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コロナ禍を経て、全国の病院は収益の減少と人件費をはじめとする費用増加の二重苦に直面しています。収益を左右するのは患者数であり、患者の獲得なくして病院収益の改善は困難ですが、多くの地域では患者数がコロナ前の水準に戻っていません。この状況下で、自院外来・救急とならび患者の三大来院源の一つである「近隣のクリニック」との地域連携の重みがいっそう増しています。
紹介患者の増やし方については、商圏分析やPPM分析などマーケティング理論を応用した事例が公開されていますが、これらは患者の受け入れ先となる病院側の視点が中心であり、紹介元である開業医の立場から整理されたものは多くありません。筆者は、PwCコンサルティング合同会社において主に自治体病院の経営改善を手がけており、また自身が毎週末、地域のクリニックで小児科・内科の診療に当たる中でさまざまな病院に患者さんを紹介している立場でもあります。このコラムでは、特に競争が激しい都市部の病院長・事務長・地域連携部門の職員などを念頭に、紹介患者の増加を狙う際の要訣を示します。
一般に、クリニックでできる検査や治療は限られており、「待てない」と判断された患者は速やかに病院での治療につなげねばなりません。よって、開業医が真っ先に識別するのは「緊急性の有無」です。紹介の総数に占める緊急紹介の割合はわずかですが、対応を誤ると最悪の場合は患者に取り返しのつかない不利益をもたらすばかりか、開業医自身が法的責任を問われる可能性もあります。従って、緊急対応に際しプライマリ・ケアを担うクリニックを支える病院への期待は非常に大きなものがあります。
翌日以降の紹介で問題なさそうな場合、次に開業医の頭に浮かぶのは「患者が通院できるかどうか」です。「遠くの名医は名医にあらず」という表現があるように、希少疾患をはじめ病態がよほど特殊でない限り、患者のADL(Activities of Daily Living:日常生活動作)や家族の状況も踏まえて通えそうな病院が候補にあがるとの声が多くの開業医から聞かれます。ここで着目すべきは直線距離ではなく、交通手段と所要時間です。例えば、杖があれば歩ける80代の独居高齢者であれば、紹介先の選択肢は電車やバス1本で行ける病院に限られてきます。逆に見れば、「病院から半径●Km」ではなく、乗り換えなしで数十分以内に到達できる範囲を、地域連携を強化すべき潜在的な診療圏と捉えるべきです。
同時に、開業医は「その病院に紹介することが患者の利益になるか」を考えます。地域に根ざして長い医師であれば紹介先はおおむね固定されているものの、当然ながら必要な治療に素早くつながりそうな病院が優先されます。特に、病態が絞りきれていない段階では、専門に特化した病院よりも複数の診療科を擁する病院が選ばれる傾向にあるようです。受け入れる疾患の幅を広げるために診療科を増やすのは人員および設備の面から容易ではない一方で、病院内の努力や創意工夫で迅速な対応を心掛けることは可能であり、ここに紹介患者を増やすポイントが数多く存在します。
また、紹介先病院の選定に少なからず影響する要素として「心理的安全性」が挙げられます。例えば、開業医にとって「顔の見える関係」であることから、自身の出身医局の大学病院や、その医局員が派遣されている総合病院には紹介しやすいと考えるでしょう。また、開業医は緊急紹介への当直医の応対を病院が想像する以上に克明に覚えていると言われており、仮に失礼な態度をとられた場合、次からはその病院への紹介を忌避するはずです。従って、患者数を増やすには、診療部長や地域連携部門がクリニックを巡って関係を構築するだけでは不十分であり、いわば「開業医はクライアントである」との意識が当直医をはじめ病院関係者全員に浸透しているか、定期的な周知や指導が必要です。
