視点で捉えられがちでした。しかし本来、社会課題が解決されるプロセスは、人々の行動変容や新たな需要が生まれる成長機会のはずです。評価書を作って満足するのではなく、可視化したインパクトデータをサービス開発や新規顧客の開拓など「攻めの経営戦略」に接続していく。インパクトをビジネスの持続的な成長ドライバーとして捉え直すマインドシフトを期待しています。
齋藤:
私たちは、すでに多くの地域金融機関とお付き合いさせていただいていますが、これからは事業承継のサポートにとどまらず、地域を良くするための「まちづくり」の仲間として、コラボレーションを強化していきたいと考えています。地域金融機関の強みは、地域における圧倒的な信頼とネットワークです。そのようなお金では買えない価値と、私たちのプラットフォームやストーリーの力を掛け合わせることで、地域経済の活力を次世代に継承する仕組みを社会実装していきましょう。
津留崎:
皆さんの力強いメッセージに勇気をもらっています。日本が本格的な人口減少時代を迎え、金融業界もまた、従来のビジネスを続けているだけではいずれ困難に直面するという観点で「存在意義の問い直し」の時期にあります。そのような中で大切なのは、皆さんが持つ、共感・データ・ストーリーを紡ぐ力と、金融機関が持つ規模、信頼、ネットワークを、「線」ではなく「面」でつなぎ合わせることだと確信しました。
互いの強みを持ち寄ることで、経営資源や人の思いが循環する温かい社会のインフラを共創していく。これこそが、これからの金融、そして私たちが果たすべき役割にほかなりません。本日は未来に向けた素晴らしい対話をありがとうございました。
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