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日本の大学が担う研究活動は、国際的な競争力の低下という深刻な課題に直面しています。経済協力開発機構(OECD)の統計によれば、日本の研究開発費は微増にとどまり、欧米諸国や中国などの積極的な投資と比較すると、相対的な遅れが顕著です。特に若手研究者の減少は、将来の研究力の持続性に対する懸念を生んでおり、論文数の伸び悩みや国際的な引用数の低下も研究成果のインパクト不足を示しています。
このような状況の中でも、大学はその研究成果を社会に還元し、地域課題や産業課題の解決に貢献することが求められており、社会に果たすべき役割はますます重要になっています。一方で大学の財務基盤は依然として脆弱であり、研究費の獲得や人材育成に十分なリソースが確保できていないのが現状です。
政府は、大学を「地域の知の拠点」として位置付け、社会課題の解決や新産業の創出に貢献することを強く求めています。文部科学省や内閣府が推進する大学改革政策では、大学発スタートアップの支援、技術移転の促進、地域との共創によるイノベーション創出が重点施策として掲げられています。
また、大学の収益構造の多様化も求められており、寄附金や外部資金の獲得が重要なテーマとなっています。しかし、未成熟な寄附文化や手続きの煩雑さ、寄附後のメリットの不明瞭さなどが障壁となる中、大学が自由度の高い資金を得るための仕組みづくりが急務です。
欧州では「Horizon Europe」など、社会課題解決を目的とした科学技術政策が主流となっており、研究知の社会実装は「社会的インパクト」を重視する方向へ進化しています。また米国では、大学が知的財産の商業化を通じて財務基盤を強化し、民間企業との連携を通じてイノベーションを加速させるモデルが確立されています。
日本においても、1995年の科学技術基本法や1999年の日本版バイ・ドール制度などを通じて、大学の研究成果の社会実装が制度的に支援されてきました。近年では「第6期科学技術・イノベーション基本計画」において、人文社会科学も含めた複合的なイノベーション政策が議論されており、大学の役割は「知の拠点」から「知の企業体」へと変化しています。
研究知の創造性とは、大学が生み出す知識や技術について、単なる成果物としての「アウトプット」にとどまらず、知が生まれる「プロセス」そのものに価値があるという考え方です。大学の研究活動は、既存の課題に対する解決策を提示するだけでなく、課題の再定義や新たな問いの創出を通じて、社会の構造や価値観に変化をもたらす力を持っています。
こうした創造性は、企業が抱える経営課題や社会課題に対して、従来の枠組みにとらわれない視点を提供し得るものです。例えば、技術的な課題において大学の基礎研究が新たなアプローチを示すこともあれば、社会的な課題に対して人文社会系の研究が価値観の転換を促すこともあります。
また、創造性については「誰が生み出すか」だけでなく、「どのように生み出されるか」にも注目すべきです。研究者が問いを立て、仮説を構築し、検証を重ねるプロセスは、企業のイノベーション活動にも応用可能です。このようなプロセスを企業が経営に取り込むことで、単なる技術導入ではなく、組織文化や意思決定の質の向上につながるかもしれません。
さらに、創造性の発揮には「場」と「関係性」が重要です。大学と企業が対等な立場で対話し、互いの目的や価値観を共有することで、創造性が相互に刺激され、より高次の成果が生まれます(図表1)。こうした関係性の構築には、コーディネーターやファシリテーターの役割が不可欠であり、第三者的な立場から共創を支援する人材の育成も求められています。
図表1:大学と企業の創造性
研究知の社会実装では、成果をどのような形で社会に届けるかという「出口設計」が重要です。以下5つの出口モデルが示すとおり、研究知の創造性を生かすための複数の選択肢が存在しています(図表2)。
これらの出口は、研究知の性質や目的、対象とする社会課題によって選択されるべきであり、単一のモデルに依存するのではなく、複数の出口を組み合わせる柔軟性が求められます。
図表2:社会変革に向けた実装のパターン
研究知の社会実装を持続的に進めるためには、大学・企業・行政が連携し、共創型のエコシステムを構築することが不可欠です。このエコシステムは、単なる連携の枠を超えて、知の生成・共有・循環を促す仕組みとして設計されるべきです。
具体的には、以下の3つの要素が重要です。
このようなエコシステムは、大学の研究知を社会に生かすための基盤であり、単なるプロジェクト単位の連携ではなく、長期的な関係性と制度設計が求められます。
未来を創造するためには、単なる予測ではなく、構想・設計・実装までを含むプロセスが重要です。社会構造そのものを再設計するアプローチに対して、大学の研究知はその原動力となります。論理的な方法では捉え切ることが難しい複雑な未来に対しては、仮説を立てながら柔軟に思考を進めなければなりません。そうした中で研究知の創造性を生かしながら、新しい価値創出を目指していきます。
未来創造は以下のステップで進められます。
このプロセスにおいて研究知の創造性が発揮されていくと同時に、多様な関係者が未来像を共有し、実装に向けた役割分担と連携を行うことで、実効性の高い社会変革が可能になります。今後、大学では研究知を社会実装する主体として経営戦略を再設計し、自立的に価値創造を行う体制づくりが求められます。これは研究知の創造性を未来に生かすための基盤であり、大学の存在意義を社会に示す重要な要素となるものです。
PwCコンサルティングでは、大学知の発展と知の民主化に向けて、コレクティブインパクトに基づく共創を進めてまいります。
草野 秀樹
シニアマネージャー, PwCコンサルティング合同会社
PwCは、産学官の共創を実現するリーダーシップ人材を社会全体に増やしていくことを目指しています。産学官共創のビジョンを描き、研究知を取り巻くさまざまな課題を解決することで、研究知の社会実装を支援します。
PwCコンサルティングの「ソーシャル・インパクト・イニシアチブ」は、社会課題の解決を第一義に捉え、社会課題の構造を解き明かし、価値観を共有するステークホルダーとともにコレクティブインパクトの創出を目指しています。
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