もちろん、患者や家族の希望も無視できない要素の一つです。しかし、過去に検査を受けている・現在も別の病気で通院中など、名指しされた病院への紹介が患者にとって明らかな利益があれば別ですが、単に有名な病院や大学病院にかかりたいなどの理由次第では、上述の思考過程を経て希望とは異なる病院を提案することもあります。もとより、患者自身は通えればどこでも構わないと考えている場合も多く、紹介先の選定にあたってはクリニックの医師に広汎な裁量があるのが実情です。
ここでの要点は、通常(翌日以降)の紹介受診でよいのか、あるいは緊急(当日)紹介が必要かによって異なります。通常の紹介では、予約の手続きが面倒でない・電話口で長いこと待たされないなど、予約のプロセスにおける満足・納得の度合いが重要です。予約についても病院によって対応は大きく異なり、紹介状さえあれば予約枠に空きがある限り受入れる病院がある一方、開業医の依頼を受けた地域連携部門が紹介先の診療科医師に照会したうえで、受け入れ可能との返事を得ないことには紹介を受けない病院もあります。当然、前者の方が紹介しやすく、後者の病院は何か大きな競争優位を持たない限り、紹介患者は徐々に減っていくでしょう。また、「最近、紹介患者数が徐々に減っているが思い当たる理由がない」という場合は、紹介オペレーションに変化がなくとも、近隣の競合病院が改善を進めた結果、相対的に、自院の手続きの煩雑さが目立っている可能性を想起せねばなりません。
他方、緊急紹介の際、クリニックは得てして困難な状況に陥っています。病院側の当直医とすれば、殺気立つ救急外来にあって開業医の心理を想像することは難しいかもしれませんが、開業医の「忙しい当直の先生にお願いするのは気後れするが、明日まで待てる確信がないので腹をくくって電話する」との声は想像以上に多く聞かれます。得てして「孤独」といわれる開業医は、急変リスクのある患者を診察しながら、受け入れを断られた場合の次の策も頭の片隅に置きつつ交渉を行い、同時に待たせている他の外来患者の診療も並行して進めねばなりません。このような状況下で患者を迅速に受け入れる病院はたいへん頼りにされます。緊急紹介を受けてもらえると、次の日まで待てる別の患者も紹介しようと思うのは開業医の共通認識といってよいでしょう。
受け入れ可否は、当直医が開業医から直接詳細な説明を受けて判断する病院が大多数ですが、一部の病院では救急外来の看護師に、紹介元の看護師から状況を聞き取ったうえで対応を決める権限が付与されています。この仕組みは、病院とのやり取りを看護師に任せて自身は診療に集中することを可能にし、クリニック側の負荷を大きく減らすものといえます。
なお、緊急であるか否か問わず、紹介にあたっては病診相互の配慮が必要です。経営改善支援の一環で聞き取り調査を行うと、病院からは「患者を丸投げされた」、クリニックからは「何かと口実をつけて受診に難色を示された」との不満が必ず聞こえてきます。具体的には「これ以上調子が悪くなったら自分で●●病院に行ってきて」と言われた患者が紹介状を持たずに飛び込みで受診したため、病院側が既往歴や内服歴すら把握できず初期対応に手間取ったという例や、逆に病院の医師が「診断をつけてから送ってこい」と開業医に要求するなどの例が挙げられます。いずれの対応も適切とは言い難く、日頃から地域連携活動を通じた互いの立場への理解と協力が求められます。
病院によっては「●●様は××日に受診されました」のような来院報告を出していますが、診療情報のやり取りという紹介状の本質に基づけば、礼儀として重要な場合もあり一概に不要とは言い切れないものの、受診直後の返書は必須ではないでしょう。むしろ、精査や治療が長引く場合に途中経過を共有するほうが有意義と考えられます。古くからあるクリニックには親・子・孫の3代で通っていることも珍しくなく、紹介した患者の家族が受診した場合にかかりつけ医が近況を把握できていれば、家族との信頼関係を維持する上で極めて有用だからです。
治療終了後の返書は、タイミング・内容の両面で今後も患者を紹介してもらえるか否かを大きく左右します。患者が退院後早期に元のかかりつけ医を受診した際、病院での治療経過をすでに知っていれば新たな治療方針も立てやすく、また医師と患者との信頼関係がさらに強化されるからです。返書の中身については、検査結果や診断、治療の内容はもちろん、「基礎疾患と現在の腎機能に鑑み、6カ月に1回程度はeGFR・蛋白尿の確認をご検討ください」など、かかりつけ医の治療方針に関わる情報、「当院で年1回の心臓超音波検査を行うので改めてご相談ください」など、次回の紹介受診のタイミングに関する助言があれば、かかりつけ医にとって有益です。
ここまで述べてきた内容に基づけば、開業医が頼りたくなる病院を一言で表すと「敷居が低く、治療が適切で、返書も早い病院」となります。1つ目の「敷居」は特に重要で、当直医が理由も告げずに開業医の受診依頼を断った、あるいは地域連携部門からは来て良いと言われたが院内の連携が不十分だったため、到着した患者が救急外来で門前払いされた、などの例は意外と多く、これでは患者獲得競争の土俵にすら乗れていないと言わざるを得ません。
また、患者が受診できたとしても「検査もされずに帰された」・「紹介患者の状態が悪化して戻ってきた」など接遇や診療内容が不適切だった場合は、それがいかに個別の医師の問題であっても、次からはその病院への紹介をためらう原因となりかねません。特に競合の多い地域では、自院が上記の「紹介したくない病院」に当てはまっていないか、院長・副院長など経営幹部の主導による点検が必要です。
なお、病院には経営判断や在籍する医師の得意領域に基づいて「集めたい症例」があり、該当する患者を効率よく紹介してもらうにはどうすれば良いか?との相談をしばしば受けます。課題意識は確かに間違っていないのですが、自院がよほど特定の領域に関する専門性に関して他の追随を許さないほどの知名度を持っていない限り、旨味のある症例のみを集める「クリーム・スキミング」を試みても多くは上手くいきません。診療科にもよりますが、多くの開業医はさまざまな年齢・症状の患者と向き合っており、受診者の大部分を自身の専門領域以外の症例が占めるのが通例であるからです。
もちろん、病院紹介のパンフレットで治療実績や先進的な取り組みなどの専門領域を強調することや、返書に診療科紹介を別添するなどの広報活動、集めたい症例を多く診ていそうなクリニックを抽出し地域連携部門がしばしば訪問するなどの営業活動も必要ですが、それ以前に「開業医が困って頼んできた時に断っていないか?紹介患者の受け入れや返書は迅速か?妥当な治療を行っているか?」を検証するのが先決といえましょう。これらの、ごく当たり前のことができて初めて、専門性が高い・複数の診療科が相互に連携できているなどの病院の強みが生きてくるといえます。
これまで、開業医の視点から、病院が紹介患者を増やすために注力すべき点を明らかにしてきました。しかし、これらはあくまで一般論であり、個々の病院が注力すべき改善点は、患者の詳細な情報が集積されているDPCデータの分析や周辺環境の把握、また近隣のクリニック・介護施設への地道な聞き取り調査を通じて初めて明確になります。ここで特記したいのは、病院と診療所は本来、対等な立場で相互に補完しあう関係であるものの、実務上では開業医が病院に「お願い」している以上、病院の地域連携部門が訪問したとしても、率直な不満や改善要望を得にくいのが実情だということです。
PwCコンサルティング合同会社は、中立的な第三者の専門家として、医師・看護師等の資格を持つコンサルタントによる病院近隣の医療・介護施設への訪問を通じ、需要の把握を含む地域連携活動や、紹介患者の増加に向けた院内体制の整備などを積極的に支援しています。当社の活動が契機となり、実際に紹介患者や入院患者を増やすことに成功しつつある病院もあります。このコラムが、患者紹介の円滑化を通じて病院と診療所の機能分離や地域連携の強化、病院経営の安定化につながり、ひいては地域医療の持続性を確保するうえでの一助になれば幸いです。
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